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夜明けの約束  作者: 暮先 冬夜
夜明けの約束 一章
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接触2

 翌日午後二人は再び豪邸のリビングへと案内されて、依頼人と向き合っていた。

「やあ。お久し振りですね、お二人とも。まだまだ暑い中すいませんね。お茶どうぞ」

 畏まらなくてもいいと言われたので座ったまま二人は頭を下げた。

「ありがとうございます。確かに暑いですよね。」

「こちらこそご連絡いただいて恐縮です。暑いのもまあ後1ヶ月程度だとは思いますけれど。早速ですが今日は、ご依頼のお話ということでよろしかったでしょうか」

 出された飲み物を少しだけ頂き挨拶を交わす。相変わらず腰が低いと感じつつも、教授はどことなく照れ笑いに近い笑顔を浮かべている。以前の気弱な感じが少し減っていた。


「ええ。昨日少し説明させていただきましたが、弟子の研究調査のお手伝いをお願いできないかなと考えていまして……」

「ほう。……お弟子さんの研究ですか?何故僕達に依頼されるのか、理由をお聞かせ願ってもいいですか?」

 歯切れの悪い教授の説明に彰人は何となく引っ掛かるものを感じて、情報の収集を始めようとしていた。

 同じく僅かな違和感を感じる香奈も余計な口は挟まずに、書記に徹するつもりだった。

「えっとですね……どこから説明すればいいのかな。実はですね、弟子っていうのが……」

 その時バターン!と豪快な音を立てて、言葉を遮るようにリビングの入り口が開かれた。

 突然の事に全員がそちらを見ると、香奈よりも何歳か年下だろうと思われる少女が、腰に手をあてて仁王立ちをしている。

「あっ。こら、まだ話を進めていないから出てきちゃだめじゃないか……」

「お父さんは話するのが遅いのよ!終わるまで待ってたら明日になっちゃうんじゃないの?……失礼しまーす。初めまして」


 あっけにとられる香奈と彰人に人懐っこい笑顔を向けて、リビングへと入ってきた少女は、あっという間に教授の隣に腰掛けてしまう。

 遅れて入ってくる人影があるが、やはり待っていたと思われるお手伝いさん風の女性が、追加の飲み物と軽食を手際よくテーブルに置いて退室していった。

 どう声をかけていいか困惑して言葉が出ない二人に、教授が申し訳なさそうな顔をする。

「……申し訳ない。弟子というのは本当ですが私の娘です。私の勤めている大学とは別の大学に通っていまして。一応成人してはおりますが、ご覧の通りまだまだ落ち着きが足りない子供ですよ……」

 溜息をつき娘の頭に手を置きながら教授が説明をする。その手を払いのけながら、少女が香奈と彰人に笑顔で話し始める。

「お父さんひどい。いつも子供扱いで。……ごめんなさい。自己紹介まだですよね。あたし山崎真理っていいます。○×大学在籍の二十歳大人です!」

 明るい口調で自己紹介をしてくるが、年齢を強調するあたりが親としては安心できないということなのだろう。教授の顔にやれやれと書いてある。

 香奈と彰人はお互いを見て、頷いてから彰人が先に名乗った。

「こちらこそはじめまして。倉知代行サービスの所長をしています。倉知彰人です」

「はじめまして。秘書兼従業員の常磐香奈です」


 自己紹介をする二人に真理と名乗る女性は、なぜかいたずらが成功したかのような顔をして続けた。

「えへへ。本当は初めましてじゃないよ、二人とも。忘れちゃったかな、よく一緒に冒険したよ?まあ、ゲームの中だから現実じゃないし、結構前のことだけどね。覚えてない?」

 冒険?ゲーム?と記憶を辿る事数瞬で、香奈と彰人同時に思い出した人物がいた。

 仮想世界の話だからいたというのは正確ではないが、プレイヤーとして存在していた人物。友人を誘ったけれどすぐに止められてしまい、一人でやっても面白くないから一緒に組んで欲しいと、半ば強引に声をかけてきてパーティーを組んでいたキャラ。

「妖精娘!」

「妖精娘!」

 見事なハモリで仕事の話をしている最中なのに二人は叫んでしまっていた。

「え!いつから気付いてたんですか?教授はご存知だったんですか?」

「そうですよ!教えてくだされば色々と……」

「ま、待って……えっとですね……」

 動揺した二人に言い募られてしどろもどろになった教授が、落ち着きなさいといわんばかりに手の平をみせて口をぱくぱくさせている。

 慌てて居住まいをただす二人に苦笑交じりで説明を始めた。


「いやあ、例の件で色々助けてもらったことを娘に話したんですよ。そうしたら、もしかしたら知ってる人かもっていうので、更に詳しくお二人の事を話したら絶対そうだと。私は半信半疑だったんですがね。そんな偶然があるのかと……何しろゲームの話だったから……いや、申し訳ない」

 二人に向かい教授が頭を下げようとするので、彰人が止めに入る。

「い、いやいやそんな。謝らないで下さい。親御さんなら普通の事です」

 確かにオンラインゲーム上では素性は分らないし、現実として向き合っていないから、大事な情報を漏らしてしまって騙された、なんて話は売るほど転がっている。

 親としては心配だから疑うのは当然だ、二人が非難できる事ではない。膝に腕をおいて頬杖をつき、猫背気味になった真理が不満を口にする。


「ゲームで出会った人なんて、あまり信用できないからって注意されたからさ。当時は二人のこといい人達だと思ったけど、ゲームの中だけにしなさいって言われてて」

 いかにも自分がきつく制限をしたから、それ以上仲良くなれなかったと言われている気がする教授は正論を持ち出した。

「お前もいつか分かるだろうが、親としては迂闊な事はして欲しくないものだ」

「そーやって子供扱いするー」

 教授に向かいべーっと少し舌を出してから、香奈と彰人の方を見る。

「沢山の事話したよね。将来の夢や、流行の事、秘密の話とかさ。でも嬉しいな。こうして現実の二人に会えたのは」

 真理はにこやかに、懐かしそうに続けていたがおもむろにきちんと姿勢を整えた。かなり真剣な面持ちで、やや上目遣いで話す。


「昔の事はさておき、実際問題としてかなり困ってるんです。お父さんに相談したら、お二人が親切で助けになってくれるかもしれないと教えてくれたんです。話だけでも聞いてもらえませんか?」

 急に使い慣れていない感じの口調で話し始めるので、香奈も彰人も微妙に苦笑いを抑えられなくなった。

「そんな無理やりな話し方するなんてらしくないよ?真理ちゃん。それともお父さんの前だからなのかな?でもあたしもちょっと嬉しいよ。元気そうで」

「結構驚いたけど世間は狭いって言うし、これも何かの縁なんだと思うから、もう少し詳しく話を聞くよ。いいよな香奈?」

「もちろん。聞いてから判断でいいと思う。無条件てわけにはいかないけどね」

「ありがとう!やっぱり二人ともあの時のままだ。やさしくて面倒見がいいよね」

「……あーゴホン。何だか置き捨てられている気がしてきたんだけれど……私の方でまとめながら説明をしてもいいかね?」

 三人で盛り上がりかけたタイミングで影が薄くなっていた教授が、咳払いをしつつ仕切り直してきたのだった。

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