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N-eco DRIVE!~雑貨屋魔法人形主人の受難  作者: 喜多見一哉
第3章 <わたし、どうやら相方ができたようです>
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第3話 わたし、思った以上に怒ってたようです。

 薄暗い廊下には、壁にいくつもの蝋燭が灯っている。

 その廊下を、今一人の長身女性が早足に歩いていた。長い髪の毛を頭の真上で結い、片眼鏡をかけたその女性は、本日の執務を終え、王宮内にある自室に戻ろうとしているところだ。

 アルスラードルが誇る三賢者の一人、死賢サリアである。

 サリアは自室前に立つ衛兵に軽く手を挙げ、衛兵はそのドアを開ける。そして部屋の中に入ると、衛兵が再びドアを閉めた。

 「また戦争か…一体、いつまでこんなバカ騒ぎを続ける気かね、ウチの王様は…」

 呟きながら、部屋の中央に設置してある大きな机の前に立つ。その上には、アルスラードル全土を表す地図が置いてあり、さらに所々に駒が配置されている。赤い駒と青い駒。それは西国との暫定国境の周囲に並び、その数は一〇個を超える。青い駒がガルディーン軍の配置位置、赤い駒がランディーン軍の配置位置だ。それぞれが国境から一定距離を置き、現在もにらみ合っているのだ。

 サリアは、その豊富な知識からガルディーン国王より全軍の軍師の役目を仰せつかっている。執務が終わった後は、このように全軍の進軍・迎撃についてシミュレートするのだ。前回の小競り合いが終わってからおおよそ二週間。そろそろ敵軍も、補給と、負傷兵の搬送と補充を終える頃であり、再び戦争が始まってもおかしくない状況だろう。

 もちろん、それはガルディーン軍にも言える事だ。こちら側も、すぐに兵士が動かせる状況になっている。

 これまで戦線が膠着状態にあるのは、はっきり言ってしまうならガルディーン軍に問題がある。大義名分はこちらにあり、兵士の量は同規模でも、質そのものはこちらの方が遥かに勝る。更に言えば、現在前線で全軍の指揮を執っているのは、聖賢アクサと、アルスラードル最強と言われる司祭将軍アルデリアだ。王国トップツーが顔を並べているのである。本気でかかれば、暫定国境を押し上げるくらいの成果は毎回挙げる事ができるのだ。だが、いつまでも防衛に徹して、それを行おうとしない。

 その理由は、兄王であるガルディーンが、弟であるランディーンを未だに気遣っていまっているからだと噂されている。

 サリアの脳内では、いつでも現在布陣されている敵軍を殲滅出来る策がいくつも用意されていた。今日もそれをガルディーンに提言したが、答えはいつも"もうしばらく待て"の一言である。

 ガルディーンは何を考えているのか。幼い頃より"前王を越えて聡明"と言われた彼である。何か、サリアには及びもつかない策があるのか。だが、兵糧は無限ではないし、勿論兵士も数が限られる。国が分裂して二年、本格的に戦争が始まって一年を経過する。そろそろ本腰を入れないと、市民の中にも不穏な空気が生まれかねない。

 サリアは、何度か地図の上で駒を動かし、そして大きく溜め息を吐いた。

「いっそのこと、大部隊で敵が攻めてきてくれないものかねぇ…。そうすれば、それに託けて、前線押し上げてやるのに…。小競り合いじゃどうしようもないよ…」

 その時、まるでそのつぶやきを聞いていたかのように、サリアの部屋の窓の外に黒い影が降り立った。盗賊ギルドの斥候(スカウト)である。サリアは窓際に寄ると、その報告を聞く。

