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N-eco DRIVE!~雑貨屋魔法人形主人の受難  作者: 喜多見一哉
第4章 <わたし、遺跡ってのを初めて見ました>
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第4話 わたし、短い人生の中で一番驚きました。

 ジュリは、魔法の一発くらい被弾するのを覚悟していた。ミカサを再起不能にしたほどの魔力の持ち主、いくらジュリが頑丈な魔法人形(ゴーレム)と言っても、無傷で済む訳がない。そして、ジュリが倒れれば、それはミカサの死をも意味する。

 金色の猫目(キャッツアイ)の持つ暗視能力を駆使しながら、ジュリはミカサを担いだままで一生懸命走る。唯一の光源であるランタンを、地下礼拝堂に置いてきたのは致命的だった。猫が持つ暗闇を見通す力がなければ、この撤収劇は相当手間取ったに違いない。

 地上への上り階段まで走って、ジュリは恐る恐る背後を確認した。

 遥か遠くに、小さなランタンの灯りが見える。それに重なるように人影が見えるが、どうやら追ってきてはいないようだ。もしかしたら、あの死者の(ノーライフ)(キング)は、一定の距離しか動けないのかも知れない。

 ジュリは安堵の溜め息を漏らし、階段を昇る。そして開けっ放しの床戸を抜け、朽ちた机のある部屋まで戻ってきた。

 ミカサを床に寝かせて、自分の背負い袋(バックパック)からランタンを取り出し、火口箱で火を付ける。

「大丈夫ですか、ミカサ?」

 改めてジュリはミカサに声を掛ける。するとミカサは、自分の背負い袋よ震える手で指差した。

「バッグの中に、一本だけ、魔法の飲み薬(ポーション)がある…。それ、飲ませて…」

「わ、わかりました」

ジュリはミカサの背中から慎重に背負い袋を外して、その中を探る。手に硬い物が当たった感触があり、それを取り出す。

「これですか?」

澄んだ青色の液体が入った小瓶をミカサに見せると、彼女はこくりと頷く。上半身を抱き起こし、小瓶の蓋を開けると、ゆっくりミカサの口に流し込んだ。

 ミカサの喉から、コクンコクンと液体を飲む音が聞こえてきた。小瓶が空になったのを確認すると、再び寝かせる。

「数時間で、傷が癒えるはず…。ちょっとだけ、休ませて貰うね…」

「わかりました、見張りは任せてください!」

自分の胸をどんと叩く。ミカサは微笑むと、その目を閉じた。

 ジュリは床戸を閉め、部屋の出入り扉も閉める。そして部屋の中央に腰を下ろし、右手に突剣(エストック)を握った。

 左手で自分の胸をはだけさせ、そこに埋め込まれている(パープル)水晶(クォーツ)の光を確認する。ミカサを護るために特殊兵装(ネコレーザー)を二発も使ってしまったのだ。相当魔力を消費しているに違いない。

 案の定、埋め込まれていた紫水晶は、弱い光を灯しているだけだった。その光は今すぐにも消えそうなくらいに小さい。仕方がないので、ジュリは腰のポーチからサリアに貰った最後の一個を取り出し、胸に埋め込んだ。

 目の前で横になっているミカサに目をやると、彼女の呼吸は先ほどよりも楽そうだった。全身に負っていた火傷も、心なしか癒えているようにも見える。

 ミカサが目を覚ましたら、ファーレンへの帰路につこう。あのような化け物がいる場所に、長居は無用だ。そして、サリアを通して"闇の神ギザル"の地下礼拝堂の存在を国に報告する。あとは、サリアが何とかしてくれるだろう。多分、死者の王討伐隊が組まれる事になるのだろうが…。

 いくらなんでも、ミカサがリベンジを言い出すとは考えにくい。帰路にはすんなり付けるはずだ。色々な事がありすぎて疲れた。ゴブリンとの戦闘に始まり、戦への乱入、初めての不死族との戦闘、そして死者の王と遭遇…。兎にも角にも、今は早く自宅に帰って、ゆっくりとベッドで眠りたい。

 冒険というものを、少し甘く見ていたと思う。ミカサは普段から、こんな死との隣り合わせで生きているのだ。改めてその凄さを思い知った。もし、次に機会があるのならもっと真面目に取り組もう。そうジュリは思った。


 ミカサが目を覚ましたのは、それからたっぷり二時間ほど経ってからだった。まだ身体の所々に小さな火傷が残っているが、どうやら普通に動けるようだ。

 ミカサは思いっきり背伸びをすると、ジュリの前にどかりと腰を下ろす。そして頭を深々と下げた。

「ありがと、ジュリちゃん!ジュリちゃんがいなかったら、あたしあそこで死んでた!」

突然の事に、逆にジュリが萎縮してしまった。慌てて両手と頭をぶんぶんと振る。

「いえ、わたしこそ何も出来ずにすみませんでした! 

