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刹那の風景 第三章  作者: 緑青・薄浅黄
『 マトリカリア : 集う喜び 』

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『 アルトと学校 : 中編 』

* 『アルトの時間1』が『アルトと学校 : 前編 』と

タイトルを変更しましたが、内容に変更はありません。

 メディラさん、先生に言われ自己紹介の挨拶をしたあと

先生が「好きな席に座っていいわよ」と微笑みながら言った。


ざっと周りを見渡してみると、1つの長い机に

椅子が2つ並べられている。大体は、2人並んで座っているけど

何人かは、1人で座っていた。なぜ、一緒に座らないんだろうと

疑問に思ったけれど、聞くことはしなかった。


何処に座ろうかと、悩む暇もなく俺を呼ぶ声が聞こえる。


「アルト。ここあいてるぞ」


クロージャが、自分の隣の椅子を叩きながら俺を見た。

断る理由もないし、友達の隣に座れるのならうれしい。

迷うことなく頷いて、クロージャの隣の椅子に座る。


「1時間目は、ハルの施設の本とノート。んで筆記用具を出して

 鞄は、机の横に掛けるんだ」


「うん。ありがとう」


クロージャに言われた通りに、授業を受ける準備をしながら

周りを見る。俺の前の席には、ワイアットが座っている。

ワイアットの横に、セイル。セイルは、振り向いて俺に

親指を立てて笑っていたので頷く。


セイルが前を向いたから、俺も視線を戻し姿勢を正すように椅子に座り直す。

すると、俺の背中をジャネットとエミリアが鉛筆でつついてくる。

後ろを振り返ると、2人はにこーっと笑ってから「よろしくねー」と言ったから

「うん」と返事をすると、2人が顔を見合わせて笑っていた。


この2人は、いつもこんな調子でどこかのんびりとしている。


周りの視線のほとんどが、俺達に集中していたけれど

何時もの事なので、気にしなかった。視線を、先生へと戻す。


先生は、俺が前を向くのを待っていたようだ。

一度俺に頷いて、教室を見渡してから口を開いた。


「では、授業を始めるよ」


先生の言葉で、それぞれが教科書とノートを開いていく。

クロージャが、小さな声で開く頁を教えてくれる。


「今日は、40頁あたり。

 学院の中にある、図書館の話から」


クロージャに言われた通り、教科書を開く。

先生は、黒板に大きな地図を張り付けていた。

その地図は、教科書に載っているのを見やすく大きくしたものだった。


最初は、図書館のある場所。そして、図書館が何をする場所かの説明。

図書館を利用する上での注意事項などを教えてくれた。


図書館では、大声で話してはいけないとか

本には、保護の魔法がかかっているけど大切に扱わないといけないとか

本を、紛失した場合は弁償しなければいけないとか……。


「あとは、館内での飲食は禁止です。

 図書館では、本の貸出をしていますが

 貸出処理をしていない本を、館内から出すことはできません。

 一度に借りることができる冊数は、5冊。期間は15日間です。

 借りたい本が見つからない場合は、図書館の職員(司書)の人に聞いてみてね。

 本がある場所を教えてもらう事ができるから。ここまでで、質問のある人は?」


先生の言葉に、首を振ったり、ないーっといったりそれぞれが返事をする。

俺も特に聞きたいことはなかった。


「では、今から図書館の貸出カードを作ります。

 用紙を配るから、そこに自分の名前、住所などを記述してくださいね」


教室の前列に座っている人に、用紙を配っていき

それを後ろへと回していく。ワイアットが俺に用紙を渡す時に

少し顔を歪めて俺を見たけど、じっと目を見ると何も言わずに前を向いた。


そんな俺達の様子を、クロージャが見て俺の背中を一度叩く。

きっと、気にするなって事だろう。特に気にしてはいないけど……。

散々嫌われてきたんだ。今更何とも思わない。


「全員に、用紙がいったかな?」


先生が周りを見て、全員に渡ったことを確認してから

