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Chapter2 Scene3 真面目にふざけた話

 生徒会の手伝いを始めてから一週間ほどが過ぎたある日の昼休み。うららかな日差しが降り注ぐ屋上のベンチで、俺は和哉と二人っきりで弁当をひろげていた。


「……なんで、俺とお前だけなんだよ。土岐はどうしたんだ?」

「あいつは部活の会議に行ってるよ」

「……部活?」

「あぁ、あいつは陸上部なんだ」

「そうなんだ……って、それなら、なんで屋上で食べようなんて言ったんだよ」


 屋上はテラスのような作りになっている。

 だから、皆でわいわい昼食を食べる場所としては最適なのだが――屋上に行かずとも、便利で綺麗な食堂がある。

 わざわざ屋上で食べようというのは、女の子達かカップルくらいのものだった。

「見ろよ、むちゃくちゃ浮いてるじゃねぇか」

 ――というか、近くの女生徒から、どっちが攻めだとか聞こえてきて寒気がする。


「仕方ないだろ。お前が天音ちゃんを連れてくると思ったんだよ」

「……なんだ。いきなり屋上で昼飯を食おうなんて言うからなにかと思ったら、天音が目当てだったのか」

「悪いのは俺じゃない。あの豊かすぎるおっぱ――」

 和哉が不意に言葉を飲み込んだ。どうしたのかと和哉の視線をたどると、ちょうど入り口の辺りで、咲夜ちゃんが周囲を見回していた。

 そうして俺を見つけると、つかつかと歩み寄ってくる。


「ようやく見つけた。教室にいないから探してしまったじゃない」

「もしかして、俺に用事だったりする?」

「ええ、今日は生徒会に行くのが遅くなりそうなの」

「……今日は来なくて良いって話か?」

 それはここ一週間でも度々あったことだ。

 咲夜ちゃんはずいぶんと多忙らしく、生徒会に顔を出さない日も珍しくはない。だからそういった日は、顔を出さなくて良いと言われているのだ。

 なので、今日もそう言う話だと思ったのだけど、この日の彼女は首を横に振った。


「実は書類の整理が少し滞ってるのよ。悪いんだけどお願いできないかしら? このあいだも手伝ってくれたから、やり方は判るでしょ?」

「俺にやっておけってこと?」

「……嫌なの?」

「まさか。それは構わないけど……鍵はどうするんだ?」

 問いかけると、彼女は「それなら心配ないわ」と一声。スカートのポケットからキーフォルダーに吊されたシンプルな鍵を取り出した。


「これって……生徒会室のカギ? 良いのか?」

 生徒会室は彼女にとって、自分のテリトリーのようなモノらしく、他人に無断でうろつかれることを嫌っている。それなのに、鍵を渡されるのは少し意外だった。

 少しは信頼されているんだろううか?

