『 僕とアルトの関係 : 後編 』
時計を見て、そろそろ夕食の時間かと思ったところで
何かがおかしいと感じる。何かいつもと違うような
そんな違和感を覚えた。
何が……と考えて、その違和感に気がついた。
帰宅したら、僕の部屋にただいまの挨拶をしてくれていたアルト。
それはここ最近も変わらず続いていた事だ。
アルトが来てくれたことで、夕食の時間に気がつき
アルトと一緒にリビングへと行っていた。
今日は、朝の挨拶をしたきりアルトを見ていない。
鳥から情報が届いていないから、無事なのはわかっている。
「僕の部屋に来るのも、嫌になったのかな?」
ここで考えていても仕方がないので、リビングへ向かうと
サーラさんが、青い顔をしてうろうろと歩き回っていた。
「セツナ君! アルトが、アルトがまだ帰ってこないの」
一目散に僕の所へ来て、アルトが帰ってきていない事を教えてくれる。
そんな、サーラさんを見てエレノアさんが肩をすくめていた。
「サーラ。アルトも男の子だ。
クリス達も、門限に帰ってこない事は多々あっただろ?
そんなに心配しなくても、大丈夫だ」
「アルトは、獣人族の子供なのよ!」
アギトさんを睨むように、サーラさんが言い返す。
その姿は、本当に母親のようで……一瞬言葉がでなかった。
とりあえず、落ち着いてほしくてサーラさんの背中を
数回ぽんぽんとたたく。
「セツナ君」
「大丈夫ですよ。
アルトに何かあれば、僕にはわかります」
居場所を探るようなことはしていない。
危険が迫っているなら、躊躇なく使うが今はその時ではないから。
サーラさんをソファーに座らせようとしたけれど座る様子はなく
先に食事をとるように告げたけれど、サーラさんは食べようとしなかった。
酒肴の人達が順番に食事をとり、こちらを気にしながらお店へと行く。
何かあれば、連絡を入れてほしいと告げて。
今日の食事当番である、ニールさんと2番隊の人達は手持無沙汰で
厨房に立っていた。だれも、食事を注文しようとしないのだ。
先に食べてくださいと言っても、味がしないだろうから
食べる気がしないといって皆アルトの帰りを待っていた。
そんな状態が続き、時計が20時を告げる音を出した瞬間
「父さん。私は、近くを探してきます」とクリスさんが立ち上がり
上着を持って移動しかける。他の人達も同様に庭へと向かいかけたが
「探しに行く必要はないワ」
クリスさん達に、待ったをかけたのは
僕ではなく、この場にいきなり現れたセリアさんだった。
「セリアさん、お帰りなさい」
「ただいまー」
「アルトは何をしていたんですか?」
「それは言えないワ。
男の子には、秘密が沢山あるものヨ」
「そうですか」
「セツナは、本当にあっさりしているワヨネ」
「セリアさんは、話さないでしょうしね」
「フフフ」
「それで、アルトは今どこにいるんですか?」
「酒肴のお店にいるワ。
バルタスから、お説教されてるんじゃないかしラ」
「なら僕は、何も言わないほうがいいですね」
「セツナは、もともと何も言う気がないでしょう?」
「帰宅が遅いのは心配ですが
アルトの事です。何か理由があるんでしょう?」
「それは言えないわ」
「アルトがそう選択したのなら
僕は、何も言いません」
サーラさんが、何か言いたそうに僕を見ているが
僕は視線を合わすことはしなかった。
「そろそろ、帰って来るんじゃないかしラ?」
セリアさんがそう告げたと同時に
庭の魔法陣が輝いて、アルトが姿を見せる。
ホッとしたように、サーラさんが肩から力を抜いた。
トボトボと、こちらに向かってくるアルトをみて
それぞれが苦笑を落としながら、厨房へと食事を注文しに行ったり
お酒をグラスに注いだりと動き出す。
動き出しながらも、アルトを注視しているのは変わらない。
「ただいま……」
「お帰り。遅かったね」
「遅くなってごめんなさい」
アルトには気がつかれないように、怪我などをしていないか
体に視線を走らせる。服が泥だらけになっていることから
転んだのか、喧嘩をしたのかと思ったけれど
怪我をしている様子はなく、転んだにしても
喧嘩にしても不自然な汚れ方をしている。
とりあえず、怪我はなく体は大丈夫そうだ。
「遅くなった理由を、教えてくれる?」
「……話せない」
「そう。なら話さなくてもいいよ」
「……」
「食事の前に、お風呂に入っておいで。
それから食事にしよう。僕もまだ食べていないから」
僕の言葉に、なぜかアルトはぎゅっと拳を握った。
「アルト?」
「……らないの?」
「うん? 何て言ったの?」
「……なんでもない」
フイッと僕から視線をそらし、お風呂場へと駆けていく。
アルトの背中を見送ってから、皆の方を向いて深く頭を下げる。
「ご心配をおかけしました」
「……セツナが謝る必要はない。
アルトは私達にとっても、家族なのだから。
家族に、そういった謝罪は無用だ」
各々が、首を縦に振ってエレノアさんの言葉を肯定する。
チームは家族のようなものだと、エレノアさん達は何時も口にする。
お互いに命を預けあうのだから、信頼を築くのが一番大切だと。
「遅くなった理由を聞かなくてもよかったの?」
サーラさんが、不満そうに僕を見た。
「話したくなさそうですから
僕は今までも、アルトが話さない選択をしたのなら
無理に聞くことはしていません。
今までも、そしてこれからも
僕はアルトの選択を信じます」
「いや、それで納得するか?
