『 僕と黒のチーム達 』
各部屋の結界を解除し、昼食を食べ終わった後
最低限必要だと思われる事だけを話して、部屋を出た。
大人数で、この家を利用するとなるとそれなりに規則が必要だとは思う。
だけど、その辺りはカイルがチームで使っていたと思われるものをそのまま使った。
僕からは、アルトの事だけ。これだけでいいと思ったのは
ずっと、彼らの行動を見ていたから。
黒のチームだからというのもあるのかもしれない。
エレノアさんのチームは、エレノアさんを中心として
統率がとれた動きをしているし、バルタスさんのチームは
ニールさんが、若い人たちを纏めている。日々集団行動をしているためか
協調性があり、仲間意識は強いけど閉じられたものではない。
アルトも大家族の弟のように、接してくれている。
この家の掃除は、酒肴の人達が一手に引き受けてくれた。
バルタスさんは、一家の大黒柱のような感じで構えている。
月光は、普段通りアギトさんを中心にクリスさんが
エリオさんとビートの面倒を見ていると言った感じだ。
でも、裏の支配者はサーラさんだ。
サフィールさんとフィーは……。
いい関係だと思う。それ以外言いようがない。
そして、有事の際の役割も決まっているように見えた。
アギトさんとサフィールさんが、戦闘要員。
エレノアさんとバルタスさんが、参謀と指揮を兼ねているような気がする。
そして、黒のチームのメンバーは黒の指示に従っていた。
昨日の、ビートの出来事からしても
バルタスさんは、動こうとはしなかった。エレノアさんは、アラディスさんを見て
アラディスさんが頷いたのを確認し、自分のチームのメンバーを見て
次にクリスさんと、エリオさんを見た。多分、2人を動かすなという事を
伝えていたのかもしれない。エレノアさんの視線を受けて剣と盾のメンバーの人達は
2人の後ろへと移動していた。
その判断を一瞬で下し、エレノアさんはアギトさんの後を追った。
アラディスさんは、サーラさんの傍へと行き
酒肴のメンバーは、戦いを得意とするメンバーが戦えないメンバーを庇う形で
自分達の位置を決めているようだった。そこにはアルトも入っていたようで
アルトの視界を妨げないよう、さりげなくアルトを守るように立ってくれていた。
それぞれが自分の役割を把握し、瞬刻の判断で行動できるようになっている。
正直、すごいと思った。
黒はギルドの要であり
冒険者の頂点に立つ存在なのだと、あらためて感じた。
『浅はかな者に、白と黒はやれない』アギトさんが、以前言った言葉を思い出した。
今の黒達は仲がいい。それが、この動きに現れているんだろうけど
言い換えれば、黒同士で協力できない人物は黒には上がれないんだろうなと思う。
だから、細かいことを言わなくても大丈夫だと感じた。
何かあっても、エレノアさんとバルタスさんがどうにかするだろうし……。
丸投げともいうけれど。何とかなるだろうと思う。
そんなことを考えながら、僕とアルトは、自分の部屋になるだろう場所の
片づけをしていた。特に掃除する必要もなく、僕の部屋はこのまま使うつもりだ。
ただ、畳ベッドの上には布団がなかったので
能力で布団を作り、いつでも眠れる状態にしアルトの部屋へと向かう。
アルトの部屋は、アルトの好きなように使ってもいいという事を伝えると
嬉しそうに頷いていた。
とりあえず、部屋の内装をもう少し子供部屋らしくするために
今は物置を物色している最中だ。
色々なものが、物置に詰め込まれてありアルトは目を輝かせながら
部屋にもっていくものを選んでいる。あれやこれやと物色していると
アルトが、上ずった声で僕を呼んだ。
「師匠!」
「どうしたの?」
「俺、すげーいいもの見つけた!」
耳を立て、尻尾を元気に振って
僕によく見えるように、掲げてくれたそれは最近見た覚えのあるものだった。
「これ、俺の部屋にもっていっていい?」
幽霊が怖いとか、ゾンビが怖いと言っていたのに……。
断末魔のような叫び声をあげながら、鳩ではない何かが出てくる時計は
怖くないんだろうか?
