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刹那の風景 第三章  作者: 緑青・薄浅黄
『 苺の花 : 尊重と愛情 』

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『 クロージャとアルト2 』

【ウィルキス3の月23日:クロージャ】


 アルトに知られてしまった。これでもう、アルトの友人ではいられなくなる。

奴隷商人は嫌いだと、はっきりと言っていた。俺達に見せたことのない憎悪の

感情を向けていた。あたりまえだ。アルトはずっと、奴隷商人のせいで自分の

人生を狂わされてきたのだから……。


だから、今俺を見ているであろう目も嫌悪で満たされているだろうと思った。

アルトと目をあわせるのが怖かった。昨日の夜とは違った瞳の色をしているの

かもしれないと思うと、怖くて仕方なかった。


アルトの友人だと言いながら、羨む気持ちが消えることはなく。

アルトの夢を心から応援することもできない俺に、アルトは普通だと

昨日の夜言ってくれた。


俺がずっと抱えていた悩み事を聞いてくれた。

将来の事を不安に思う俺に真剣に考え答えてくれた。


セイルには話せなかったから。

俺がきっかけで、俺と同じような悩みを持つことになるかもしれないと

思うと話すことができなかった。


何も見えない。何をしたらいいのかわからない。

自分の道が見つからないと言った俺に、探せと言ってくれた。

諦めずに探せと。視野を広げ可能性を見つけろと。


アルトに言われて

大先生も似たよう事を言っていたことを思い出した。


確か……。セイルが勉強なんて嫌いだって言った時に

大先生はそんなセイルに、食事は体を育てるためのもの。

勉強は、頭を育てるためのものだって。頭に沢山の知識を与えて

将来の選択肢を増やしたり、自分の夢を見つけたとき困らないように

勉強するのだと言っていた。


『クロージャは、クロージャの道をゆっくりと見つければいいんだ

 俺も師匠にそう言われた。可能性を広げていけばいいって』


アルトの言葉に、アルトの師匠と大先生が同じことを言うのだから

俺も、焦らず探してみようって俺の可能性を見つけてみようって思った。


そして、俺が一番不安に思っていた事にもアルトは答えてくれたんだ。


『それに、クロージャは俺の友達だから。

 クロージャが、困ってどうしようもない時は

 俺が必ず助けに行くから。約束だから!』


俺が欲しい言葉をくれたんだ。家族ではないアルトが、同情でもなく。

哀れみでもなく。打算でもなく。対等な友人として約束をくれたんだ。


アルトが話してくれた暗闇を灯す星。


『いつか俺も、誰かの星になれるように頑張るんだ!』


そう言っていたアルト。でも俺は、アルトは星にはなれないと思う。

アルトは太陽だから。煌々と輝く太陽なんだ。


だから。だから。

俺はここから帰ったら、アルトに全てを話そうと心に決めた。

本当は、くれた約束を断るべきだったんだ。

全てを話して自分はアルトに助けてもらえる人間じゃないと。

奴隷商人の息子だから、アルトの傍に居る資格はないと

告げたほうがよかったんだ。でも、あと少しこの時間を共有していたかった。


それが仮初の時間だと知っていても。

少しでも長く、この楽しい時間を引き延ばしていたかった。


セイルは俺に、アルトには黙っておけと言っていた。

知られなければいいのだと。俺の親がしたことで俺は関係ないのだと。

俺がそれを話しても、誰も何も得することはないのだから

黙っておけばいいと言ってくれた。


それでも、お前はいつか話すんだろうなって言って

苦く笑ってもいた。その後に、俺はお前の家族で親友だと告げてくれた。


俺が話すことで、俺達とアルトの関係が今とは違ったものになると理解したうえで

何があっても、友人をやめることはないと言ってくれたんだ。


俺もセイルもジャネットもエミリアも新しくできた友人(アルト)

一緒に過ごす時間がとても楽しいと思っていたし

心のどこかで、何も話さないでこの関係を続けていきたいと思っていた。


アルトが学校を楽しいと言っていたように。

俺もアルトやセイル達と一緒に過ごす時間は、とても楽しいものだったから。

騙している罪悪感は、いつも心のどこかにあったけど。

ワイアットが言ったような、罪を償う為にアルトに優しくしたわけじゃない。


だけど、それももう終わりだ。

仮初の時間は終わりを告げたんだ。


話すのが早くなっただけなんだ。

なら、アルトに真実を告げるべきなんだ。


友人(アルト)を失う事になっても。

俺は、昨日という日を絶対に忘れない。





【ウィルキス3の月23日:ビート】


 くそワイアットのせいで、何事もなく帰還するという目標がついえた。

エリオやフリード、ルーシアとアニーニに視線をおくり声を出さずに会話する。


セイルはまだ暴れているし、ワイアットは黙って立っている。

ロイール達は心配そうにクロージャを見ていたし

クロージャは、両膝をついて俯いたまま微動だにしなかった。


そしてアルトはと言えば、無感情でクロージャを見つめ

トキアがアルトの腕から飛び降り、アルトを見上げていた。

正直、俺には荷が重い。どうすんだよ?


