第四話
今日は数学、政治経済、日本史だけだったので、日本史のテストが終わった瞬間に解散となった。試験終了のチャイムが鳴った瞬間、教室の緊迫感が一気に緩み、普段の教室よりも酷い、非常にダラけた空間と化した。クラスメートたちのため息が一斉に聞こえる。
「おっしゃ涼介! 帰るぞ!」
僕がカバンを持ってスマホの電源を入れていると、清水が声をかけてきた。清水は高校からの友人だが、出席番号が近いこともあり、仲良くつるんでいる。彼は高校からの外部生だが、物怖じしない性格と明るい雰囲気で、どんどん内部生とも溶け込んでいって、今では彼が内部だと思っている人も時々見かけるくらいだ。
「おう、帰ろう帰ろう」
最寄駅が同じで、しかもお互いの部活の活動曜日がほぼ一緒らしいので、家路を共にすることもまあまあ多い。休日も彼に誘われてどこかに遊びに行くこともある。
「お、今すれ違ったスーツの男、好みだわー。 なあお前もそう思うだろ? な?」
「あー、悪くはないと思うぜ、うん」
「なんだよノリ悪いなあ、思春期の男なんだからさ、これくらい興味があって自然だろ?」
基本、彼のことは全面的に好き(友情としての意味で)なのだが、この好色っぷりと、それからそのノリをたまに僕に振ってくるのだけは苦手だ。彼はあまりに本能に忠実すぎる。
「まあ、筋肉とかは良かったと思うよ、うん」
「今のナイスガイ、どう見ても細身だっただろ! お前さては見てなかったな!」
筋肉が好きというのは嘘じゃないけれど、何も考えずに返答していたのがバレた。生返事で気を悪くするなんてことは絶対無いようなおおらかな男だが、返答に困ったので、取り敢えず話を逸らす。
「それよりさ、あそこにあるクレープ食ってかないか? テストで酷使したから、脳に栄養が欲しいんだ」
「クレープぅ? お前女子かよ」
「とか言いつつ、食ったら食ったで満面の笑みを浮かべる癖に」
「はあ?! こっち見てんじゃねえよ、気持ち悪いな」
悪態をつきながらも、僕たちは着実にクレープ屋へ歩みを進めていた。生クリームのいい匂いに抗えないのは、決して女子だけではない。野球部に所属しているのかと思うようなガッシリした男こと清水にとっても、クレープは十分に嗅覚の凶器たり得るのだ。