やっぱり男は見た目でしょう
2013年10月13日 後書きにおまけを追記しました。
コンビニのアルバイト店員の粟飯原亜子十七歳は、レジ台の内側に隠されている警報ボタンを思いっきり押した。
店内に大音量でけたたましく鳴り響くアラーム。警備会社にも通報が届き即座に警備員が駆けつけるはず。
コンビニで働いていて一番怖いのはコンビニ強盗。亜子が店員に採用されて最初に教わったことは防犯対策だった。
強盗に抵抗するな。
強盗の要求は全て飲め。
レジのお金を全部渡しても構わない。
身の危険を感じたら迷わず警報ボタンを押せ。
その輩が店の自動ドアをくぐったときから、亜子は一目見て不審人物だと判断していた。失敗したおかっぱ頭のようなボサボサの髪に白いタオルでねじりハチマキ。青い格子柄の半天に身を包み、その下には緑色のジャージが見えている。いまどきどこで売っているのか瓶底メガネを掛けていた。
強盗というには迫力に欠けるが、亜子は怪しいと思った。なぜなら、こんな恰好で外を出歩くなんて正気の沙汰とは思えないから。人は見た目が一番。イケメンは正義。即ちブサメンは悪。それもこのダサさときたらラスボス級だ。
ブサメンは店に入って中を見渡すと一目散にスイーツコーナーに向かった。亜子の視線がその後を追う。右手の人差し指を警報ボタンに軽くのせた。
ブサメンの後ろ頭がスイーツの陳列棚を左上から右下まで何度も往復している。
やがて挙動不審な往復運動は止み、大きく肩を上下させてから振り向いた。亜子はブサメンと目が合った、ような気がした。ブサメンが亜子に向かって突撃してきた。
だから亜子は迷わず警報ボタンを押した。
鳴り止まないアラームを聞きながら亜子は身をすくめた。
小太りの店長は外出しているし、バックヤードで作業しているはずのイケメンのアルバイト店員も出てこない。警備員が来るまでに襲われたら一巻の終わりではないか。
ブサメンはアラームに怯むことなく駆け寄ってきた。そして叫んだ。
「初恋ショコラはありますか!?」
言い終わるやいなやブサメンは駆けつけた警備員に後ろから羽交い締めにされていた。店が契約している警備会社はかなり優秀らしい。ブサメンは釈明をする猶予も与えられず取り押さえられてコンビニの事務所に連行された。初恋ショコラという謎の言葉を残して。
いや、単語そのものは謎どころか全国レベルで知れわたっている。いま大人気のコンビニスイーツのショコラケーキである。商品の質の良さと売り出し方の巧さがあいまって売り切れ店が続出しているという。かくいうこの店でも十分前に完売したばかりだった。
まさか、あのブサメンは初恋ショコラを買いにきただけ?
