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『幕間』 咲夜の日記
――その日の夜。楓から電話が掛かってきた。
「咲夜、今は大丈夫?」
「日記を書いてるから、ちょっとだけ待って」
そう言ってスマフォをスピーカーに切り替え、日記帳にペンを走らせる。それは五年前の出来事を切っ掛けに、一日も欠かすことなくこなしている日課。
主な内容はその日の出来事で、自分の抱いた感想を書き込むようにしている。
そして、今日の内容は大切な幼なじみのこと。
病を治すために、彼は全てを投げ出そうとしている。それは自分の望んだことじゃないけど、その好意は純粋に嬉しい――と言った思いをかき込む。
――いつか記憶を失った自分が、今の想いを少しでも思い出せるように。
「お待たせ、楓。それで、どうかしたの?」
「……用件は、判ってるでしょ?」
「そうだね。でも、あなただって判ってるでしょ?」
「……咲夜、本当に良いの?」
気遣うような音色。
「心配しないでよ。もうずっと前に、こうするって決めてたんだから」
「でも、貴方は本当にそれで――」
「良いの。この機会を五年も待ってたんだから、覚悟はとっくに出来てる。……だから、あたしは、レフィアを使うよ」