「十分助けて貰ったよ。これで、まだまだ紫水晶を発掘できるわ~」

「…やはり、そこに落ち着くのですね…」

ジュリは半眼でミカサを見やる。ミカサは照れ笑いをすると、床戸に視線を移した。

「さて…本来なら、倍返しだ!…と行きたいところなんだけど…。さすがに死者の王が相手では無理だわ。あたしの覚えてる最大魔法を、意図も容易く抵抗(レジスト)しやがるんだもんね」

「そうですね、残念ですが帰りましょう。短い旅でしたが、さすがに疲れましたよ。備蓄魔力も残り少ないですし」

「サリア様に伝えれば、きっと討伐してくれるでしょ。ってか、連絡手段あるじゃない。報告しちゃえば?」

 ミカサの言う連絡手段とは、胸の紫水晶を使った遠話のことだろう。言われてジュリは思い出す。

「ああ、そうでしたね。でも、なんて言われるか分かりません…。まず罵りの言葉と、お叱りと、自慢話あたりが飛び出すと思いますが…」

ジュリは胸の紫水晶に向かって喋る。恐らくサリアは、常にジュリの行動を監視しているはずだ。

「マスターサリア、聞こえますか?」

その問いに答えがあるまで、たっぷり五分は間があった。そして紫水晶から、不機嫌そうなサリアの声が返ってきた。

『あ゛?どうしたんだい、冒険は上手くいってるのか?』

「…返す言葉もないのですが、失敗してしまったようです」

『なんかトラブルでもあったかい?バカだねぇ、なにやってんだい。初めての冒険で有頂天になりすぎたんだろ。やるからには最後までしっかりやり遂げな。アタシが冒険者時代なんて、依頼は全て百発百中でこなしたモンさね』

 ジュリはうんざりしたように口元を歪ませ、虚空に目を泳がせた。

「お叱りはごもっとも。まずは、報告があります。わたしたちの赴いた遺跡、実は闇の神ギザルの地下礼拝堂だったようなのです。それらしい神像を発見しました。そして、もう一つ…」

一呼吸置いて続ける。

「死者の王…ノーライフキングが、その礼拝堂を護っています」

『…なんだって?』

急に、サリアの声のトーンが落ちた。

「ですから、ノーライフキングです。相方が一撃でズタボロにされてしまいまして…」

『それは、捨て置けないね…。本当に死者の王だったのかい、見間違いとかじゃないね?』

「相方が確認しています。それも、呪文詠唱無しで魔法を使ってくるようなヤツでして…」

 それから、しばらくの沈黙の後にサリアが続けた。

『我が国アルスラードルでは、ギザルの存在を認めていない。それは、メーヴェを唯一神として崇めているからだ。国内から、特にギザルの痕跡は残しておけない。知ってるね?』 何時にもなく、真剣なサリアの言葉だった。普段のちゃらんぽらんなイメージとは完全にかけ離れている。初めて聞くであろうその響きに、ジュリは緊張する。

『今から、そっちに応援を送る。その者たちと協力して、その礼拝堂と死者の王をぶっ壊しちまいな!』

「応援…ですか?」

「そうさ。恐らく我が国(アルスラードル)最強の応援さね。位置はアタシがジュリを追跡(トレース)してるから大丈夫だ。遺跡の入り口で待ってな。こっちは馬だから、半日もかからず到着するだろう。くれぐれも、粗相のないようにな」

「でもわたし、もう魔力が少ないんですが…」

「予備を持たせるさ。一応とはいえ、ジュリはアタシの最高傑作なんだ。無様な結果を残すんじゃないよ」

 ミカサが、ジュリの肩をつつく。振り返ると、ミカサは口をパクパクしていた。どうやら、応援に誰が来るのかが気になっているようだった。

「…えっと、応援ってどなたが来るんですか…?」

『ああ、戦争でストレス発散できなかったのが三人ほどいてね』

紫水晶の向こうから、サリアが咳払いするのが聞こえた。

『聞いて驚け、そして見て驚け。一人目、名前をアルデリア・ソードアイルという。二人目はアクサ・ナルニール、三人目、ガルディーン・ランド=ヴァリスだ』

「…はい?」

 その名前を聞き、ジュリは目をぱちくりさせる。脇に立っていたミカサは、顎が外れんばかりに驚き、目を丸くした。

 一人目は、アルスラードルの誇る大元帥、司祭将軍の名。二人目は三賢人の一人にして、聖賢の異名を持つ女性。三人目は、アルスラードル国暫定国王。漆黒の騎士の名前だったのだ。

「…マ、マジですか…、マスターサリア?」

『おう、マジもマジ。大マジさ。本人達がやる気になってるからね。特にアルデリアの燃えっぷりはハンパないよ。戦い方を見て、勉強させて貰う事だねぇ』

 ころころとサリアが笑う。しかし、ジュリ達はそれどころじゃなかった。何せ、アルスラードル国トップスリーがこの場所に集うという事なのだ。普段目通りすることも難しい三人を、こうも簡単に集結させるとは、サリアとは一体何者なのだろう。

「あ、あはは、あはははは…」

 ジュリとミカサは、ただただ、笑う事しかできなかった。


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