用紙の説明を始めた。


教室には、先生の声と用紙に記述する鉛筆の音が響く。

時々、隣にいる友達と確認しながら書いてる人もいた。


先生は、机の間をゆっくりと歩いて

それぞれの用紙に、視線を落としながら間違いを見つけると

間違っている個所を教えてくれているようだ。


「アルト、書けたか?」


そう言って、クロージャが俺の用紙を覗きこんだ。


「え?」


クロージャが、驚いたように小さく声をあげ

その声を聞きつけて、セイルが後ろを向いた。


「どうした?」


「いや、アルトの住所が」


「住所?」


クロージャの言葉に、セイルも俺の用紙を覗きこみ

住所の辺りを見たところで、目を見開いていた。


「アルト、住所間違ってんじゃないか?」


「間違ってないと思う」


「この家って、海の近くにある不気味な家だろ?」


「探検したいとも、思わない家だよな?」


クロージャとセイルが、同時に俺に聞く。


「あー」


2人が、何を言いたいのか理解できた。

俺も、あの家を見た瞬間住みたくないと思ったんだ。

絶対幽霊が居ると思ったし、クリスさんが教えてくれた

ゾンビもいると思った。


実際、師匠が居ない時に門をくぐったら

幽霊とゾンビがいたらしいけど……絶対会いたくない。


ジャネットとエミリアは、俺達の会話を聞いて

後ろから心配そうに、俺に「大丈夫なの?」と言った。


「何か、わからない箇所があった?」


俺達の傍に、先生が来て俺達を見て首を傾げた。


「アルトの住所が、間違ってんじゃないかって話してたんだ」


先生は、俺の用紙を見て少し驚いた表情を作った。


「アルト、本当にここに住んでいるの?」


「うん」


俺の返事に、周りの人達もざわざわと話し出す。

それぞれの話を、耳に入れてみると色々な噂があるようだった。


幽霊を見た人が居るとか、幽霊の声を聞いた人もいたとか

ゾンビのようなものが、斧を振り上げていたのを見た人が居るとか

そこに入った人は、二度と出てこれないとか……。正直、怖い噂ばかりだ。


「今は住める。前は、人除けの魔法が掛けられていたらしいんだ。

 師匠が、その魔法を解いたから見た目は普通の家になったけど……。

 だけど、師匠が居ない時に門をくぐると

 幽霊とゾンビに、追いかけられたって話していたから

 まだ入らないほうがいいかも知れない……」


師匠は、ちゃんと魔法を解除してくれたんだろうか?

すっかり忘れていたけど、帰ったらちゃんと聞かないと!!


「……」


俺の言葉に、一瞬教室が静かになった。


「……アルト、どうやって家に入るんだよ?」


「お前どうやって、家に帰るんだよ!」


クロージャとセイルが、同時にそう叫んだ。


「え? 門から入らなければいいんだ」


「え?」


「はぁ?」


「でも、入り口は1つしかないでしょう?」


先生は、俺の家を詳しく知っているらしい。


「うん。他の人は門からしか入れない。

 俺は、転移魔法で庭に行けるようになってるから」


「ああ、なるほどね。

 でも、門から入れないのは困るわね」


「師匠が、どうにかするって言っていたから

 多分、もう大丈夫だとは思う」


「……多分。大丈夫なのね。

 ちゃんと、魔法が解除されたら教えてくれるかな?

 さすがに、幽霊とゾンビに追いかけられたいとは思わないから」


先生の言葉に、俺は真剣に頷いた。

だって、ものすごく怖いらしいから。


「アルトさ、お前学校まで来るの大変そうだな」


「大変じゃない。ここまで来るのに

 転移魔法を使うから」


「そうか。師匠が、用意してくれたんだな」


「そう」


「なら、今まで通り遊べるんだよな?」


「うん」


クロージャとセイルが、納得したように頷く。

問題が解決したからか、先生が歩き出そうと足を踏み出すが

何かを思い出したように、足を踏み出すのをやめる。


「そうだわ。

 アルトは、貸出カードを作らなくてもよかったわね」


「え? どうして?」


作らなくていいと言われて、不安になる。

俺は、図書館を利用できないんだろうか?


