『 僕と使い魔 』
【ウィルキス3の月の14日:セツナ】
獣人族の成長の過程をクローディオさんから聞いて数日たつ。
ガーディルやクットで、獣人族について書かれている本を数冊読んだにも
関わらず、一番大切なところが抜けていた。
そんな自分に、嫌気がさすが今更どうしようもない。
アルトが元気になればいいと、トキアを作ったのに
元気にするどころか、落ち込ませてしまった。
本当にため息しか出ない。そんな、やるせない気分を抱えていると
頭に可愛い声が響いた。
『ご主人様』
『クッカ? どうしたの?』
トゥーリに何かあったのかと思い
少し緊張しながら、クッカに言葉を返す。
『トゥーリ様が作った、胃薬が完成したのですよ。
今から、クッカが持っていくのですよ!』
『わざわざ持ってきてくれるの?』
『はいなのですよ~』
クッカの嬉しそうな声に、トゥーリがクッカの為に
気遣ってくれたのだと察する。
『わかった。待ってるね。
トゥーリにもお礼を言っておいてくれる?』
『了解なのです』
そこで会話が途切れ、暫くしてクッカが僕の前に転移してきた。
「会いたかったのですよ!」
そう言って、抱き付いてきてくれるクッカに
なんとなく癒される。本当に嬉しそうに笑ってくれるクッカに
思わず僕も笑みが落ちた。
「これが、今月分のお薬なのですよ」
「はい。確かに」
「薬に使っている薬草は、全部クッカが用意したのですよ」
「ありがとう」
精霊が育てた薬草は、効力が跳ね上がる。
クッカと契約している僕が育てた薬草も同様の効果が表れるらしい。
精霊の恩恵はそれだけではなく、精霊の契約者が作る薬は
契約していない薬師が作る薬と比べると、効果はさらに上がるらしい。
僕が直接作る薬がよく効くのは
半分は魔法。もう半分はクッカとの契約のおかげだ。
あと、よくわからない精霊の祝福も色々と関係しているようだ。
クッカに聞いても、フィーに聞いても祝福がひしめき合っていて
何に対して、祝福が発動しているのかよくわからなくなってるから
気にしないほうがいいと言われた。僕としてはすごく気になるんだけど。
たまに、僕の部屋に入って来て勝手に祝福をつけていく精霊もいるという。
フィーが僕の顔をじっと見て「また増えたのなの」と教えてくれるから。
精霊に、部屋に入るのを禁止して欲しいと頼んだら
ただでさえ、姿を見せて近づかないように蒼露様に言われているのに
「そこまでしたら、かわいそうなのなの」と言われ諦めた。
トゥーリが作った薬は、僕が作ったものよりも効き目は落ちるかもしないけど
クッカが薬草を作り、手折ったものを使っているから大丈夫だろう。
あとでトゥーリに、手紙を書かないと。
「ご主人様、トキアはどこなのですか?」
「あれ? 僕はトキアの事を話したかな?」
「フィーから聞いたのですよ。
ご主人様が、珍妙な足の短くて胴の長い生き物を
作ったと聞いて、興味がわいたのですよ!」
「そっか」
「ポチという名前で無くてよかったのですよ」
フィーはそんなことまで、クッカに話していたの?
「ポチもいいと思ったんだけどな」
「トキアのほうがいいなまえなのですよ!」
トキアは、精霊語で幸福と言う意味を持っている。
殆ど、フィーが決めたようなものだけど。クッカは僕を褒めてくれた。
全然嬉しくないのはなぜだろう?
