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刹那の風景 第三章  作者: 緑青・薄浅黄
『 苺の花 : 尊重と愛情 』
57/130

『 師匠と魔法武器 』

【ウィルキス3の月23日:アルト】


 ロガンさんとロイールと一緒にギルドへ行くと

ギルドはすごい人だった……。


師匠は先に家に送ろうかと言ってくれたけど

俺も一緒に行きたかったからついてきた。


ギルド職員は全員赤い髪になっていたし

黒と黒のチームはものすごく目立っている。

正直近づきたくない。師匠も同じように思っていたと思う。


みんなが俺達を見つけて、こちらを見ていたけど

師匠は気がつかない振りをしていたし……。


まぁ……ギルドに踏み込んだ瞬間

俺と師匠に視線が集まったから、同じように目立っているけど。

黒の人達と違うところは、師匠に集まる視線は

あまりいいものではないというところだ。


言いたいことはたくさんあるけど、ぐっと我慢する。

師匠が、大会でコテンパンにすると言っていたから!

俺達の傍に居た、ロガンさんとロイールの顔色が

少し悪いけど大丈夫かな?


ギルドでは、銀貨1枚でギルドの風使いが

髪の色を好きな色に変えてくれる商売をしていた。

現在40分待ちだって職員の人が言っているのが聞こえる。


色々と噂を耳で追っていると

黒と黒のチームの人達が、全員髪の色を変えていた事で

興味を持った人達がギルドへと集まったみたいだ。


師匠と同じ年齢の男の人が、家に戻って妹に教えてやろうと

話しているのが聞こえる。病気が治ったけど、まだ外に出れなくて

落ち込んでいるが、この話をしたらきっと元気になるだろうって

楽しみにするだろうからって笑っている。


黒と黒のチームってすごいんだなぁって改めて思った。

そしてギルドもすごいと思う。街の空気が重たいものから

明るいものへと変わりつつあるのが俺にでもわかるのだから。


ミソラ草の粉末は、十分銅貨5枚で売っているみたいだ。

銀貨1枚で、10日間色が持続する魔法をかけてもらうか

ミソラ草の粉末で、毎日色を変えて楽しむか悩んでる人が多い。


黒達と同じ色にしたいという人達もいるし

銀貨1枚という値段に悩んでいる人もいる。


そして、師匠を見て髪の色を見て

師匠と同じ髪の色にしようと女の人達が列に並んだのも見てしまった。


ギルド職員の人が、師匠の傍に来て部屋に案内すると言ってきた。

師匠が視線を向けた先を見るとヤトさんがいる。


師匠と俺とロガンさんとロイールが

職員の人の転移魔法で一瞬にして違う部屋へと案内された。


「どうしたの?

 まさか、ギルドに来るとは思わなかったのだけど?」


その部屋に居たのはリオウさんだった。

師匠が事情を話すと、リオウさんがじっと師匠を見てから

「少し待っていてくれる?」と言って部屋を出ていった。


暫くして、リオウさんと一緒にヤトさんが来て

話を詰めていく。ロイールが無期限、無利息の借用書を作って

ロガンさんが、師匠に時の魔道具のお金を支払ってから2人は

家に帰っていった。師匠はヤトさん達に話があるようだ。


リオウさんが飲み物とお菓子を出してくれて

お菓子に手を伸ばしながら、師匠達の話を静かに聞いていた。


「セツナが、時使いだと話してしまってよかったの?」


「あの人達なら大丈夫でしょう」


「どうして、そこまで?」


「未来への投資でしょうか」


「なるほど」


リオウさんが俺を見て頷くけど

俺には意味が分からない。


「それで、セツナの話って?」


「時の魔道具をギルドに

 買い取ってもらおうかと思いまして」


師匠の言葉で、部屋の空気が少し重くなったような気がする。


「ギルドとしては嬉しいけど……。

 もろ手を挙げて喜べるかと言えば

 正直喜べないわ」


「どうしてですか?」


「だって、貴方面倒なこと嫌いじゃない!」


リオウさんの言いように、師匠が笑う。


「確かに嫌いですが」


「何を企んでいるの!?」


「人聞きの悪い……」


「そうとしか思えないもの!!

