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Chapter2 Scene1 始まりを告げるコスプレ姉ぇ

 翌日の昼休み。和哉達といつものように騒がしい昼食を過ごしていると、クラスメイトの一人に名前を呼ばれた。


「なんかお客さんが来てるぞ?」

「お客さん……ぶっ、ごほっ、ごほっ」

 誰だろうと振り返った先。教室の入り口にいる人物を見て壮絶に咳き込んだ。

 悠然と佇むのは、昨日再会したばかりの楓ねぇ。彼女はとうに成人しているはずなのに、聖霊学院の制服を着こなしている。


「な、なななにやってるんだ!?」

 俺は慌てて楓ねぇの前に駆け寄った。

「あら、似合ってませんか?」

「いや……それは……」

 似合ってないかと言われればそんなことはない。ハリのある肌に、妖艶さと可愛さの混在する容姿。大人びてはいるが、高校生でも十分に通用するだろう。

 しかし、制服のサイズが小さいのか、はたまた胸のサイズが大きすぎるのか、胸元のブラウスがはち切れそうな様は、どう見ても普通の高校生には見えない。


「ふおおおおおおおおおおおっ、巨乳のお姉さんキタコレ!」

「バカズヤは黙ってな――よっ!」

「かくさっ!?」

 背後の教室から鈍い音共に、和哉が謎の呻き声が聞こえた。どうやら制裁を加えられたらしい。


「なにが胸囲が驚異の格差だよ、死んじゃえっ」

「そ、そこまでは言って――がはっ!?」

 今度は衝撃音と、誰かが倒れる音が聞こえた。……南無。


 と言うか、恥ずかしいから止めてくれと思うが、楓ねぇはまるで気にした風もなく「楽しそうなクラスですね」と微笑んでいる。

 そんな穏やかな対応のせいか、はたまたその容姿のせいか。恐らくはその両方なのだろう。背後にいるクラスメイト達がざわめいている。


「って言うか、どうしてここに?」

「どうしてって……昨日、柚希くんの家にお邪魔した時に言ったじゃないですか。また あ し た って。忘れちゃったんですか?」

「家にお邪魔!?」

「もしや、既に深い関係!?」

 背後が一気に騒がしくなる。俺は慌てて楓ねぇの腕を掴んでその場を離脱。背後でブーイングが上がるが、正直かまっていられない。



 俺は楓ねぇの手を引き、人気のない階段の踊り場にまで連れて行った。

「色々と聞きたいことはあるけど……取り敢えず、その制服はなんなのさ?」

「襲いたくなったでしょ?」

「なりませんっ!」

「……ならないんですか」

「なんで寂しそうなんだよ……」

「だって、柚希くんのために、一回り小さいサイズを選んだんですよ?」

「……そのはちきれそうなブラウスはわざとか」

 俺はため息を一つ。話を戻すべく頭を振った。


「それで、こうして学校にまで顔を出したのは、俺と咲夜ちゃんを引き合わせる算段が立ったってことなのか?」

「ええ。その通りです」

 思ったよりずっと早い。零からのスタートなら、切っ掛けは些細なものでも大丈夫だけど、俺は咲夜ちゃんに嫌われている。

 納得させるには、相応の理由が必要なはずだけど……

「もしかして、俺に話す前から準備を進めてたのか?」

「ええ、その通りですよ」

 なるほどね。手際が良いのは昔から変わってないようだ。


「さて、あまり時間もありませんし、早速本題に入りますね。柚希くんには今日の放課後より、生徒会のお手伝いをして頂きます」

「生徒会?」

「ええ、実は――」



 楓ねぇとの話を終えて教室に戻ると、いきなり和哉達クラスメイトに詰め寄られた。

「な、なんだよ?」

「なんだよ? じゃねぇ! さっきのはお色気美少女は誰だ!」

 和哉が叫び、周囲から同意の声が上がる。他の連中も用件は同じなのだろう。周囲を伺うと、包囲網が敷かれていた。


「誰って、ただの先輩――」

「嘘をつけ! あんな女性は学院で見たことないぞ!」

 それは和哉が知らないだけ――と言いたいところだが、あれだけ目立つ容姿の持ち主。もし学院にいれば、とっくに全校生徒に知れ渡っているだろう。

 生徒だとシラを切るのが無理なら、どうやって誤魔化したものかと考え、下手な嘘を重ねてぼろが出るよりはと、問題のない範囲で白状することにした。


「実は……彼女は幼なじみのお姉さんなんだ」

「幼なじみのお姉さん――だと!?」

「おい、あんまり大きい声で言うなよ」

 和哉がクラス中に聞こえるような声で叫ぶから、あちこちからざわめきが上がる。

「お前は巨乳の可愛い妹を持ちながら、美人なお姉様の巨乳まで手中に収めているというのか!?」

「収めてねぇよっ」

「リア充めっ、爆発しろ!」

「いや、だから……」

 誰かなんとかしてくれと周囲を見回すと、土岐と目が合った。


「和哉、いいかげんにしなよっ!」

「うおっ!?」

 土岐は和哉の襟首を掴んで引き摺り倒すと、代わりに俺の前へとやってきた。どうやら助けてくれるつもり――

「その幼なじみのお姉さんとは何処まで行ってるの? もう深い仲だったりする? 天音ちゃんに勝ち目はありそう?」

 ――ではなく、野次馬根性丸出しだった。


 どうやらレフィアのことならともかく、それ以外に関しては配慮するつもりがないらしい。というか、最近遠慮がなくなってきた気がする。

 ともあれ、こちらの話を聞かない和哉よりはよほど話しやすい。俺は当たり障りのない説明をすることにした。