「アルトは冒険者だから、ギルド紋様を見せれば

 ギルドが経営する施設の、ほとんどは利用可能なの。

 だから、カードを作る必要ないけれど……」


先生が、俺の手の甲の紋様を見てそう告げた。

そして次に、俺の頭の上に視線が移動してから

「……一応作っておく?」と聞いてくれる。


「うん。作る」


クロージャもセイルも、作ってもらうんだし

俺も同じものが欲しかった。ふと、クロージャ達を見ると

2人の視線が、俺の手の甲に注がれている。


「アルト、ギルドランクが青になってないか?」


「この前、あがった」


「本当だ。すげー。もう青のランクかよ!」


2人が驚いたように、俺のランクを口にだし

後ろの2人が、身を乗り出して俺の紋様の色を見て

「おめでとー」と言ってくれた。


ワイアットだけは、睨むように俺の紋様を見た後

唇をかみながら前を向き、俺達の話に関わっては来なかった。


周りの反応も様々で、こちらを見てる人もいたし

感心がないという感じの人もいた。俺達と反対側の席に座る

男の子の塊だけは、俺達の様子を睨むように見ていたけれど。

俺が視線を向けると、全員が俺から視線を外したのだった。


全員が、用紙に記述したのを先生が確認すると

今から、図書館に貸出カードを作りに行く事になった。

ギルドから学院へは、歩いて5分ぐらいの場所に建っていて

学院は、ギルドよりもさらに大きかった。


学院の門からでは、全てを見ることができないほど大きい。

先生が学院の事を、簡単に説明しながら図書館へと向かう。


「図書館では静かにするように。

 貸出カードを受け取ったら、好きな本を一冊探して借りること」


全員が、先生に返事をして順番に貸出カードを作成してもらう。

特に何も言われずに、俺もカードを作ってもらえた。

もしかすると、ここに来る前に何か連絡を入れてくれたのかもしれない。


図書館も、凄く広くて

色々な本が、所狭しと並べられている。所々に椅子や机が配置されていて

そこに座って、本を読んでいる人や勉強している人もいた。


師匠の家の、図書室も広いと思ったけど

図書館はそれ以上だった。ここの本をすべて読むには

どれほどの時間が、必要なんだろうと考える。全部読めるだろうか?

ワクワクしながら、本棚の間を歩く。時折、読んでみたい本を手に取って

めくってみて、元あった場所へと戻す。


この中から、一冊を選べと言われるのはすごく難しい。

どれもこれも、読んでみたくて仕方がない本ばかりだったから。


とりあえず、【海の先にある王国】という物語を借りることにした。

ハルに来て、初めて海を見たけどその広さに、その青さに心を奪われた。

海の中を泳ぐ魚もすごくきれいだった。長い時間、ずっと見ていても飽きなかった。


そして、この海の向こうには

何があるのか知りたいと思った。師匠に、話すと師匠は笑って

『次に、リペイドへ行くときは船に乗っていこうか』と言ってくれた。

今から、すげー楽しみだ!


船というの見たけど、どうしてあんなものが浮かぶんだろう?

どうやって、あんな大きなものを作って水の上に浮かべるんだろう?

水の上で作るのは大変じゃないんだろうか?