 魔道具を販売するとなると

 結構な量を注文するわよ?

 旅の片手間にできるとは思えない」


「それは大丈夫ですよ。

 契約している魔法と同じものを

 もう1つ構築すればいいだけの話ですから」


「契約している魔法と同じもの?」


「ええ」


リオウさんが首をかしげて考え

答えが見つかったのか息をのんだ。


「魔法を刻む素材が変わるだけの話です」


「……」


「必要ないとおっしゃるのであれば

 無理にとは言いませんが」


「いるわ! いる! 絶対にいるの!!」


「そうですか」


「それで、セツナの目的はなんだ」


ヤトさんが、リオウさんと同じことを師匠に尋ねる。


「目的といったものではありませんが

 時の魔道具が、酷く高価なものになっているようなので

 値を落とせば面白いことになるかもしれないと思いまして」


「……鬼がいる」


リオウさんがぼそっと呟いた。


「セツナに交渉を持ちかけようと思っていたのだが

 病気が流行りだし後回しになった。

 正直、セツナから申し出てくれて安堵している」


「それで、どうして魔道具の値を落とそうと思ったの?」


「時の魔道具に金貨15枚という値段がついたそうですね」


「ええ。ガーディルの競売でね。

 キリーナ商会が全て競り落としていたけれど。あ……」


「キリーナ商会か。

 セツナは、キリーナ商会の裏の顔を知っているんだな」


「ギルドも気がついていたんですか?」


「ああ。だが、我々が口を出すことはできないからな。

 ガーディルでは合法だ」


「キリーナ商会は、どれ程の損失を出すんでしょうね」


「色々な国で買いあさっていると聞く。

 セツナが売り出すと、相当痛手を負うだろうな」


「ガーディルだけで、120個よ?

 最低……金貨1800枚!!」

 

「キリーナは、まだまだ値が上がると踏んでいる。

 確か明後日も、クットで60個近く競売にかけられる予定だ」


「よくそれだけ集めることができますね」


「店をたたむために売りに出したり

 借金の返済に売りに出したりと理由は様々だな」


「なら、クットの競売が終わった後にでも

 ギルドから、販売再開と告知して頂けたら」


「ギルドが恨まれるじゃない!?」


「僕が時使いだというのは

 今まで通り秘密にしておいてくださいね」


「販売再開の告知は、こちらに任せてもらっていいか?」


「ええ。構いません」


リオウさんが、ホッと息をついてお茶を飲み

俺を見て「セツナみたいにならないでね」と言った。


どうしてそんな事をいうの!?

俺は師匠が目標なのに!!


「販売価格はどうする?」


「今まで通り金貨3枚で」


「……」


「……」


黙って師匠を見る2人に師匠が薄く笑った。

その表情がどこか怖く感じたのはどうしてなんだろう……。

瞬きしたあとはもう何時もの師匠だったけど。


「そうだ。セツナ。

 貴方、ギルドと専属契約を結ばない?」


「僕はもうリペイドと結んでいますが」


「それとはまた違うのよ。

 ギルドの準職員にならないかって事なんだけど」


「職員ですか?」


「ええ。ギルドで働いてもらう必要はないのよ。

 今まで通り、冒険者を続けてもらっていいし。

 ただ、年に一度何かしらのギルドに対する貢献が必要というだけで」


「それは、僕にとって利点があるんですか?」


「他国からの干渉をギルドが受け持つ」


「……」


「エレノアとサフィールも

 ギルドと専属契約を結んでいるのよ」


「なるほど。ギルドの職員になることで

 他国からの、脅迫や無理矢理な要求を

 回避できるということですか」


「そう。私達が守るべき存在となるということね」


「そうですか……」


「白のランク以上でないと無理だから

 大会で優勝してもらわないと駄目だけど」


「それは問題ありません」


「そう。考えておいてくれる?