「勘違いしないで。今日は仕方なくよ。終わったらちゃんと返して貰うわ」

 ……ですよねぇ。


「……返事は?」

「ん、判ったよ」

「それじゃ書類はいつもの場所だからお願いね」

 用件は済んだとばかりに踵を返し、早々に立ち去っていった。そんな咲夜ちゃんの後ろ姿を見送っていると、和哉の呆れたような声が響く。


「お前、あれで良く、手伝いなんてやってられるな」

「どういう意味だ?」

「あんな冷めた対応されて、よく手伝う気になれるなって言ってるんだよ」

「あれでも、ずいぶんとましになったんだぞ?」

「あれでマシとか、どんだけだよ。ってか、彼女はなんでお前を頼ってるんだ?」

「なんでって……楓ねぇが決めたことだからだろうなぁ」

 そうじゃなきゃ絶対門前払いを食らっていた。今でも、楓ねぇが良いと言えば、咲夜ちゃんは俺の手伝いを断るだろう。


「楓さんって、このあいだ教室に来た人だよな?」

「そうだけど、それがどうかしたのか?」

「ああ、実は莉子のヤツが心配してて……」

 なにを思ったのか、和哉の声が急に小さくなる。

「土岐が心配って、どういう意味だ?」

「い、いや。それよりそのお弁当って、いつも天音ちゃんが作ってるのか?」

 露骨な誤魔化し。それがありありと判ったけど、追求されて困るのは俺も同じだから、この話題を続けるよりは――と、誤魔化されることにした。


「作らなくて良いって言ってるんだけどな。断ると泣きそうな顔をするからさ。俺としても作って貰えるのはありがたいから、甘えてるんだよ」

「くあああああ。巨乳の可愛い妹にお弁当を作って貰って、あまつさえ朝は優しく起こして貰ってるだと? このリア充めっ、爆発しろ!」

「そこまではしてもらってねぇよ!」

「嘘だね! 『お兄ちゃん、朝だよぉ。起きないと遅刻するよ。もぅ、起きないとキスしちゃうよぉ?』とか、言われてるんだろ!」

「……お前は天音をなんだと思ってるんだ?」

「超ブラコンの妹」

「いやいや、そんなことないから」

 至極まっとうな主張。だと言うのに、和哉は「はぁ、なに言ってるんだお前」とでも言いたげな表情を浮かべる。


「やだやだ。これだから自覚のないリア充は」

「マジだって。良く誤解されるけど、天音は別にブラコンとかじゃないぞ?」

「……普段の天音ちゃんを見てると、全く説得力がないんだが?」

「ほんとだって。思いだしてみろよ。天音って口では色々言ってるけど、ベタベタするようなマネはしてないだろ?」

 臆面もなく好きだとか言うが、抱きつくようなマネはしない。それどころか、天音から俺に触れて来ること自体が皆無だ。

 弁当だってそうだ。作ってはくれるが、一緒に食べようと迫ってくる訳じゃない。


「そう言われると……そうか。しかし、そう考えると少し不思議だな」

「不思議?」

「だってそうだろ。あれだけお前を好き好き言ってるんだ。ぶっちゃけ、寝込みを襲ってもおかしくはないだろ」

「ないって。まぁ俺がベタベタされるのを嫌がると思って、自重してるだけかも知れないけどな」

「なるほどね。それはありそうだな。天音ちゃんって、なにげにあざとそうだし」

「あ、あざとい?」

「だって天音ちゃんって、人前ではネコ被ってるだろ?」

「あぁ、話し方のことか」

 天音は俺には判らない法則に従って、一人称や、俺の呼び方を使い分けている。そこになんらかの理由がある以上、あざといと言えなくはないだろう。

 そんな風に考えていると、和哉が重ねて疑問を投げかけてくる。


「そうそう、天音ちゃんの事で聞きたいことがもう一つあったんだが、良いか?」

「スリーサイズとか言ったら、箸で刺すからな?」

 じろりと睨むと、和哉は違うって! と、慌てて両手を振った。

「お前と天音ちゃんの関係だよ。実は義理の兄妹だったりするのか?」

「はぁ? いきなり何を言い出すんだよ?」

「義理の妹は男のロマンだからに決まってるだろ!」

「言い切りやがった……」

 思わずあきれ果てる俺に対し、和哉は意外そうな表情を浮かべた。

「違うのか?」

「違うって。俺と天音は、血の繋がった兄妹だよ」

 ちなみに片親がなどと言う話でもなく、両親共に同じ正真正銘の兄妹である。