この世界は、色々な不思議に満ちていて知らないことがありすぎて

どこから、調べればいいのか。何から、手を付ければいいのか

時々、わからなくなるんだ。


「アルト」


俺を呼びながら、セイルが俺の肩を叩く。

セイル達が、近づいてくるのは知っていたから驚くことはない。


「どうしたの?」


「借りる本は決まったか?」


「うん」


手に持った本を、セイルとクロージャに見せる。


「そんな、分厚い本を読むのかよ!」


セイルがそう言って、俺の本を凝視した。

そんなに分厚くはないと思うんだけどなぁ。


「セイルは、何を借りたの?」


「俺は、これだ」


セイルが、持っていたのは【王の剣と赤き魔物】という本で

面白かったと思う。魔物に呪をかけられた王様を、助けるために騎士が

魔物を倒しに行くという話しだった。確かに俺の持っている本と比べたら

分厚いかも知れない。


「面白そうだろ?」


「うん。面白かった」


「読んだことあるのかよー」


「ある。クロージャは何を借りた?」


「俺は、これ」


クロージャが、見せてくれたのは【竜の秘宝を持つ旅人 1 】という本で

全5巻の、冒険小説だ。竜の夫婦の死に立ち会った、人間の旅人が

自分の子供に、渡して欲しいと頼まれた秘宝を持って旅をする話だ。

旅人が竜の秘宝を持っていると知った、悪い国の王が旅人から秘宝を奪い取ろうとするけど

旅人はどんな誘惑にも、脅しにも屈することなく困難な道を歩きながら

託されたものを、届けに行く物語だった。


「読んだことあるか?」


「うん。その作者の物語は全部読んだ」


「そうか」


「全部持ってるから、読むんだったら貸せる」


「おー。図書館で借りられてたら貸してくれ」


「うん。わかった」


ワイアットは、何を借りたのかは言わなかった。

ジャネットとエミリアは、王子様とお姫様が出てくる話を借りたらしい。


全員が、何かしらの本を借りて教室へと戻る。

席に着いて、それぞれが本を見せ合いながら話をしていた。


先生が「注目」と声を出したことで、全員が前を向く。


「次の、施設の授業に本を返却に行きますから

 そのつもりでいてくださいね。それでは、1時間目はここまで」


先生はそう告げてから、教室を出ていく。

先生が居なくなった教室は、とても賑やかだけど

なぜか、クロージャ達がピリピリとした空気を纏っている。

理由がわからず首をかしげるが、周りの人達も俺をチラチラとみるだけで

近寄っては来ない。


クロージャ達に、声をかけるか悩んでいると

俺の頭の上から声が聞こえた。


「おい。ちびのお前。俺様のグループに入れてやるよ」


この言葉に、いち早く反応したのはセイルだった。


「ふざけんなよ、ロイール!」


セイルが、喧嘩腰で俺に声をかけたと思われる人物に

俺より先に言い返す。


「黙ってろ! 親無し!」


「なんだと!」


セイルが顔色を変えて、今にも飛びかかろうとするのをクロージャが抑える。


「邪魔するな、クロージャ!」


「アルトが、どのグループに入ろうがアルトの自由だ」


クロージャが、そう言って俺を見る。

どうやら、これが派閥というものらしい。

ビートさんと、エリオさんが話していたのはこの事だったんだと思いあたる。


仲のいい友達で集まって、チームみたいなものが形成されていると

言っていた。多分俺は、今のところクロージャのチームに居て

このロイールと呼ばれた奴が、俺をクロージャのチームから

引き抜きに来ているという感じだろうな。


チラリとセイルを見ると、ロイールと睨み合っている。

クロージャに視線を向けると、クロージャはセイルを押えながら

静かに、俺達を見ていた。だけど、その目はあきらかに

ロイールの言動が不快だと告げている。


俺は、この2人が気に入っている。

俺の一番の友達だと思っている。


セイルは、その場の空気を明るくするのが上手な奴で

少し喧嘩早いところはあるけど、仲間を守ろうとする優しい奴だ。

俺に、一番最初に殴り掛かってきた奴だけど

一番最初に、ごめんと言ってきたのもセイルだった。


クロージャは、正義感の強い人間だと思う。

間違っていることは、間違っていると言える奴だ。

それが自分より、強い相手でも。そして、彼はよく人を見ているんだ。

何を悩んでいるのか、何に困っているのかに気がついて

躊躇なく手を差し伸べることができる奴。それがクロージャだった。


俺が、2回目に孤児院に行ったとき

入るかどうか悩んでいる俺の姿を見つけて、孤児院の中へと

引っ張って行ってくれたのもクロージャだ。


それからは何時も、クロージャとセイルが

俺と一緒に遊んでくれていた。秘密基地の場所を

教えてくれたのもこの2人だった。


