『 セツナとセリア 』
* 前半:アギト視点
* 後半:セツナ視点
* 黒の会議 *
* アギト視点 *
黒の間の扉が開いたのは、サフィールが鞄の中に手帳をしまってから
5分ぐらい経った頃だった。どうやら、サフィールには総帥達の動きが
わかっていたようだ。魔力の高い人間が移動していたら嫌でもわかるか。
最初に部屋に現れたのは、ヤト。続いて総帥であるリオウ。
そして、オウカが最後に扉を閉めて入ってくる。
そういえば、リオウを総帥としての会議はこれが初めてだな。
「遅れてごめんなさい。
さっそくだけど、封筒の中を確認してくれる?」
リオウが総帥の席へと座り、顔をあげる。
リオウの言葉とほぼ同時ぐらいに、ヤトが私達に
【ビー5】の封筒を配る。封筒には、様々な大きさがあるのだが
大きさによって、封筒の名称が決まっている。
手渡された封筒には、私の名前が記されていた。
封筒を開け、中身を見ると数枚の用紙が入っており
それを取り出し、書かれた文字に視線を落とした。
【トリア草原に関する報告書】
視線をサフィールのほうへ向けると
サフィールは、無表情で報告書を読んでいる。
おそらくではあるが、私とサフィールの報告書は
ほぼ同じものだろう。
この報告書は、サクラが書き上げたもののようだ。
サクラの筆跡で、丁寧に綴られている。
ビートの親友であった、マキスからの連絡が途絶えた辺りで
彼等の足取りを追ってほしいと依頼していたものだ。
報告書には、彼等が立ち寄った国、街などの記述。
トリア草原の依頼者の名前。
最終的に集まった冒険者の数など
様々な事が、事細かに書かれてある。
私が知りたいと思った情報が、ほぼそろっていた。
彼等の最後の足取りは、やはりトリア草原だったようだ。
サクラは、それ以上踏み込むのは危険だと判断して
トリア草原に、近づく許可は与えなかったと記述していた。
そして最後に、一文が添えられている。
【沢山の犠牲者を出していることから
ギルドから、黒へ調査の依頼が入るとは思うが
黒であろうとも、草原へ足を踏み入れるのはやめたほうがいいと感じる】
「……」
サクラからの忠告か。彼女の勘は恐ろしくあたる。
サフィールのほうへ視線を向けると、サフィールは無表情でまだ報告書を読んでいた。
調査に向かうなら、サフィールと合同になるはずだ。
「……アギト」
エレノアが私を呼び、自分が読んでいた報告書を向けた。
「読んでもいいのか?」
「……ああ」
なぜ、エレノアへの報告書を私に渡すのかはわからないが
受け取り、読み始める。
【魔物の異変に関する報告書】
これは……。
「エレノア?」
「……貴殿が、魔物の強さがおかしくないかと
聞いてきただろう?」
「そうだが」
あの時は、変わりはないと返事をされたはずだ。
いや、まて。あの時、エレノアは何と言っていた。
『こちらは、とくに変わった様子はない』と告げたんだ。
私は『魔物の強さがおかしいとおもわないか』としか言っていない。
ただそれだけの言葉で、彼女は動いてくれたのか?
私自身が、確信を持てずに悩んでいた事に対して彼女は私の言葉を
そのまま信じてくれたのか。
バルタスがニヤリと笑い、私に自分が持っていた報告書を突きつける。
受け取った報告書の見出しは、エレノアと同じものだった。
「……バルタスも依頼していたのか」
私の表情を読んで、エレノアがバルタスに問う。
「ああ。この中で一番の戦闘狂はアギトだからの。
魔物の強さに一番敏感なのも、アギトだろう。
こいつがおかしいというのなら、おかしいのだろう」
「……そうだな」
エレノアとバルタスの会話に、私はセツナが告げた言葉を不意に思い出した。
『黒の責任も、苦労も。最強である事の孤独も、苦しみも
何も知らない僕は、かける言葉を持ちません』
黒にしか理解できない……。
セツナに、説教ができる立場ではないな。
私はもっと、同じ黒を頼るべきだったのだ。
サーラを泣かせ、傷つける前に……。
「元黒に、依頼するとは思わなかったな」
「……クリスは気がつけなかったのだろう?」
「そうだ」
「……なら、黒が調査するしかないだろう?