その傍に、違う時計もある。
赤い屋根に白い壁、可愛い小屋の形をしたものに扉付きの小さい窓がついている。
「アルト、時計ならそれにしたら?」
「どれ?」
僕はアルトの傍へと行き、本物の鳩時計と思われるものを持ち上げ
仕掛けを動かすと、小さな窓から鳩が飛び出し本来の「ぽっぽー」という声が響いた。
アルトは僕の手の中の時計を見て、それは駄目だという表情を作る。
「えー。こっちのほうがカッコいいでしょう!」
「えー……」
「俺、これ欲しかったし!」
「それでいいの?」
「これがいい!!」
「そう……」
宝物を見つけたように、大切に木の箱の中にいれているアルトを見て
僕は手の中の、本物の鳩時計を元の場所へと戻した。
物置から、アルトの部屋へと移動していらない家具を
一旦鞄の中へと入れて、アルトが選んだものを配置していく。
机や椅子といったものは、気に入るものがなかったようなので
何種類か作り、アルトが選んだものを置いていった。
「これは本棚ね」
僕の言葉に、アルトは早速鞄の中から本を取り出し並べ始める。
その間に、僕はこまごまとした文房具をアルトの机の上に置いていった。
「師匠?」
「こっちは、学校へ持っていくための文房具ね」
「はい!」
嬉しそうに、尻尾を揺らしながらまた本を本棚へと立てていく。
アルトの本棚は、様々な人から貰った本のせいでよくわからない状態になっている。
一通り、片付け終わりアルトに先にリビングへと戻るように告げてから
僕は物置に、先ほど収納したものを置きに行った。
あとで、物置のものを自由に離れの家で使ってくださいと伝えようと思いながら
ふと、隅のほうに置かれてあるものに目がいった。
それは、RPGゲームなどに出てくる宝箱そのものだ。結構大きい。
張り紙がされていて、文字を読むと【おもちゃ箱】と書かれている。
おもちゃ箱……。アルトが喜ぶかもしれないと思い
風の魔法で持ち上げてリビングに戻った。
部屋に入った瞬間、アルトがパタパタと走って来て
僕の隣に浮いている、宝箱を見て目を丸くする。
「師匠、それなに?」
アルトの言葉に、全員が僕のほうへと視線を向ける。
どうやら、全員リビングに戻って来ていたようだ。
サフィールさんもいる。眉間にしわを寄せながらだけど……。
どうやら、フィーに無理やり連れてこられたようだ。
お茶をするために戻ってきたのかもしれない。
酒肴の人が、お菓子とお茶を配っている。
「宝箱だよ」
「宝箱って、物語に出てくる奴!?