「トキアは今、貸出中なんだよね」
カルロさんに貸し出したまま戻ってこない。
カルロさんとカルロさんの妹ミーフェさんだけが
独占しているわけじゃなく、他のメンバーにも
可愛がられているようだけど。
使い魔の意識を、僕のものとすることもでき
使い魔を通して、魔法を使う事もできるけど
それはしていない。今の所する必要もない。
アルトにつけている鳥と似ているといえば似ている。
実態があるかないか、擬似意思があるかないかの違いだ。
ある程度なら、勝手に魔法を使う事も許可している。
トキアは、アルトを元気づけるために作った使い魔だから
戦闘に特化はしていないけど、それでも強い相手でなければ
自衛しながら、周りを守れるだけのものは刻んでいる。
「え?」
キョトンとして僕を見るクッカの表情が可愛らしい。
「使い魔を貸したのですか?」
「うん」
「普通は、使い魔は貸し出したりしないのですよ。
自分の分身なのですよ?」
「知ってるよ……」
「ほいほいと貸してはいけないのですよ!」
フィーだけではなく、クッカにも叱られてしまった。
「大丈夫だよ。トキアの核を壊そうとしたり
情報を読み込もうとしたりはできないようにしているから」
情報を読むために、壊そうとした奴には
それ相当のお礼も刻んである。僕以上の魔力量を持つ魔導師でなければ
到底無理な話だけど。蒼露様なら読めるかもしれない。
重要な情報などは一切いれていないから、読まれても問題はない。
クッカにそう告げても、あまり納得していない表情をしているが
フィーと同じく深く溜息を付いてから、苦笑して許してくれた。
使い魔を作った理由などを、クッカに話しながら
アルトが犬があまり好きじゃなかったことなどを話すと
「違う子をつくればいいのですよ」と言われたから
違う使い魔を作ろうと決める。だけど、アルトのあの怒りが
焼きもちなら、愛玩動物ぽいものは何を作っても喜ばれないような気がする。
なら、強そうな……訓練にでも役立ちそうなものを作ろうという事になった。
使い魔を作る為の道具を色々用意していると、僕の部屋にフィーが来た。
ちなみに、使い魔の核はリヴァイルの血を用いている。
普通は魔法だけで構築するところを、カイルの能力を織り交ぜて
構築しているから、普通の使い魔とは違うものになってはいるが。
この時代で、使い魔を作っている魔導師はいないらしいから
気がつかれることもないだろう。
「お姉さまの気配がしたのなの~」
「フィーなのですよ」
どうやら、クッカの魔力を感知してきたようだ。
「何をしているのなのなの?」
僕を見て、クッカを見て、絨毯の上に広げられた道具を見て
首をかしげる。
「使い魔を作ろうと思って……」
「また作るのなの?」
「うん」
「今度は何を作るのなの?」
作ろうと思っているものを話すと、コクコクと頷いて
「サフィも誘ってあげていいのなの?」と
僕を見上げながら、じっと見つめてくれた。
特に、断る理由もないからいいと告げると
「呼んでくるのなの」と言って出ていきすぐに戻って来る。
「サフィールさんはどうしたの?」
「研究が忙しいから、来れないって言ったのなの」
それはどう考えてもおかしい。
あれだけ使い魔に興味を持っていたサフィールさんなら
今の研究を後回しにしても、こちらに来るはずだ。
「フィーは、サフィールさんに何て言ってきたの?」
「セツナとお姉さまが来てるから
一緒に遊ぶけど、サフィも一緒に遊んであげるのなの」
「……」
その誘いかたは、絶対に誤解していると思う。
フィーのいう遊びが、使い魔を作ることだと気がついていないと思う。
「気にする必要はないのなの。
フィーはちゃんと誘ってあげたのなの」
そう言って笑うフィーの笑顔は、どう見てもあくどいものだった。
サフィールさんが気の毒だ。聞かなかったことにしよう。
なかったことにして、2人にどういったものを作るか伝える。
僕の考えを2人は楽しそうに聞いてくれた。
アルトとも約束したこともあったし、2種類の使い魔を作ることを話すと
クッカもフィーも一緒に作りたいと言ってきた。
2種類作ることだし、どちらを一緒に作りたいかを2人で相談して
決めてもらう。揉めることなく決まり、リヴァイルの血を使って核を作り
トキアを作った時のように、魔法を刻んでいく。
トキアとの違いは、使い魔の性能が戦闘向きであり
その種の特徴や特技などを忠実に取り入れながら
僕の好みの魔法も刻んでいく。そこに、クッカとフィーが
好き勝手に魔法を追加したりしていくものだから
完成した使い魔は、オリジナルとは完全に似て非なるものだった。
「……」
「……」
「……」
完成した使い魔を3人で眺めているが言葉が出てこない。
どうしてこうなったんだろう。
「やりすぎなのですよ」
「やりすぎなのなの」
そういって、2人が僕を見るけれど
僕だけのせいじゃないよね!?
クッカもフィーも嬉々として、色々と付け足していたよね?
どうして、2人とも僕を見るの?
「クッカとフィーも刻んだでしょ?」
「刻んだのなのなの。
フィーが考えた最強の使い魔なのなの」
僕はそんなものを求めてはいなかった。
「刻んだのですよ。
クッカが認める最強の使い魔なのですよ」
もう何も言うまい……。
2人とも、やりきったという清々しい表情を作り
使い魔の性能を嬉々として話してくれるが
これを世に出すのは、やばい気がしてならない。
使い魔の色からしてもうおかしい。
「クッカが作った使い魔の瞳の色は
ご主人様と同じなのですよ~」
嬉しそうに、拘った部分を話してくれる。
「フィーが作った使い魔の瞳の色は
サフィと一緒なのなの」
それは、サフィさんと一緒に作ってあげたほうが
喜んだんじゃないだろうか?
