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前編

 まだ『身分』と言うものが存在している時代。国内でも名を轟かす名家:一条家に陽菜ひなは5歳の頃から奉公していた。

 表向き陽菜は奉公となってはいるのだが、陽菜は母親から女郎屋へと売られそうになっている所を、一条家の主が貰い受けたのである。


『利発そうな可愛い娘・・・お前を家の跡取り孫息子の傍仕えにしよう』


 主のその一言が、陽菜の人生を大きく変えたのだった・・・




 陽菜は、一条家の跡取り孫息子である4歳年上の功に仕えるようになってから、貪欲なまでに様々な知識と技術を身に付けた。

 16歳となった現在では、陽菜は奉公人と言うよりは一条家の令嬢と名乗っても可笑しくない程に、知識・教養の全てを身に付けていた。

 当時9歳だった功も、陽菜に触発されたのか同じように貪欲なまでに様々な勉強を吸収し、本来の恵まれた容姿なども手伝い社交界では令嬢からの羨望の眼差しを一身に集めるようになっていた。

 また、2人の才能をいち早く見出した伯父の手により既に2人は一条家の企業をいくつか任されており、その名も社交界では有名であった。



 若干20歳の青年と、16歳の少女の補佐



 誰もが最初馬鹿にしたように笑っていたのだが、2人は仕事で見返し・・・現在では2人を馬鹿にする存在などは何処にも存在しない。

 そんな風に、常に2人で居れば特別な感情に発展することも、至極当然の事かもしれなかった・・・






「やっ・・・・おやめ下さい!・・・っ!!・・・ふんっ・・むぅ・・・」


 陽菜が抗議の声を上げつつ、功を必死で引き剥がそうとするのだが・・・何しろ自分より遥かに恵まれた体系の功に抱き込まれてしまえば、陽菜には逃げる術がない。

 そんな陽菜の抵抗も軽く封じ込めた功は、一切の効く耳を持たずにひたすら陽菜の唇を貪っていた。

 暫くして・・・ようやく陽菜の身体から力が抜け、グッタリと功に体をもたれさせたのを確認してから功はようやく満足したのか唇を離した。


「・・・・大丈夫?陽菜?」


「・・・・ひ・・どい・・・です・・・功様・・・おやめ下さい・・と、申し・・・あげ・・ましたの・・・・に・・・」


 息も絶え絶えに抗議する陽菜の言葉を、功は不服そうに聞いていたのだが。


「それだけは聞けないと、何時も言ってるだろう?俺は陽菜を愛してるんだ。陽菜だって、俺の気持ちに応えてくれたはず・・・」


 なのに、何故触れる事すら許さない?

 責めるような功の口調に、陽菜は気力を振り絞って功を見つめて口を開く。


「確かに・・・申し上げました。私も功様をお慕いしていると・・・・」


 ですが、それとこれとは別でございます。

 その言葉に、功の陽菜を抱き締める腕に力が籠る。


「何故・・・?愛し合ってるなら、当然の事だろう?なのに・・・何故、俺を拒む?何故・・・俺を受け入れようとしない?」


「・・・お慕いしてるからでございます!!功様を受け入れてしまえば・・・私は傍仕えを外されます!」


「だからっ!!それは、俺が何としてでも止めるから!!俺は陽菜を妻に迎えたいんだ!!」


 そう言って、功は陽菜の服に手を掛けるが・・・陽菜はそれを必死で抑え込みつつ功を説得する。


「それが夢物語だと、功様だってお気づきでしょう!?旦那様や大旦那様がお許しになるはずございません!!」


 功様は、私に恩知らずになれとおっしゃるのですか?