絵と同じ形してる!!」
アルトの視線は、宝箱から離れない。
どうやら、何かが擽られているようだ。
その気持ちはわかるような気がする。
「どんな、宝が入ってるの?」
興味津々で、宝箱を見つめるアルトに
苦笑しながら答える。
「僕は、何が入っているのか知らないけど
見つけたから、持ってきたんだ。アルト開けてみる?」
「いいの!?」
「いいよ」
「おぉぉ!!」
アルトは、尻尾を盛大に動かしながら僕の後をついてきた。
邪魔にならない位置に、宝箱を下ろすと
他の人達も興味があるのか、僕とアルトの周りに集まってくる。
アルトが、恐る恐る宝箱に手をかけゆっくりと宝箱のふたを開けると
そこには、色々な遊び道具が沢山詰まっていた。
アルトは、少しキョトンとした表情を作り僕を見る。
物語に出てくる宝箱には、武器とか金貨とか
宝石とか、珍しい魔導書だとかが入っていることが多い。
多分、アルトもそういったものを想像していたのかもしれない。
「師匠、これなに?」
「遊び道具みたいだね」
「遊び道具?」
「うん」
「ふーん」
アルトが宝箱の中から、小さな箱を取り出し眺める。
「それは、トランプっていう遊び道具だね」
「どうやって遊ぶの?」
「遊んでみる?」
「うん」
僕とアルトの言葉に、フィーも遊びたいと言って参加することになり
サフィールさんもフィーに誘われ、参加することになった。
すると、アギトさんも参加するといい、エリオさんがフリードさんを誘い
ビートも参加して8人で遊ぶことになった。僕達の周りで僕の話を聞きながら
見ている人もいる。人数が多くなったので、僕はゲームから外れアルトとフィーの
サポートに回ることにした。
「……アルト、箱の中のものを私達も見ていいか?」
エレノアさんが、アルトに尋ねるとアルトは頷いて
遊び方がわかったら、後で教えてほしいと告げる。
エレノアさんは、チェスに興味を示し説明書を読みながら
アラディスさんとクリスさん、メンバーの仲間たちと並べ始めた。
酒肴の若い人達は、それなりに大きな箱を取り出し文字を読んでいた。
【すごろく】だってといい、遊んでみることにしたようだ。
エレノアさんのチェスを観戦している人。
すごろくに興味を示した人。
トランプの説明を一緒に聞いている人など
それぞれが、適当に興味を持ったものを眺めていた。
僕達はとりあえず、簡単なババ抜きをしてみることにする。
カードを配り、方法を説明しながら進めていく。
それぞれが、準備を終わらせババ抜きがはじまった。
アルトのカードを、フィーが抜き。
フィーのカードを、エリオさんが抜き。
エリオさんのカードを、フリードさんが抜く。
フリードさんのカードを、ビートが抜き。
ビートのカードを、アギトさんが抜いて
アギトさんのカードを、サフィールさんが抜き
そして、アルトがサフィールさんのカードを抜いて一巡だ。
1巡目は何事もなく過ぎる。そして2巡目、アルトがジョーカーを抜いたらしい。
ジョーカーが自分の手元に来たことで、アルトの表情が変わった。
眉間にしわが寄っている。
ここで、誰がジョーカーを持っているのか全員にわかったはずだ。
見物している人達は、肩を震わせ笑いをこらえている。
ゲームをしているメンバーは、表情に出さないよう
気を付けながら、アルトをチラリとみていた。
アルト以外、駆け引きが勝敗を握ることを理解している。
ポーカーやブラックジャックを教えたら、熱中しそうだなと感じる。
アルトがカードを広げ、フィーがアルトの表情を見ながら
一枚一枚ゆっくりと、悩むように指をかけていく。
フィーの指がジョーカーに触れた時、アルトの顔が輝き
隣りのカードに移ると、眉間にしわを寄せる。
セリアさんは、笑いをこらえるのに必死なのか
プルプルと震え涙をため。エレノアさん達も、時々こちらを見て
アルトの表情に、小さく笑っていた。
フィーが、わざとアルトからジョーカーを抜いた。
その瞬間、アルトが満面の笑みを浮かべたのを見て全員がどっと笑ったのだった。
アルトは首を傾げて、周りを見渡すが
アルトと視線を合わせる人はいなかった。
フィーが、ジョーカーを入れたカードを
誰が見てもわかるように真ん中にいれ
エリオさんの前に広げる。そして一言
「エリオ、わかっているのなの?」と言った。