どちらも、体の色は蒼露の樹を思い出させる蒼色だ。
精霊の魔力が含まれているからか、オリジナルと同じ姿なのに
どこか、神聖な感じがするは気のせいではない。
「名前を決めるのですよ~」
「名前を決めるのなのなの」
説明を終えた2人が、真剣な顔をして僕を見た。
なんだろう。2人からかけられるこのプレッシャーは
「え……。そうだね。
うーん……」
結局、僕が候補として挙げた名前は却下され
クッカとフィーが、2人で話し合いながら
名前の候補をあげていく。
その中から
フィーが選んだ名前は【ヴァ―シィル】
クッカが選んだ名前は【ギルス】
フィーが力を与えた使い魔は精霊語で【天秤】という意味を持ち
クッカが力を与えた使い魔は精霊語で【断罪】という意味を持つ。
もっと詳しく、説明するならば天秤は裁定者という意味を持ち
断罪は、罪を裁くと言うよりも死刑という意味に近い。
そこに、慈悲は全くと言っていいほどない。
精霊に断罪されれば、命の終わり以外ないという事なのだろう。
「……」
どうして、そんな物騒な名前なの?
姿はとても神々しいのに、名前が非常に物騒だと思うんだけどな?
裁定して死刑……。
怖い……。
「違う名前にするというのは?」
「駄目なの」
「駄目なのですよ」
即答で却下された。
トキアは、平和な名前なのに。
穏やかな表情を浮かべているけど、2人の目は真剣だ。
「セツナに、盾突く輩に慈悲を与える必要はないのなの」
「ご主人様に、歯向かう敵はすべて死刑なのですよ」
「……」
聞かなかったことにしよう。僕は何も聞かなかった。
2人に手伝ってくれたことのお礼を言って使い魔を帰す。
アルトが、訓練をしたいと言ったら呼ぶことにしよう。
それまでは、眠っていてもらおう。
使い魔を、アルトに見せずに帰してしまった僕に
2人は、不満だと言う表情を見せる。
「もうひとつ……ふたつかな
使い魔を作りたいんだけど、手伝ってくれる?」
「まだ作るのなの?」
「まだ作るのですか?」
「うん。僕から離れることを前提に作るから
構築式が少し違ってくるから、手伝ってほしいんだ」
僕から離すことが目的と聞いて、2人が同時に眉間にしわを寄せる。
不服という文字が、顔に貼り付けられているようだ。
「傍にあれば、寂しさを和らげてくれるかもしれない」
子犬の事が書かれてあった、サクラさんからの手紙で
思いついたことはふたつ。アルトの事とトゥーリの事。
アルトは、失敗してしまったけど。
トゥーリは喜んでくれるかもしれない。
僕の目的を聞いた2人の眉間から皺がなくなり
いい考えだと思うと肯定してくれた。
「気合を入れて作るのですよ!」
「気合を入れて作るのなの!」
いや、気合は入れなくてもいいから……など
キラキラした表情で僕を見る2人に言えるはずがない。
懸念していることを伝えると、解決策を教えてくれる。
それを参考にして、構築式を頭の中で組み立てた。
リヴァイルの血に、僕の魔力をくわえ
その上に、クッカとフィーの魔力を纏わせる。
そのまま使うと、トゥーリにわかってしまう可能性があるし
もうひとつの魔法にもリヴァイルの魔力が欠かせない。
細心の注意を払い、核を作っていき
僕の望みを刻んでいく。そこにクッカとフィーも気合を入れて
魔法を刻んでいくが先ほどと違って、優しい魔法が多い、が
それでも、攻撃に回ると容赦がない……。
「え? それは刻んで大丈夫なの?」
「問題ないのですよ」
「問題ないのなの」
「魔力の供給はどうするのですか?
クッカがしてもいいのですよ?」
「いや、大丈夫だよ」
「フィーは完成なの」
「クッカも完成なのですよ」
「僕もこれで大丈夫かな」
核を見て、刻み忘れがないか確認するが
2人が刻んだものは、精霊ならではの魔法が多く
とても勉強になった。
サフィールさんがみたら狂喜乱舞しただろうに……。
そっと、心の奥底へと沈め使い魔の姿を構築していく。
魔法陣の上に、ちょこんとのっている生き物を見て
クッカとフィーの表情が消えていた。
「この生き物は、なんていう生き物なのですか?」
「この微妙な生き物は、何なのなの?」
「え……ウサギ?」
この世界にはいない種類だけど
ウサギに見えるでしょう?