『どーするよ?』


『どうするっていわれても』


『どうもしようがないわよ』


『もう、トキアで帰るか?』


『それがいいかもな』


『帰ったら、黒達に全部投げればいいっしょ』


5人で、全てを親父達に丸投げをしようと決めた時

クロージャがアルトを呼んだ。


「アルト」


だが、その視線は地面に向けたまま。


「ワイアットが、話したことは全部本当なんだ」


クロージャのこの言葉で、アルトの眉間にしわが寄る。

そして、暴れていたセイルが俯いて大人しくなった。


「俺の父さんは、奴隷商人をしていた。

 俺と俺の母さんはその事を知らなかったんだ。

 父さんは、ガーディルの人間で母さんはバートルの人間だ。

 俺はバートルで生まれて、バートルで暮らしていた」


あー。ガーディルは奴隷商人は普通に商人と同じだしなぁ。

隠されていたのなら、商人だと言われれば疑わないだろう。

奴隷商人だけしていたわけじゃないだろうし。


ガーディルの人間だとばれないように

バートルやハルの人間と結婚する奴隷商人もいると聞く。


「だけど、俺が4歳になった時に父さんがバートルで捕まった。

 サガーナから、獣人の子供をさらいバートルを抜けて

 アルオンへ行く途中で捕まったんだ」


アルトは口を挟むことなく聞いている。


「今、父さんがどうなっているのかは知らない。

 残された母さんと俺は、バートルで暮らしていたけど……。

 奴隷商人だった父さんのせいで、母さんは碌な仕事につけなくて

 体を壊して死んだ。残された俺は、一度バートルの孤児院に

 入れられたけど、周りの人間とうまくいかなくてハルへと送られた」


バートルもサガーナと同盟を組んでいる。

ハルほどではないが、獣人差別がない国で獣人にとって

住みやすい国の1つではあるらしい。


たぶん、父親のせいで色々と言われたんだろうな。

それを見かねて、ギルドが何の情報もない

ハルへとクロージャを移したんだろう。


「俺の父さんは、奴隷商人だった。

 アルトを……。アルトの人生を歪めた。

 奴隷商人の息子が俺なんだ」


「違うだろ! お前とお前の親父は関係ない!」


セイルが、そう叫び歯を食いしばる。


「違わない。違わないよセイル。

 俺は、父さんが稼いだ金で大きくなったんだ。

 この体を構成する、半分は父さんが獣人族の子供を売って

 稼いだ金でできているんだ」


クロージャが俯いている場所の地面に雫が落ちる。


「クロージャ! それは仕方がない事だろ?

 お前も、お前のお袋も知らなかったんだろ!?」


「知らなかった。でも、アルトが寒さと飢えで苦しい想いをしている時

 俺は、暖かい家で美味しいものを食べ何不自由のない生活をしていた」


「それはお前のせいじゃないだろ!」


「そうだとしても、俺は俺を許せない。

 俺の親父が、アルトをさらって売ったかもしれない!」


クロージャが涙を落としながら、アルトを見た。


「アルトが、父親を嫌いなのは

 自分を助けてもらえなかったからだろ?

 そのきっかけを作ったのは、俺の父さんかもしれない。

 アルトを奴隷へと叩き落としたのは……俺の父さんかもしれないんだ!」


歯を食いしばり涙を流し、心に血の涙を流しながら

クロージャは話すことをやめなかった。


「黙っていてごめん。

 俺みたいな人間が傍に居てごめん。

 父さんがごめん……。

 許してくれとはいえない……。いえない」


クロージャは何度も謝りながら

肩を震わせ、土下座に近い形で謝り続けた。


アルトはそんなクロージャの傍へと行き

胸ぐらをつかんで引き上げる。


「アルト!」


セイルが、アルトを呼ぶがアルトは答えない。

クロージャは、アルトと目をあわせずにされるがままになっている。


「ワイアットが言った事、全部本当の事なの?」


「……ほんとう、だ」


この言葉に、アルトの目の中に怒りと悲しみが宿る。

そして、低い声でクロージャに問うた。


「俺がクロージャの友達だっていうのは嘘だったんだ」


「え……?」


クロージャが、驚いたように瞬き涙を落としアルトを見る。


「俺に優しくしてくれたのは

 俺と友達になりたいわけじゃなかったんだろ!?」


「え? ちがう」


「今、言ったじゃないか!

 全部本当だったって! 昨日の夜話したことは全部嘘だったんだろ?」


「違う!」


クロージャがアルトの手を払い、力強く否定する。


「俺は、アルトと友達になりたいと思ったから声をかけた!