亜子がそのまさかと知るのは二十分後。事務所に呼ばれてからであった。
事務所で亜子を待ち受けていたのは、ごつい警備員二人と外出先から呼び戻された小太りの店長、そしてブサメン。騒ぎのあいだバックヤードで息を潜めていたイケメンのアルバイト店員は、亜子に代わってレジを担当している。
警備員が姿勢を正したまま亜子に問う。
「本人は買い物にきただけだと主張しているのですよ」
もう一人の警備員が後を引き継ぐ。
「身体検査をしても凶器らしきものは見あたりませんでした」
店長が困った様子でたずねる。
「この人に何て脅されたの? レジも無事だったけど何を要求されたの?」
三人の問いかけが詰問調に聞こえるのは気のせいだろうか。
確かに「金を出せ」とは言われていないし、刃物をつきつけられたわけでもない。
ブサメンは拘束を解かれて所在なげにパイプ椅子に座っている。
どうやら、亜子の早とちりを責める風向きになっているようだった。
だって怪しかったんだもん。迷わずボタンを押せってマニュアル通りにしたんだもん。
心の中で呟いた言葉は口にすれば言い訳にしかならず。釈然としない気持ちを代弁してくれたのは意外な人物だった。
「危険人物かどうか確かめてからでは本当に危険なときに間に合わないと思うのです。こちらの方の判断は賢明だったと思います」
そう言ったのはついさっきまで強盗扱いされていたブサメン。ボサボサ頭のタオルはちまき瓶底メガネ。半天を着込んでいても背筋がピンと伸びているのが見てとれた。
亜子は立ちすくんだまま、店長は平身低頭している。
「うちの店員が大変失礼なことをしでかしまして……」
「危険と思われた僕自身に反省すべき点がありこそすれ、思った方を責めるつもりは毛頭ありません」
あまりの潔さに亜子は呆気にとられ、警備員たちと店長は感嘆の溜息をついた。
亜子は自然に「ごめ……んなさい」と頭を下げた。謝罪の言葉としては拙くてもこれが精一杯だった。
ブサメンの表情は瓶底メガネで読めないけれど、首を横に振る動作は快く許してくれたように見えた。
警備員たちとブサメンが去ったあとの事務所で、店長は普段の朗らかさとは打って変わって厳しい表情を崩さなかった。
「人の好い方で本当に良かったよ。あの人はああ仰っていたけどね、名誉毀損で訴えられてもおかしくないんだよ? さっき粟飯原さんが来るまでにいろいろ聞いたんだけど、年は三十歳。職業作家で、名前は葉山駿介さん」
ちょっ……名前……! 爽やかすぎるだろう!? 名付け親出てこい!
「いま、名前と見た目が合ってないと思ったでしょう?」
図星を突かれて亜子はヘラヘラとまぬけな笑顔を見せた。ジロリと店長に睨まれる。小太りでまん丸の顔なのでいまひとつ迫力がない。
「次にいらしたときに失礼な態度を取っちゃダメだからね。こんな目に合ったんだから、二度と来ないと思うけど」
葉山は二度と来ない。亜子も店長の言うとおりだと思っていた。
しかし葉山は三日にあげずに店にやってきた。相変わらずのボサボサ頭のタオルはちまき瓶底メガネと半天。ジャージの色は青だったり赤だったり。さすがに黄色はまだ見たことがない。
「初恋ショコラはありますか?」
「売り切れました」
会話も恒例になった。
一度だけ違う商品を勧めたことがあった。
「チョコロールケーキも人気ですよ」
「初恋ショコラでなければダメなのです!」
葉山の言い方が今までになくひどく乱暴で、亜子は驚いて身を引いた。今度は葉山が亜子の反応に驚き、しゃっちょこばってお辞儀をした。
「申し訳ありません。初恋ショコラでなければならない理由をお話もせずに」
亜子は首を横に振った。葉山の見た目は好感度ゼロどころかマイナスだが、バカ丁寧な話し方は嫌いではない。
「僕はちょっとしたお話を書かせていただいているのですが、いま書いているもののテーマが初恋でして。しかし全くイメージが湧かなくて非常に困っているのです。初恋と名のつくものは全て見聞きしました。村下孝蔵の『初恋』から始まって、歌、ドラマ、映画、小梅ちゃんを何袋も舐めて舌をすり切らせましたし、レモンスカッシュもがぶ飲みしました」
レモンスカッシュはファーストキスの味じゃないの?
