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N-eco DRIVE!~雑貨屋魔法人形主人の受難  作者: 喜多見一哉
第4章 <わたし、遺跡ってのを初めて見ました>
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第7話 わたし、頑張って訓練します!

 件の遺跡の敷地内には、中庭のような場所があった。

 と言うのも、おそらくは墜落の衝撃で壊れてしまったのだろう。所々に岩塊がむき出してはいるが、元噴水であったような建造物や、装飾品であったであろう柱が何本もそびえ立っている。地面は、花畑だったのだろうか。雑草に紛れて、未だに根強く花を咲かせている植物もある。

 日は、ようやく真上と地平線の中間と言ったところか。アルデリアが遺跡突入時間を提示した正午まで、まだ1・2時間あるはずだ。

 そよそよと柔らかな風が吹くこの中庭に、今、巨大な両手(ツーハンド)(ソード)を肩に担いだジュリと、両手に二本の幅広(ブロード)(ソード)を持ったアルデリアが、一〇メートルほど離れて対峙していた。

 お互い、フル装備である。アルデリアに比べジュリは軽装なほうだが、それでも全身に鉄素材の鎧を装備している。手合わせと言っても、一歩間違えれば命に関わる。アルデリアは熟練の戦士であり、対人戦闘にも慣れているので寸止めが可能だが、ジュリの方は未だに素人に毛が生えた程度だ。おまけに、超の付く重量級武器を携えている。

 遺跡の構造と、今回の駆逐対象を考えれば、ジュリは本来突剣(エストック)でアルデリアに挑むべきだろう。だが、彼女は敢えて両手剣での立ち会いを希望した。その理由をアルデリアには告げなかったが、彼ははそれを由としたのだ。

「なんか、アンバランスだなぁ。年端もいかない少女が、大の大人でも振るうことの出来ない大きさの両手剣を扱う…か」

 アルデリアが呟く。

 ジュリの膂力については、彼女が軽々と両手剣を肩に担いだことで悟ったのだろう。元々、アルデリアの興味は"魔法人形(ゴーレム)の力を見てみたい"一心である。おまけに、国内最高位の死人使い(ネクロマンサー)が制作者とくれば、なおさらだった。アルデリア自身、サリアの技術を疑っている訳ではないが、このような機会は滅多にないのも事実だ。

「リミッター外れてますから。おまけに魔力のサポートもあります。これだけの武器を扱えるのは、魔法人形ゆえ…ということです。剣で流そうとしないで下さいよ、武器(それ)ごとイきますからね!」

「お~、怖い怖い。まあ、いっちょ揉んでやるからかかってきなさい」

「はい!」

 ジュリが、いつでも突っ込めるように腰を落とした。アルデリアも、それに反応して愛剣を握る両手に力を込める。

 中央に立つガルディンが、二人の状況を確認して右手を高々と上げた。僅かに微笑んでいるのは、この対戦を楽しんでいるからなのか何なのか。

「はじめっ!」

ガルディンが右手を振り下ろすのと同時に、ジュリは大地を蹴った。

 彼女の脚力も既に人間のそれを凌駕している。アルデリアとの距離は一瞬の間に詰まり、肩に担いだ両手剣に猫の左手を添えて、思いっきり横に薙ぐ。

 アルデリアは僅かながらに上体を後ろに逸らし、目の前を猛烈な勢いで通過する両手剣の刃を目で追った。そして、左手に持つ愛剣を斬り上げる。

 ガイン!という鉄のぶつかり合う鈍い音が響き、アルデリアの剣はジュリの両手剣を真上へと弾いていた。ジュリの右手に衝撃が走り、思わず両手剣を手放す。体勢を崩したジュリの首元に、アルデリアは素早く右手に握る剣を滑り込ませ、寸前で止めた。