「ウサギにはみえないのですよ?」
「ウサギではないのなの」
「耳が長くないのですよ」
「小さいのなのなの!」
僕が作ったウサギは、ウサギの中でも最も小さいピグミーウサギだ。
この世界にいるウサギはヤブノウサギに近いが容姿が少し違う
可愛いとはいいがたいが、可愛らしく作られたぬいぐるみは
それなりに人気がある。
それと比べると、ウサギには見えないのかもしれない。
鼻をピクピクと動かしながら、つぶらな丸い目が2人を見ている。
「でも、可愛いのですよ」
「可愛いのなの」
「トゥーリは、気に入ってくれると思う?」
「絶対、気に入ってくれるのですよ!」
「気に入ると思うのなの」
クッカとフィーが、一羽ずつ抱き上げ
笑みを浮かべながら、撫でていた。
二羽のピグミーウサギは
気持ちよさそうに目を細めて「きゅ」と鳴いた。
【ウィルキス3の月の14日:トゥーリ】
クッカがいれてくれた紅茶を飲みながら
ぼんやりと時間を過ごす。クッカが丹精込めて作った薬草で
私の顧客である男性の為に、胃薬を作った。
今月分の薬が完成して、セツナに送ろうかと
考え、数日前から元気のないクッカを見ていい案が浮かぶ。
「クッカ?」
「はいなのですよ」
「お薬が完成したのだけれど。
これを、先生に届けてほしいの」
「送らないのですか?」
「お薬を渡しに行くついでに
先生とお話しして来たらどうかと思ったの」
クッカの手に力が入ったのがわかる。
「届けてくれる?」
私の言葉に、考える表情を見せ
ゆっくりと頷いた。
精霊は、本来なら契約者から離れない。
なのに、クッカは私が寂しくない様に一緒にいてくれる。
先生と連絡を取り、行くことが決まったクッカは
とても幸せそうな笑顔を見せてくれた。
先生から贈られた、服の中から一番のお気に入りの服を着て
背中に、クマのぬいぐるみの形をした鞄を背負ってから
『行ってきますのですよ~』と笑う。
泊まって来ても大丈夫と伝えたのに
帰って来ると言って出かけていった。
静かな空間で、最近忘れかけていた寂しさと向き合う。
クッカが、先生に会いにけるのが羨ましいと思う。
私も……家族に会いに行きたい。
もうその姿もぼんやりとしか思い出せない。
元気にしているだろうか?
病気になどかかっていないだろうか?
生きていてくれているだろうか……。
千年ぐらいでは、全く年などとらないと
分かっていても心配になる。
「っ……」
慌てて、自分の目元をぬぐう。
クッカに、泣いていた事を知られるわけにはいかない。
ぐっと唇をかんで涙をこらえた。
積み重ねてある本を手に取り読むことに集中する。
どれぐらいの時間が経ったのかわからないけど
壁を隔てた向こう側に、魔法陣が表れ
クッカが帰ってきた。
「ただいまなのですよ~」
「おかえりなさい」
クッカは、可愛い笑みを見せて頷き
「ご主人様から、贈りものを預かってきたのですよ」と告げる。
「贈り物?」
「お薬を作った、報酬なのですよ」
「そう。お薬は大丈夫だと言ってくれた?」
「はいなのですよ。
丁寧に作られていると、褒めていたのですよ」
クッカの言葉に、安堵して息を吐き出す。
クッカは、私の前まできて袋の中に手を入れている。
袋の中から取り出したのは、小さな生き物だった。
「……」
つぶらな丸い目で、私を見て可愛い鼻を動かす。
「きゅ」と鳴き。首をかしげる姿が愛らしい。
だけど、私はこんな生き物を見たことがない。
人の国では、普通にいる生き物なんだろうか?
「この子は、初めて見る生き物だわ?」
「ご主人様が言うには、ウサギだっていってたのですよ」
「ウサギ? ウサギには見えないけれど……」
耳も短いし、体も小さい。
私が知っているウサギは、こんなに愛らしくはない。
「クッカもそう思うのですよ」
「先生は、この子をウサギだと本当に言ったの?」
「はいなのですよ」
「先生は、ウサギを見たことがないのかしら?」
「ウサギは知っていると思うのですよ」
「そうよね。そうね」
「こっちのウサギのほうが、可愛いと思うのですよ。
だから、あまり深く考えないほうがいいのですよ」
クッカが、まじめな顔でそんなことを言った。
「ご主人様の考えは、クッカにはわからないのですよ」
「そうね……」
彼は独特な空気を持っている人だ。
ここで考えても、分からないものは分からない。
クッカに抱かれているウサギをみて笑みが浮かぶ。
本当に可愛い。
「今から、そっちに送るのですよ~」
そういって、クッカが魔法が刻まれた机へと向かう。
「駄目よ。その子が死んでしまうわ」
「大丈夫なのですよ。
この子は、ご主人様の使い魔なのですよ」
「え……?」