 アルトと遊びたいと思ったから! 声をかけたんだ!」


アルトは睨むようにクロージャを見ている。


「確かに、確かに……罪悪感はあった。

 だけど、それ以上に俺はアルトやセイル達と遊ぶのが楽しかったんだ。

 だから言いだせなかった。アルトと友達でいたかったから

 嫌われるのが怖かったから、今まで言えなかったんだ……」


力なく肩を落として、クロージャはまた俯いた。


「なら、それでいいじゃないか。

 クロージャは俺の友達だ。それでいいだろ」


アルトの言葉に、クロージャは顔をあげてアルトを凝視する。

どうやら、アルトは奴隷商人の息子だということは

余り気にしていないようだ。アルトにとっては、そんな事よりも

友人であるかどうかのほうが、大切だったらしい。


「よくないだろ……。ぜんぜん、よくないだろ。

 お前を、親元から離し奴隷にしたのは俺の父さんかもしれないんだぞ?」


「違うから」


「そんなのわからないだろ!

 お前は、俺の父さんを知らないんだから!」


叫ぶようにクロージャが言葉を吐き出す。

アルトは、そんなクロージャを見て耳を伏せ

微妙な表情で笑って口を開いた。


「それはない。絶対にない。

 俺を売ったのは、クロージャの父さんじゃない」


「どうしてそう言い切れるんだ!」


「俺を売ったのは、俺の本当の父親だから」


「え……」


クロージャが目を見開きアルトを見る。

それは、セイルやロイールだけでなくワイアットも同じだった。


「俺は獣人族の特徴を持っているけど

 獣人の父と母から生まれたわけじゃない。

 俺の父親と母親は人間だった。人間の親から俺が生まれた。

 そういうのを半獣というんだ」


「……」


「俺はこの姿で生まれたから、家畜と同じ場所へ入れられて

 家畜と同じように育てられた。人間として生まれてこれなかったから

 俺は父親に金貨5枚で、奴隷商人に売られたんだ」


「そ、んな」


「俺をトアルガと呼んだ本当の父親が俺を売ったんだ」


トアルガという言葉に、クロージャが息をのんだ。

そうだよな。そんな名前。親の心があるなら絶対につけない。


「だから、クロージャの父さんが俺をさらったわけじゃない」


そこで、アルトは言葉を切り拳を握りしめた。


「だけど、俺は奴隷商人は大嫌いだ!」


アルトは憎悪をのせてその言葉を叩きつけるように吐き出す。

その声に、ジャネットとエミリアがルーシア達に抱き付いた。


「でもそれ以上に! 俺を生み俺を売った人間が

 心の底から大嫌いだ! 俺を獣人と蔑み暴言を吐き

 暴力を振るう人間が嫌いだ! 俺をこんな姿にした神も!

 俺を助けて弟子にしてくれた師匠を、悪者扱いしてきた

 獣人族も大嫌いだ! 俺は、人間も獣人も嫌いだった。

 俺が好きなのは師匠だけだったんだ。誰も俺を助けてはくれなかった。

 俺に手を差し伸べ、助けてくれたのは師匠だけだったから」


その瞳を暗く暗く染めながら、アルトが自分の気持ちを吐き出す。

アルトの告白に、クロージャ達が蒼白になりながらアルトを見ている。


普段のアルトと今のアルトは、全く別人のように思える。

それほど、アルトの憎悪は深く心が傷ついている。


3番隊の奴ら今頃落ち込んでいるだろうなと思いながら

アルトの言葉を聞いている。そろそろ止めるべきか悩んでいると

エリオとフリードが首を横に振る。すべて吐き出させたほうがいいという事だろう。


それにここで止めても、クロージャとの問題が解決しない。

このまま仲違いするにしろ、仲直りするにしろ最後までやりあったほうがいい。

その方が、心に悔いが残らないだろう。自然消滅程、後味の悪いものはない。


「俺を奴隷にするために、奴隷商人が襲ってきたら

 俺は迷わず殺す。それがクロージャの父さんであっても

 許しはしない。絶対に殺す」


「それは、仕方がないことだと思う。

 自分を守るのは当たり前のことだし。俺には何も言えないよ。

 もともと、あまり家には帰ってこなかった。

 俺と母さんは、ほとんど2人で生活していたから。

 会ったとしてもわからないだろうし

 会いたいとも思わない。俺の父さんは、大先生だけだ」


まぁ、そんな機会が来ることはないと思うが

バートルとハルで奴隷商人が捕まった場合

死ぬまで労働で罪を償わされる。外に出てくることなどない。


「クロージャは俺に謝ってるけど

 父親のあとをついで、奴隷商人になるの?

 だから、他の道をみつけられないで悩んでいたの?」


「ならない! そんなものには死んでもならない!

