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N-eco DRIVE!~雑貨屋魔法人形主人の受難  作者: 喜多見一哉
プロローグ <わたし、既に死んでるんです>
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第0話 わたし、既に死んでいるんです。

新作です。

お待たせいたしました!

今度はジャンルに迷いませんでした。完全なファンタジーです。コメディです。

タイトルは「ねこ・どらいぶ」とお読みください。

毎日…とはいかないと思いますが、掲載時はTwitterや活動報告欄で告知して行くつもりです。

同時進行させる「暗闇ヲ駆ケル花嫁 第2部」と共に、よろしくお願い申し上げます!

 荒れ果てた大地が続いている。

 木々は枯れ、空には暗雲が立ちこめ、大地は乾燥し、無数の屍が横たわっていた。ここは、つい先ほどまで戦争が行われていた土地である。

 この国、アルスラードルでは、現在、東西真っ二つに別れて戦争をしていた。

 戦争の理由は、先代王が、世継ぎを決めることなく突然亡くなった為である。

 東国では、王位継承権第一位の第一皇子、ガルディーンが国を治め、西国ではその弟、王位継承権第二位のランディーンが東国に攻め入っている。本来ならば、第一位継承者たるガルディーンが継ぐはずだったのだが、それに弟のランディーンが異を唱えたのだ。ランディーンは副王都に移動し、挙兵する。

 兵力は互角、暫定国王であるこの二人の力量も互角ときていて、戦争は一進一退の攻防を繰り広げている。既に先代が亡くなって二年は経過しようというのに、戦争は一向に収まる気配はなかった。

 先ほど終わったこの戦により、すぐ近くにあった小規模の集落までが焼き払われ、そこに住まう人々全ても皆殺しにあった。噎せ返るような血の臭いと、死臭が辺りに漂い、恐らく通る誰もが、隣の国に赴くのに最短距離であるこの平野を通過せず、北に連なる山脈まで迂回するだろうと思われる惨状だ。

 しかし、今一人、この平野を訪れた人物がいる。

 その人物は、黒色のだぶついた長衣(ローブ)を身につけ、同色の外套(マント)を羽織っている。手には自分の背丈くらいはあろう錫杖(スタッフ)を持ち、頭巾(フード)を深く被っていた。

 フードから覘く長い髪と、その物腰から、女性であろう事は受け取れるが、年齢までは識別できない。しかし、その出で立ちから、魔術師の類であろう。

 その女魔術師は、時折大地にしゃがみ込み、行く先々に横たわる死体を探り、そして舌打ちしては次の死体へ移動する。戦で使われた武器防具や、装飾品には目もくれていないので、物取りではないのだろう。むしろ、彼女が物色しているのは、その「死体」そのものであった。

 この世界には、「死人使い(ネクロマンサー)」と呼ばれる人物が存在する。

 その名の通り、死体に魔力を施し、魔法人形(ゴーレム)として自らの召使いとして使役する存在だ。

 その魔法人形は、時には召使いとして、また時としては戦争に荷担する死人傭兵として、若しくは、敵方に潜り込ませる密偵(スカウト)としてなど、多岐に渡る使用方法が現実に確認されている。腕のいいネクロマンサーほど、制作されたゴーレムの外見は本来の姿に近く、長持ちするという。

 彼女は死体を識別しながら、ついには戦に巻き込まれた集落までやって来た。

 未だに家々からは燃やされた煙が燻り続け、屋根の上では(からす)禿鷹(はげたか)が羽を休めて目の前に無数に転がる死体(エサ)に狙いを付けていたが、招かれざる訪問者である彼女の姿を確認するや否や、捨て台詞を残して飛び立っていく。

 女魔術師は再び物色を開始し、老若男女問わず、どんどんと死体を漁っては舌打ちを続けた。

 集落のほぼ中央にあった、どの家よりも大きな屋敷の前までやって来た彼女は、なにげに興味を惹かれ、その大きな両開きの扉を開けて中に入っていった。

 もちろん、ここでも虐殺が繰り広げられていた様子だった。使用人(メイド)や執事の死体が、ロビーには既に横たわり、そこから血の筋…何かを引きずったような跡が、ロビー中央にある大階段の裏側へと続いている。

 そこには、巨大な絵画で隠されていたと思われる地下への階段があり、その絵画の下敷きに、この屋敷の主人だと思われる着飾った男性と女性の死体が転がっていた。

 地下室の入り口は、まるでその女魔術師を誘っているかのように口を開き、彼女はその通りに、身を屈めて通路へと入っていった。

 中は薄暗く、壁に所々に掲げられている燭台から火は消えている。女魔術師は自分の背負い袋(バックパック)から携帯灯(ランタン)を取り出し、芯に火口箱(ほくちばこ)で火を灯すと、それを掲げて暗闇の奥を照らした。

 照らされた先はどうやら部屋になっているようで、半開きの重そうな鉄扉があった。彼女は思いっきり力を込めてその扉を開けると、ランタンを灯しながら中をのぞき込む。

 部屋の中には、数多くの棚と、机、飲料水や酒などが保存されていたであろう樽と、簡易型の寝台(ベッド)があった。女魔術師はその部屋に足を踏み入れ、中を見渡す。

 すると、ベッドの脇に横たわる、小さな影をみつけた。

 その影は少女の死体のようだった。腕には、同じく絶命している黒猫を抱いている。

「ふむ…」

 女魔術師が、初めて言葉を漏らす。そしてしゃがむと、その少女を隅々まで調べていく。服を脱がし、傷を調べる。胸を剣か槍で一突きにされており、それが直接の死因だと見られた。耳や目など、一部欠損が見受けられたが、どの死体よりも、状態は良好だ。

 そして一〇分程度を鑑定に費やし、女魔術師は立ち上がる。

「いいね、これに決めた!ちょっと補完しなきゃいけないところがあるけど、まあ何とかなるでしょ!」

 歓喜の声を上げ、バックパックから掌大の磨き込まれた水晶球を取り出す。そして少女の死体にその水晶球を置くと、スタッフを振りながら身振り激しく、高らかに呪文を詠唱する。その詠唱と共に水晶球が光を放ち、呪文が完成する頃には、部屋中をまぶしく照らし出す程の光量になった。

封印せよ(シーリング)!」

 女魔術師が、スタッフの先でその水晶球をコンと叩くと、少女の死体はそれに吸い込まれるようにして消えた。光がすっと消滅し、部屋を照らすのは再びランタンの淡い光のみとなった。

 女魔術師は床に転がった水晶を拾い上げると、その中を覗き込む。そこには、少女の死体と、抱きかかえられている黒猫の死体が映し出されている。

「あ…、間違えて猫も吸い込んじゃった」

しばし考え、そして頷く。

「ま、いいか。何かの役に立つでしょ」

 今度はバックパックから、歪な形の小さな紫色の結晶を取り出すと、足下に落とす。そして呪文を詠唱した。

 紫色の結晶が光を放ち、その呪文を唱え終わると、女魔術師の姿はそこから忽然と消えていた。



Next Story 第1章 <わたし、気が付いたら生まれ変わっていました>


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