「クッカの魔力と、フィーの魔力も使って
作られた子なのですよ。そちら側に行っても
問題がないのですよ」
「待って? 使い魔?」
「はいなのですよ」
「どうして、使い魔が魔導師から離れているの?」
ありえない話だ。使い魔は魔導師の分身ともいえる。
自分の傍から離すなんてありえない。
「クッカにも、ご主人様の常識はよくわからないのですよ」
困ったようにクッカが言う。
それは、遠まわしに非常識だと言っているのね。
魔法陣を経由して、こちらの机の上にウサギが現れる。
両手の手の平ぐらいのウサギが、机の上から飛び降り
私の傍に来て、膝の上にのり「きゅ」と鳴いた。
「……」
久しぶりに感じる生き物の重み。
恐る恐る、手のひらでウサギをそっと撫でる。
柔らかく暖かい。
触り心地のいい毛並みに、手が離せなくなる。
目を細めて、気持ちよさそうにじっとしている
私以外の温もり……。
その小さな体の上に、ハタハタと雫が落ちる。
「……」
上から落ちてきた雫に、ウサギは心配そうに
私を見て「きゅきゅきゅ」と鳴いた。
そんな私に、声をかけることもせず。
クッカは黙って、私を見守ってくれていた。
私が落ち着いた頃、クッカが向こうであったことを
楽しそうに話してくれた。この子の他にも使い魔を作ったらしい。
魔力は大丈夫なんだろうか? 彼の魔力量を思い出して
心配するだけ無駄ねと考える。
クッカの話を聞いて、最初に作った使い魔が
どうなっているのか気になったけど、先生は黙って
帰してしまったらしい。話を聞いただけでも、危ない気がする。
そして、クッカとフィーが考えたという名前に閉口するが
正直な感想は言わないようにした。
「あ、先にトゥーリ様の血を少しだけ
分けてあげてほしいのですよ」
「私の血を?」
「はいなのですよ。
それで、この子の魔力が尽きない様になるのですよ」
「すごい魔法を使っているのね」
そんな魔法はきいたことがないけれど
私も知らない魔法は沢山ある。千年の間に魔法も発達しているのだろう。
少しだけ指を傷つけて、ウサギの口元へ持っていくと
鼻を動かしながら、その血をなめとった。
その後魔法が発動して、私の指の傷が綺麗に治る。
彼はこのウサギに、いったいどれだけの情報を与えているんだろうか?
「あ……。クッカこの子の名前を教えて?」
まだ名前を聞いていない事を思い出し
クッカにお願いするとありえない言葉を紡いだ。
「まだ決まっていないのですよ」
「え?」
「トゥーリ様に決めてほしいと言っていたのですよ」
「え??」
使い魔の名づけを、第三者に任せるなんてありえない。
「大丈夫なの?」
「大丈夫なのですよ」
どこか、呆れた様な表情を見せながら
ウサギを見るクッカ。
その様子から、これ以上何も聞かないでほしいという
願いが読み取れ、困らせてしまうのは本意じゃないと思い
大丈夫と言うなら、大丈夫なのだろうと
疑問は心の中に封じ込め、クッカと一緒に名前を考える事にした。
【ウィルキス3の月の14日:リヴァイル】
仕事から家に戻り、疲れを感じながら
夕食でも作るかと思い、ふと机の上を見ると手紙らしきものと一緒に
変な生き物が、じっとこちらを見ていた。
見た事もない生き物は、体がとても小さい。
私の片手の手の平から、少しはみ出るぐらいの大きさだろうか。
生き物がいる場所は、アレが押し付けてきた
転送魔法陣が刻まれた魔道具が置いてある場所だ。
だということは、この生き物はアレが送ってきたという事だろう。
机へと近づいても逃げる様子は見せない。真ん丸な瞳をこちらに向けて
いるだけだ。
同じ場所にある手紙を手に取り、手紙を読む。
そこには、今月分の薬を送ってきたことが書かれてあった。
そういえば、そろそろ薬が無くなると聞いた気がする。
手紙の続きを途中まで読み、手紙を握りつぶす。
『一緒に送ったウサギは僕の使い魔です。
薬の報酬として、リヴァイルの魔力を与えてください』などと
ふざけたことが書かれてあった。
いろいろ問い詰めたいことはあるが
まずは、この使い魔の処分が先だ。
変な生き物を、片手で掴み握りつぶそうとした瞬間
頭の中にアレの声が流れ
『あ、この使い魔はトゥーリに送った使い魔と対になっています。
そのウサギを殺すと、トゥーリに送ったウサギも死にますから』
慌てて使い魔から手を離す。なぜ、そんな大切なことを
先に手紙に書かない! ギリギリと苛立ちが募るがこの生き物に
あたるわけにはいかない……。
憤りを押し殺し、握りつぶした手紙を広げ
続きを読み、ため息を吐く。
絶対にこれを処分できない……。
『僕の精霊のクッカが、たまに遊びに来るようになりました。