「中央三軍に動きが見られます。どうやら、中央一軍に統合しているようです」

「ふむ、最北の部隊と最南の部隊には動きがないんだね?」

「今のところは…」

「わかった。ありがとう、下がっていいよ」

「は…」

 そして、その影は再び闇の中へ消えてゆく。サリアは急いで自室を飛び出すと、ガルディーンの寝室へ走る。もちろん、敵軍の動きを報告するためだ。防衛にしろ攻撃にしろ、何をするにも国王の許可は必須なのだ。

 サリアはガルディーンの寝室前の衛兵が止めるのも聞かず、一気にドアを開ける。ガルディーンは丁度、侍女に手伝わせて部屋着に着替えている最中であった。

「失礼します、ガルディーン様!」

ガルディーンはそれを見て苦笑した。

「既に扉を開けておいて、失礼もなにもないだろう。何事が生じたか?」

サリアはその場に畏まり、続けた。

「ランディーン軍、動くようです。中央に軍を統合。おそらくは、中央突破をしてくるものと」

「なるほど。ついに痺れを切らしたということか。待った甲斐があったというものだな。夜中に中央突破…、そして背面展開かな。策はあるのだろうな」

「はい」

サリアが説明を始める。

「まず、最南北の一部隊ずつには、我々の兵を先にけしかけ、中央の援軍に向かわせないようにします。そして、中央三部隊は、本隊を中心として薄く横一列に布陣、中央は後退しつつ迎撃、左右の両陣は前進包囲、側面からの攻撃に集中させます。包囲が整ったら、中央は後退を止め、、側面部隊は敵陣の背後に回り、後背からの攻撃に移行。全面・後背からの両攻撃。これで中央は殲滅できるものと」

ガルディーンは漆黒の髪を掻き上げ、頷いた。

「なるほど、あえて中央突破を促すというのか。最北、最南の部隊には、そのまま殲滅も構わないと伝えよ。これを機に、主要部隊を一気に壊滅させるぞ」

その台詞に、驚いたのはサリア自身だった。

「よ、よろしいのですか。ずっと防戦一方でしたのに…」

「言ったであろう、待った甲斐があったと。私は、ランディーンが全面攻勢に出てくるのを待っていたのだ。いくらこちらに大義名分があるとはいえ、民心をさらに掌握するにはこちらから攻めるよりも、相手に攻めさせた方がいいに決まっている。兵たちには申し訳ないがな。だが、ここで勝利を収めれば、敵軍にほとんど兵は残っていまい。副王都を包囲するのも可能であろう?」

「それは、もちろんでありますが…。我が軍が負けることは、考えておられないので?」

サリアが遠慮がちに進言。すると、ガルディーンは大きな声を上げて笑う。

「何を申すかと思えば。負けるなど、微塵も考えておらぬよ。それとも、お前の策はその程度なのか。こちらには我が友アルデリアも、お前も、さらにはアクサもいるのだ。兵の士気も高いし、質も上だ。そして、私が親衛隊と共に出張れば、更に高まるであろうよ。負ける可能性など考えなくて良い。お前は、勝つ策だけを実行すればよいのだ」

「は、はあ…。って、陛下も出られるのですか!?」

サリアが目を丸くした。

「当たり前であろう。敵が本腰を入れてきた以上、こちらとしても手を抜く訳にはいかぬ。ここが天王山だ。私だけ、のうのうと待つわけにはいかないだろう?」

それもそうだが、万が一にもガルディーンが討ち取られるなら、こちらは大崩れ、いや、敗北確定だ。サリアは止めようと口を開きかけた。

「私はすぐに出立の準備を整えよう。親衛隊長に連絡を取れ。これより、親衛隊五〇〇は私と共に全軍前線へと向かう。お前は各部隊に指示を。これで決めるぞ」

あまりにも自信満々で言うガルディーンを見て、その口を噤んだ。

「畏まりました。そのように致しましょう。アタシは一足先に、魔法で前線へと赴きます。ですが、陛下も無理をなさらぬよう」

「誰に向かって言っているのだ。再び、黒と白の幻影を、前線に轟かせて見せよう」

 …黒と白の幻影。それは、ガルディーンが放蕩時代、冒険者として遺跡を荒らし回っていた頃の通り名であり、漆黒の鎧を身につける騎士ガルディーンと、純白の法衣に身を包んだ神官戦士アルデリアを讃えた呼び名だ。その単語をガルディーンが口にすると言う事は、本気なのだろう。