「ほう、そうなのか? てっきり、実は――的なオチが待っていると思ったのだが」

「期待に応えられなくて申し訳ないけど、俺はそんな話は聞いたことがないな」

「聞いたことがないと言うことは、実はと言う可能性も少しは?」

「ねぇよ」

「そうか。まあなんにしても羨ましいぜ。俺もあんな巨乳の女の子に好かれてぇ!」

「……見るなとはいわないが、あんまり妹にセクハラ発言は止めてくれよ? あと、あんまり胸の話ばっかりするな。……可哀想だろ?」

 誰がとは言わないが――と釘を刺すと、和哉はおもむろに思い詰めたような表情を浮かべた。


「なんだよ?」

「……そうだな。お前は気づいてるみたいだし、教えておくか」

「だから、なにがだよ?」

「それはだな……ええっと」

 言いにくいことなのか、和哉は何度も口を開きかけては閉じるというのを繰り返す。可愛い女の子が躊躇うのならともかく、和哉がやっても鬱陶しいだけだ。


「いいから早く言えよ」

「判ったよ。いいか、これはお前を信用するから話すんだ。絶対に他言無用だぜ?」

「なんだか判らないけど……言うなって言うなら誰にも言わないさ」

「そっか。なら話すけど……俺の巨乳好きって、実は半分演技なんだ」

 俺は天音の作ったハンバーグを一口。辛すぎず、脂っこすぎることもない。俺の好みに合わせた絶妙な味付け。俺は至福のひとときを噛みしめた。


「はぁ……、さすが天音の作ったハンバーグ。冷めてても最高に美味いな」

「サラッとスルーするなよ! 本当のことなんだって!」

「判った判った、弁当を食べ終わったら聞いてやるから」

「だあああ、真面目な話なんだって!」

「……判ったよ」

 俺は渋々と箸を休め、和哉へと向き直った。


「んで、なにが言いたいんだ?」

「お前は気づいてるんだろ?」

「だから、一体なんの話だよ」

「……莉子が、俺を好きだってことをだよ」

「和哉、お前……」

 正直、和哉からそんな言葉が出てくるとは夢にも思っていなかった。

 和哉は土岐の前で巨乳の話をしては殴り倒されている。そうやって土岐を傷付けているのは、彼女の恋慕の情に気づいていない証拠だと思っていたからだ。


「気づいていながら、どうしてって思ってるだろ?」

「そりゃそうだよ。知ってるなら、なんでわざわざ……」

 そこまで考えたところで、一つの可能性に思い当たる。

「もしかして好きな奴がいるのか? 気のない素振りで、遠回しに振ってるとか?」

 あえて傷付ける理由なんてそれくらいしか思いつかない。そう思って尋ねたのだけど、和哉はゆっくりと首を横に振って否定した。

 そして和哉の口から続けて零れたのは、俺の予想もしていなかった言葉だった。


「俺は莉子のことが好きだ。本気であいつのことを想ってる」

「……は? ええっと、そ、そう、なんだ?」

「ああ。俺は莉子が好きだ。部活で一生懸命に走る姿も、他人のためにレフィアを使える優しいところも、全部、全部大好きだ」


 唐突な本気の告白に戸惑う。和哉がこんなに真面目な顔で、誰かを好きと言うなんて予想もしてなかった。

「俺にとってあいつは、誰よりも大切な存在なんだ」

「だ、だったら、どうして土岐を傷つけるようなことばっかり言ってるんだよ?」

 あまりにも予想外すぎて、和哉の言葉が本音なのかどうか判らない。真意を確かめるために、俺は和哉の事情に一歩踏み込んだ。

「それは……莉子のレフィアに関わることなんだ。だから、もう一度約束してくれ。このことは絶対に口外しないって」

 レフィアに関わるとまで言われたら、冗談では済まされない。それほど重要な話を、和哉は自分にしようとしてくれている。俺はその意思に答えたいと思った。


「約束するよ。絶対に誰にも言わない。天音にもだ」

「……すまないな」

「いや、気にするな。それでレフィアに関するって言うのはどういうことなんだ?」

「莉子のレフィアは、手に届かないモノを掴む能力だ」

「手に届かないモノを掴むって……ずいぶんと抽象的だな」

「人の願いなんて、もともと抽象的なものだろ? だからレフィアだって、言葉で簡単に言い表せるわけないさ」

「そう言われると……そうかもだけど」

