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Chapter3 Scene3 天音と咲夜の邂逅


       ◆◆◆


 楓ねぇに見送られて家を出た私は、学校へと向かうべく並木道を歩いていた。

 素朴ながらも美しい風景。ここら一帯は月ヶ瀬家の管理下にある。より正確には家の土地で、楓ねぇが管理を引き受けているのだ。

 だから、だろう。その美しさは昔からずっと変わることがない。そんな並木道を歩きながら思い浮かべるのは、お節介で大っ嫌いだったはずの幼なじみのこと。


 ――楓ねぇは、どうして私と秋葉くんを引き合わせたのかしら?


 彼女は時に厳しいけど、それは私のことを大切にしてくれてるから。楓ねぇが私のためにならないことをするはずがない。

 なのに楓ねぇは、私と秋葉くんを引き合わせた。私が秋葉くんを心から嫌っていたと、知っているはずなのに――だ。


 そこになんらかの思惑があるのだとすれば、それは私のため以外に考えられない。そしてそれは、私の病気に関することかもしれない――と、私は勘ぐっている。

 もっとも、それはただの憶測。

 それ以上のことはなにも判らないのだけど……と、私はふと視線に気がついた。そうして顔を向けると、並木道の終点。そこに一人の少女が佇んでいた。


 私と同じ学校の制服を身に纏うセミロングの少女。

 顔立ちは優しげで整っている。護ってあげたくなるようなタイプ。にもかかわらずスタイルは良く、妬ましいほどに豊かな胸の持ち主。

 どこか懐かしい――けれど、‘知らない女の子’だった。


「……もしかして、私に用事かしら?」

 私の問いかけに、女生徒はこくりと頷く。

「ええ。貴方に話したいことがあって」

「かまわないけど……貴方は?」

「あたしは……そうだね。柚希の関係者、かな。でも名前は教えられない」

「……なにを言ってるの?」

 私は少女に対して警戒心を抱く。

 それに、目の前の生徒の顔に見覚えがないことも気に掛かる。

 聖霊の生徒全員の顔と名前を一致させている――とは言わないけど、生徒会長として、一通りの確認は済ませている。これほど目立つ女の子なら覚えているはずだ。


「ねぇ、貴方は本当にうちの生徒なの?」

「あたしのことは教えられないって言ったでしょ?」

「どうして?」

「まだ名乗る時じゃないから」

「意味が判らないのだけど。と言うか、名乗れないような相手と話すことはないわ」

「そう? でもあたしなら、貴方の知りたいことに答えられるよ?」

 耳を貸すべきではない。頭ではそう思っているのだけれど、何故か私は彼女の言葉を無視することが出来なかった。


「私の、知りたいことって……なに?」

「そうだねぇ。たとえば、楓が貴方と柚希を引き合わせた理由――とか」

「――っ、どうしてそれを」

「少しは興味が出た?」

「そうね。本当にそれを教えてくれるなら、貴方の名前は聞かないであげる」

「ふふっ、そういうところは変わってないね」

「……変わってない?」

 どういうことかしら? 彼女と私は初対面じゃないの? でも、こんな子と会った記憶なんて……っ。

 不意に頭に痛みが走り、私は顔をしかめる。もしかしたら病による発作かと思ったけど、それ以上の痛みはやってこなかった。


「……大丈夫?」

「え、えぇ。なんでもないわ。それより、早く教えてくれないかしら?」

「簡単な話だよ。楓は貴方を救うために、柚希と引き合わせたの」

「……どういう意味?」

「柚希のレフィアは、人を癒す力だよ」

「嘘、でしょ……」

 人を癒すレフィアなんて聞いたことがない。少なくとも、私は知らない。

 だけど……と思いだしたのは、先日の書類整理をしていた時のこと。秋葉くんは感謝の手紙を一通、自分の鞄の上に置いていた。

 あの時は、秋葉くんもレフィア保持者なのかしら? 程度にしか考えていなかった。だけどあれは、宛先に心当たりがなくて保留にしていた手紙。

 そして、その内容は……そう。娘の怪我をレフィアで癒してくれた学生にお礼を言いたいという内容だった!


「秋葉くんは本当に、病を治す力を持っているの?」

「うん。そしてその代償は、対象が柚希に抱く、好意的な感情や思い出だよ」

「それって……っ、まさか!」

 少女の説明を聞いて理解する。


 私はずっと、自分の病がいきなり改善したという事実に疑問を抱いていた。だけど、秋葉くんのレフィアに救われたというのなら辻褄が合う。

 私は、一度秋葉くんに命を救われている。だから私は、あまり覚えてもいない相手を、心から嫌悪していたのだ。

 つまり、秋葉くんが繰り返し言っていた約束の相手とは……私のことだ。秋葉くんは私のために、色々と尽くしてくれていた。

 それなのに――と、私は最後に秋葉くんと会った時のことを思いだした。


 ――五年前のあの日。ふと目を開くと、秋葉くんが床に伏す私の手を握っていた。

 どうして秋葉くんが側にいて、私の手を握っていたのか。そのことは今でも思い出せない。だけど、きっとあの時、私は彼に救われたのだろう。

 でも、あの時の私は、そんなことを知らなかった。

 私の心を埋め尽くしたのは、秋葉くんに対する言いようのない嫌悪感。自分の嫌っている相手が、眠っていた私の側にいる。

 そのことに怒りを覚えた私は、秋葉くんに言い放ったのだ。


 女の子の部屋に勝手に入るなんて最低だよ――と。


 最低なのは、私の方だっ!

 レフィアの代償は、その奇跡の大きさに比例する。それはつまり、秋葉くんは私の身代わりになったと言っても過言じゃない。

 秋葉くんは、私の命の恩人だ。

 それなのに、私はそんな秋葉くんを口汚く罵ったっ! 最低だ、馴れ馴れしい、貴方のことは好きじゃない。そんな風に彼を傷付けたっ!


「私は、私はなんてことを……」

 自分のしでかしたことに体が震え、涙が溢れ出た。けれどその涙は、差し出されたハンカチによって拭われる。

 側に少女がいたことを思いだし、私ははっと顔を上げる。そこには、あらゆる感情を排斥したかのような、透明な微笑みを浮かべる少女が佇んでいた。


「……あなた、貴方はなんなの? なにが目的で、そんなことを私に話したの?」

 言いようのない恐怖を抱いて後ずさる。

「あたしの目的はまだ話せない。でもこれは、必要なことなの」

「必要って……なによそれ」

「ごめんね。今はまだ詳しく話せないんだ。でも、そのうち全部話してあげる。大丈夫だよ、あたしは貴方のことも大好きだから」

「なに、よ。なによそれ……」

 私は意味が判らなくて狼狽える。その隙に、少女はクルリと身を翻すと、そのまま立ち去っていった。

 

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