 俺は、獣人族が好きだから。アルトと友達でいたいから!」


クロージャの言葉に、アルトが笑った。

その笑顔に、クロージャが虚を突かれたようにアルトを見た。


「俺もクロージャ達と友達でいたいよ。

 俺は師匠と一緒に、旅ができればそれだけで幸せだと思ってた。

 だけど、じいちゃんと会って。リペイドの国王様達と会って

 サガーナでアイリ達に会って。旅の途中で月光に会って

 ハルで、酒肴や剣と盾や邂逅と会って。そしてクロージャ達と会ったんだ」


アルトが、右手をクロージャへと伸ばす。


「俺の世界は広がっている。

 俺の世界は、最初師匠しかいなかったけど。

 それでいいと思っていたけど、違った。沢山の人が俺の事を考え

 俺を支えてくれている。俺はそれがわかったんだ。

 人間の大半は俺の敵で、獣人族の大半は俺と師匠の敵だ。

 それでも、俺は俺を認めてくれる人間や獣人族と仲良くしたいって

 思えるようになった。そこには、クロージャも含まれているんだ。


 クロージャ達が、俺と友達になってくれたから

 俺を認めてくれたから。自分が傷ついても、俺を守ろうとしてくれたから。

 だから、俺も信じたいって思った。友達でいたいって思ったんだ。


 クロージャ、俺と友達になってよ。

 種族とか、孤児だとか、奴隷商人の息子とかそんなのどうでもいい。

 俺は、クロージャと友達になりたいんだ」


クロージャの止まっていた涙が、次から次へとまたあふれ出す。


「初めて俺が孤児院へ1人で行ったとき。

 クロージャが一番最初に、俺を見つけてくれたんだ。

 遊ぼうって言ってくれたんだ。俺はそれを絶対に忘れない」


「俺は……。俺といることで、アルトが獣人族の人に嫌われるかもしれない」


「それは仕方ないよ。奴隷商人に子供をさらわれた獣人族は

 そう簡単に許せないだろうし。そもそも、奴隷商人とか言う前に

 獣人族は人間が嫌いだから。俺は獣人族も人間も嫌いだし

 問題ないよ。でも、あまり父親の事は話さないほうがいい。


 俺は誰にも言わないし。ビートさん達も誰にも言わない。

 だいたい、俺達は親を選んで生まれて来る事なんてできない。

 親の行動の結果の責任は親がとるべきであって

 クロージャが背負う必要はないんだ。

 俺だって、好きでこの姿に生まれてきたわけじゃないんだ。

 自分に変えようがないものを、責められても、憎まれても

 俺達にはどうしようもないんだ。そんなことを、うだうだという

 奴は無視すればいい。サフィさんも言ってたでしょ?」


あー。あー。はっきり言いやがた。

こいつ……本当に、獣人族が好きじゃないんだなぁ。

サガーナで何があったんだ? そんなに酷い状況だったのか?