 その言葉に、功はきつく唇を噛み締める。陽菜はそんな功の唇にそっと指を這わせ、そして幼子をあやすように優しく告げる。


「判ってくださいませ・・・私は功様の御傍に置いて頂けるだけで幸せなのです。ですから、どうか・・・私の居場所を失くさないで下さいませ?」


「・・・・陽菜・・・俺は、陽菜意外欲しくない・・・陽菜が良いんだ・・・・」


 今日も自分を受け入れない陽菜に苛立ちを感じながらも、陽菜への愛おしさや言葉に丸め込まれて功は陽菜に口付ただけで、強制終了させられた。


 




 だが、功の我慢もそろそろ限界に達しており・・・

 陽菜はここ数日、毎晩のように部屋に乱入されてはこのようなやり取りを繰り返す羽目になっている。

 それは、既に館中の暗黙の了解になっていたのだが・・・

 陽菜の危惧する通り、一条家の家では陽菜の器量を認めつつも功の執着には苦々しい思いを抱いていた。

 そしてとうとう陽菜が一番恐れていた日がやってきてしまった。一条家の主人に呼び出され、功との関係を知られた上に自分が一番恐れて居た指示を受ける事となったのだ。





「お見合い・・・・ですか?」


「あぁ、先方もお前をいたく気に入ってな。素性はどうあれぜひ嫁に欲しいとの事だ」


 こんな良縁は滅多にないぞ?と、言う当主の言葉に、陽菜は奈落の底へと突き落とされる気がした。




 あぁ・・・とうとう傍仕えすら許されなくなった・・・




 そんな陽菜の表情に気付いた当主が申し訳なさそうに見る。


「判ってくれ陽菜・・・確かにお前は、器量も能力もずば抜けて素晴らしい。だが・・・お前の身分では一条家の嫁にはなれんのだ」


 お前と功がいくら想い合っていても、それは叶う事が無い。


「判っております・・・私は大旦那様に救われたお蔭で今ここに生きて居られる。それだけで十分なんです」


 功様の御執着も一時の迷いでございましょう。ですから・・・


「どうか、傍仕えを離す事だけはご容赦願えませんでしょうか?まだ私には結婚は・・・・」


 そう言って頭を下げる陽菜を、当主は申し訳なさそうに見る。


「・・・お前をこれ以上功の傍に置いて置くことは出来ん・・・お前の為にも功の為にもな・・・」


 その言葉に、陽菜は全ての望みが絶たれた事を知り、愕然とするしかなかった。

 功の傍にもう二度と立つことが出来ない。それどころか・・・望まれているとはいえ、好きでもない男の妻に・・・?

 陽菜は泣きながら当主に懇願した。


「結婚は・・・結婚だけは、どうかお許しください!!此処に居られないのなら故郷へ戻ります!!二度とここに姿を現しませんから!!どうか!!」


「・・・・お前はそれで良いのか?嫁に行けば、裕福な暮らしを約束できる。一条家の嫁には無理だが・・・私はお前の幸せも願っているのだぞ?」


「・・・私はその方に嫁いでも、お互いに不幸になりましょう・・・私は・・・」


「・・・判った、お前は十分一条家の為に動いてくれた。残りの人生はお前の好きに生きるが良い」


 そう言って当主は、用紙に何かを書き込み陽菜に渡す。


「コレはお前が今まで一条家に貢献してくれた謝礼だ。お前の今後の生活に必要になるだろうから・・・拒否は許さん」


 そう言って当主は陽菜に頭を下げる。


「すまない・・・お前と功の気持ちを知ってはいるが・・・家の為だ、許してくれ・・・」


「旦那様・・・どうか私などに頭などお下げにならないでください。ただ1つだけお願いがございます」


 どうか今夜一晩だけで良いのです。功様と・・・最後のお別れをさせていただきたいのです。

 そう言って頭を下げる陽菜の願いを、当主は断る事は出来なかった。


「許可しよう・・・陽菜、必要な物があれば執事長に言うが良い」


「ありがとうございます。今まで本当にお世話になりました」


 そう言って、深々と頭を下げる陽菜を当主は複雑な顔をしてみるしか出来なかった・・・


以前活動していた二次創作でUPしていた作品を加筆修正したものです。

読んでくださり、ありがとうございました。

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