俺の時は、母さんが理由を話すまで
ずっと付きまとって来たぞ!」
ビートが本当に嫌そうな表情を浮かべている。
その表情を見て、サーラさんがビートを睨んで
「子供が、夜遅くまで遊んで帰ってこないのは
間違っているからでしょう!」と告げた声は
何時もの柔らかい口調ではなかった。
確かに、サーラさんのいう事が正しい。
だけど……。
「本来ならば、サーラさんの言動が正しいのだと思います。
子供が、門限を過ぎても帰ってこないのならば
理由を問いただし、門限を守るように言い聞かすのが
親の役目だと思いますしね。家庭での決まり事は
守るべき大切なことです」
「ならなぜ?
そう思うのなら、聞くべきだわ」
「僕はアルトに門限を設けていません」
日本で生きてきた僕は、きっとサーラさんがもっている
価値観に近いものを抱いている。
だけどもう1つ、僕の中には違う価値観も存在していた。
「それに、僕とアルトは
冒険者として生きています」
「それは、みんな知ってることだと思うけど」
「冒険者として登録した時から
ギルドの法を順守し、武器を所持するのであれば
大人とみなし、法を適用す。
アルトはもう、大人の枠組みの中で生きています」
子供じゃないからと、耳を寝かせて僕を見ていたけれど
アルトはとっくに、大人の世界で生きていた。
アルトがその事に気がついていないように
僕もあまり意識したことはなかった。
アルトを弟子にした時の、僕の方針は
『独りでも生きていけるように育てる』だったから。
だから、まだ12歳であることを知っていても
僕は、傍から見れば厳しいと思われる訓練をしているし
依頼を受けるにしても、アルトの選択に任せ口を出すことはしなかった。
それが、アルトを傷つけることになったとしても……。
ハルに来て、少し忘れかけていたけれど。
サフィールさんが、気がつかせてくれた。
僕達が生きている世界は、そんな世界なんだと。
「サーラさん、僕は狩をしている時は
アルトを対等な冒険者として見ています。
12歳でも、命を懸けているのは僕と同じです。
もちろん、まだまだ子供なのは承知の上です。
それでも、僕はアルトの狩に手を出すことは殆どありません。
致命傷を負わないように注意することぐらいです」
「その話は今は関係ないでしょう?」
「いえ、同じことだと思うんです。
どう考えても、冒険者として狩をしているほうが
危険度は高い。その選択を僕はアルトにすべて任せている。
なのに、青のランクを持っているアルトに
子供だという理由だけで、アルトが選択した行動に
否を唱えるのは、僕は間違っているような気がしてなりません
僕は、アルトの意思を無視して聞こうとは思えません」
「今はまだ、セツナ君が主導権を握ったほうが
私はいいと思う」
「そうですね。アルトが冒険者をしなくても
アルトの生活ぐらいなら、僕がすべて負担できると思います」
「私も、アギトちゃんも協力するわ」
「サーラ……」
アギトさんが、サーラさんを呼ぶが
サーラさんは、アギトさんのほうを見ない。
「アルトが、年相応の表情を見せて
友人達と遊んでいる姿を見て、子供らしい生活を
送ることができればいいんじゃないかと思っていました」
「先日も、そう話していたな」
「はい。ハルに居る間だけでも、そういった普通の生活を
望むのなら、アルトに与えようと思っていました」
「過去形なのか?」
「どうして、過去なの?」
「気がついたんです」
「なにをだ?」
「アルトはそれを嫌がった」
「え?」
「例えば、お金がなくて買い食いができなかった時
みんなと同じように、小遣いを渡そうかといっても
絶対に受け取りませんでした。胸を張って、俺は冒険者だからと」
ことあるごとに、口癖のように
俺は冒険者だからと誇らしげに語る。
「そして、ハルに来る前にも僕はアルトにこう聞きました」
ラギさんがくれた家で、2人で暮らそうかと。
2年後には、トゥーリとクッカも一緒に……。
「僕とアルトにとって、大切な人を亡くした時
僕は、冒険者をやめリペイドの国に仕えて
貴族になろうかと、本気で考えたことがありました」
ざわざわと、部屋の空気が揺れる。
「リペイド国王様から、直々に誘っていただいていましたし
アルトも、リペイドの国を気に入っていた。
だから、リペイドで暮らそうかと聞いたんです」
「……」
「アルトは、リペイドで暮らしたいと即答し
その後すぐに、旅を続けることを選ぶと断言した。
逃げたくないと。楽な方へ逃げるは嫌だと」
「……」
「アルトの年齢なら、それが普通だと伝え
普通の暮らしが羨ましいと僕に告げながらも
それでも、強くなりたいと黒になりたいと
初めて、自分の目標を口にしたんです」
「昔は、そう思ったかもしれないけど
アルトの考えが、変わっているかもしれないでしょう?」
アルトがそう望むからという理由では
納得してもらうのは、難しそうだと考える。
サーラさんは、アルトに冒険者をやめさせたいんだ。
アルトを大切に想ってくれるがゆえに。
サーラさんにとっては、アルトは冒険者である前に
守るべき子供なんだろうと思う。
そのほうが、アルトにとって幸せかもしれないとも思う。
迷いがないわけじゃない。だけど……。
「セツナ君も、言っていたでしょう?