あいつ良く生きていたな。


それに、さりげなく俺達にも口止めしているあたり

怖い奴だ。こちらに視線すらよこさなかった。


「俺は言ったはずだ。クロージャ達は俺の星なんだって。

 クロージャは、俺が困ったら助けてくれるんだろう?」


「助ける。絶対に助ける。

 何があっても……。俺はアルトの親友だから……」


クロージャが、アルトの手を取りその手をしっかりと握り返したことで

この場の空気が緩んだ。ロイール達もほっと息をつく。


セイルが、エリオの腕から抜け出しアルト達の傍へといく。

それは、ジャネット達も同じでアルトに握手握手と言って

手を握っていた。ロイールもアルトと握手をして笑っている。


ルーシアとアニーニが、小さな声で話しているのが聞こえた。


「私達には、眩しすぎるわ」


「もう、身も心も穢れちゃったしね」


「え!? 何時抜け駆けしたのよ!」


「冗談にきまっているでしょ?」


何言ってんだあいつらは。

フリードが、女2人を呆れたように見ていた。


俺は、1人残されてアルト達を見ているワイアットへと近づく。


「お前も謝ってこい」


俺の言葉に、ワイアットは俯いて答えない。


「後悔することを、口にしてんじゃねぇよ」


「後悔なんてしてない」


「嘘つくな。ずっと、クロージャを気にかけてただろうが」


「かけてない」


本当に、こいつは可愛くない。


「俺は、謝るべきだと思うがな。

 友達であろうが、家族であろうがそいつの内面に関わることを

 勝手に話していいとは俺は思わない。お前も他人に自分の事を

 勝手に話されるのは嫌だろ?」


「……」


「俺がお前がやったことと同じことをここでしてやろうか?」


俺の言葉に、ワイアットが俺を見て「やめろ!」と叫んだ。


「嫌だろが。その嫌な事をお前はクロージャにしたんだ」


ワイアットが叫んだことで、セイルがワイアットを睨み

拳を握りしめている。どうやら殴ることをまだ諦めていないようだ。


エリオを見ると、セイルの傍へと移動する。

セイルが動き出そうとしたのを、クロージャが止めた。


「セイル」


「何で止めるんだよ!」


「本当の事だ」


「本当だろうが嘘だろうが

 言っていいことと、悪いことがあるだろう!」


「まぁ、そうだけどさ」


「大体、なんでお前が怒らないんだよ!」


セイルの言葉に、クロージャが溜息を吐きながら答える。


「俺は、ワイアットの言葉に傷ついたわけじゃない」


「はぁ? 意味が分からねぇよ!」


「俺は、ワイアットが言った言葉で落ち込んだわけじゃない。

 悲しくなったわけじゃない。俺が奴隷商人の息子だというのは

 本当の事だし。バートルで散々言われた事だ。

 今更、言われても何とも思わない」


「お前泣いてただろうが!」


「うっさいなっ。

 それは、友達を失うかもしれないって思ったんだ!」


「あー。それは嫌だよな。

 俺も友達を失うのは嫌だ。俺達は唯でさえ繋がりが少ないしさ。

 それが更に少なくなるのは怖いよな……」


「だろ?」


「だけど、ワイアットが余計な事を言わなかったら

 こうはならなかった! やっぱり俺はあいつを殴る」


「遅かれ早かれ、俺はアルトに話すつもりだったんだ」


「なんでだよー」


「アルトはもうすぐハルを出ていくから」


「え……?」


クロージャの言葉に、子供達全員がアルトを見る。


「出ていくって、何処に行くんだよ?

 引っ越すのか? ハルにいればいいじゃんかよ!」


セイルが、アルトの腕をとってそう告げる。


「せっかく、友達になったのに離れるのは嫌だよ」


「アルトと一緒に、これからも学校へ行きたいよ」


ジャネットとエミリアも必死に言い募る。

ロイールだけは、何も言わなかったけどその表情は

複雑そうに歪んでいた。


「俺は冒険者だから」


「ハルを中心に活動している冒険者だって沢山いるだろう!?」


「そうだけど。次の依頼はもう決まってるんだ」


アルトの言葉に、エリオがはっとしたようにアルトを見る。

フリードが、エリオに近づきエリオの腕をとった。


エリオはフリードに視線を向け。

首を横へと振った。


アルトの次の依頼。それは多分、セリアさんからの依頼だろう。

ルーシア達も心配そうにエリオを見ていた。

エリオの想いは、チーム全体に筒抜けだ。


「何処に行くんだ?

 近いのか? すぐ戻ってこれるのか?」


セイルの問いに、エリオの目の色が変わった。

それは、エリオが一番知りたいことだ。


「知らない。

 でも、ハルの近くではないと思う」


アルトの返事を聞いて、エリオが肩を落とす。

その背を、フリードが慰めるように数回たたいた。


「アルトだけ残れないの?