 悪い話ではないでしょう?」


「はい。貢献とはどういったものが必要なんですか?」


「セツナは、5年は必要ないけど

 何か便利な魔道具ができたら、売ってもらえると嬉しいわ」


「え?」


「薬草の調合方法。パラフィン紙の活用。

 流行り病の薬の調合及び知識。時の魔道具に

 粉薬を分配するための魔道具とか、もう貢献しまくってくれてるから」


「そうですか」


「専属契約は1年ごとの自動更新だから

 やめたければやめてもらってもいいしね」


「わかりました。

 大会が終わってから返事をさせてもらいます」


「ええ。いい返事を待っているわ」


話しが終わると、師匠が地下の部屋に魔法を刻みに行き

ヤトさんとリオウさんのどこか途方にくれた様な表情を見てから

転移魔法で家に帰ってきた。


俺達が家に帰るとすぐに、酒肴の人達が昼食を出してくれて

それを食べながら、狩の話を聞いたり俺の話をしたり

みんなでワイワイと言いながらご飯を食べた。


久しぶりに、全員がそろった昼食はとても美味しくて

楽しくて。そして、なぜかほっとしたんだ。


帰ってきたんだって思った。


今頃、ロイールやミッシェル。

クロージャやセイルやワイアット。

ジャネットやエミリアもこんな時間を過ごしているのかな。

過ごしているといいなと思った。


ご飯を食べて、師匠がサフィさんに

「魔導書の返却をお願いします」と告げ

サフィさんが「あと少し、あと少し貸してほしいわけ!」と

頼み込んでいた。師匠は苦笑しながら

「今月中には返してくださいね」と告げてから

少し寝るといって、自分の部屋へと行ってしまった。


俺も、ここ最近全くしていなかった勉強をするために

自分の部屋へ行き、机の上を見ると師匠が話していた通り

手紙が置いてあった。どうして手紙に気がつかなかったんだろうと

思いながら手紙を読んだ。


手紙の内容は、師匠が話していた内容と同じだったけど

とても丁寧に書かれていて、俺の心配もしてくれていた。

もっと早く気がついていたらと思わなくもない。


それだけ視野が狭くなっていた事を反省しながらも

これでよかったかも知れないとも思う。


師匠だけでなく、黒と黒のチームの人達からも

俺は守られてることを知ったから。


勉強するはずが、師匠の手紙を持って

ベッドでごろごろしていたら、何時の間にか寝ていて

起きたら夕食の時間が近かった……。

勉強するはずだったのに!


居間に行くと、バルタスさんが「今日は宴会じゃ!」と

楽しそうに話していて盛り上がっている。


師匠の姿を探すと、師匠は海が見える場所に座って

本を読んでいた。


「師匠」


「うん?」


呼びかけると本から顔をあげて俺を見る。


「何の本を読んでるの?」


師匠が本の表紙を見せてくれるけど

何が書いてあるのかさっぱりわからない。


「魔導書?」


「魔導書ではないけれど

 古い本だから、古代語で書かれているんだよ」


「本の題名は何?」


「魔法武器の構築理論、作成のための手引書という本だね」


「魔法武器の??」


「簡単に言ってしまえば

 魔法武器の作り方が記述されてある本だよ」


師匠が本の題名を声にだした瞬間

部屋に居る全員が師匠を見たと思う。


楽しそうにざわついていたのにピタリとそのざわめきが止まった。

その中でも、剣と盾の人達の目が真剣でものすごく怖い。


静かな部屋の中に、ガタンという音が2階から響き

早足の音が聞こえたと思ったら、頭の上あたりで止まったから見上げてみると

サフィさんが驚愕した表情を作ってこちらを見下ろしていた。


「魔法武器の構築理論!?」と叫んだと思ったら

転移魔法を使わずに、手すりを乗り越えて2階から飛び降りてきた。


「え?」


師匠が手すりを乗り越えたサフィさんを見て驚き俺も驚いた。


「サフィ!!」


フィーがサフィさんを呼んでいるが、サフィさんはもう飛んだ後だ。

結構な高さがあるのに、サフィさんは体勢を崩すことなく着地して

師匠の前に来て本を覗きこんだ。


「魔法武器構築の本!?」


「サフィ! 飛び降りたら危ないのなの!」


フィーが転移魔法でサフィさんの隣に来て怒っているけど

サフィさんは全然聞いてない。


「ずっと、ずっと、ずっと!

 探していた本なわけ!