私が調査に赴いてもよかったが、あの時はここから
動きたくなかったからな」
エレノアとバルタスは、交代でサクラを見守っていたとオウルが話していた。
「しかし、良く引き受けてくれたな」
「……引退したといっても、完全に戦う事をやめている黒は居ないからな」
「確かにそうだが」
「……協力を要請したら、それなりに力は貸してくれる」
冒険者を引退すると、手の甲の紋様は色が抜け
縁取りだけが残る。
白、黒の引退した冒険者はギルドで働いているものもいるし
学院の講師を引き受ける者もいる。だが、大体の元黒は
ぶらぶらと遊びながら、適当に依頼を受けているに違いない。
受けることができるのは、赤のランクの依頼までだが……。
依頼を受けることはできるが、冒険者ではないから
チームに入ることはできない。
強い敵を倒してほしいと依頼されることも
初見の敵を教えてもらえることもない。
ランクが上がった時の達成感や、黒であることの満足感。
強敵と戦う緊張感。未知の敵を想像するときの高揚感。
そう言ったものが、ごっそりなくなるのだ。
私には、その場所が色あせた世界にしか思えない。
それは、緩やかな死を待つことでしかない。
死ぬのなら、黒のままで。
冒険者のままで死にたいと、思っていた。
最後の最後まで、最強を目指すために……。
疑問に思ったことを、エレノアにぶつける。
普通は、私の力を疑うはずだ。チームの人間がそうだったように。
「私の力が衰えたとは思わなかったのか」
「……寝言は寝てからいえ。この戦闘狂が」
エレノアが、呆れたように私を見ているが
その目は、私を責めるように細めていた。
「……早まるな。私達はまだその準備ができていないだけだ。
いつか、緩慢な死を受け入れることができるようになる。
……。かもしれない」
その間は何だ?
どうして、セツナに話したことを知っていると一瞬考え
サーラが話したのだろうと結論付ける。責めるような視線は
私の一言で、サーラの事を考えたからだろう。
「……貴殿の気持ちが理解できないわけではない。
だが、自分の隣に居る者の事を忘れるな」
エレノアの言葉に、バルタスが頷き。
今まで、黙って私達の会話に耳を傾けていたサフィールが
私の手の中にある報告書を奪い取り、目を通してから口を開く。
「調査を依頼した人物の人選に、問題があるわけ」
サフィールが呆れたように感想を言い、エレノア達が苦笑する。
サフィールの言いたいことはわかる。
この人物達に、アルトのノートを見せてやりたいと思うほど
大雑把な報告がなされていたからだ。
彼等の見解は、私と同じ『魔物に異変を感じる』だった。
そしてやはり、報告書の最後にはサクラの文字が綴ってあった。
【魔物の異変に関しては、本格的に調査をする必要性を感じる。
その際、黒の単独調査ではなく必ず2人で行動するように。
大型の魔物に対する警戒を……】
サクラの指示は、いつも私達の命を最優先に組み立てられていた。
幸いなことに、私がかかわった総帥達は冒険者の命を優先させる
者達ばかりだったが、過去にはそうでなかった者もいたらしい。
「全員読み終わったかしら?」
リオウの言葉に、各々が頷く。
「それは、サクラが残していったものよ。
私宛の封筒にも、それと同じ報告書と様々な書類が入っていたわ」
「……」
「サクラは、最初から総帥の座を私に渡すつもりでいたみたい。
サクラが使っていた部屋には、今までの記録が事細かに記されていて
私が総帥になっても困らないようになっていた」
ポツリと、リオウが零す。
そして、すぐにハッとした表情を見せてから苦笑を浮かべ俯く。
そして、一度深呼吸してから顔をあげ
決意を宿した目で、私達を見つめながら口を開いた。
「総帥となる為に、努力をしつくしたサクラと同じ仕事ができるとは
今の段階では、口が裂けても言えませんが
総帥となったからには、少しでも早くサクラに追いつけるように
努力いたします。
黒の皆様には、ご迷惑をおかけすることもあるかとは思いますが
私達、ギルドに協力して頂けますようお願い申し上げます」
そう言って、頭を下げるリオウ達。
「……私達の権利が、脅かされぬ限り
私達は、ギルドに貢献することを約束する」