 サリアは頷くと、頭を下げて御前を辞する。そして、再び早足で自室へと戻った。そこには、前線で控えるアクサとの連絡手段があるのだ。

 サリアは執務机の引き出しから掌サイズの水晶球を取り出すと、小さく呪文を詠唱する。するとその水晶球は光を帯び、その球体の中に風景を映し出す。

「アクサ、聞こえるかい」

 その水晶球に問いかけると、球体の内部に一人の女性の顔が浮かび上がった。

『聞こえてますよ、サリア。動きがあったのですか』

「ああ、そうさ。アタシは今からそっちへ転移する。指示はその時に。それと、陛下もすぐにこちらをお発ちになるから、アルデリアに伝えておくれ。黒と白の幻影だと」

その声が聞こえていたのか、水晶球から小さく、歓喜の声が上がった。すぐ脇にアルデリアもいたのだろう。アクサの顔を押しのけて、水晶球に金髪優男の顔が浮かんだ。

『マジかよ、腕が鳴るなぁ。アイツと組むのは何年ぶりだろうな!』

サリアはがっくりと項垂れると、アルデリアを制した。

「何言ってんだい!陛下をお護りするのがアンタの役目だろ、ハメ外すんじゃないよ!陛下は全軍の象徴として、本陣にいるだけでいいんだからさ!」

『だからって、アイツが静かに本陣に座ってると思うか?』

アルデリアの一言に、サリアは言葉に詰まった。前線まで赴くというからには、ガルディーンも剣を振るうに違いない。

「…ま、まあとにかく、何としてでも陛下をお護りするんだよ!」

『解ってるよ。お前も早く来い、僕らの力見せてやろうぜ』

「はいはい…」

 サリアは水晶球の光を消す。そして身支度を調えようと、衣装部屋に足を踏み出し…。

 そして、はっと気が付いて執務机に戻る。引き出しから先ほどの水晶球とは違う、紫がかった色の水晶球を取り出すと、呪文を唱えた。

 そこには、焚き火の光と、その前で座り込んでいる二人の影が映し出される。ジュリとミカサの姿である。更に小さく呪文を唱え、彼女たちの現在位置を確認する。そして、呆然とした。

「な、なにやってんだい、あの子たちは!」

 水晶球に向かって、サリアは怒鳴った。


 ジュリの両親を埋葬し終えた時には、すでに日は西の空に沈みきり、空からは茜色が消えていた。

 さすがに村の中でキャンプを張る訳にもいかず、二人はとりあえず街道まで出て、その外れに腰を落ち着けた。ミカサが乾木と落ち葉を拾い集め、火口箱で火を熾す。ジュリは昼間に作ったウサギ肉の薫製を取り出すと、その火で焙り始めた。

 ミカサとジュリは黙々と作業を続け、夕食であるウサギ肉の薫製を食べ終わる頃には、既に周囲は漆黒の闇に包まれ、静寂の帳を下ろしていた。遠くからフクロウの鳴く声と、虫の羽音だけが響いている。

 ミカサはジュリの足下にふっと目をやると、そこには見慣れない突剣(エストック)が置いてある。

「それって、お父さんが使っていた剣?持ってきたの?」

ジュリは頷く。

「はい、このエストックと、母からは首飾りを。まあ、形見といったところですね。実は、こんな大きな両手剣よりも、エストックの方がわたしは慣れているんです。小さい頃から、父に教育されてますので」