 もう、無いかもしれないと半分あきらめかけていたわけ!」


「サフィ! 聞いているのなの!?」


「僕にも読ませてほしいわけ!」


何時ものサフィさんじゃない……。

師匠も目を瞠ってサフィさんを見ている。


「……サフィール。私達が先に借りようと思っているのだが」


「エレノアは、古代語が読めないだろ」


「……読めるように努力する」


「何年かかるのさ!?」


「……サフィールは、魔導書を借りているだろ?」


「そうだけど!

 優先順位はこちらの方が高いわけ!」


「……そちらを読んでから借りるべきだろう?」


「嫌なわけ」


「……」


「……」


エレノアさんとサフィさんが睨み合って

どちらも譲る気配がない。


「あの。まだ読んでいる途中なので

 お貸しすることはできません」


「読み終わってからでいいわけ!」


「……もちろん、その後で構わない」


2人の真剣な様子に、師匠が苦笑して頷く。


「エレノアさんは、サフィールさんに訳してもらったものを

 読まれてはどうですか? サフィールさんは写本するでしょう?」


「もちろんするわけ」


「……ならそうするか」


話しが纏まったからか、サフィさんが肩から力を抜いて

酒肴の人達に飲み物を入れてほしいと告げ

ソファへと座り、フィーからお説教されているけど

上機嫌で笑っていた。シュリナさん達が「やばいわ」と

言っているけど何がやばいんだろう?


サフィさんは、本当にこの本が読みたかったんだという

熱意と情熱はものすごく伝わった。


だけど、俺と師匠の会話を邪魔するのはやめてほしい。


「師匠、魔法武器ってどういった武器なの?」


「魔法武器というのは、武器に組み込まれた魔法を

 任意で発動させることができる武器の事をいうんだよ」


「任意?」


「そう。自分の意思で武器に組み込まれた魔法を

 使う事ができるものを魔法武器というんだ」


「へぇー」


「昔は、自分で発動できるものを魔導武器。

 できないものを魔法武器と呼んでいたみたいだけどね」


「じゃぁ、アギトさんやミッシェルが精霊から貰った武器は

 魔導武器になるってこと?」


「アギトさんの剣は、魔導武器だけど

 ミッシェルが貰った弓は、精霊武器かもしれない」


「どう違うの?」


「精霊武器は、精霊が精霊魔法を用いて

 武器に魔法を刻んだものを精霊武器と言うんだよ。

 精霊武器は、精霊が選んだ人間か、その人間から

 正式に譲り受けた人でないと使う事ができない武器だね」


「じゃぁ、ミッシェルの弓はミッシェルにしか使えない?」


「多分ね」


「ふーん。

 任意じゃない武器はどういったものがあるの?」


「武器が壊れないように、強化の魔法をかけてあったり

 武器を持っているだけで、体力が回復したりするものがあるかな」


サフィさんが、師匠の言葉にうんうんと頷いている。


「サフィさんはどうしてこの本を探していたの?」


「魔導武器をつくれる職人がこの世界には居ないわけ」


「そうなの!?」


「そうなわけ。

 魔導武器は、遥か昔に滅びた国が

 その技術と知識を独占していたと言われているわけ」


「じゃぁ、今残っている武器は貴重だってこと?」


「ものすごく貴重なわけ。

 だから、魔導武器には名がついていることが多いわけ。

 武器職人の間では、ラエストの遺産を魔導武器。

 その他の武器を魔法武器と区別している奴らもいる」


「ラエスト?」


「遥か昔に滅びた国の名前なわけ」


「滅びた国なのに、どうして本の事を知っていたの?」


「ラエストの子孫が残したと言われる手記が発見されて

 そこに、本の題名が書かれていたわけ。

 ラエストの国がどうして滅びたのかは

 解明されていないし、何処にあったのかもわからない。


 多分、北の大陸だろうとは言われているけど。

 魔導武器は、アーティファクトの1つで北の大陸でも

 南の大陸でも見つかっている。子孫が残した文献は

 南の大陸でしか見つかっていない」


「どういうこと?」


「ラエストの生き残りが

 北の大陸から南の大陸に移住したという仮説が有力なわけ」


「うーん」


なんか難しくなってきた。


「ただ腑に落ちないのは、ラエストの遺産には必ず

 このような印がついている」


そう言ってサフィさんは、アギトさんの剣を持ち

その印を見せてくれる。アギトさんの剣は、アギトさんしか

持てないんじゃなかったの?