総帥が、変わった時にされる最初の挨拶。
冒険者はこの国の駒でなく、ギルドの理念をもう一度
心に留めるためのものらしい。
リオウの口から告げられた言葉は
きちんと心が込められていた。リオウもサクラ同様
いい総帥となるだろう。
私達は、総帥やこの国に忠誠を誓っているわけではない。
だが、私はこの国が好きだしこの国に何かあれば
命を懸けて守るだろう。この国が、このままの姿である限り。
挨拶が終わり、安堵した表情を見せるリオウ。
「サクラの報告書を、貴方達に渡すところまでが
サクラの仕事だと思ったの。そしてこれからが、私の仕事。
黒の会議を始めましょう」
彼女の言葉に、黒が全員頷き会議が始まった。
トリア草原の依頼に関すること。
魔物の異変に関することなどを話し合う。
魔物の異変に関しては、アルトのとっていた記録も報告にいれる。
その際、サフィール達がアルトのノートに興味を示した。
「今日の夜にでも、見せてもらえるように頼んでみるか」
「……そうだな」
バルタスとエレノアが、笑みを浮かべながら話す。
2人の楽しそうな様子とは反対に、サフィールがぼそっと呟いた。
「多分。僕は見せてもらえないわけ」
「……」
サフィールのつぶやきに
リオウ達は、不思議そうにサフィールを見て
エレノアやバルタスは、気の毒そうな視線を向けていた。
なぜかアルトは、サフィールには近づかない。
エレノアやバルタス、そして私とは楽しそうに話をするのだが
サフィールが、近くに来るとスッと離れていくのだ。
サフィールは、アルトの前では性格の悪さを押えているため
嫌われるようなことはしていないとは思うのだが……。
サフィールが、気落ちしていた以外は
会議は滞りなく進み、帰り際にサクラが使っていた封筒とは
別の色の封筒を渡され、目を通しておいてくれと言われた。
私達が帰る為に、立ち上がりかけた時
ヤトが何かを思い出したように、私達に視線を向け
「セツナにあまり迷惑をかけないように。
それと、ギルドの連絡を無視しないようにしてください」
「……」
「くれぐれも、セツナに迷惑をかけないように」
ヤトは同じことを2度も言った。
私達を何だと思っている。
ヤトの言葉に、適当に返事をし自分の家ではなく
私達は妙に居心地のいい、セツナの家へと帰った。
* ギルドイベント *
* セツナ視点 *
バルタスさん達に、入れてもらった珈琲を片手に
波の音を耳に入れ、ぼんやりとソファーに座っていた。
アギトさん達も、時々珈琲に口をつけながら
ギルドから持ち帰ったであろう、書類を眺めている。
「激しく面倒なわけ……」
サフィールさんが、そんな言葉を呟き
それに同意するように、アギトさんが答えた。
「確かに。ここ数回は、楽しめそうな人材は皆無だったしな」
「4年にいちどじゃなく、10年にいちどにすればいいわけ」
アギトさんが、手に持っていた書類をばさりと机の上に投げ置いた。
「エリオでも、参加させるか……」
アギトさんの言葉に、エリオさんがギョッとした表情をつくり
すぐさま、口を開いた。
「親っち! 冗談はやめてくれ!」
「赤のランクだぞ、参加資格はあるだろう?」
「俺っちは、絶対に参加しないからな!!」
「勝てばいいだろう?」
「ふざけんなっ!」
エリオさんの表情は真剣だ。
どうやら、エリオさん達にはアギトさん達の話していることが
理解できているようだ。昼食の準備をしている
酒肴のメンバーの人達も、苦笑を浮かべながら2人を見ていた。
そしてふと、エリオさんと目が合う。
瞬間、悪だくみを思いつきましたというような笑顔を浮かべ
エリオさんは、アギトさんに視線を戻した。
「誰か参加させたいなら、セツっちを参加させればいいっしょ。
そして、コテンパンに伸されちまえ! けっ!」
エリオさんは、相当腹に据えかねていたらしい。
言葉遣いがいつもより乱雑だ。虫の居所が悪いというのもあるだろうが。
「……」
「……」
エリオさんの言葉に、アギトさんとサフィールさんの眉間にしわが寄った。
「……セツナは参加する予定はあるのか?」
エレノアさんが、静かな声で僕に問いかける。
「僕には、何の話をされているのかわかりません」
僕の返事に、エレノアさんは一瞬驚いた表情を作り