「はい、ジュリ一回死んだ~」

 あまりにもあっけなくケリがつき、ジュリは彼の愛剣の刃を見つめ、呆然とした。真後ろの地面に弾かれた両手剣が突き刺さる。

 ジュリは、アルデリアの胴体を両断するつもりで剣を振るった。避けられることは想定していたが、まさか剣で弾かれ、あまつさえ飛ばされるとは。

「横薙ぎはやめたほうがいい。目のいい戦士なら、たたき落とすか斬り上げるか、簡単な動きでこうして流されてしまうんだ。おまけに、重量武器は動きが一辺倒になりやすい、故に、動きを読むのも易い。薙ぐのならば、次の攻撃はないくらいの全力でいけ。次の攻撃を繋げる事を考えるのなら、上からの斬り下ろしか、下方からの斬り上げを使うべきだ」

 アルデリアがジュリの首元から剣を引く。

「しかし、ほんとに力は強いな。これが魔法人形か…」

剣の一本を鞘に仕舞い、手をぶらぶらと振る。アルデリアの手には、かなり強い痺れが走っていた。

「二本の剣を使うのはフェアじゃないか…。うん、一本で相手をしよう。その代わり、こっちからも攻めるからよろしく!」

 ジュリは無言で背後に突き刺さっている両手剣を引き抜くと、再び肩口に構えた。それが合図とばかりに、今度はアルデリアが腰を落としてジュリに走り込む。

 ジュリはアルデリアに言われたとおり、今度は頭上からの切り落としに変えた。しかし、振り下ろすよりも先に、アルデリアの右手が閃く。慌てて身体を捻り、その一撃を交わす。

 その途端、アルデリアからの怒声が飛んだ。

「避けるな!その並はずれた力と、武器の特性を考えろ!」

「そ、そんなことを言われても…」

アルデリアは、次々と攻撃を繰り出す。時には上段から、左右の薙ぎ、斬り上げに突き、全て寸止めで武器を引いているが、あまりの連続攻撃に、ジュリはその場に立ち尽くすことしか出来なくなっていた。

「それだけの重量武器を軽々と扱えるのだろう?ならば、その力を利用して、その肉厚な刃を楯として使え!並大抵の戦士の武器では、その防御は崩せない!そして、隙を窺って反撃に出ろ、相手の動揺を誘え!避けるのは、どうしようも無くなったときだけだ!前衛の役目は、後衛中衛の壁になることだぞ!」

「は、はい!」

ジュリは刃の腹に左手を添え、アルデリアの剣戟を弾く。剣が交差するたびに魔力の火花が飛び散る。 


 ガルディンはその光景を眺めながら、満足そうに微笑んでいた。

 そもそも、アルデリアが自分から稽古を付けると言い出すことなんて、滅多にない。彼はアルスラードル軍の元帥であり、総司令官ではあるが、戦争以外の時には極力、司祭であろうとする。兵士達に稽古を付けるのは彼の直属の部下であり、アルデリアはその監督をするだけなのだ。

 これはよほどジュリを気に入ったのか、それとも他の理由があるのか。何かにつけて物事を秘密にしたがる彼のクセを知っているので、恐らく問いつめてもアルデリアは喋らないだろうと思う。

 本来なら、彼は光の神の司祭という立場上、あまり戦争は好きでないのかも知れない。ガルディンが旅を終え、王城に引き戻されたときに彼を将軍として半ば無理矢理取り立てたのだが、その時のアルデリアの心中はいかがなものだったのだろう。

 共に冒険者をしているときも、アルデリアは棒状(ポール)武器(ウェポン)を片手に、中衛職に専念していた。前衛に立つのはガルディン、そしてその妻である戦士ポート、そのどちらかが何かの理由で外れたときだけだ。それ以外の時は、アルデリアの妻クレアと共に中衛で支援に徹している。

 それが、今こうして、自ら進んで剣を振るっている。どんな理由があるにせよ、ガルディンには何だかそれがとても嬉しかったのだ。

「どうですか、状況は?」

後ろから声が掛かった。その主は、もちろんアクサだ。

「う~ん、やっぱりアルデリアの相手はキツそうだな。十分手加減してはいるんだが、ジュリはその動きについて来られてない」

 ガルディンは腕を組み、短い顎髭をさすりながら言った。

「それはそうでしょう。曲がりなりにも、彼は我が軍の元帥です。そう易々と着いてこられても困りますよ」

アクサは笑いながら、現在も互いに剣を振り合っている二人に視線をずらした。

「でも、ジュリも頑張っているではありませんか。ミカサさんの話によると、彼女はあの両手剣を使い始めてまだ二日くらいだそうです。いくら魔法人形としての力があるとはいえ、戦士としての素質があると私は見ますね」