亜子もキスは未経験なので噂できいただけであるが。
「最後に行き着いたのが初恋ショコラでした」
ボサボサの頭でうなだれる葉山。半天を着込んだ背中も丸まっていてあまりにもみすぼらしい。この人に自分の経験を参考にしないの? ときくのは残酷に思えた。
今まで恋愛話を書いたことはなかったのかたずねた。
「冒険活劇やコメディばかりで恋愛はおまけ程度でした。主人公と幼なじみとライバルが登場すれば何とかなりましたから」
相変わらずの瓶底メガネで表情は読み取れないが、声の雰囲気で困り果てているのは伝わってくる。
出版社か編集者か、葉山に初恋小説を依頼したのはどこのどいつなのだろう。無茶ぶりすぎるとは思わなかったのか。
葉山が来店の成果無く帰ったあとに高梨が声をかけてくるのも恒例になっていた。
「あのおっさん、また来たの? 懲りないね」
亜子がアルバイト店員を始めたときから既にいた、一つ年上の高梨。強盗騒ぎのときにバックヤードから出てこなかったイケメンのアルバイト店員である。涼しげな目元と、こざっぱりしたシャツからのぞく鎖骨が眩しい。
かつて亜子は、高梨と話すと胸が高鳴ってやまなかった。自分から告白して付き合いたいとまでは思わない。付き合おうと言われれば付き合ってもいいくらいには好意をもっていた。なぜならイケメンだから。今もイケメンであることに変わりないのだが。
「それにしても『初恋ショコラ』って、よく口に出せるね。年を考えろって」
高梨の言うとおりなのであるが。葉山はブサメンで十三歳も年が離れたおっさんなのであるが。
なぜか亜子は高梨の言いぐさに腹が立ち「店内清掃してきます」とモップを手に取った。聞こえよがしに初恋ショコラのタイアップソングをハミングしながら高梨から距離をおいた。
三日後、葉山のコンビニ詣でに終わりの兆しがみえた。
亜子がバイトのシフトに入ると同時に入荷した初恋ショコラが、シフトを終えるまで売れ残った。勤務中は店内で買い物を禁止されているが、勤務外ならば自由である。亜子は勤務終了になると大慌てでタイムカードを押してから初恋ショコラを買った。
初恋ショコラのパッケージは透明なプラスチックの容器と黒色のフタに金のリボン。
透明なプラスチックの容器にサインペンで目立つように『あ』と書いて丸で囲んだ。こうしておけば、事務所の冷蔵庫に数日保管しておける。数日の間に葉山が来れば渡せばいいし、来なければ自分で食べればいい。一つ二百円。アルバイトでお小遣いを稼ぐ亜子にはさほど痛い出費ではない。
果たして翌日に葉山がやってきた。
「初恋ショコラあります!」
高梨にレジを任せて事務所の冷蔵庫から初恋ショコラを持ってきた。
葉山の表情がパアッと明るくなった……かどうかはわからない。瓶底メガネのせいでパッと見では表情が読めないから。まるで壊れ物を預かるように初恋ショコラを受け取った葉山の両手は小刻みに震えていた。
「意外と高級感のあるパッケージですね」
両手で掲げたまま眺めまわす。
「この『あ』は?」
「わたしの物という印です。個人的に買って共同の冷蔵庫に入れていたので」
「わざわざ買って下さったんですか」
「だって欲しかったんでしょ?」
高梨が「粟飯原さん、お客様並んでるよ」と言って亜子と葉山の会話を遮った。
亜子は慌てて
「二百円になります。スプーンをおつけしますか。レジ袋は御利用になりますか」
マニュアル通りの決まり文句を告げた。
「お願いします。あ印は『あいばら』さんの『あ』ですか」
「名前が『亜子』なのでそれも兼ねて」
「なるほど」
瓶底メガネの葉山。そのメガネの奥を亜子は見つめた。小さな目が笑ったように見えた。
それが、亜子が最後に見た葉山の顔だった。
それから二ヶ月。葉山はコンビニに現れなかった。もともと馴染みの客ではない。目的の品を手に入れれば用もないのだろう。
「ねえねえ、亜子ちゃん、今度遊園地に行こうよ」
最近、とみに高梨が鬱陶しい。いつのまにやら呼び名が粟飯原さんから亜子ちゃんに変わっているのも馴れ馴れしくて不快だ。以前ならば一も二もなく飛びついたであろう誘い文句も、いちいち断らなければならないので、ただ面倒に思えるだけだった。