考えるまでもなく、俺の中ではもう答えは出ている。

後は、それを言葉にして伝えるだけ。


「俺は、クロージャ達といる」


俺の返事に、ロイールは声を低くし

馬鹿にしたような視線を、クロージャ達に向けた。


「はぁ? そんな親無しのグループにいてどうするんだよ?」


先ほどから、親無しという言葉を使うロイールに少し苛立つ。

ロイールの言葉のせいか、ジャネットとエミリアはしょんぼりとして俯いていた。


「俺様のグループに入れ」


「お前に命令される覚えはないし

 俺は、お前のグループには入らない」


俺の返答に、ロイールは顔を歪めて俺を睨みつけている。

後ろの2人が、怯えたように身をすくめていた。

この教室で、一番背が高いのはロイールでその言葉遣いもあって

怖く感じるのかもしれない。


周りの人達も、少し怯えているようだ。


「ちびの癖に、俺様に逆らうのか?」


「身長は、関係ないだろう」


確かに、俺の身長はジャネットとエミリアと似たり寄ったりだ。

男の中では多分一番低いけど、なぜ身長が低いと逆らっちゃいけないんだ?

こいつの話すことは、いまいちよくわからない。


それに、身長はそのうち伸びると思う。

毎日ミルクも飲んでいるし……。師匠も伸びると言ってくれた。

身長の事を言われて、不快感が増していく。


俺の頭の上で、ごちゃごちゃと言っているのを聞いて

うざくなってきた。俺が適当に、話を聞いているとわかったのか

挙句の果てには、怒鳴り出した。


「お前は、俺様の命令を黙って聞けばいいんだ!」


ロイールは、拳を握って見せる。

どうやら、俺は脅されているらしい……。

見た感じ、この中では一番強いのかもしれないけど

俺のほうが強い。殴り掛かって来ても、簡単に勝てるだろう。


セイルは、ロイールが拳を握ったを見て

動きかけるが、クロージャがセイルを離さなかった。

だけど、クロージャも机の下で拳を握っているのを俺は知っている。


大体、俺様とか何様なんだろう?

自分で俺様とかいう奴、本の中だけかと思ってたのに。変な奴。

俺はもう、完全に興味が失せていた。こいつのグループに入ろうなんて

欠片も思えなかったから、3度目の拒否の言葉を告げる。


「俺は、クロージャ達といる。

 お前のグループには、入らない」


「親無しのグループには、親が居ない奴らが入るべきだろ?

 親がいるなら、俺達のグループに入るべきだ違うか?」


よくわからない理屈に、いい加減辟易しながらも答える。


「なら、俺には親がいないから

 お前のグループに入る理由は、更に無くなった」


俺の言葉に、クロージャ達も俯いていたジャネット達も

俺を凝視する。


「俺は、師匠に拾われて冒険者になった。

 だから、親はいない。親が欲しいと思ったこともない!」


俺を虐待して、俺を売り払った親なんていらない。

ギリッと歯が鳴る。ロイールが顔色を悪くして後ずさった。


どうやら、殺気がもれてしまったらしい。

殺気を出すなって言われていたのに!


すぐに殺気を押えて、今までよりも強く拒絶の言葉を口にする。


「俺も、親無しだ。だけど、親が居たとしても

 お前のグループには入らない! これ以上話す気もない」


そして、ロイールから視線を外した。

ロイールは暫く俺を睨んでいたが、先生が来る足音が聞こえたせいか

乱暴に、自分の席へと戻って行った。


セイルが、ほっとしたように椅子に座り直し

それを見て、クロージャがセイルから手を離しながら口を開く。


「アルト、本当にいないのか?」


クロージャが、真剣に俺を見て親がいないのかと聞く。

セイルも、俺から視線を外さなかった。


「うん。いない。

 だから、師匠と一緒に旅をしているんだ」


「親を探すためか?」


セイルの言葉に、俺は眉間にしわが寄っているなと思いながら答える。


「親を探す気はないし、二度と会いたいとも思わない」


はっきりとそう告げると、エミリア達が息をのんだ気配が伝わった。

ずっと無視を決めていた、ワイアットの肩が揺れたけど

後ろを振り向くことはなかった。


クロージャが、少し瞳を険しくしながら

「そうか、俺も親に会いたいとは思わない」と小さく呟く。


クロージャの言葉に、エミリアとジャネットはどこか辛そうに

クロージャを見つめ、セイルは俯いたクロージャの肩を

宥めるように、数回たたいていたのだった。



ありがとうございました。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されました。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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