「マルドナード卿の才能を受け継いでいた…ということだろうな。しかし不憫な。この戦争が起こらなかったら、彼女はあのような世界とは無縁でいられただろうに」

ガルディンが視線を落とす。

「いえ、そうとも限りません。今彼女がこうしているのも、きっと光の神の思し召し。もし戦争が無くても、いずれは何らかの形で、彼女は剣を握ることになったでしょう。私にはこれが、運命じみたものに思えますよ?」

「運命…か。光の神の教義だな」

「立ち向かうのも逃げるのも、選択は自由。ですが、必ず何処かで、その道は一本に繋がります。運命からは逃れられない…」

 ガルディンは視線を落としたまま、アクサの台詞に小さく頷く。そして、顔を上げるとアクサの顔を見た。

「そういえば、そのミカサはどうなのだ。かなりの高位魔法も使えるのだろう?」

 その台詞に、今度はアクサが満足そうに頷いた。

「ええ、魔法の習得率から考えると、魔導師(ウィザード)クラスであることには間違いありません。ただ、今まで一人で旅をしてきたということが響いていますね。高位魔法になればなる程、詠唱が拙いのです。低レベルの、それも単発魔法については文句なしなのですが、本人が前衛に立ちたがっています。もしも高位詠唱と、前衛攻撃を同時にこなすことが出来るようになれば、素晴らしい魔法(ソーサリー)戦士(ソルジャー)となれるでしょうね」

「ふむ…。逸材というやつか」

「そうです。稀に見る逸材ですわ。ですが、ヤマト出身というのは少し気になります。あの国は閉鎖的であり、旅人が訪れるという前例がないのです。なぜ、彼女は我が国に来たのか…」

 ガルディンは再び視線をアルデリアとジュリに移し、呟いた。

「ヤマトか…。オレ自身もあまり知らない国ではあるな…」

「私も、文献でしか知りません。ですが、彼女を繋ぎに、国交が出来るようになれば他国に先んじる事が出来ますわね」

「まあ、国交云々は置くとしても、アクサが気に掛けるのも解る。少しだけ注意して見ているか…」

「そうですわね…」

 アクサも視線をアルデリアたちに移す。

 丁度その時、ジュリが何度目かの敗北を喫したところだった。両手剣が中を舞い、地面に深々と突き刺さる。

 ジュリは大きく肩で呼吸をし、明らかに疲労困憊だと見受けられた。その割に、アルデリアの方はケロッとした顔で片膝を付いたジュリを見下ろしている。

「よし二人とも、それくらいでいいだろう。ジュリも何かを掴めたか?」

 ガルディンが手をぱんぱんと叩き、アルデリア達に近づく。ジュリはその問いに頷くことで答え、アルデリアはガルディンの顔を見てにやりと笑った。

「いやあ、なかなか上達が早いね。流石はマルドナードの血筋かな」

 アルデリアは剣を腰の鞘に仕舞うと、両手を広げて肩をすくめた。

「まあ、それだけではないと思うがな。兎に角、出発まで少しでも疲れを取るんだ。アクサはミカサと共に昼食の用意を」

 アクサは頷き、踵を返してキャンプまで戻っていく。アルデリアもそれに続くが、ガルディンとすれ違う様に、小さく呟いた。

「…僕は、サリアっていう人間の恐ろしさを改めて知った気分だ…。もしサリアが敵側について、あんな魔法人形を量産されたときには、十中八九僕達は負ける…」

 ガルディンは頷きもせず、眉間にシワを寄せてじっとジュリを見つめていた。恐らく、彼もアルデリアと同じ考えを持ったのだろう。

「…サリアが、敵につく可能性…か…」

アルデリアが去った後、空を見上げながらガルディンは一人呟いた。


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