アルトが友達との交流を楽しんでいるから
冒険者の道に、無理に戻さなくてもいいかと考えたって」
「言いました」
「なら……」
「大蛇を食べるんだ」
サーラさんが、顔を歪めて唇をかんだ。
「大蜘蛛を倒すんだ」
「……」
「足を引っ張らないように頑張るから」
サーラさんが、ぎゅっと拳を握る。
きっと、サーラさんも気がついている。
アルトから、戦う事を奪う事はできないと。
「アルトは友人と同じぐらい
冒険者であることも大切にしている。
そう教えてくれたのは、サフィールさんです」
サーラさんが、睨むようにサフィールさんを見る。
「僕はそんなこといってないわけ!」
焦ったように、サフィールさんが僕を見た。
「自覚しろ」
「あー……」
サフィールさんが、溜息を吐きながら
小さな声を出した。
「アルトは、ギルド最強と呼ばれる黒ではなく
僕だけを最強として見ている」
部屋の温度が数度さがったような、感覚がした。
「僕は、その言葉を聞くまで
アルトの背中を後ろから見守るつもりでいたんです」
そう、幼い子供の背中を見失わないように。
致命傷を負わない様に、後ろで支えるつもりでいた。
「アルトは、僕からお金を受け取らないだろうから
ハルで学校へ通うとしても、小遣いを稼ぎに
依頼に行くだろうとは考えていました。
僕は、根本から間違っていたんです。
お金を得るために、冒険者になったのではなく。
僕と並び立つ為に、冒険者になったのに」
ラギさんにも誓っていた。
サガーナでも、僕を守れるぐらい強くなると言っていた。
アルトの想いは知っていたのに
まだまだ子供だからとアルトの本気を
微笑ましく見ていただけだった。
「アルトはもう、自分の生き方を定めているのだと
僕は理解しているようで、理解していなかったんです」
キラキラして目で、僕を見てくれていた。
僕と並び立つ冒険者になると、いつも言ってくれていたのに
僕は、サフィールさんに言われて初めて自覚したんだ。
アルトは、僕の背に最強を見て追いかけているんだと。
「冒険者の義務と責任をしっかり胸に刻みこんでいる」
「……」
「そして、社会もアルトを大人として扱っています。
アルトがその義務と責任を放棄した時
年齢を問わず、僕達と同じ罰則が科せられることも
理解している。アルトは大人と同じものを背負っている」
「だから、それがおかしいの。
セツナ君は、学院へ行って
アルトは、学校へ行けばいいじゃない!
その間の、全ての生活は私達が面倒を見ることもできる!」
この人は、綺麗すぎるほど優しい……。
きっと、僕とアルトにクリスさん達と同じような愛情を向けてくれている。
だけど "ソレ"は、僕にとって不要でしかない。
「サーラさん。この世界は僕達に甘くない。
自分を守ることができるのは、自分だけなんです」
ヒュッとサーラさんが息をのむ音が聞こえた。
僕からの明らかな拒絶。サーラさんが言葉を失い
この部屋にも、沈黙が落ちる。
サーラさんの手は、小さく震えていた。
一瞬の沈黙のあと、サフィールさんが静かな声音で
「僕は……セツナの意見に賛成なわけ」と告げた。
「サフィちゃん!」
「サーラ。セツナもアルトも覚悟を決めているわけ。
その覚悟を踏みにじる権利は、誰にもないわけ。
僕も12歳でその覚悟を決めた」
空気が凍り付きそうなほどの、冷たい感情を
サフィールさんがその瞳に乗せる。
「浮浪者と同じような生活をしていたのは
今のアルトと同じ年齢だった。大人も子供も関係ない。
強いものに蹂躙されたくなければ、自分が強くなるしかない。
僕はそんな世界で生きてきた。セツナの言っていることは
正しいと僕は思う」
「……」
「この世界は、決して優しくはない
自分の身は、自分で守るしかない」
サフィールさんは、どんな世界を生きてきたんだろう。
「誰がどんな生き方を選ぶのか
それは本人が決める事だ。サーラが口出しすることじゃない」
ハタハタと綺麗な涙が、サーラさんの目から零れ落ちていく。
「エレノアちゃん」
サーラさんが、エレノアさんに意見を求めるが
エレノアさんは、申し訳なさそうにサーラさんを見た。
「……私も、剣を持たされた時から
己が命は、己で守れと言われてきたからな。
私の中の価値観はセツナよりだ。
正直、サーラがなぜそこまで感情的になるのかが
私には理解できない」
「私だけ……?」
「ハルでは、サーラのような価値観が
常識なわけ。リシアは、優しい国なわけ。
そこで、育った人間も優しい人間が多いわけ」
「そっか。私だけだったんだ」
「……アギトもサーラよりだろ?