「まあ、俺も良く判ってないって言うのが実際のところだけどな。ただ、柚希も一度、莉子のレフィアを見てるんだぜ?」

「え、いつのことだよ?」

「ほら、お前が転校してきた日だよ。小さい女の子が自転車に轢かれ掛けただろ? あの時、女の子がぎりぎりで後ろに下がったのを覚えてるか?」

「えぇっと……」

 俺は記憶を掘り返し、その時の光景を思いだす。確かに女の子は轢かれる直前に下がって、服を引っかけられて転ぶだけに留まっていた。

 あの時、あの子が後ろに下がらなければ、結構な惨事になっていたかもしれない。


「そっか……あれが、土岐のレフィアだったのか」

「そう言うことだ。もっとも、ためらって中途半端に発動したせいで、完全に避けさせることは出来なかったけどな」

「ためらう……? それは、レフィアの代償のせいか?」

 和哉はそうだと頷き、溜めを一つ。

「実は……莉子が貧乳なのは、俺のせいなんだ」

「……はぁ?」

 真剣な話だと思ったのだが、いつから冗談になっていたのか。そう言えば、初めから巨乳好きは演技だとか、ふざけた話だったか――と、俺はため息を吐いた。


「おい、誤解するな。これは冗談とかじゃないんだ」

「本気で言ってるのか? いくらなんでも……いやまて。そう言えば、土岐もそんなことを言ってたな」

 転校初日の放課後。二人が俺を挟んで言い争っている時に、土岐は自分が貧乳なのは和哉のせいだと言っていた。


「一体どういう意味なんだ?」

「そのままの意味だ。あいつのレフィアの代償は、胸の脂肪なんだよ」

「……胸の脂肪って。つまり、レフィアを使うと……胸が小さくなる?」

「そうだ」

 そう、なんだ。ええっと……どう答えれば良いのか、正直反応に困る。

「悪い。こんな時、どんな顔をしたら良いか判らないよ」

「……取り敢えず、笑ったら怒るからな?」

「お、おう」

 釘を刺されて口を閉じ、どういうことなのだろうと真面目に考える。


 レフィアの代償は使用者にとって一番大切なモノで、それを前提で考えるなら、土岐にとって一番大事なのは胸のサイズと言うことになるのだが――と、そこまで考えたところで、俺はある事実に思い当たった。

 土岐が惚れているのは和哉で、その和哉が巨乳じゃないとダメだと豪語している。もしも土岐の最も大切なモノが‘和哉に望まれる自分’であるならば、和哉の話は筋が通る。


「……なるほど、それでお前のせいか」

「判ってくれたか」

「いや、判らん」

「なんでだよ!? なるほどって言っただろ!?」

「だって……なぁ? お前が胸のサイズは別に気にしないって言えば済む話だろ?」

 ばかばかしいと俺は切って捨てようとする。

 だけど、

「それは……ダメなんだ」

 和哉は深刻な口調で答えた。


「……なんでだよ?」

「考えてもみてくれ。俺が巨乳好きだから、あいつのレフィアの代償は胸の脂肪ですんでるんだ。だったらもし、俺がお前が好きだって……お前がいてくれるだけで良いって言ったら……どうなるんだ?」

「――っ」

 土岐の代償は、彼女が思う、和哉に好かれるために必要なモノ。

 和哉が土岐を心から大切に思っている。その事実を土岐が知ってしまえば、彼女のレフィアは、自身の存在すら奪いかねない。

 和哉はそれを知っているから、周囲から変態のそしりを受けるのもいとわず、土岐を貧乳だと突き放し、巨乳こそが至高だと声を高らかに主張しているのだ。


 それもこれも全て、大切な土岐を護るために。


「……………なんだろう。良い話のはずなんだけど、凄くバカっぽく感じる……」

「くっ、気にしてることを、ずけずけとっ」

「やっぱり気にしてるのかよ」

「当然だろ。だが、それでも、俺は真剣なんだ」

「そっか。……もしかして、和哉が聖霊を選んだのは?」

「……俺はいつか、あいつに好きだって伝えたい。お前がいてくれれば良いんだって打ち明けたい。だけど、今それをしたら、あいつの身に危険が及ぶかもしれない。だから、そうならないように、俺はレフィアについて調べたいんだ」

「そう……だったのか」

 最初はずいぶんとふざけた奴だなんて思ってたけど、道化を演じてるだけだったんだな……って、待てよ?


