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人格改変

 この世界のセシリアが何を考えているのかは察しがついていた。

 もっとも、相変わらず彼女以外に当てがない私にとっては、そう考えるほかなかったのだ。わざわざ希望を失いたいと思う者はいまい。


『話を合わせろ、強姦された身寄りのない女』


 渡された紙きれにはそう書かれていた。

 私の予想が当たっていてくれればいいが……。


 良いように考えてはみているが、未だにこれが都合のいい解釈なのか、希望的観測なのか現実逃避なのかはわからない。だが、やる事は決まっている『話を合わせる』だ。


 その日、また私のいる独房へ声がかかった。

 用件は分かっている『後日またお話しましょう』の時だろう。


 かわいそうな人を見る目をした男に連れられ、私はまたまた取調室へ連れられた。

 昨日のあの記録が出回っているのなら、私は錯乱している者という事になっているのか……まったくいたたまれない。ここに来てから皆ロクな目で私を見ないな……。


 それはこの日のセシリアも同じだった。昨日と変わらず、私が未来から来た者であるとは毛頭信じていない、という目……。だが、私の予想があっていれば、これは偽りだ。


「気分はどうですか?」


 カウンセリングでも始めるように、柔らかい声色でセシリアは話しかけてきた。

「少しは落ち着きました」


 実際のところ、私が落ち着けるかどうかは貴方次第なんだが……まあそれはいい。

「未来から来た、との事でしたね。覚えていますか?」

「はい。私が昨日そう言いました」


 なんだか私の予想とは違う話が始まりそうになっている……。抑え込んでいた不安が、私の中でまた顔を見せ始めていたのを感じた。

 そんな私の心境を察してかどうかはわからないが。セシリアは先程と同じように、柔らかい声色で私に話しかける。


「未来から来た際の事と、その前後の事を詳しく話してもらえますか?」


 お前が錯乱していて、話す内容が根も葉もないのは分かるが、まあ話くらいは聞いてやるよ――。そんな雰囲気を部屋全体で感じるなあ……。だがあの紙には『話を合わせろ』とあった、話せというなら話すさ……。


 言われるがまま、私は記憶にある限りのことを話した。もっとも簡潔にだが。


 元の世界での貴方がおつかいを頼み。宛先の貴族家で折り返しに荷運びを頼まれ、その屋敷の者と共に貴方の部屋、隊長室へ戻ると貴方がいなかったので、部屋を調べると隠し通路を発見。隠し通路の奥には貴方が倒れており、起こそうとしたらいつの間にか気を失い、気付けばこの世界に。何度も反芻した記憶だ、すらすらと話す事が出来た。


「ふむ……なるほど」

 うなずいてはいるものの、信じてはいないという顔は相変わらずだった。


「そして、この世界で目を覚ましてからの記憶はありますか?」


 またも言われるがまま、私は記憶にある事を話す。

 気付けば、先程話した屋敷の者と共に全裸で森にいて、たまたま近くを通りかかった騎士に助けられてここへ、だ。これもまた、思い出すのに時間はかからない。


「なるほど。ほかに記憶はありませんか? たとえば、誰かに襲われたという記憶や、頭を打ったような……」


 来たか。


 ここで私はあの紙に書いてあったことを思い出す。


『話を合わせろ。強姦された身寄りのない女』


 そういう事にしろって? ああ、分かったよ隊長。


 その後は、即席の創作話を話した。

 セシリアの誘導もあってか、私は『そういうこと』になったのだろう。


 その日した芝居の内容から察するに……。

 私は強姦された身寄りのない女で、その事のショックから錯乱。

 受け入れがたい現実から逃避し、自分の事を、強姦などされていない全く別の人物だと思い込むようになった。その対象が、この世界の私――つまり過去の私だ。


 ではこの世界では私は私と知り合いだという事になるのか? ああ、ややこしくなってきた。これから過去の私を呼び出して、口裏合わせて、そういう事にでもするのだろうか?


 というかこの世界の、過去の私は何歳なんだ? 若いセシリアを目にしているので過去ではあるのは分かるが、正確な年号は分からない。


「記憶を呼び覚ますために、街を見て回りませんか?」


 私の疑問など関係なしに、セシリアは私のキャラクター作り計画を進めるような言葉を口にした。ああ、はいはい。付き合いますよ。外へ出て新聞でも読もう。そしたら何年前の世界なのか分かるだろうし。

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