サーラとの違いは、アギトはセツナの方針に
口を出さないと決めていたということだけだ」
アギトさんが、僕を見て微かに笑った。
「私は、ハルで育ったわけではないが
それでも、サーラが望む優しい世界を好ましく思っている」
「サーラが間違っているわけじゃない。
だけど、僕達も間違ったことは言っていない。
ただ、暮らしてきた環境が違っただけなわけ」
「……」
「サーラにとって、穏やかな生活は
すぐ隣にあった幸せなんだろうと思う。
だけどそこに、アルトの望むものはないわけ」
「アルトに、聞いてみないとわからないでしょう?」
「聞いてみるといいわけ。
たぶん、更に避けられる結果になるのが目に見えてるわけ」
確かにその光景が目に浮かぶ。
「眉間に縦皺が3本は確定なわけ」
小さく笑う声が、あちらこちらから聞こえる。
きっと、アルトの表情を想像したに違いない。
「心配しなくても、アルトは幸せなわけ」
サフィールさんが肩をすくめながら僕を見た。
「誰が、友人を作るためだけに金貨を払って学校へやる?
アルトが孤児院に遊びに行く事で
孤児院の子供達のお菓子が減らないように。
それをアルトが気にすることのないように
薬の売り上げの三分の一もの金を、寄付する馬鹿がどこにいる?」
「え……?」
どうして、サフィールさんが孤児院に寄付していることを
知っているんですか? 僕は誰にも話した覚えはないのに。
「種族の違う子供を、誰が弟子にしようと思う?
サーラ。アルトは、優しい大人扱いをされながら
子供の時間を、セツナによって守られているわけ」
「あ……」
サーラさんが、目を見開いて僕を見つめる。
その顔色を見る見るうちに朱に染めていく。
「誰よりも、セツナが一番アルトに甘いわけ。
目立つのが嫌いな癖に……」
サフィールさんは、そう言って僕を見て目を細めた。
「お前は戦う準備を始めるんだろう……?」
「戦う準備?」
サーラさんが、不思議そうに僕を見る。
顔はまだ赤いけど、涙は止まったようだ。
「アルトに、その背を魅せる為に
成りあがる覚悟を決めたんだろう?」
アギトさんが、口角をあげて僕を見た。
「僕には準備期間が必要ですから」
「どうして、アルトが大人になるのはまだ4年も先なのよ?
今無理しなくても……」
「その時が来て準備をしても、間に合いません。
僕には、何もかもが足りてない。黒達の足元にも及ばない。
アルトが大人になる頃に、黒として立つのなら
今から準備しなければ、到底間に合わない」
痛いほどの沈黙が、場を支配する。
「……謙遜か?」
エレノアさんが、楽しそうに言葉を落とした。
「いえ? 僕は本当のことを言っています」
「……そうか?」
「はい。戦闘ならば誰にも負けないと自負しましょう」
部屋の温度がまた下がる。
「戦闘だけならば
僕は、ここに居る誰よりも強いと断言できる」
「上等なわけ」
「言ってくれるな」
「……フフ」
黒達は笑みを浮かべてはいるが、瞳の色は冷めている。
「だけど、そのほかの何もかもが圧倒的に不足しています」
そう言って肩をすくめた僕を見て、周りの空気が緩んだ。
「例えば?」
アギトさんが、楽しそうに聞く。
「経験」
「他には?」
「実績」
「まだあるか?」
「数え上げればきりがない程あるかと。
黒というのは、ギルドの顔でしょう?