 師匠に頼んで、私達と一緒に暮らそうよ」


「俺は、その依頼についていきたい。

 俺にとっても大事な依頼だから」


「……」


「それに、師匠は世界を見るのを目標に活動しているんだ。

 俺は師匠の弟子だし、俺も世界を見て見たい。

 この依頼についていかなかったとしても

 必ず、ハルを出ていく日は来るから」


「私達と一緒にいるより、世界を見るほうがいいの?」


エミリアが寂しそうにそう告げる。


「エミリア」


クロージャがエミリアにそれ以上言うなと視線を向ける。


「そうじゃないよ。俺もハルは好きだ。

 エミリア達とも学校へ行きたいと思うし、一緒に遊びたいとも思う」


「だったら」


「だけど、俺は冒険者であることも好きだ。

 それに俺は少しでも早く強くなりたい」


「黒になるためか?」


「それもある。それもあるけど

 師匠が黒になるには俺が強くならないといけない」


アルトの言葉に、痛い視線が突き刺さるように

飛んでくる。まずったかなぁ……。


「師匠が白か黒にならないと、俺はエンブレムを背負えない!」


「エンブレム?」


「うん!」


アルトは、目を輝かせエンブレムの説明をする。

その説明に、視線が集まるのは俺達のマント。


セイル達が、後ろを向いてくれと言うので

俺達が後ろを向くと、溜息のような息をのむような声を洩らした。


「かっこいいな……」


セイルが、アルトと同じ瞳を俺達の背中に向けていた。


「かっこいいんだ! 黒がそのマントをつけて並んでいるところは

 すごく鳥肌がたったんだ!」


「おおお」


そういえば、俺達も親父達の背中に憧れたな。

ルーシア達もどこか懐かしそうに、アルト達を見ている。


エンブレムを背負っている黒達は、ガキの頃の俺達には

凄くかっこよく見えたから。チームに入って、初めてエンブレムを背負って

立つ黒を見た奴らも、アルトと同じ感想を持っていた。


それほど、このエンブレムを背負って立っている

親父達は存在感を増す。


「アルトが腕に巻いているのもそうか?」


「うん。これは剣と盾のエンブレムなんだ。

 同盟を組んでいるチームは、バンダナを巻くんだ」


「どうして月光じゃないんだ?」


「え? 俺は師匠の次にエレノアさんが好きなんだ」


「そうなのか」


「うん」


俺も、月光のエンブレムよりも剣と盾のエンブレムに

憧れたなぁー。そんなこと、口が裂けても言えないけど。

もちろん、月光のエンブレムを背負う事に誇りを持っているが

俺の好みとしては、剣と盾のエンブレムのほうが好みだ。


「今は、剣と盾のエンブレムを俺は身に付けているけど。

 いつか、いつか! 俺は暁の風のエンブレムを背負って立つんだ!」


「っ……」


その小さな体に、覇気を纏わせながらアルトが断言する。

その姿を、クロージャ達は眩しそうに目を細めて見つめている。


「強くなって。弱い人を守れるようになるんだ。

 師匠や黒のチームの人達が、俺に手を差し伸べてくれたように

 俺も、泣いている人達の手を掴めるように!」


「……」


「俺が、信じるものを手放すことがないように

 俺が、目指す場所にたどり着くために。

 そして、俺の居場所を守るために強くなる!」


それは、親父の言葉か?


『アルト。家族を信じろ。疑うな。

 お前が信じるものを、手放すな。

 誰かの言葉に、惑わされるな。

 お前が信じるのは誰だ?

 お前が目指している場所はどこだ?

 お前がいたい場所はどこにある?』


「俺は師匠の弟子で、サガーナの英雄の孫だから!」


あの時涙を落としながら、アルトは親父達を見ていた。

なのに。今は楽し気に親父が言った言葉を繰り返している。

多分、悩み事の半分が解決したから心に余裕ができたんだろう。


「守るために……」


俺の隣でワイアットが、小さくそう呟いた。

その呟きは多分、俺にしか届かなかっただろう。


「そっか。こんなに簡単な事だったのか」


クロージャが、アルトを見て言葉を落とす。

その目に宿るのは強い意思。


自分の考えに一度頷き。そして拳をぎゅっと握る。


「なぁ、アルト」


「なに?」


クロージャがアルトを呼びアルトがクロージャに視線を向ける。


「俺の夢が見つかった」


「え!? もう見つかったの!?」


「うん。すぐ近くにあったんだ」


「なに? クロージャの夢は何?」


アルトだけではなく、セイル達もクロージャを見る。


「俺も、冒険者になる」


「え……?」


「俺は、冒険者になってアルトの隣に立ちたい。

 アルトと共に駆ける世界は、とても楽しそうだと思ったんだ」


クロージャの言葉に、アルトが黙り込んだ。


「アルト?」


「冒険者になるという事は、自分の命を懸けることだよ?

 昨日、クロージャ達を襲ってきた魔物よりも強い魔物と

 命がけの戦いをするという事だよ」


アルトの空気が一瞬にして変わり

クロージャに静かに問いかける。


「一歩でも引けば、殺されるんだ。

 俺は、ハルはいい街だと思う。

 結界に守られているから、魔物に食われて死ぬことはない」


ジャネットとエミリアが顔色を変えるなか

クロージャはアルトから視線を外すことはなかった。


「俺は、今のクロージャに冒険者は無理だと思う」


「今はだろ!? 未来はわからない!

 俺が冒険者になれるのは、学院に入って勉強して

 16を過ぎてからだ。16になったら、登録できるように

 必死に勉強して体を鍛えて、俺も強くなる!」


「……」


「バートルで聞いた、歌姫が歌う。

 アギトさんとサフィールさんのように

 お互いの背中を守り守って、人のために戦える冒険者になる!

 いつか、アルトの背中を守れるように。任せてもらえるように

 俺も死に物狂いで頑張るから! だから……」


「……」


「だから、俺が強くなったその時は

 俺を暁の風に入れて欲しい」


「え……?」


「俺は、暁の風に入りたい。

 俺も世界を見て見たい。楽しい事ばかりじゃない事は

 ちゃんとわかってる。今はまだ魔物が怖い。

 だけど、絶対に強くなるから! その時は俺を暁の風に入れてくれ!」


「今の俺には、その権限はない。

 加入を許すか許さないかは、師匠が決めることだ」


「なら、師匠に認められるだけの力をつける。

 だから、アルト。俺の夢を否定しないでくれ……」


アルトは暫く、クロージャを見て

クロージャも、アルトから視線を絶対に外さなかった。


「うん。わかった。

 クロージャが強くなったら、俺も師匠に頼んであげる」


「絶対だからな!」


「うん。約束した」


「ふざけんな!」


アルトとクロージャの完結した話に、割り込んだのはセイルだ。


「なに、2人で決めてんだよ!