フィー……それは脅しだと思うけど……。
セリアさんは、もう笑いすぎて息も絶え絶えだ。
エリオさんは、カードの上で指を彷徨わせている。
横で、フリードさんが「抜くなよ」と低い声で言っていた。
「エリオなの?」
フィーが、それはそれは可愛い笑みをエリオさんに向けた。
エリオさんの顔色は、ものすごく悪い。そこでもう、勝敗はついている。
「はい」
エリオさんは、そう返事をしてジョーカーを引いた。引いたカードを見て
ため息をつき、肩を落とす。
フリードさんが、冷たい視線をエリオさんに向けているがエリオさんが
「しょうがないっしょ!」と言って、ジョーカーを自分のカード中に
紛れ込ませわからないようにまぜた。
フリードさんが、エリオさんの表情を見ながらカードに触れていくが
エリオさんの表情は、全く変わらない。
そんなやり取りを繰り返し、一番最初に上がったのはアルトで
その次がフィー。そしてビート、フリードさん、エリオさんで
最後に、アギトさんとサフィールさんが残った。
2人の闘いは白熱していき、舌戦も同じだけ白熱していく。
ただのババ抜きなのに……。相手の動揺を誘う舌戦が繰り広げられ
サフィールさんが、一瞬動揺したことでアギトさんが見破り
アギトさんに軍配が上がったのだった。
サフィールさんは、それはもうものすごく悔しそうに
ジョーカーを憎々しげに見つめていた……。
負けた事が悔しかったのか、サフィールさんが
「もう一戦するわけ」と声をかけると、全員頷くが
その時【すごろく】をしていたメンバーから悲痛な? 叫び声が上がったのだった。
「いや……にゃぁぁぁぁ!!」
にゃ?
全員が【すごろく】を広げていた人達を注視した。
5人全員が、蒼白な顔をしているのに気がつき首をかしげる。
5人は、すごろくの盤を見つめていてこちらにかまっている余裕はないようだ。
そして、楽しんでいる様子はない。気になって、彼等のほうを覗きに行くと
「嫌にゃ」といって叫んだ隣のメンバーがボソリと呟いた。
「最悪ザマス」
ザマス……?
それに返事をするように、違うメンバーが口を開くがそれは言葉ではなかった。
「ふが」
ふが……?????
いったい何が……。
僕が傍に行くと、メンバーの1人が涙を溜めながら駒を動かしている。
その駒をよく見ると……動かしている持ち主に気持ち悪いほどそっくりだ。
あの、ドッペル人形を思い出す。
「……」
何か嫌な予感がする。
傍で見ている人に、何があったのか尋ねた。
全員が、彼に注目して話を聞いている。
1人1人が駒を持った瞬間、魔法が起動して
駒が本人そっくりになったと告げる。そしてすごろくの中央に
文字が浮かんだそうだ。
【このすごろくは、マスに記述されてある通りになるように
魔法がかかっている。そして、その魔法はゴールと同時に解けるが
30分以内に、誰もゴールできなかった場合日付が変わるまで魔法が解けない。
精々頑張って、ゴールを目指せ。クククク】
「……」
「……」
部屋が沈黙に支配される。【すごろく】をしているメンバーは
すごろくに取り付けられている、時計を気にしながらサイコロを転がしているようだ。
先ほど嫌だと叫んだのは女性で、そのマスに書かれていたのは
【語尾に ”にゃ”をつける】だったそうだ。
ということは、ザマスと言っている男性はそういう事なのだろう……。
震える手で、サイコロを転がすメンバー。
そして、駒を動かしていき止まったマスに書かれていた言葉は……。
【歌え】
駒が止まった場所のマスを、凝視して
「歌いたくないにゃん!!」と必死に首を横に振っている。
にゃん……。にゃとにゃんと言っているのが女性だ。
必死に首を振って嫌だと言っているが、すごろくのメンバーに
時間がないから早くしろとせっつかれていた……。
気の毒だとしか言いようがない。
うぅぅぅと唸りながら、顔を紅く染めて小さな声で歌い出した。
全員が注目しているから、相当恥ずかしいと思う。
「川にもいるにゃん~
海にもいるにゃん~
大きいお魚、大好きにゃん~
おいしーお魚、食べたいにゃん~」
そして、選んだ曲が魚の歌……。
とうとう、セリアさんは皆から見えないように姿を消したけど
僕には見えていて……。ふわふわと浮きながら大笑いしていた。
『死ねるワ。笑って死ねるワ。
こんなに、笑ったのは久しぶりヨ!!