そして、すぐ納得した表情へと戻った。
「……ああ。セツナは、まだ冒険者登録をして
半年と少ししかたたないのだったな」
エレノアさんの言葉に、今度は酒肴のメンバー達が目を見開いて僕を見ている。
「……4年にいちど、ギルドが所持している闘技場で催しがある。
参加資格は、赤のランクのみ。赤のランクの間に、一度だけ参加できる。
そうだな……武闘大会みたいなものか?」
なんか胡散臭い、武闘大会だな。
「……赤のランクなら、だれでも参加できるが
参加する条件として、払わなければいけないものがある」
「お金をとるんですか?」
「……いや。金ではない」
「なら、何を?」
「……自分のランクだ」
「え?」
「……自分のランクを、支払って参加することになる」
「それは、どういう意味ですか?」
「……簡単に言ってしまえば、自分のランクを掛け金にして
最後まで勝ち残れば、白のランクにあがるか
それか、白のランクを掛け金にして
黒に挑戦するかを選ぶことができる」
「……」
「……黒に挑戦し、黒に勝利した場合
手に入れることができるのは、黒の座だ」
「負けた場合はどうなるんですか?」
「……敗者は、紫の1/5ランクまで落とされるな」
「胡散臭い大会ですね」
思わず本音が出てしまう。僕の感想に黒の全員が、笑った。
エリオさんは、複雑そうな顔をして珈琲を飲んでいた。
セルリマ湖で、僕とアギトさんの会話を聞いたからこそ
このイベントには裏があると気がついているんだろう。
このイベントは罠だ。多分、ギルドの人間も大会に参加するに違いない。
よほど強くなければ勝ち残ることができない上に
勝ち残ったとしても、黒の座の誘惑に勝てる者は少ないだろう。
赤のランクの人間を、ごっそり紫のランクに落とすためのものだと思う。
実力があれば、白のランクもしくは黒への最短距離だろうけど……。
「戦闘の方法は? 勝ち抜き戦なんですか?」
「……バトルロイヤル方式だな」
この言葉で、誰がこのイベントを作ったのかがわかった。
何をやっているんだ。
「……説明が必要か?」
「いえ。意味は分かります」
「……そうか」
「この催しで、黒に勝利して
黒の座を手に入れた人はいるんですか?」
「……ああ、記録があるのは2人だけだ」
エレノアさんが、とてもいい笑顔でそう告げる。
「……知りたいか?」
「いえ、結構です」
きっと、長い時を生きてきて何度か名前をかえているようだから
その度に、ランクを上げていくのが面倒になったんだろうと予測がつく。
なので、エレノアさんから教えてもらう必要はないのだが
エレノアさんは、お構いなしにその人物の名を告げた。
「……1人は、ケルヴィーという人物だ。
そして、もう1人はジャックだ」
部屋の中の空気が、一瞬で変わった。
ここにいる全員、ケルヴィーがジャックだと知っている。
誰もが、エレノアさんを凝視していた。
今までずっと、昼食の下ごしらえをするために
手を動かしていた、バルタスさんも例外ではない。
「……彼は、いったい何歳だったんだろうな?」
「僕も、カイルの年齢は知りません」
「……あの魔道具から、ジャックの声が聞こえてきたときに
女性が、ジャックの事をケルヴィーと呼んだ。
どこかで聞いたことがある名前だと思ったが
その時は、思い出せなかった」
「……」
「……このことは他言無用だ」
エレノアさんは、そう告げ1人1人に視線を移した。
「……話を戻すか。
セツナが参加するというのなら、歓迎するが?
面白い催しになりそうだ」
「いえ、お断りします」
「……黒が負けたとしても
黒が何も失うものはない。参加してみたらどうだ?」
それは、僕が黒を倒してもいいと言っているんですか?
そっと、アギトさんのほうを見ると口角をあげて笑っている。
すぐに、アギトさんから視線を外しもう一度参加しないと告げる。
「参加はしません」
「……だろうな」
エレノアさんは、そう言って笑い。
アギトさんは「つまらん」と言って珈琲を飲んだ。
その後も、エレノアさんから色々と話を聞いていると
サフィールさんが、飲み終わった珈琲カップを厨房へと運び渡す。
「僕の分の食事はいらないわけ」
「フィーが居ないからといって、昼を抜くつもりか?