 どうして、俺も誘わねーんだよ!!」


「え? だって、夢は自分で決めるもので

 誘われて持つものじゃないでしょ?」


アルトが真面目に返している。


「そうだけどさー。

 俺は、前から冒険者になりたいって言ってただろ。

 クロージャ、何抜け駆けしてんだよ」


「悪い」


ばつが悪そうに笑いながら、クロージャはセイルを見る。


「俺も強くなる。今回みたいな想いは二度としないように。

 ロイールが体を張って、ジャネット(家族)を守ってくれたように。

 アルトが、危険なのを承知で俺達を助けに来てくれたように

 俺も、弱い者を守ることができる冒険者になる。

 だから、俺も頑張るから暁の風に入れてくれよな」


「師匠が決めることだから。

 だけど、師匠の訓練は厳しいよ?」


「どれぐらい?」


「死にかけるぐらい」


「……」


確かに、あいつの訓練は死にかけるぐらい厳しい。


「師匠は風使いだから、すぐ治してくれるけど」


「どってことないぜ!」


「俺もついていってみせる」


「そっか」


「ああ」


「なら。待ってる。

 クロージャとセイルが、俺の家族になる日を待ってるから」


「家族?」


「家族?」


「チームは家族なんだって。

 お互いの命を預けあう。大切な家族だって。

 黒達が言ってた」


「絶対に」


「必ず」


そう言って、3人が固い約束を交わすのを

ワイアットとロイールがじっと見ていた。


ワイアットだけではなく、ロイールも何かを思案するように

3人を見つめている。


そんなもんだよな。今日まで一緒に遊んでいた奴が

ある日夢を持つんだ。それに向かって一心に走り出す友人を見て

何も思わないわけがない……。


俺達もうかうかしてられないな。

アルト達を見てそう思う。俺達の弟であるアルトに無様な姿を

さらすわけにはいかない。俺は俺で気合を入れなければ。


この時の俺は、こんなことを考えていたわけだが。


数十年後、月光や酒肴。

剣と盾や邂逅の調べそして暁の風と並び立つぐらいのチームを

こいつらは作り上げることになる。


アルトをリーダー。クロージャがサブリーダとなり

セイルが2人を補佐するように動き、その背に自分達のチームの

エンブレムを背負うだけの冒険者となる。


俺達は、こいつらのその始まりを目にした事になったのだ。

最強の一角を担うチームの始まりを。


結局、セイルはワイアットを殴ることはなく

ワイアットは、クロージャとアルトに謝る事はなかった。

ただ、俯いて何かを考えていた。その思考が、前向きであることを

心の中で祈りながら、街に戻るために歩き出す。


フリードを先頭に、こいつらを守るように俺達が囲んで歩く。

アルトも守りにつくと言ったが、大人しく守られとけと諭して

セイル達と話しながら、歩いていた。


まぁ、その耳の動きから周りの警戒を怠っていないのは

気がついていたけれど。たぶんもう、身に沁みついているんだろうなぁ。


エリオは時々溜息をつきながら、俺の前を歩いていた。

ちなみに俺は一番後ろだ。


ワイアットは俺の前にいる。アルト達はフリードのすぐ後ろ。

アルトとワイアットの間にジャネットとエミリアがいる。

その横にルーシアとアニーニがいた。


一番後ろでアルト達の話を聞きながら、あの話題を止めないと

俺達の命がやばいと、俺達の勘が告げている。


「そういえば、アギトさんとサフィールさんの歌ってなに?」


うわー。やめてくれ。

地雷を踏むのはやめてくれ!!

俺だけでなく、エリオもフリード達も顔色を変えている。


親父達は、自分達を歌にされるのが死ぬほど嫌いだ。

その気持ちは痛いほど理解できる。知らない間に、知らない物語を

本人の意思に関係なく、勝手に紡がれているなんて絶対に嫌だ!


「ああ、吟遊詩人とか歌姫はしってるか?」


「知ってる」


「その人たちが、アギトさん達が活躍した冒険を

 歌にして聞かせてくれるんだ」


「おおおおおお!

 俺も聞きたい」


やめろ! それ以上はやめろ!