黒という肩書があっても、認められなければ意味がない」
「……貴殿なら、黒になってからでも遅くはないと思うが」
「アルトが、本格的に最強を目指そうとするまでは
白のままでいます」
「簡単に白になれるような、口ぶりだな。
セツナだから言えることか」
「なりたいなら、短剣を渡してやるわけ。
覚悟を決めたのなら、すぐに黒になればいいわけ」
「今黒になると、非常にめんどくさい事態になるので
遠慮しておきます。なるなら、自力でとりに行きます」
「……言いたいことはわかる。
黒には自由があまりない。世界を旅するのが目的なら
枷にしかならないな。黒の依頼に、青のランクをつれていくわけにも
いかない」
「白が妥当か」
「明日から依頼を受けるわけ?」
「いいえ、手っ取り早く白になる方法を
教えてくれたじゃないですか」
「はぁ……?」
「……そうきたか」
「ククク」
「なので、もしお知り合いに赤のランクの方がいて
参加するつもりだと言われるなら、とめて差し上げて下さい」
余りにもな僕の言葉に、黒以外が絶句している。
「それは、ここに居る奴らも当てはまるのか?」
楽しそうに笑いながら、アギトさんがエリオさんを見た。
「もちろん」
「エリオ、どうするんだ?」
アギトさんが挑発するように、エリオさんを見ている。
「ここまで言われて、参加しないなんてありえないよな?」
「……」
エリオさんは、射るような視線をアギトさんに向けている。
エリオさんは、参加しないとしたくないとはっきり宣言していたのに
アギトさんは面白がっているようだ。
アギトさんの掌の上で、踊らされるのは
僕もエリオさんも面白くはない。
もともと、誰も参加するつもりはなかった大会だ。
酒肴の人達は、武闘大会が終わったあと模擬店を出すと言っていた。
お祭り騒ぎになるらしい。だから、少し遊び心を加えても問題ないだろう。
「自分勝手な事を言っているのは、承知しています。
同盟を組んでいるメンバーに、心苦しいお願いをしていることも。
なので、全員参加しないを選んでいただけるのであれば
お好きな道具に、もれなく時の魔法を無料で掛けさせていただきます」
酒肴の人達の目の色が変わった。
僕の言葉に、アギトさんが掌を額に当て「やられた」と声を出し
「えげつない事をするわけ」とサフィールさんが呟いた。
酒肴の全員が、エリオさんを見ている。
誰も、酒肴の赤のランクの人達を見ていない。
心は一致団結しているようだ。
エリオさんは、小さく息を吐き出し
「セツっちと戦いたいとは思うけど
大会には参加したくないっしょ。
大会に参加しても、セツっちと戦える保証はないし」
バトルロイヤル方式ですからね。
エリオさんの宣言に、アギトさんが「面白くない」と溜息を吐き
サフィールさんが「お前は、いい加減にするわけ」と苦言を呈し
酒肴の人達はやっぱり踊っていた。
与えられた強さで、最強を名乗るか……。
これでもう後戻りはできない。前に進むしかない。
視線を感じて、振り返ると
サーラさんが僕を見ていて、視線が合うとその赤くなった目を伏せた。
「僕は、サーラさんを泣かせてばかりですね」
僕の言葉に反応したのは、サーラさんではなくエレノアさん。
「……子供がいるときは、よく泣くから気にしなくていい」
「確かに、くだらない事でも泣くわけ」
珍しくサフィールさんも、同意している。
「エレノアちゃんも、サフィちゃんも酷い!」
「……本当のことだろう?」
「サーラは、妊娠中は絶対に難しい魔法をつかってはいけないわけ」
「わかってるわよ」
ほんとにもうと、プンスカ怒りながらまた僕を見て
「ごめんね」と告げた。
「いえ、いつも気にかけてくださってありがとうございます」
その想いを、受け取ることはできないけれど。
感謝の気持ちだけは……。
泣いてはれていた目元を風の魔法で癒し終わった頃
アルトが、お風呂から戻りみんなで食事をとることになったのだった。
食事中、誰もアルトに何も聞くことはなく
いつも通りの、ワイワイとした賑やかな風景となっていた。
アルトも、最初のうちは何を聞かれるのかと警戒した表情を
作っていたけれど、誰も何も聞かないとわかったからか
普段通り、学校であったことなどを話している。
時折、何かを思い出すのか表情に陰りを見せるが
そんな姿をみると、周りの人達がアルトが浮上するように
もっていってくれていた。
僕はといえば、アルトの席から少し離れたところで
バルタスさんに、怒られているアギトさんを見ながら
お酒を飲んでいた。
エリオさんを挑発して、僕に時の魔法をかける選択を
させたことが、頭に来たらしい。
ちなみに、エレノアさんから見えないようにしておいてくれと