あはははははははは!!』
「……」
歌い終わると急いで座って、自分の殻に閉じこもるように
紅い顔をしたまま、すごろく盤を見つめていた……。
サフィールさんが、その様子を見て
「僕は、あのゲームはぜったいしないわけ」と宣言していた。
僕もしたくない……。
そして、ザマスと言っていた人がサイコロを振る。
サイコロが転がる音がしたあと、駒を動かす音がして
止まったマスにかかれていたのは
【手を胸の前で組み、リーダーに可愛くおねだりして
小遣いをもらう】
「……」
「最悪ザマス」
「早く、もらってくるにゃん!!」
「ふが」
「時間がないにゃ!」
「……」
どうやら、1人は「ふが」としか言えないらしい。
そしてもう1人は話せなくなっているようだ。沈黙の魔法がかかっている人は
視線で行けと告げていた。
ザマスな人が、無言でバルタスさんの前に行く。
バルタスさんは、必死に笑いをこらえている様子が見える。
サーラさんが、お願いするときの仕草と同じように
手を胸の前で組んで、バルタスさんにこういった。
「小遣いが……欲しいザマス……」
本人はもう、半分魂が抜けかけている。
「っ……。ぐっ……」
バルタスさんは俯いて、肩を震わせて
そして次の瞬間大笑いしていた。
「あははははははははは!!!!!」
お腹を抱えて笑っているバルタスさんに
必死に、時間がないから早くよこすザマスと告げるが
それがまた、笑いのツボを刺激しているらしくバルタスさんは
咳き込んでいた。
ニールさんは、顔を引きつらせながらその光景を見ていた。
もうとっくに、アギトさんは大笑いしている。
他の人達は、笑いたいけど笑えないと言う拷問のような時間を過ごしていた。
エレノアさん達は、途中から気にすることなくチェスに没頭しているようだ。
何とか、バルタスさんから小遣いをもらうと
すぐに戻って座り、肩を落としていた。
その後は【猫のひげがはえる】だとか【眉毛が太くなる】だとか
【踊る】だとか【苦手な野菜を食べる】だとか、罰ゲームかと思われるものが
てんこ盛りだった。
そして、何とかゴールしたけれど時間は30分を3分ほど過ぎていた。
がっくりと、項垂れ動けなくなったメンバーを励ましている酒肴の人達。
「……呪われたゲームザマス」
「このゲームは、世に出してはいけないにゃん」
「ふが」
「封印するにゃ。それがいいにゃ」
「……」
5人全員の目がすわっていた……。
そうと決まると、てきぱきと片付け始め綺麗に箱に仕舞い
紙とペンを持ってきて『開けるな危険!!』と張り紙をしてから
宝箱の一番奥へとしまわれた。
しかし……この【すごろく】は飲み会の度にお目にかかることになる。
素面ではできないこのゲームも
お酒が入り、酔いが回ると楽しい遊び道具になるようで
エリオさんやビート、そして酒肴のメンバーでわいわいと言いながら
サイコロを振っている光景を、度々見ることになるのだった。
アルトも時々参加して、楽しそうに笑っていた。
あとは、チェスにオセロ。花札や人狼ゲームのカード。
バドミントンのシャトルやラケット。サッカーボールや縄跳び
ダーツの的と矢など様々なものが入っていた。
トランプは一組だけではなく、数種類入っていた事から
アルトが孤児院に持っていきたいと言うので、魔法がかかっていない事を
確認してから、傷まないように魔法をかけてアルトに渡した。
トランプはアルトだけではなく、アギトさん達も気にいったようで
若い人たちが【すごろく】でわいわいと遊んでいる横で
ブラックジャックで、お金をかけて勝負している姿を
よく目撃することになる。