「なのにどう考えても、ラエストの遺産なのに

 この印がついていない魔導武器もあるわけ」


「つけ忘れたとか?」


「それは、多分ないわけ。

 ラエストが滅んでからつくられたものかとも思ったけど

 南の大陸では、魔導武器をつくらなかったと書かれていたわけ」


「どうして?」


「ラエストの職人だったことが知られ

 奴隷にまで落とされて、武器を無理やり

 つくらせようとされたかららしい」


「酷い!」


俺の言葉にサフィさんが頷く。


「だから、自分や家族そして同族を守るために

 ラエストの職人達は口を閉ざした。

 自分の中に有る知識や技術を封じて

 武器をつくるのをやめたわけ」


「そうなんだ」

 

「それでも、何かを残そうとするのが人間だから

 どこかに、受け継がれてきているものがあるとは思っていたんだけど 

 その時代の魔導武器職人に対する執着は恐ろしいものだったらしく

 少しでも疑いがあると拘束されたものだから、本や道具や素材など

 全てを燃やして処分したらしい」


「酷いよね」


「酷いわけ。まぁ、自国で魔導武器が独占してつくることができれば

 その利益は計り知れないわけだから、国としては喉から手が出るほど

 欲しい技術だったとはおもうけど。逆効果なわけ」


「保護しようという人は出なかったの?」


「もともと、ラエストの国民は

 よく思われていなかったといわれているわけ」


「どうして?」


「技術と知識を独占していたから」


「でもそれは、その国がつくり上げてきたものでしょう?」


「そうなわけ」


「それは、あまりにも身勝手なんじゃないかなぁ?」


「確かに。それともう1つは、排他的な国で

 他国が困っても支援をするという事はなく

 手を差し伸べることもしなかったとその時代の文献で

 書かれていたから、恨みを持たれていた事も関係があるかもしれない」


「そっかー」


「何処までが真実かはわからないけど」


「え?」


「歴史の中の国は、色々と失われていることが多いわけ。

 残っていたとしても、それが真実だと断言できるのは

 あまりないわけ。様々な文献から読み解いてこうだったかもしれない

 という仮説は立てることができるけど。

 その文献を何処の国のどんな立場の人間が残したかで

 話の流れも変わっていくし、同じ事柄が書かれていても

 見解は全く違う文献も多いわけ。


 ラエストについてわかっている事も

 そう多くはない。 北の大陸は、ラエストだけじゃなくて

 沢山の国が消えている。その詳細を調べるのは

 酷く困難な事が多い。きっと、名前が残っていない国もあるだろう」


「そうなんだ。

 どうして、いろいろ失われているのに

 サフィさんが知っているの?」


「……」


俺の質問に、サフィさんが唖然としたように黙り込み。

師匠は、肩を震わせて笑った。他の人達も笑っている。


「アルトのチームの目標が、未知への探求ならば

 邂逅の調べは、過去の探求なわけ。

 失われた古代魔法や遺跡などを探し出して

 研究して、解明するのが目的なわけ」


「そうだった!」


「思い出してくれて嬉しいわけ」


サフィさんが苦笑しながら

