守れない約束
今は昔、遠い遠い昔のお話。人が生活をする中、妖怪と呼ばれる者がいた時代。
そんな昔、人は妖怪を怖がり、そして妖怪はその恐怖を食べ生きていた、そんな中ある一人の男がいた。その男はどこか変わっており、村ではなく人里離れた山――妖怪の住まう山に家を建て、そこに住み生活をしていた。
男が住み何年が経ったであろう、男の家に出入りする一人の少女の姿があった、しかしその姿は唯の少女ではない、頭から二本の角を生やしており、妖怪の中でも格が高い鬼の少女であった。村ではなく山に、それも妖怪の山と怖れられている山に住む人間に興味を持ったのだろうか、男はやはり変わっており、鬼など気にもせず接していた。
そして鬼は男と会い、話し、そして仲良くなっていった。数年が経っただろうか男は鬼に、鬼は男に惹かれていった、そして互いに約束を交わし誓った、嘘を吐かぬと、鬼はずっと傍にいる事を願い男は恥ずかしそうにずっと一緒にいるから泣くなと、鬼の泣き顔なんぞ見たくないと。二人は月夜に杯を交わした。
そして二人は笑おうと言う、未来の事を考え語り合おうと、その姿はとても幸せな姿だった。
そして何年が経っただろうか、男が行方を晦ました。しかし鬼は男を待っていた、二人は誓い合ったのだから、男は傍にいると、きっとすぐに帰ってくる、そう思い待っていた。
そしてまた数年が経った、鬼は心配になって男を捜した、村を探し山を探し海を探した、そして見つけた男の姿は鬼の知っている姿ではなく変わり果てた姿、その姿を鬼に晒す。
夜盗かそれとも人間を襲う妖怪の仕業なのかは分からないが二度と動かず喋らないその姿を見た鬼は気がついた、もはや約束などとうの昔に破られたのだと知った。
何も語らぬ骸の前で鬼は吼え、その声は大地を揺らした。嘘つきめ、裏切り者め、約束一つ守れないなんて。
糾弾の声も虚しく響くのみ、誰も答えやしない、叫び果てた鬼は立ち尽くす。その鬼の目には――涙が浮かんでいた。