「クロージャが知ってるのはどんな話?」


「俺が知ってるのは……」


「アルト!」


俺の呼びかけに、アルトが後ろを振り向く。


「なに?」


「それ以上は聞くな!」


「えー。どうして?」


「よく考えて見ろ。

 自分の知らないところで、自分の話をされるのは

 きっと嫌な感じがすると思うぞ」


「そうかな?」


アルトが周りを見て「そうだと思う?」と聞いている。

アニーニ達は、必死に首を縦に振っていた。


「そういえば、師匠も物語の主人公に似てるって

 言われて、嫌そうにしてた」


「そうだろう? セツナは誰に似てるって言われてたんだ?」


「確か……」


「がるるるる」


アルトが答えようとした瞬間。

ジャネットの腕の中にいた、トキアが唸る。

ジャネットとエミリアは交代で、トキアを抱いていた。


今まで静かにしていたトキアが、唸ったことで

アルトが後ろを向く。


「トキア?」


「わんわん」


「言うなって?」


「わん」


「言っちゃ駄目だって、トキアが言ってる」


お前、何時の間にトキアと会話できるようになってるんだよ。


「それなら仕方ないよな。

 な? 本人がいないところで、色々話をされるのは

 嫌な事なんだよ」


「そっか。なら、アギトさんとサフィさんから

 直接聞けばいいんだね」


「……」


「……」


アルトの問いに、誰も返事はしなかった。

後は親父達がどうにかしたらいいだろう。


そこからは他愛ない話をして盛り上がったりして

今は、アルトが行った事のある国の話になっていた。

色々な国の名前をあげ、最後に「ガーディル」と告げた時

クロージャが俯くが、アルトとセイルが肩を叩くと視線をあげた。


「ガーディルはどんなところだ?」


クロージャが静かに問う。


「知らないの?」


「俺は、バートルから出たことがなかったから。

 ハルにも、転移魔法陣で来たんだ」


バートルは騎士の国だ、治安は結構いい方だと思う。

定期的に、騎士達が魔物を駆除しているから国の周りは比較的安全だ。


「そっか」


「俺が父さんの事を知っているのは

 バートルで、奴隷商人の息子と言われ続けたこともあったし。

 ハルに来て数年後、父の知り合いの商人が聞いてもないのに

 べらべらと俺に話して行ったからだ」


その商人殺してぇ。

アルトがその商人に対して怒っていると、クロージャが苦笑して


「ギルドが、その商人の出入りを禁止したらしい。

 俺だけじゃなく、色々なところで問題をおこしていたみたいだ。

 まぁ……父親の知り合いだからな……」


「ガーディルは俺も詳しくは知らないんだ」


「そうなのか?」


「俺は、ガーディルで師匠に助けてもらったから」


「ごめん」


「別に。俺はその時に師匠に名前をもらった。

 ガーディルは嫌いだけど、師匠と出会えたのは幸せだから」


「うん」


「あ、そうだ俺誕生月きめたんだ!」


「何時にしたんだ?」


「サルキスの1の月」


「師匠と出会った月か?」


「うんそう。俺がアルトになった月」


「覚えておくな」


「俺も覚えておくぞ」


口々に、贈り物をするからとアルトに言っていた。

アルトは幸せそうにうなずいていた。


贈り物というところで、雪茸の事を思い出し

アルトがどうすると聞いていたけど、クロージャ達は首を横に振った。

冒険者になって、自分で採りに来ると。


その返事に、アルトが「そうだね。きっとその方が喜んでもらえる」と言い

その言葉を聞いた、クロージャ達も笑った。


ルーシアとアニーニが一瞬視線を落とすがすぐにあげる。


「それで、俺はガーディルでは

 ずっと宿屋に隠れていたから」


「その宿屋は大丈夫だったのか?

 ガーディルは、獣人族にとってやばい国なんだろ?」


セイルがアルトに聞く。


「うん。その宿屋はギルドマスターからの紹介で。

 ちょっと変わった女の人が居た……」


アルトが少し顔色を悪くしたのを、クロージャ達が見逃さず

そんなにつらい経験をしたのかと聞いている。


アルトはその宿であったことを、色々と話していたが。

俺達は絶対に口を挟むことはしなかった。


アルトが泊まったのは、絶対にダリアさんの宿だ。

ルーシアとアニーニも目を泳がせながら、アルトの話を聞いている。

あの強烈な人と、アルトは2人きりで過ごしていたのか……。


俺なら、絶対に泣きわめく自信がある。

あの人こえーんだよ。親父が白のランクになれるぐらいの

実力は持っているが、愛に目覚めて宿屋を始めたって言ってた気がする。


愛に目覚めて、どうしてあんなことになるんだ?


アルトの話を聞いて、みなが首をかしげているが

多分、本人を見て見ない事にはよくわからないだろうと思う。


黒の常宿だけど、できれば俺はあそこには泊まりたくない。

あそこに泊まるとなんか寝つきが悪いんだ。


「それでさ、俺今も不思議に思ってることがあるんだ」


「なんだ?」


「なになに?」


「ダリアさん、女の人なのに

 夜になると髭が生えているんだ」


「えー」


「おかしいよ?」


ジャネットとエミリアがアルトにおかしいと言っている。

おかしいよな。おかしい。普通の女性は1日で髭が生えたりはしない。


「ダリアさんに聞いても、乙女の秘密っていって

 教えてくれなかったし、師匠に聞いても教えてくれなかったんだ」


お前……。本人に直接聞いたのか!?

フリードが肩を揺らし、エリオが遠くを見て

ルーシアが、ひげ……ひげ……と言い

アニーニが、そんな乙女の秘密はいらないと呟いていた。


「どうして師匠は教えてくれなかったんだ?」


「女性の身体的特徴を口にするのは

 失礼なことだから、あまり言わないようにって」


「そっか。もしかしたら病気かも知れないもんな」


「……」


「……」


俺達は何も聞いていない。

そこで、ダリアさんの話題は終わり。

平和な時間が流れ、狩場の入り口にいるギルド職員と話をしてから

トキアに頼んで、転移魔法で戻ったのだった。




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