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夜明けの約束  作者: 暮先 冬夜
夜明けの約束 一章
7/71

接触1

 小型犬のお見合いも、超音波なご婦人も、記憶の片隅から消えつつあった数ヵ月後。

 後にいつ思い出しても、小さいけれど決して忘れる事の出来ない音色として、記憶に刻まれる音が静かに響く。僅かに流れた携帯着信音はクラシック、彰人の携帯だ。

 その時の二人は、季節は食べ物が美味しく感じられる秋には早いけど!と言い訳して、仕事中なのにオフィスでその年初の焼き芋をかじっている最中だ。

 携帯の液晶表示はあの教授からの着信を告げるのだった。


「はい、お待たせしました。倉知代行サービスです。お久し振りですね。……依頼ですか?」

 電話中なのをいいことに、残りの焼き芋を自分に都合よく分ける香奈に、視線だけで文句を伝えつつ、彰人は素早くメモをホワイトボードに取る。

「はい、ええ、そこまでの規模ではやったことは無いですが、お話を伺うのは問題ないです」

 依頼・付き添い?打ち合わせ……単語だけをホワイトボードに書きながら、彰人は香奈へ目配せをする。

「明日ですか?急ですね。えっとたしか予定があったはずで……」

 視線を彷徨わせる彰人を見てすばやく立ち上がった香奈が、事務机の上から手帳を取る。

 翌日のスケジュールが書かれたページを彰人に向かって開いて見せる。ペンを渡す事も忘れない。

「……いや、大丈夫です。午後からにはなりますが。待ち合わせ場所はどちらに?」

 彰人は肩で携帯を支えて話しながら手帳へペンを走らせる。

「どこでも大丈夫ですが……はい、ご自宅ですね。では時間ですが……」

「……はい、では失礼致します。」

 程なく通話を終了させた彰人は、香奈に翌日のスケジュール追加を説明する。


「香奈、しばらく前の小型犬事件覚えてるか?あの教授からなんだが、仕事の依頼をしたいらしいぞ?」

「久し振りだねぇあの人。あたし達の事覚えててくれたんだね。どんな仕事かな?大学の教授でしょ?実験の助手とかかな」

 彰人を見上げて首を傾けながら香奈は考えてみたが、思いつかなかった。

「んー。実験じゃないみたいだぜ?しかも本人直接じゃないみたいでさ……弟子のフィールドワークの手伝いって感じが近いって言ってた」

「誰かの何かを手伝えってこと?曖昧すぎて想像つかないね。でも、明日行けばはっきりするよね」

「そうだな。まずは話だけでもいいってことだし、気楽にいこうぜ。それはそうとしてな?」

「何?」

「お前……自分だけで独り占めするつもりか?俺にはおこぼれだけなのか?」

 彰人は残り僅かになった焼き芋を手に取り、それから香奈の手にあるほうを見た。わざと端を少しだけかじる彰人の姿に香奈は降参する。

「え?いやその、つい……ごめんってば……そんな拗ねないでよ。ちゃんと返すってば」

 ばつが悪そうに彰人に焼き芋を返しつつも、名残惜しそうな香奈だった。

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