エレノアさんは、チェスが気に入ったようで
時間があれば、誰かとチェスをしているのを見かけ
バドミントンは、ありえない速度でシャトルが飛び交い
ある意味格闘技かと思えるほどの動きで、大人げなく勝負をしている姿を
目にしたりと、宝箱に入っていた遊び道具はアルトだけではなく
皆を楽しませることになった。
僕も、ブラックジャックに参加したり
エレノアさんとチェスをしたりと、楽しい時間を過ごすが
あの【すごろく】だけは、サフィールさんと同じで参加することはなかった。
お茶の時間が思ったよりも、長引き気がついたら
夕食の時間になり、昼食を作ることができなかった酒肴のメンバーが厨房へと移動し
楽しそうに、準備を始めた。アルトは、絨毯の上でトランプタワーを作って遊んでいる。
その表情は真剣だ。1度目はエリオさんのくしゃみで崩されて
エリオさんに文句を言っていたが、エリオさんも手伝うという事で許していた。
せっせと崩さないように、真剣に作っていく様子に他のメンバーはその傍を通る時は
少し緊張しながら歩いていた。
そして、2度目のエリオさんのくしゃみで全てが崩れた時
丁度、バルタスさんが食事だと告げアルトの怒りがエリオさんに向くことなく
トランプをせっせと片付けて、一目散に机へと向かう。
エリオさんは、暫く固まっていたけど
アルトをチラリとみて、怒ってない事を知ると胸をなでおろしていたのだった。
夕食はとても豪華で、酒肴も食べた事がない食材や今では手に入らない調味料を
使った料理が、沢山並んでいた。それぞれが飲みたいと思ったお酒を開け
僕も、数本机の上に並べて皆で飲んだ。
美味しい食事に、美味しいお酒。
話題は尽きることなく、様々に変化しながら時間が過ぎていく。
時折、にゃとか、にゃんとか、ザマスとか聞こえるけれど
それさえも、笑い話となって楽しんでいるようだ。沈黙の魔法をかけられた人は
紙に書いて、会話していた。
お酒が入り、酔いが回り始めると
あちらこちらで、ドッとわく様な笑い声が聞こえてくる。
そして、歌えと言われて歌っていたり。踊れと言われて踊っていたりと
宴会という感じの雰囲気がリビングを包む。
「川にもいるにゃん~
川にもいるにゃ~
海にもいるにゃん~
海にもいるにゃ
大きいお魚、大好きにゃん~
大きいお魚、大好きにゃ
おいしーお魚、食べたいにゃん~
おいしーお魚、食べたいにゃ」
猫ひげをはやしながら、小さい声で歌っていた歌を
今は、ノリノリで歌っている2人。
その姿が、とても可愛い。
思わず、小さく笑うとセリアさんが僕を見て笑っていた。
夜も更けていき、酒肴は明日もお店を休みにしたらしく
店から酒を運んでいたし、今の時代にしかない食材も運んで
誰かが厨房で料理をしていた。全員が、食べるだけ食べて飲むだけ飲んで
そして、今は全員がつぶれて寝ている。
お酒でつぶれて寝ている人も。
普通に、夜が更けて騒ぎ疲れて寝ている人もまちまちだけど……。
アギトさんもエレノアさんも、先ほどまで起きていたけど
今は静かに、目を閉じている。2人とも相当量のお酒が入っているはずだ。
僕は、暫く1人で海を見ながらお酒を飲んで立ち上がる。
どれだけ飲んでも酔えないというのは、少し残念な気もするけれど。
起こさないようにそっと、立ち上がり庭へと出る。
カイルが作った魔道具の傍に立ち、十分銅貨を入れ起動させる。
そして個人情報を入力し……魔物とは違う敵と対峙し剣を抜いた。
夜のしじまのなか。
GOという合図と同時に、僕は敵の首をはねて落とした。
読んでいただきありがとうございました。