言われたので、バルタスさんとアギトさんは見えていない。
何か、重要な話をしていると思われているのが面白い。
のんびりと、喧騒に身を預けながらお酒を飲んでいると
アルトがそばに来て「もう寝る。おやすみなさい」と挨拶に来てくれたので
「お休み」と返すとすぐに部屋へと行ってしまった。
「セリアさん」
「なぁに?」
「今日一緒に過ごしたのは、友人達だけでしたか?」
「ええ、そうヨ」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。
遅くなった理由を聞かないノ?」
「そうですね……」
「セツナ、そこまでだ」
アギトさんの声が聞こえ、口を閉じる。
どうやら、お説教は終わったらしい。
「どうして止めるノ?」
「おい、エリオ、ビート」
アギトさんが、エリオさん達を呼び
エリオさん達は、不機嫌そうにアギトさんを見た。
「アルトの、帰宅が遅れた理由を話せ」
「はぁ? 知るわけないっしょ」
「俺達は、ずっとここに居ただろうが」
「お前達は、役に立たないな」
「なっ……」
アギトさんは興味を失ったように
2人から視線を外した。
「店にいた奴らはどうだ?」
アギトさんが視線を送ると、誰もが首を横に振る。
まぁ、店があるから無理かと納得し次へ
「2番隊は?」
2番隊は今日ここで、夕食を作っていた隊だ。
フリードさんとルッツさん。女性のルーシアさんとアニーニさんが
緊張しながら首を横に振るが、2番隊の隊長であるセルユさんだけは
少し考えるようにして、答えを返した。
「探し物をしていた……から?」
セルユさんの回答に、アギトさんがセルユさんに笑みを向け
サフィールさんも満足そうな表情を見せていた。
「……セルユ。
その理由をこたえることができるか?」
エレノアさんに聞かれ、セルユさんが一度深く息を吸ってから
真剣な顔で、答えていく。
「えっと……。
アルトの服が汚れていたから
喧嘩か転んだのかとおもったけど
どこにも怪我をしていなかった。
服の汚れかたが
前身だけ。だけどズボンの膝の汚れと
上着の腕の辺りの汚れが酷く
ズボンには、擦れた後があった。
なのに、背中の辺りは殆ど汚れてなかった。
だから、地面に近い位置にいたけど
背中を地につけるようなことはしていない。
セツナが、アルトと接触したのは
友達だけだと確認していたから
何か、問題に巻き込まれたとも考えにくい。
友達の中に、孤児院の子供がいるとすると
遊んで遅れるにしては、20時は遅すぎる。
そこから考えられることは
友達の誰かが、大切なものを落として
それを探していて遅くなった。
んじゃないかなぁ……」
最後のほうは、少し消え入りそうな声だった。
「……クリス」
「私もそう考えます」
「……アルヴァン」
「是」
「……セツナ」
「僕も、セルユさんと同じ意見です」
サーラさんが、驚きで目を開いている。
今にも、零れ落ちそうだ。
「……セリア。真相はどうなんだ?」
セリアさんは、ただ笑っただけだった。
多分、正解だったのだろう。
「アルトが遅くなった理由を最初から知っていたの?」
サーラさんが眉間にしわを作りながら、エレノアさんを見る。
「……本人が話したくないと言うなら
その時の状態を見て、推測してみればいいだろう?
セツナぐらいになると、わからない事のほうが多いだろうが
アルトぐらいなら、ある程度は推測できる」
「無理よ!」
「……サーラは、ランクを上げるつもりがないからな」
「今のままで十分よ」
「……だから、わからないんだろう?」
エレノアさんとサーラさんの会話を聞いて
答えられなかった人達が、どんどんと落ち込んでいっている。
「セルユ。よくやった!」
バルタスさんが、セルユさんを褒め。
エレノアさんが頷き、それを見てセルユさんが嬉しそうに
笑っていた。
アギトさんの問いに答えられなかった人達の
落ち込みも暫くして落ち着くと、口々にセルユさんを褒め
そのあと、生意気だと殴られてじゃれている。
楽しそうに殴り返してるセルユさんを見て
セリアさんが若いっていいワネ。青春よネと呟き。
サーラさんが、温かい視線をじゃれている人達に向けていた。
そんな、賑やかな状態も落ち着き
今は思い思いの時間を過ごしている。
サーラさんが、セリアさんに色々聞き出そうとしているが
セリアさんは「秘密だワ」といって答えなかった。
セリアさんが答えないという事は
教えることが、アルトにとっていいことではないと
判断したんだろう。
「そうそう、セツナ少し気になっていた事があったノ」
「なんでしょう?」
「アルトが一度緊急用の結界を張ったでしょう?