その間、トゥーリが独りになってしまうので
寂しくない様に、このウサギを送ることにしました。
僕の魔力をトゥーリに送ると、向こうの結界が反応してしまう
恐れがあるため、リヴァイルの血に2人の精霊の力を借りて
結界が反応しない様に作りました。ただ、僕が魔力を送り続けると
僕の魔力が主になってしまいます。そこで、トゥーリの血で
最初の魔力を補い、その後リヴァイルの魔力を変換して
トゥーリの魔力に足されるように魔法を構築しています。
同じ血筋であれば可能だと、精霊2人に教えてもらいました。
トゥーリにはその事は話していません。最初の血で
魔力を補う構築をしたとしか伝えていません。
しかし、実際は魔力を与えないと消えてしまいます。
リヴァイルが、そのウサギの世話を怠ると
トゥーリが悲しむことになりますから
くれぐれも、注意してください』
「……」
『それから、胃薬はトゥーリが作りました。
これからも、トゥーリが作ることになっています。
リヴァイルからの魔力は、トゥーリに与えられる報酬です。
断ってくださっても構いません。別の方法を探しますから
セツナ』
「フ……フフ……フフフフフ」
低い笑い声が漏れる。
もちろん楽しくて笑っているわけではない。
アレは、私が絶対に断われない事をわかっていて
こいつを送ってきている。半分はトゥーリの為。
そして半分は、私に対する嫌がらせだ。
それに、こいつからは……。
「忌々しぃ。心の底から忌々しぃ!」
読み終わった手紙を破りゴミ箱へと捨てる。
平和そうに、こちらを見ている使い魔を見て
やるせなさが襲う。魔力を与えないという選択肢は
存在しない。トゥーリの淋しさを少しでも
埋めることができるなら魔力など安いものだ。
魔力を与える事を決めたら
ウサギに血を与えろと書いてある。
指先をナイフで傷つけ、指を近づけると
そっと、血をなめとった。
使い魔の体が光ったことから
正しく認識されたようだ。布で指の血をぬぐい
送られてきた、薬をもって家を出る。
名前を付けろと書いてあるが
今でなくてもいいだろう……。
この時間なら、ちょうど夕飯時だろうから
作るのも面倒だ、薬を届けるついでに食わせてもらおうと考え
使い魔を置いて家を出た。
実家に向かう途中、頭に何かが当たったような気がして
振り返るが、何も落ちていない。気のせいかと思い
また歩き出す。
実家の家の扉を数回たたき、返事が来る前に
扉を開け、居間へと足を運ぶ。
「リヴァイルか」
「ああ、薬を持ってきた」
「頼んでくれていたのか。
すまない」
「いや、帰宅したら届いていたから
気にしなくていい」
「そうか」
父がそう告げたところで、読んでいた書類から
視線を外し、私を見て視線を頭の上でとめる。
「リヴァイル、夕食をとっていく?」
私の声が聞こえていたのだろう。
母が台所からこちらへと来て、私の顔を見た途端
かたまり、そして父と同じように視線を頭の上に固定した。
「どうかしたか?」
「どうかしているのは、お前の方だと思うが」
「リヴァイル。その頭の上の変な生き物は何かしら?」
母がじっと、私の頭の上を凝視しそう告げる。
「頭の上?」
「気がついていなかったのか?」
自分の頭の上に手を乗せると、ふわりとしたものが
手の平に触った。嫌な予感がする。
「……」
頭の上にあるものを、掴んで目の前に持ってくると
それは、アレが送ってきた使い魔だった。
丸い目を更に丸くして「きゅ」と鳴き首をかしげる
仕草を見せる。なぜ、こいつが私の頭の上にいる……。
「リヴァイル。それが何かわかっているのか?」
今すぐここで、この使い魔を葬り去ってしまいたい。
だが、そんなことをするとトゥーリが悲しむ。
「これは、私の契約者が送ってきた使い魔だ」
「……」
「……」
父も母も、何を言っている? 正気か? と言った
表情を私に向けているが、私は正気だ。
「魔導師が使い魔を自分の傍から離すわけが無かろう?」
「私が聞きたい!」
思わず叫んでしまったが、父は気にすることなく言葉を続ける。
「契約者は、使い魔などを送ってきて
何をさせるつもりだ」
「定期的に魔力を与えろと言ってきた」
「魔力?」
「そうだ」
「なぜだ?」
本当の理由を話すわけにはいかない。
どうするかと考え、適当に話を作ることにした。
「この薬を作っているのは、こいつの弟子だ。
こいつの弟子が、寂しくない様に自分の使い魔を
弟子に与えたらしい」
父も母も首をかしげながら聞いている。
「だが、使い魔を維持する魔力が足りないから
私に肩代わりをしろと、これを押し付けて来たわけだ」