「覚えておいてほしいわけ」と言って俺の頭を撫でた。


「それで、印のない武器は誰が作ったの?」


「多分、滅びる前のラエストの職人だとおもうわけ」


「じゃぁ、やっぱりつけ忘れたんだよ」


「それだと、もともと印がついていた(・・・・・)武器の

 印がなくなった(・・・・・)説明がつかない」


「え? この印がなくなったの?」


「そうなわけ」


がっつり、彫り込まれていてどうやっても消えそうにないのに。


「エラーナの、モートンルイア(聖皇)直属の

 八聖魔が持っている武器が全部魔導武器なわけ」


「モートンルイア?」


「あぁ……エラーナの偉い人」


「ふーん」


「千年前の魔導武器の文献に描かれていた武器には

 その印があったのに、今はその印が消えているわけ」


「えー。それは、偽物とすりかえられたんじゃ……」


「エラーナの学者もそう思ったらしく

 偽物かも知れないと口にしたら、死刑になった」


「口にしただけで、死刑になるの!?」


「なるわけ。八皇騎と八聖魔に渡される魔導武器は

 その地位についたものに、聖皇から渡される特別な武器なわけ」


なんか物語の中の話しみたいだ。

でも、死刑はないと思う。


「それに、印が無くなっただけで

 武器の性能は全く同じだったわけ」


「不思議だね」


「不思議なわけ。偽物をつくろうとしても

 つくれないから、偽物ではないとおもうけど……」


サフィさんは、ここで黙りこみ眉間に深い皺を寄せながら

ため息をついて「謎だらけなわけ」と呟いた。


ふと師匠をみると、師匠の視線はどこか遠くを見ていて

「……で作れるけど、それはどうなの……ル」と

本当に小さな声で呟いていた。全部は聞き取れなかったから

じっと師匠を見ていると、師匠は何でもないと首を横に振ったから

気にするのをやめて、サフィさんとの話に戻る。


「じゃぁ、魔導武器をつくれる人はいないんだね」


「魔導武器をつくれるものはいない。

 だけど、リシアも他国も魔法武器を研究していて

 ある程度使えるものは売られてはいる。

 それでも、ラエストの遺産と呼ばれている

 魔導武器には程遠いわけ」

 

「そんなに、ラエストの技術はすごいものだったのかな?」


「卓越した技術だったことは確かなわけ。

 各国が今まで研究しても、同じものは1つとして

 つくれなかったわけだから。その他にも、魔導武器は

 そのほとんどが古代魔法で構築されていると言われているから

 古代魔法のほとんどが失われた今、作るのは更に難しくなっていると

 言ってもいいわけ」


「なるほどー。

 じゃぁ、本が見つかったら大騒ぎになるね」


「……」


俺の言葉に、部屋の中がシーンと静まり返った。


「この本はなかったことにしましょう」


師匠がそう告げて、鞄の中に本をしまおうとするのを

サフィさんとエレノアさんが協力して師匠の腕を抑えた。


「それはないわけ!!」


「……それはない!」


「僕は巻き込まれるのは嫌です!」


師匠がはっきりと拒絶する。


「大丈夫。大丈夫なわけ!」


「なにがですか!?」


「ギルドに! そうギルドに丸投げすればいいわけ!