セツナが意識を失くした時に」
黒から刺さる視線が痛いような気がする。
「あの結界は、絶対に破られることがないって
話していたけど、セツナが命を落として
敵が前にいたら、アルトはずっとあそこから
出ることができないんじゃない?」
「転移魔道具を持たせていますよ。
リペイドとサガーナとトゥーリの所
そしてここハルですね」
「アルトの事だから、逆上して
敵にかかっていくと思うワ」
「多分、その前に保護されると思いますから
大丈夫でしょう」
「え? 誰に?」
「……」
「セツナ?」
「アレが来ることになっています」
「あれ?」
「ええ、僕が命を落として
アルトの保護が必要な場合
強制的に、アレを呼び出す転移魔法が発動して
保護してもらえるようになっています。
まぁ、相手には伝えていませんが
アルトは気に入られているので、保護してもらえるでしょう」
「え?」
「僕が命を落としかけたら、飛んで来るとは思いますけどね」
笑いに……。
「セツナ、そんな親友がいたノ?」
皆が、興味と多大な好奇心を持って
僕とセリアさんの話に耳を傾けている。
「助けてくれる親友がいるなら安心よネ?」
「え? 止めを刺しに来るんですが」
「え?」
真顔で言う僕に、嬉しそうに安心だといった
セリアさんの表情が凍り付く。
「お互い殺しあう仲なんです。
安心なんてできません。今はまだ、大丈夫でしょうけど」
トゥーリとの問題が解決したら
どう転ぶかはわからない。相手は僕を殺せるだろうけど
僕が殺すと、絶対に恨まれる。
「そんな人に頼んであるの!?」
「頼んではいませんが
アルトは気に入られていますから大丈夫です」
下手すると、アルト以外全員皆殺しになる可能性があるけど。
辺り一面が、焼け野原になる可能性もあるけれど
敵がどうなろうと僕には関係ない。
「セツナ」
「なんでしょう?」
「それって、その人物って……」
「セリアさんの考えであっていますよ」
「何て人を呼び出そうとしているの!?」
「僕が死ななければ大丈夫ですよ」
多分ね。
「その人物を、私達に紹介してくれる気はないのか?」
「僕もあってみたいわけ」
「今近くにはいませんから
無理かな?」
近くに居ても、あわせる事なんて絶対にできない。
人間が大嫌いなのに、傍に居たら殺しにくるにきまっている。
「……危険な人物ではないのか?」
「今のところは大丈夫でしょう。
お互い、手を組む理由がありますから」
「手を組む?」
「はい。同じ目的をもっていますから」
「話せんのか?」
「話せません」
「お前さんは、謎がありすぎる」
「謎が多いほうが、魅力的に映るものダワ」
セリアさんが、茶化すようにバルタスさんに答えた。
それ以上追及するなという事を、言外に言っている。
「話題を振っておいて、それはないわけ」
「だって、知りたかったんだモノ」
セリアさんにそう告げられ、苦い表情を作りながらも
それ以上追及されることはなかった。
「でも、アルトは安心ヨネ」
そう言って、セリアさんは満足そうに指輪の中に戻ったのだった。
アルトの帰宅が遅くなった日から、数日たった今も
帰宅時間が遅い状態が続いている。
だけど、僕を含めて誰も何も言わず
アルトを見守っていた。サーラさんも、心配そうな視線を
送ってはいるが、その事には触れないように気を付けているようだ。
そんなアルトは、やっぱり僕を観察するように見ているけど
何も言いに来ることはなく、どこか苛々とした表情をしていることが
増えてきた。何か、アルトの気持ちが楽になる方法がないかと考え
サクラさんとエリーさんから届いた手紙の内容を思い出し
作ろうとしていたものを思い出す。その準備をしていると
最近戻ってきたフィーが、僕の部屋へとやってきた。
「セツナ、遊んでほしいのなの~」
「サフィールさんは?」
「研究するから忙しいっていうのなの」
「そうなんだ」
僕の机の上を見て、フィーが首をかしげる。
「何をするのなの?」
「使い魔を作ろうかと思って」
「また、懐かしい魔法を使うのなのなの」
「最近は、使われていないようだけど
何か問題があるのかな?」
「問題は全くないのなの。
すたれたのは、時を重ねるうちに人間がもっている
魔力量が減っていっているのなの。
だから、使い魔にまわす余裕がなくなっただけなの」
「2種使いなら、十分作れると思うけど?」
「セツナが、どんな使い魔を作るのかわからないけど
使い魔を使う一番の理由は、大きな魔法を構築するための
時間を稼ぐための要員として、作られることが多かったのなの」
「なるほど」
「使い魔を作って、維持するために魔力を使うと
使いたい魔法を使うための魔力が足りなくなってきたのなの。
それに、あれは魔導師の分身ともいえるものだから
魔力制御が甘いと、使い魔に与えた情報を
奪い取られる可能性があるのなの」
「そうなんだ」
「使われなくなった一番の理由はそこにあるのなの。
