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刹那の風景 第三章  作者: 緑青・薄浅黄
『 大空への憧憬 』
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『 プロローグ 』

「俺は悪くない!」


そう言って、俺は振り返らずに自分の部屋へと走る。

扉を開け、叩きつけるように閉め部屋の中へと入った。

俺は悪くないのに!


悔しさで、歯をかみしめると嫌な音が鳴った。


『申し訳ありませんでした』と頭を下げる師匠を思い出して

怒りは静まることなく、俺の中で煽られていく。


師匠は、俺よりあの冒険者の言葉を信じた。

俺を信じてくれなかった。その事が、とてつもなく悲しかった。


『お前の師匠ってさ、お前の事あんま関心ないんじゃん』


ワイアットの言葉が、頭に響く。


そんなことはないと思うのに……。

その声を振り払う事ができない。頭や心にこびりついて離れなかった。


今も、話の途中で部屋に閉じこもった俺に師匠は何も言いに来ない。

耳を澄ましてみても、気配を探っても師匠が部屋に来る様子はなかった。


「……」


数日前の友達との会話を思い出して、俺は更に憂鬱な気持ちになっていく。


孤児院へ遊びに行くうちに、何度か友達が孤児院の先生に

規則を破って叱られているのを目撃する。頭を殴られてさすりながら

ぶつぶつと文句を言っているのを見て、規則を破らなければいいのに

ということを言ったら『規則は破る為にあるんだ』と言われた。


規則は守るためにあると思ったけど、それを告げる前に

どの規則を破ったかという自慢話になっていた。

それは自慢できることなんだろうか?


そこから、どの先生にどんな風に叱られたかを話していく。

楽しそうに、嬉しそうに。だけど、大先生だけは怒らせてはいけないらしい。

大先生に叱られると、夕飯が抜きになるんだぞ! と言われた。

俺にも気を付けろよ、と教えてくれたけど何に気を付けるんだろう?


俺にはここの規則は関係ないから、叱られることはないと思う。

そんなことを考えながら、楽しそうに叱られた話を自慢している

友達達が理解できなかった。


この時の俺は、叱られないほうがいいのにと思っていた。


首をかしげている俺に『アルトは、師匠さんに叱られたことはないのか』

と聞かれる。だけど、友達が自慢しているような叱られ方をした事がないから

ないと答えた。『ガミガミはいわれるよな?』と言われたけどないと答えた。


友達達が不思議そうな顔をして、どうして叱られないんだと口々に俺に聞くけど

俺に聞かれても、わからないと答えるしかない。


そんな俺達の会話に、ワイアットが横から口を出してきたんだ……。


『叱られるのは、愛情があるから叱るんだ。

 一度も叱られたことがないとか、ありえねー。

 お前、師匠とやらにぜってー嫌われてんぜ』


『そんなことはない!』


俺の言葉に、鼻で笑ってワイアットはその後どこかへ行ったけど。

ワイアットの言葉は、ずっと俺の胸の中に刺さっていた。


そんなことはない……。

その時はとっさにそう言い返した。


だけど。


孤児院の先生を見ていると、師匠とは全く違っていた。

先生たちは、友達が危ないことをしていたりする時に少し口うるさく

注意している。だから、友達達を想っての事だとわかった。


奴隷商人のように頭ごなしに怒鳴ったり、殴ったりはしていなかった。


家に帰って、アギトさんとサーラさんを見ていても

孤児院の先生達と同じだった。アギトさんとビートさんはいつも口論しているし

サーラさんは、エリオさんとビートさんにガミガミと言っていた。

エリオさんもビートさんも、あまり聞いていないようだったけど。


クリスさんもよく、エリオさんとビートさんが文句を言うと

頭を握りつぶそうとしているし、口うるさく何かを言っている。


ビートさんが『兄貴はうるせーんだよ!』と言ってまた頭を掴まれて

悶絶していた。だけど、それは……俺から見ても幸せそうに見えたんだ。


『愛情があるから』その言葉の通りだと思った。

大切だから、その人をよく見ていてよく見ているから

危ないことを察知できて、注意できるし注意しようと思えるんだと思った。


相手が大切だから……。

口を出そうとするんだと思った。


俺は師匠に、そんなことをされた記憶がない。

一度も殴られたこともなかったし、ガミガミと言われたこともない。


殴られたいわけでも、叱られたいわけでもないけど

色々と思い返してみれば、叱られても仕方がないことをしてきた気もする。

なのに師匠は、叱らずに静かに悪かったところを俺に告げるだけだった。


俺がどこで何をしていても、師匠が口を挟むことはない。

この前、食べてはいけないと言われた花を食べた時も

師匠は、今度からは食べないように気を付けてねと言っただけだった。

考えれば考えるほど不安になってきて、人と比べれば比べるほど

師匠は、他の人とは重ならなかった。


バルタスさんでさえ、怒鳴りながらチームの人達の頭を殴っていたのを見た事がある。

殴られた人は、痛いと文句を言っていたけどその後笑っていた……。


師匠は俺に関心がない……。

だから、叱らないし、ガミガミいわないのかもしれない。

そう考えると、ワイアットの言葉が正しいように思えて……。


師匠は、俺の事なんてどうでもいいから

俺が何をしても、何も言わないんだろうかと不安になった。


そんなことはないと思いながらも、その不安を打ち消すことができなかった。


だから、俺があれこれと悩んで部屋にいる間の出来事を俺は知らなかった。

俺を悪者にした、冒険者がどうなったのかを知るのはずっと後の事だった。




読んで頂きありがとうございました。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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