「そんな魔法があるのか?」
「精霊魔法だと書いてあった」
「お前の契約者は、精霊とも契約しているのか」
驚いたように、私を見る父と母。
「そうだ。上位精霊と契約している」
「そうか。だから、薬の質が良いのだな」
「多分な」
「なら、精霊が肩代わりすればいいと思うが」
「その弟子に対する、薬の報酬が私の魔力だ」
意味が分からないと顔に書いてあるが
私に聞いても、無駄なのはわかっているのだろう。
「それだけか?」
「それだけだ」
「なぜ、そんな手を使う。
本人が一緒についていてやればよかろう」
「弟子は、獣人のまだ子供だ」
アルトには悪いが、クットの洞窟で聞いた
アルトの身の上話をトゥーリに置き換えて話す。
父達は、アレの手紙を以前見せた時に弟子の性別が
女であることを知っている。
アルトの性別が変わるが……。
仕方がない。
「人間が獣人の子供を連れ歩くのは問題があるだろう。
契約者は、冒険者だしな。危険が付きまとう。
だから、家で留守番をさせながら薬の調合を
教えているらしい」
あいつは、平然と連れて歩き回っているが。
「そうか……」
「何処に住んでいるのかしら?」
母が、その瞳を曇らせながら聞く。
きっと、独りでいるトゥーリと重ねているのかもしれない。
「今は、リシアの国のハルにいると聞いている」
「あの国は、獣人差別のない国ね。
いい選択だと思うわ」
珍しく母が、好意的な意見を口にした。
「しかし、人間が獣人の子供を弟子にするというのも
信じられない話だが、使い魔を自分の傍から離すと
いうのは正気を疑う」
「確かにな」
机の上を、ひょこひょこと飛び移動している使い魔を見て
父は溜息を吐き首を横に振る。母はじっとその使い魔を眺めていた。
「お前は、契約者といい関係を築いているのだな」
「はぁ?」
「お前が情報を奪わないと言う信頼があるから
送ってきたのだろう?」
違う。それは断じてない。
「さぁな」
「ふむ。気になるな。
どういった魔法構築がされているのか。
少しだけ試してみてもいいか?」
「ああ」
父が机の上から使い魔を持ち上げ
魔法を紡ぎながら、使い魔へと魔力を流す。
使い魔の体が光り出した瞬間。
使い魔が、黒いつぶらな瞳からポロポロと涙を落とし
「きゅ」「きゅ」「きゅ」と苦しそうに鳴きはじめる。
やばいと思い、父から使い魔を取り上げるために手を伸ばすが
私よりも、母の行動のほうが早かった。
「あなた!」
母が慌てて、父の手の平から使い魔を奪い
その背を優しくなでると、使い魔は涙を止め「きゅ」と
鳴いて母を見上げた。
トゥーリの使い魔が、涙を落としていないといいが……。
大丈夫だろうか?
父は、手のひらを凝視して固まっていたが
一度深く息を吐き出してから、私を呼んだ。
「リヴァイル……」
「……」
「私はこれまで、色々な使い魔を見てきてが
魔力に反応して、涙を落とす使い魔など見たことがない。
そんな無駄なものに、魔力を割り振るお前の契約者が
私には分からない」
「私にも、わかるはずがないだろ?」
「お前の契約者はいったいどういった人間だ」
どういった……。
「知らん」
「……」
知らないとしか言いようがない。
わかっているのは、カイルが弟と呼ぶ存在で
トゥーリの番候補と言うだけだ。
母はまだ、使い魔を撫でている。
どうやら、気に入っているようだ。
その理由を考え、切ない気持ちになるが
それを表情に出すことはしない。
「それで、この子はなんていう生き物かしら?
人間の国には、不思議な生き物がいるのね」
母は、この大陸から出たことはないらしい。
父は、若いころ色々なところを旅したようだ。
「契約者は、ウサギだと言っていたが」
父と母が、使い魔に視線を落とし私を見た。
「ウサギには、みえないけど」
「ウサギではないな」
「なぜ、契約者がそれをウサギと言うかは
私も知らん。私もそんな生き物は見たことがない」
父が何度目かのため息をつき、考える事を放棄したらしい。
その方がいい。アレこそ最大におかしい生き物だ。
考えれば考えるほど、わからなくなるだけだ。
「とても愛らしくて、私はいいと思いますけどね」
母がそう告げて、楽しそうに笑った。
その笑顔に、父が目を見張って母を見る。
母の楽しそうな笑顔など本当に久しぶりだ。
父が目を見張るのも理解できる。
「名前はなんていうの?」
「まだない。私につけろと言ってきた」
父はもう、疑問を口にすることもしなくなった。
「それで、つけてあげたの?」
「いや、まだつけてない」
「早く、名付けてあげないと可哀想よ」
「……」
非常に面倒だ。
名前など付けなくてもいいだろう?
