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雪の汽車

作者: 貨物男
掲載日:2017/01/24

昭和三十年くらいのお話。

なのでこの頃は客車の扉は自分で開け閉め出来たのだな。そして特急だけは自分で閉めなくていいサービスがあった。そのための女子職員をその特急の名前から『○○ガール』と呼んだ時代だ。

そんな時代のお話。

 雪が、降っていた。雪は線路を余計に滑らせ、視界を失わせる。そのせいで列車は遅れているけど、それは、今の僕たちには非常に有り難かった。目の前には、中学生の少女。僕のことを慕ってくれる子だ。雪は静(しづ)けさを余計に拡大する。


「先生、あの…」


何かを言おうとしたのだろうけど、ホームに入ってくる汽車の汽笛にかき消された。そして、ブレーキだか何かがたてる鈍い摩擦音が続く。僕は、山高帽子を目深にかぶる。このままだと泣いてしまうから。男は泣かないものだ。そして、妄りに笑わないものだ。三年に一度、方頬だけで充分だ。泣くのは、もっと少なくていい。


『止まる迄御待ちください、止まる迄御待ちください』


駅の放送が聞こえる。列車が止まり、人が降りてくる。僕は、立ち尽くしている。


「先生、また、会えますよね?」


「うん、また会えるさ。」


嘘だ。お互いそれはわかっている。それでも、僕たちにはその嘘が必要だった。僕は、最後に乗り込んだ。デッキの扉は閉めない。そして、身を乗り出しながら、また、僕たちのための嘘を紡ぐ。


「僕は、息災にするから、君も息災で。」


「ハイッ…」


俯いて涙ぐむ彼女を、直視できなかった。発車のベルが鳴る。何だか思わず、言葉が口から勝手に出て行く。


「何時か、これは思い出の彼方に消えて行くだろう。せめてそのときまで、僕のことを、忘れないで居てくれるかい?」


彼女が顔をあげて、何か言うけれど、また汽笛に被せられてなにも聞こえない。ガタリと列車が動き出す。彼女が列車のそばを走って、何か言う。


「わたしは、忘れませんから。忘れたくありませんから。」


列車がさらに加速して彼女を振り切る。それでも、彼女は追いかけてくるのが見える。そして、ホーム端をとうとう通り越した。僕は、まだデッキの扉から身を乗り出してホームを見る。ホームから、同じように僕を見る彼女がいる。雪が、お互いの姿をかき消すまではすぐだった。僕はそこではじめて、自分が泣いているのに気がついた。デッキの扉を閉めて、寄りかかる。

 きっと彼女には『好い人』が出来て、僕のことなんか忘れてしまう。だけど、いや、だから、今暫くだけ、僕のことだけを想って欲しい。そんなことは言えなかったけれど。車体後ろの扉からまた後ろを見てみるけれど、もう、ホームすら見えない。

私には恋愛は書けない。よってこれは恋愛小説ではない。

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― 新着の感想 ―
[一言] まるで名曲『なごり雪』の別れのシーンみたいですね 斉藤由貴さんの『卒業』も入ってるかも 短い文章の中で情景描写を巧く出せてる気がします こういうハートフルな作品をこれからも期待してます
[一言] 貨物男様、こんにちは。 情感溢れる描写の小説かと思います。 一つ提案があります。それは下記の様なものです。 彼女が顔をあげて、何か言うけれど、また汽笛に被せられてなにも聞こえない。ガタリ…
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