ちゃんと食え」
バルタスさんが、そう言ってサフィールさんを睨む。
「オウルの家で食べることになっているわけ」
「なぜだ?」
「顔合わせなわけ」
「ああ……。そうか」
「オウルの家に行く前に、寄るところがあるから
これから出かける。夜はここで食べるわけ」
「わかった」
それだけ告げると、サフィールさんは指輪に刻んでいる
転移魔法の魔道具を起動させて消えた。
オウルさんの家で顔合わせという事は
サクラさんの、魔道具を研究する人が決まったのかもしれない。
なら、もうすぐセリアさんが帰って来るかなと思った瞬間
セリアさんが、僕の真ん前に現れたのだった。
セリアさんの姿は、僕にしか見えていないらしい。
『話したいことが沢山あるから、お部屋に移動して欲しいワ』
セリアさんが、早く早くと僕を急かすので
珈琲カップを持ったまま、自分の部屋へと戻った。
部屋の扉を閉めると同時に、セリアさんが
先日購入したドレスが、とても素晴らしいものになっていたとか
装飾品がどうだとか。この時代のものは可愛いものが多いだとか
興奮したように話していく。
下着がとても可愛くて、相手が居たらケダモノ一直線だとか
どうでもいいことも教えてくれた。そんな情報はいらない。
頭から爪先まで、非の打ち所がないものが揃えられたらしい。
「大丈夫ヨ。花嫁が用意する物より高価なものは使っていないワ。
それに、お金も用意された範囲内だと話していたわヨ」
僕が、質問をするよりも早くセリアさんが答える。
確かに、リペイドとハルを比べれば
ハルのほうが品は豊富だろうし、価格も安い。
「マリアが、頑張った分のお金はとっていないみたいだけど」
「そうですか」
「ええ。マリアも楽しそうだったからいいと思うケド」
セリアさんは、よほど楽しかったのか
瞳をキラキラさせながら、事細かに教えてくれた。
「下着が本当に可愛いの! あんな下着初めて見たワ」
僕にはどのような下着かは、わからない。
詳しく説明し始めようとするのを、黙らせる。
しかし、セリアさんはめげなかった。
「2人がつけた姿が見たいわ!」
「……」
僕にどうしろというんですか?
「セツナー。記録の魔道具を送って
2人の姿を、記録して送るように言ってほしいワ」
僕は無言で、隣に座って話しているセリアさんに光魔法を使った。
「うわぁぁ! 何をするの!」
感電したかのような、動作をするセリアさんが
僕を睨んで文句を言ってきた。
「僕は、男なんですよセリアさん。
男の僕が、下着姿を記録して送れって言えるわけがないでしょう?」
「エー。ナントカナルワヨ」
「なりません。僕の信用を地に落とすだけです」
「うー。うー」
「唸っても駄目です」
「なら、ドレスを着た姿ならいいでしょう?」
お願い! とセリアさんが、サーラさんのまねをして僕を見上げるように見ている。
僕は一度ため息を落とし、笑う。
「それぐらいなら。マリアさんにも見せてあげたいですしね。
僕も興味があります。それに、ソフィアさんの花嫁姿も見て見たいですね」
「見たい! すごく見たいワ!」
「ノリスさんに、魔道具を送っておきます」
「お願いね! ついでに下着姿も……」
「却下します」
「こうなったら……。
マリアに着させるしかないワ」
「人に下着姿を見せる女性など
いないと思いますが」
「私は幽霊よ!
大丈夫。泣き落としてみせるワ」
何て迷惑な、幽霊なんだ……。
「セツナ。この前の若返る指輪をマリアに渡しておいてネ」
「お断りします」
「いいじゃない! セツナにもあとで記憶として見せてあげるから」
「……。絶対に貸さない」
後日、アルトがナンシーさんから手紙を預かって来て僕に渡す。
差出人を見ると、マリアさんからだった。
内容は、この前の指輪を貸してほしいというものだった。
セリアさんが、ちょこちょことマリアさんの家に遊びに行っているのは
知っていたから、セリアさんの泣き落としに落とされたんだろう。
本人が良いのならいいかと思い貸し出す。
きっと、マリアさんは僕に知られているとは思ってはいないだろうから
セリアさんには、その辺りは釘を刺しておいた。
僕が知っていることを伝えたら、二度と協力はしないと。
セリアさんは、楽しそうに頷いていたけどちゃんとわかっているんだろうか?
そして、指輪を貸し出したその日にオウルさんが疲れた顔をして
僕に指輪を返しに来た……。何があったのかは、なんとなく想像できた。
僕の所へ戻ってきたセリアさんは、残念そうに口を開く。
「オウルは、ケダモノにならなかったワ」
「……」
「マリアは、ものすごく可愛かったのニ!」
「……」
「次は何をしようかしラ?」
「大人しくしていてください」
僕の言葉に、セリアさんは小さく舌を出して
指輪の中へと消えたのだった。
ありがとうございました。