「何処までもなにも、会うこと自体五年ぶりくらいだからな。今ではただの、昔なじみって感じだぞ」

「え~? そんな感じじゃなかったよ? それに、昨日は家にまで来たんだよね?」

「あぁ、なんか俺たちが近所に引っ越ししてきたのを偶然知ったんだってさ。それで、懐かしくなって挨拶に来てくれたんだよ」

「……偶然?」

 訝しむような素振りを見せるが、こちらの嘘を見抜くには至ってはなさそうだ。だから俺はそれに気づかないフリをして続ける。


「偶然って怖いよな。なんか、この学院に妹が通ってるんだってさ。それで、俺たちのことを知ったらしいんだ」

「妹……って、誰のこと?」

「えっと、月ヶ瀬 咲夜って知ってるか?」

「月ヶ瀬さん? それは知ってるよ。この学院の生徒会長じゃない」

「らしいな。なんか、生徒会を手伝ってくれって頼まれたよ。なんか、それを言うために尋ねてきたみたいだぞ」

 これは出任せではなく、おおむね事実だ。

 生徒会の人手が足りない――というか、足りなくしたから、生徒会を手伝うという名目で咲夜ちゃんに接近しろと言われたのだ。


「ふぅん……お手伝い、ねぇ。でも、どうしてわざわざ秋葉くんに? しかもわざわざ学院に来てまで」

「さぁ? ただの思いつきじゃないか? 昨日、なんとなくそんな話になったからさ」

「なんだか良く判らないけど……要するにさっきの人は、秋葉くんがこの学院に転校してきたのを知って、協力を頼んできたってこと?」

「そんな感じだな」

「それって……」

 土岐がなにやら考え込むような素振りを見せる。直後、土岐の攻撃から立ち直った和哉が再び詰め寄ってきた。


「大体の事情は判った。だが、どうしても判らないことがある!」

「な、なんだよ?」

 バレるような嘘は吐いていないはずだけど……と、俺は警戒する。だけどそんな俺の内心を知ってか知らずか、和哉は高らかに叫んだ。

「あのけしからん制服姿は、一体どういうことなんだっ!」

「ぶっ!?」

 予想の斜め上というか、ある意味予想通りの質問に思わず吹き出した。

 まぁ、和哉なら……というか、年頃の男なら当然気になることではあるだろう。ってな訳で俺は、あらかじめ用意していた答えを口にする。

「なんか、学院に潜り込むのに、月ヶ瀬さんの制服の予備を拝借したみたいだぞ?」

 口からの出任せ。それで強引に納得させるつもりだったのだが――

「なるほど、それならば仕方ない」

 和哉が妙に納得顔するものだから、今度はこっちが驚いてしまった。


「え、なにその反応」

「うん? 柚希は生徒会長のことを知らないのか?」

「最近のことは知らないな」

「ふむ。ならば判らぬのは無理もない。生徒会長の制服だから、さっきの胸の豊かなお姉様がああなるのは、必然だって話だよ」

「……うん?」

「察しが悪いな。生徒会長は確かに美少女だが、一つだけ欠点があるんだ」

「……欠点? それって、性格がキツイとかか?」

「そうじゃない。どうしてここまで言って判らないんだ。要するに体格の違いが、あの着こなしに……判るだろ?」

「……あぁ、そう言うことか」

 俺は五年前――つまり小学校時代の咲夜ちゃんの姿しか知らない。だが、要するにその頃から、体の一部があまり成長していないと言うことだろう。


「それで月ヶ瀬さんに対する食いつきが悪いんだな」

「いくら美人でも、胸の小さい女性には興味が無いからな」

 和哉が堂々と宣言する。クラスメイトから冷ややかな視線を向けられているが、一向に気にしていないようだ。


「お前さぁ、あんまりそう言うことを、大声で言わない方が良いんじゃないか?」

「ふっ、判ってない! 判ってないな柚希!」

 なにかやばいスイッチを押した。そう思ったときには手遅れだった。逃げる暇もなく、和哉がぐぐっと迫り来る。

「良いか? 人間にはそれぞれ個性がある。故に外見でも、色白の子が好き、健康的な肌の子が好き、背の高い子が好き、背の低い子が好き等、好みがあるのは当然だ」

「ま、まぁな」

「だが、それはあくまで個人の好みだ。だから、どっちが正しいとかというモノではないし、他人にとやかく言われるモノでもない。そうだろう?」

「ええっと……」


 言っていることは正しいはずなのだが、何故か頷くのに抵抗がある。続けられる言葉がなんとなく予想できているからかもしれない。

 だが、ここで頷かなければ話が進まない――どころか、納得するまで説得を続けられそうだ。なので俺は渋々頷くことにした。

「ま、まぁそう、かな?」

「そうだろう! そして俺は、巨乳の女の子が大好きだ! 巨乳以外の子は眼中にない! それを高らかに叫んでなにが悪い!」

「いやまぁ……なぁ……」

 和哉は、あくまで『自分は巨乳が好き』と言っているだけ。つまり、貧乳だから女性として失格だとか、そんなことを言っているわけじゃない。

 少々――かはともかく、性的な色が強いために周囲の目は冷たいが、言っていることは、背が高い方が好みなどと主張するのと変わらない……かもしれない。


 けれど、だ。

 和哉の主張を耳に、土岐がどことなく悲しげな面持ちをしている。彼女は恐らく、和哉に対して密かな思いを寄せている。俺はここ数日で、そんな結論に至っていた。

 だから和哉の言動を見かねて口を出したのだけど……どうやら完全に裏目だったらしい。余計なことをしたと、俺はこっそりため息を吐いた。

 

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