「なぁ、なんで胸なんだよ? 他にも髪とか、もうちょい無難なのもあっただろ?」

「そ、それは……」

「それはなんだよ?」

 なんとなく予想が付いたのでジト目を向けると、和哉は俺から視線を逸らした。

 暫しの静寂。

 沈黙に耐えきれなくなったのか、和哉はおもむろに口を開いた。


「実は……以前、俺が部屋に隠していた写真集、おっぱいがいっぱい! を見られたのが切っ掛けなんだ……」

「はぁ……。そんなことだろうと思ったよ。結局、お前は巨乳好きなんじゃねぇか」

「う、うるさいな! だから演技は半分だって言ってるだろ!?」

「つまり、半分は本音ってことか」

「そうだ」

「ほんとに半分で済むのか?」

「……そうだ」

 僅かな間があった。やはり半分以上ありそうだ。

 だけど、和哉の事情は判らなくもない。大切な人を護るために、他に選択なんてなかったのだろう。その気持ちは、俺には良く判る。


「それで、俺にそれを教えた理由はなんなんだ?」

「それはだな。そういう事情だから、俺が天音ちゃんの胸に――だああ、だから、箸で突き刺そうとするな! 冗談、冗談だから!」

「……本当に冗談なんだろうな?」

「本当だって。お前に教えたのは、お前が莉子の想いに気づいてて、お節介を焼こうとしてたからだよ」

「ん? ……あぁ、そう言うことか」

 土岐の想いに気づいてから、和哉をたしなめる言動をそれとなく繰り返していた。

 和哉は俺の言動が切っ掛けで、自分の隠している秘密が露呈することを恐れ、俺に真実を話して釘を刺したというわけだ。


「和哉の気持ちも知らないで……すまない」

「いや、柚希が俺達の事を考えてくれてるのは判ってるから。気にしないでくれ」

「……そう言ってくれると助かるよ。それで、一つ聞いていいか?」

「うん? なんだよ。莉子の魅力なら、いくらでも語る自信があるぞ?」

「いや、そんな惚気はいらん。俺が聞きたいのは、お前が土岐の気持ちに気づいてることを、土岐は知ってるんじゃないかってことだよ」

「それはないはずだが……なんでそんな風に思うんだ?」

「だって土岐が言ってただろ。自分の胸が小さいのは、和哉のせいだって」

 あの時は意味が判らなかったけど、あれはつまり、土岐が和哉を好きで、だからレフィアで胸が小さくなると、自分で告白しているようなモノだ。

 和哉に気持ちを隠しているのなら、あんな発言はしないだろう。


「あぁ、そう言うことか。お前が考えてるのは逆だな」

「逆……って言うと?」

「あいつはそれとなく気持ちを伝えようとして、あんな風なことを言ってるんだ」

「あぁそっか。遠回しの告白なのか。それで、お前はスルーしてるんだな」

「そう言うことだ。だから柚希も、気づかないフリをしてくれよ」

 彼女の想いに気づいたと知られれば、なんらかの答えを出す必要がある。そして本心を打ち明けてしまえば、土岐に危険が及ぶ――か。


「了解。お前も大変なんだな」

「まぁな。だが、惚れた弱みだ。あいつの走ってる姿を見るだけで、俺は満足だよ」

「……格好いい、のかなぁ」

 言ってることは格好いいんだけど、その結果があれじゃなぁ。

「俺のことより、柚希はどうなんだ? 俺はお前の方が――」

 いきなり和哉の顔が強ばった。どうしたのかと思って彼の視線をたどると、土岐がこちらに来るところだった。


「り、りりっ莉子。どっ、どうしてお前がここに!?」

「む、なんだよ。ボクが来ちゃいけないの?」

 和哉の奴。気持ちは判るけど……動揺しすぎだ。そんなんじゃ、話を聞かれてなくても怪しまれるって。

 俺は仕方がないと助け船を出すことにした。


「土岐は部活の会議があるって聞いてたからさ」

「部長が風邪で欠席らしくて、延期になっちゃったんだよ」

「なるほど、それで昼食を一緒しようと探してたわけか」

「そう言うこと」

 土岐は頷き、和哉の隣に座る。その様子におかしなところは見られない。

 ……この様子なら、話は聞かれてなさそう、かな。なんて風に安堵しつつ、俺は卵焼きを口の中に放り込んだ。

 

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