「魔力は私でも与えることができるのかしら?」
「さぁな。血を渡せと書いてあったから
魔力を登録する必要があるとは思うが」
「そうなの」
母は自分の指先を傷つけ、使い魔の口元へ持っていく。
その行動を、父が止めようとするがその前に使い魔が
血を口にして、ウサギの体がひかり
それと同時に、魔法が発動し母の指先の怪我が
綺麗に治っていた。
「……」
「……」
その光景に、私も目を疑い。
父も目を疑っている。母は目を丸くしていた。
「回復魔法が使えるの?」
母の落とした言葉に、答える気もしない。
これは、私には回復魔法をかけることはしなかった。
「どうして血を与えた」
父が不機嫌を隠そうともせずに問う。
父の機嫌を敏感に察したのか、使い魔が机の上に
飛び乗りせわしなく動き回っているのを
父が目を細めて見つめ、次の瞬間
魔法を使い魔に放つ。
「やめろ!!」
「あなた!」
2人で止めに入ろうとするが遅い。
魔法は、使い魔に放たれている。
近距離での攻撃魔法だ。
使い魔が吹き飛ぶには十分な威力だ。
一瞬トゥーリの泣いている顔が脳裏をよぎった。
だが、使い魔に魔法が当たる寸前
使い魔の前に、魔法陣が表れ攻撃魔法を
全て、自分へと吸収してしまった。
そして、ひょこひょこと父の前に来て
ペッと口から、何かを吐き出した。
「……」
「……」
「……」
コロコロコロと音を響かせ転がったそれを
父が手に取り眉根を寄せる。
「それは何だ?」
「多分。精霊玉だ」
「なぜ、これがそんなものを作れる?」
「お前の契約者だろ。
私が知るわけがないではないか」
「……」
深く溜息を付き、ガラス玉のようなそれを
机の上に置く。
「あなた。獣人の子供を悲しませるような
事はやめてくださいな」
「どうして血を与えた。
人間が作った使い魔だろ」
母は、寂しそうな表情を浮かべ椅子に腰かける。
机の上でじっとしていた使い魔が動き、母の前に来てとまり
母を見上げる。
「人間は嫌いですし。人間を信用することもできません。
だけど……この子は」
話しながら、使い魔の頭を撫でる。
「精霊の魔力がとても強く感じるでしょう?
それも、2種の精霊の魔力が」
「そうだな」
「精霊は、悪しきものに力を貸すことはしない。
この子の核は、精霊の魔力でできていますわ」
父と母が、じっと使い魔を見る。
「人間は信用できませんが、精霊は別ですわ。
孤独な獣人の少女が独りにならなければ
いいと思ったの」
母が使い魔を撫でる手を止めて、俯いてしまう。
「リヴァイルは、仕事で留守にすることもあるわ。
魔力の供給が断たれてしまったら、獣人の少女の
使い魔も消えてしまうでしょう? そんな悲しい気持ちに
させたくはなかったの。だから、リヴァイルがいない間は
私が魔力を与えようと思って。あなたの胃薬もつくって
くれているようですし」
「……」
「それに、それにこの使い魔の先にいる
少女の魔力は……とよく似ているのよ」
母の言葉に、思わず奥歯をかみしめる。
そうだ。この使い魔から仄かに感じる魔力は
トゥーリのものだ。多分、父と母には分からないだろう。
だが、この使い魔の先にいるのがトゥーリだと知っている
私には、この魔力が妹のものだとはっきりわかるのだ。
妹が生きているという、はっきりとした証。
だから、忌々しいと思った。私には絶対この使い魔は壊せない。
父が深く深く息を吐く。
きっと父も気がついていたはずだ。
だから、探ろうとした。使い魔に攻撃魔法を撃ったのも
焦燥にかられたからだろう。
「私は、少女の為に何かしてあげたいと思ったの」
それは同情であり、妹と境遇を重ねた結果だろう。
「わかった」
そう口にし、父が自分の指を傷つけ
使い魔に差し出した。躊躇することなく血を含み体が光る。
そして次の瞬間魔法が発動し、指の傷が癒えていた。
腹立たしい事この上ない……。
「お前の契約者は、魔法の腕も確かなようだが。
変な人間だな」
そう告げ、苦笑を深め。
使い魔を撫でながら、優しげに目を細めている母を見て
父は複雑な表情を作っていた。
「この精霊玉はどうする」
「父さんの魔力だ。
貰っておけばいいんじゃないのか?」
「そういうわけにもいくまい」
「アレは気にしないだろう」
「とりあえず、保管しておくか。
その少女が成人した時にでも渡せばいいだろう」
「……そうだな」
その為に。
トゥーリの未来のために。
「その子の名前はなんていうのかしら?」
母の問いに、どう答えるか悩むが
「トゥーリという」
「変わった響きの名前ね」
「物語に出てくる名前らしい」
「そうなの? 意味はあるの?」
「風と言う意味らしい」
「そう……」
「……」
「素敵な名前ね」
哀しみを瞳に宿し、そう告げた母。
「この子の名前も、素敵な名前がいいわね」
「きゅ」
「私は思い浮かばない。
母さんが考えてやってくれ」
「そう? 素敵な名前を考えてあげないとね」
穏やかに笑う母を見て、少しだけほんの少しだけ
アレに、感謝してやらない事もなかった。
トゥーリに私達の魔力が届いているだろうか。
きっと、届いているだろう。思いがけなく父と母の魔力も取り込んだ。
細い糸ではあるが、家族がつながった形になった。
いつか。いつかきっと。必ず。
この家に。