 僕もちゃんと協力するわけ」


「……私も協力を惜しまない!」


師匠は2人を胡散臭そうに見ながら

サフィさんとエレノアさんの話を聞いていた。


暫くは、この敷地内だけの話にして

ギルドにも秘密にしようという事になった。

もし、魔導武器がつくれそうならその時は

ギルドに報告して、そのすべてをギルドに丸投げしようと

サフィさんとエレノアさんが師匠を説得していた。


師匠はそんな2人を見て、静かにため息を落とした。


「武器がつくれることになったら

 リオウちゃんが、ウハウハねと言って喜びそうよね」


「……」


サーラさんの言葉に、師匠は何も答えなかった。


「どうして、師匠が本を持っていたの?」


俺の質問に、師匠が首を横に振って


「僕も貰ったものだから

 どうして、この本がここにあるのかは

 わからないかな」


「そうなんだ」


「でもどうして、魔法武器の作り方の本なの?」


「どうして?」


「うん。魔法武器を作るの?」


「作ってみようかなって思っていたんだけど」


「なんで?」


「面白そうだから?」


「それだけ?」


「それだけ」


「ふーん」


「今度の大会は、何を持ち込んでも自由なんだって。

 だから、色々と試してみようかと思っているんだ」


「試す?」


「そう。実……。

 情報を集めやすそうだしね」


「情報?」


師匠はにっこり笑って、それ以上は答えてくれなかったけど

黒達が、何か言いたそうに師匠をじっとみていた。


「どんな武器をつくるの?」


「作るのはやめることにする」


「えー。どうしてー」


「だって、色々と面倒なことになりそうでしょう?」


「そうだけど。

 俺は、師匠の作った武器を見て見たい」


「うーん。印のない魔導武器もあるようだし

 作ってもわからないとは思うけど。今回はやめておくよ」


「そっかぁ」


「素材が足りないしね」


「鍋とか鞄に魔法を刻むのとは違うの?」


「違うかな。構築がより複雑になるし

 武器に使う素材も大切になってくる。


 武器全体に緻密な構築式を刻むことになるから

 武器全体に魔力を流しても耐えるだけの強度と

 刻む魔法属性と相性がよく、魔力を吸収し

 その魔力を保持できる素材でないと駄目みたいだね。


 魔法も古代魔法と相性の悪い魔法同士だと

 打ち消しあうからその対策も必要だし

 相性が良くても競合しあって、うまく起動しない場合もある。

 複数の魔法を起動するようにするなら、その魔法の威力を

 殺さないように考えないといけないし

 武器に与える魔力量の調整もいる」


「なんか大変そう」


「面白そうではあるよね」


師匠の言葉に、エレノアさんもサフィさんも

剣と盾の人達も楽しそうに頷いている。


この世界で誰も作ることができない武器を

師匠は作ることができるのか気になった。

だけど、それを口に出してはいけないような気がして

心話でこっそり聞いてみた。


『素材さえあれば作れる?』


『作れるよ』


『やっぱり作れるんだ』


『今はまだ内緒にしていてね』


『うん。大騒ぎになりそうだもんね』


『そうだね』


師匠の心の声が少しだけ楽しそうな気配を含んでいて

なんとなく、俺も楽しくなった。


「師匠は何をつくる予定だったの?」


「杖かな」


「杖?」


「そう。今回は、剣を使わないで戦ってみようかと思って」


「どうやって戦うの? 素手?」


「え? アルト。僕は魔導師だから。魔法で戦うんだよ。

 それに、杖を作る予定だったの」


「そうだった!」


「魔法で手加減するのは難しくて

 剣のほうが楽だったから、剣を使っていたけど

 今回は魔導師として参加するからね。

 魔法を主体に戦わないと」


「そっかー。

 俺もいつか魔法武器が欲しいな~」


「欲しいの?」


「欲しい! カッコいいでしょう!」


「そうだね」


「ミッシェルとロイールが羨ましい!」


「なら、アルトの16歳の誕生日の贈り物は

 魔法武器の双剣にしようかな?」


「え?」


驚いたのは俺だけじゃないと思う。

魔法武器って、すごく貴重なものだって今話していたばかりなのに!


「他に欲しいものがある?」


「ないけど……。

 魔法武器は、高価なものでしょう?」


「アルトが16歳になるまでに

 作れるように努力するよ」


「おおおおおお!!」


思わず立ち上がって師匠を見る。


「欲しい! 俺も、俺も、魔法武器が欲しい!」


「決まりかな」


師匠が楽しそうに笑って俺を見るから

俺も楽しくなって笑い返す。きっとこの時振り返っていたら

凍ったような表情をした人達を見ることができたかもしれない。


「まぁ、その前に本を読んで

 素材集めからしないといけないんだけどね」


「師匠、頑張って!!

 俺も手伝うから!」


「あははは、そうだね。頑張るよ」


「うん!」


そのあとも、師匠といろいろ話しながら夕飯を食べた。

俺と師匠だけじゃなく、みんなも自分が欲しいと思う理想の武器を

あちらこちらで熱く語っていく。


俺はまだ、自分の型がはっきり決まっていないから

どういった武器がいいかと聞かれてもよくわからない。


多分、速度重視になると思うんだけど

じいちゃんみたいな、力重視の戦闘も憧れる。


ぐるぐると悩んでいると、師匠が笑いながら

「ゆっくり探っていくといいよ」と言ってくれた。


沢山食べて沢山話して、師匠の部屋にトキアと一緒に行く。

カルロさんが「トキア~」と悲しそうな声を出していたけど

トキアが俺を選んだから、カルロさんには渡さない!


師匠ともっと話そうと思っていたのに

知らない間に寝てしまって起きたら朝だった。



※ 教皇→聖皇 八魔導師→八聖魔 八騎士→八皇騎に 変更しました。

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