師から弟子へと、伝えられる魔法を奪われる危険性を危惧したのなの
だから、使い魔を作ることを禁止した魔導師が多かったのなの」
「そっか」
「使われなくなれば、廃れていくのは仕方がない事なのなの」
「教えてくれてありがとう」
「どういたしましてなの~」
どうやら、僕が想像していた使い魔の在り方と
実際の使い魔の在り方は、ずいぶん差があるようだ。
「それで、どんな使い魔をつくるのなの?」
「ここで見ていく?」
「うんなの!」
楽しそうに笑って、僕が使い魔を作るのを
フィーが見ていた。たまに「そこはこうしたほうがいいのなの」と
構築式を訂正してくれたり、助手のような事をしてくれた。
「……」
「え? 何か問題があった?」
フィーが、僕の使い魔を見て首をかしげている。
「この変な生き物は、なんていうものなのなの?」
「え?」
「どうして、こんなに足が短いのなの?」
「……」
「それに、胴体も異様に長いのなのなの
どうして、こんなにずんぐりしているのなの?」
あぁそうか。この世界にはいないものを作ってしまった。
「尻尾も、短いのなの」
僕とフィーの前で、お座りをしながら
ピコピコと尻尾を振っているがお尻も一緒に動いている。
「使い魔は、魔導師の好きな姿形で作られるけど
こんな珍妙な生き物を見たのは、はじめてなのなの」
じぃーーーっと、僕の使い魔と見つめあうフィー。
そんなに、珍妙だろうか? 僕は可愛いと思うんだけど。
日本にいたころ、犬を飼うならこの犬にしようと
鏡花と2人で決めた犬種だった。
「フィー。この子は、外に出せないかな?」
「どうしてなの?」
不思議そうに、フィーが僕を見る。
「僕が想像で作ってしまった生き物だから」
「セツナの美的感覚は、フィーにはよくわからないけど
想像上の生き物を作る魔導師もいたのなの。
想像できない魔導師は、自分の好きな生き物を
模倣していたのなの」
「問題ない?」
「問題ないのなの。
よく見ると、愛嬌のある顔をしているのなのなの」
そういって、フィーが犬の頭をなでると
嬉しそうに「わん」と鳴いた。
「セツナ、名前を付けるのなの」
「ぽち?」
「どうして、そんな変な名前なのなの!?」
怒られてしまった。
犬といえば、ポチだと思ったんだけど。
「姿が、珍妙なんだから
名前はちゃんとした名前を付けてあげてほしいのなの」
酷いことを言われているような気がする。
「どうしよう」
「本気で、ぽちってつけるつもりだったのなの?」
「……」
フィーが腰に手を当てて、呆れたように首を振った。
「フィーも一緒に考えてあげるのなの。
セツナの魔力でできた子なの。変な名前は駄目なの」
それから、フィーと一緒に名前を考え
沢山の駄目出しをされやっと名前が決まったのだった。
「ご飯な……」
元気のない声で、リビングに入ってきたアルト。
午前中は、自分の部屋で過ごしていたようだ。
アルトが来たことに気がついて、動物が好きなアルトだから
喜んでくれるだろうと、膝の上で丸まっていた使い魔を
抱き上げながら、アルトに視線を向けると
アルトが僕を凝視していた。
アルトだけではなく、この場にいる人達全員が僕を見ている。
理由がわからなくて、周りを見渡すと
サッと視線をそらされた。どうしてだろう?
変な生き物だと、変わった犬だとさんざん言われたけど
皆が可愛がって、撫でてくれていたし
サフィールさんは、目を丸くして使い魔を見ていた。
暫く固まって動かなかったけど、動き出したと思ったら
フィーを質問攻めにし「うるさいのなの!!」と
フィーに怒られていた……。
なので、視線が集まった意味が分からない。
「アルト?」
扉の傍で、俯き動かなくなったアルトを見て
アルトの名前を呼ぶけれど、返事がない。
「アルト?」
「……れは」
「え?」
「俺は、犬なんか大嫌いだ!!!」
僕を睨むようにして、そう叫び
庭に面しているガラスの窓を叩きつけるようにして開き
靴を履いてから魔法陣のほうへと駆けて行った。
「え?」
叫んで、部屋から出ていくほど犬が嫌いだったの?
動物は全部大丈夫だと思っていた。
犬をソファーの上に置き、アルトを追いかけようとすると
「セツナさん、おやっさんから伝言です。
アルトは大丈夫だ。こっちで食事を注文して
食べるようだと。アルトは暫くそっとしたほうがいいと」
「そうですか。
お願いしますと、伝えてもらえますか?」
「おー、がってんだ」
「よろしくお願いします」
バルタスさんの言葉に甘えて、アルトを任せることにして
ソファーに腰を下ろすと、どこか心配そうに僕を見て
ピィーと鼻から抜けるような鳴き声を出す。
犬なのに、妙な鳴き方をすると思わず笑う。
「アルトは、もしかしたら猫派だったのかもね」
僕を見て、舌を出しているコーギーを見て呟くと
トキアは、キョトンとした顔をして僕を見ていた。
「いや、あれはどう見ても焼きもちだろう」という声は
僕には届かなかった。