見ると、確かにジュリの胸元には見慣れない首飾りが飾ってあった。

「見てください」

 ジュリはエストックを掴んで立ち上がり、ゆっくり胸の正面で構える。そして、ステップを踏みながら素早くその剣を振る。ほとんどの型は突きであったが、中には払いや薙ぎといったモーションも含まれる。その美しい剣技を見て、ミカサは感嘆の声を上げた。

「凄いじゃない。だから、あれだけゴブリンに立ち回れたのか。ようやく納得がいったよ~。ド素人の動きじゃなかったもの」

「別に、隠してたわけじゃないですよ。言う機会がなかっただけです。わたしが持っていれば、父も本望だと思いまして」

「なるほどねぇ」

ミカサは薪を炎に放り込む。小さくなっていた炎が、また少し大きくなり周囲を照らした。

『ジュリ、すぐにそこから離れな!』

 どこからともなく、叫び声が聞こえた。ジュリとミカサの二人は、ビックリして跳び上がり、周囲をキョロキョロと見回す。

「え…だ、誰ですか!?」

 ジュリが戸惑い、声を上げると、その胸から再び叫び声が闇夜に響く。ジュリは胸をはだけ、そこに収まっている紫水晶を凝視した。

『アタシに決まってんだろ、マスターの声忘れるんじゃないよ!兎に角、そこからすぐに移動するんだ。南の海岸まで逃げな!』

「マスターサリア!?どうしたんです?」

『戦争が始まるのさ!今アンタらがいるのは最前線に近い場所だ。巻き込まれちまうよ!?』

 ジュリとミカサは、顔を見合わせた。そして、頷きあう。

『多少離れてはいるが、はぐれ西国兵がうろつく危険性は高い。あんたらなんて、ヤツらの慰み者になるだけだ。いいから早く!』

「…いえ、逃げません」

その声に、サリアが素っ頓狂な声を上げる。

『…はぁ?』

「西国兵が来るというなら、好都合です。父と母の敵、返り討ちにしてやります」

『ば、馬鹿な事言ってんじゃないよ!冷静になりな!』

「十分冷静です。こちらにはミカサもいます。ちょっとやそっとで、遅れは取りませんよ」

『な、何を言って…』

「それとも、貴女の作ったゴーレムは、西国兵に負けるくらい弱いのですか?」

ジュリが虚空を見上げて、ふっと鼻で笑った。

『負ける訳ないじゃないか!…じゃない、万が一アンタを失ったら、雑貨屋やるモンがいなくなっちまうだろ!』

「心配はソコなのですか、まあいいですけど。別に死ぬ気で戦う訳じゃありません。一泡吹かせたら、逃げますのでご心配なく」

『ちょ、待ちなジュリ!ま…』

ジュリは、胸の紫水晶を手でパンと叩いた。すると、サリアの声が途切れる。目の前で口をぽかんと開けているミカサに対し、ジュリは微笑んでみせた。

「…というわけです。ミカサ、ちょっとだけ付き合ってください」

「…マジ?」

「冗談でこんな事言いませんよ。大丈夫、イザとなったら、特殊兵装使いますから」

ジュリは、腰のポーチから小さな紫水晶をひとつ取り出し、胸に埋め込む。

「はぁ…。対人戦闘って、あたしあんまり経験ないんだよねぇ」

言いつつ、ミカサはバックパックから小さなノートを取り出した。そこには、ミカサが普段使わない範囲攻撃魔法の呪文が記されている。

「わたしは、対人戦闘ばっかりでしたよ。相手は主に父様でしたが。ゴブリンなんかより、よほど動きが読みやすいです」

ジュリはエストックを握りしめ、その刃を見つめながら呟いた。

「しかたないなぁ。まあ、あたしも西国兵にはハラ立ててた所だし。ちょっとだけ頑張りますかぁ…」

「はい、よろしくお願いします」

ジュリとミカサは、焚き火に土を被せて火を消すと、少し海側に下った場所に身を潜めた。

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