ブサメンの葉山に会いたい。皮肉なことにイケメンの高梨に誘われてそれに気づいた。
会いたい人がいて、その人以外が色あせて見えるのならば、それは恋なのだろう。
葉山に行き着く手がかりにならないかと、書店やネットで『葉山駿介』著作の本を探したが見つからなかった。見た目通りの売れない作家だったのか。もしかしたら作家ですらなかったのかもしれない。
亜子がバイトを終えて、扉が開いたままの事務所の前を横切ろうとしたときに、中にいた店長が手招きしてきた。
「いま、テレビでイケメンが出てるよ。イケメン好きでしょう?」
「わたしもうイケメンは……」
「いいから、いいから。お茶飲む?」
返事を待たずに冷蔵庫からペットボトルのお茶を出して亜子に手渡した。急いで帰らなければならない用事もない。お茶を受け取ってソファに腰掛けた。
ペットボトルのキャップを開けて口をつける。テレビに目をやった。
日曜の報道バラエティ番組のコーナー。CM開け女性アナウンサーが高揚した口調で切り出した。
『引き続き、本日のゲストは、待望の新作が上梓したばかりの大人気作家、佐藤一郎先生です』
女性アナウンサーと半身向かい合って一人用ソファに腰掛けた男性が一礼した。その動作に女性アナウンサーが熱い溜め息をついた。
「その人、二枚目作家で有名らしいね」
店長が亜子をわざわざ呼び止めたのも頷けるほどの美貌だった。彼の前では高梨も霞んで見えるだろう。
亜子は笑い声を漏らした。
「佐藤一郎って……」
華やかな見た目に反して名前が地味すぎた。
『つい最近まで大変お忙しかったとか?』
『はい。今回の本と同時進行でもう一作書き下ろしてましたから。先日やっと入稿できました』
『またすぐに新作が出るのですか? ファンは大喜びですね』
『順調にいけば半年後くらいに店頭に並ぶと思います』
『執筆中にトラブルに巻き込まれたとか?』
『コンビニで強盗に間違えられてしまいまして、あやうく捕まりそうになりました』
亜子はお茶を喉に詰まらせた。
「似たような話もあるもんだね」
店長も苦笑いする。
『あら! 素敵な先生を強盗に間違えるなんて、ずいぶん酷い店員ですね。信じられません』
レジに突撃してきたのが佐藤一郎なら、わたしだって警報ボタンを押さなかったもん。
自分が責められているような気がして亜子は頬を膨らませた。
『さて、当コーナーのお約束『初恋の品』をご持参いただいたわけですが、こちらは……初恋ショコラのパッケージですか?』
『よくご存知ですね』
『大人気ですもの。『ケーキとぼくのキス、どっちがすき?』のキャッチコピーは流行語大賞になるのではと言われているくらいですから。お約束は佐藤先生ご自身の初恋の品ですが、その代わりに『初恋』つながりでお持ちになられた?』
『いいえ。僕の初恋の品ですよ。ここを見て下さい』
『丸の中に『あ』と書かれてますが』
『亜子の『あ』だそうです』
亜子は飲みかけのお茶をテレビに向かってジェット噴射した。
「ちょっと粟飯原さん! 何してくれちゃってんの!?」
事務所のテレビも冷蔵庫も店長が「店員が快適に過ごせれば」と持ち込んだ私物である。
お茶がしたたり落ちる液晶画面の向こう側で女性アナウンサーがしどろもどろになっている。
『こっ……この容器……最近っ……亜子って……えっ!?』
アナウンサーにあるまじき言語崩壊。佐藤一郎はゆったりとソファに座って笑みをたたえている。
なんのフォローも入らないままコーナーは終了してしまった。
ブサメンと思い込んでいた葉山の姿を思い返してみた。
ボサボサの髪の毛を切って櫛を入れ自然に後ろに流す。瓶底メガネの代わりにコンタクトレンズ。メガネの奥の目が小さく見えたのは度数がとんでもなく高かったということか。半天とジャージをやめて仕立ての良いスリーピースに着替えたら。
それはもう別人だ。
事務所に高梨が飛び込んできた。
「店に……なんか……」
彼もまた言語崩壊しているが言わんとすることは察しがついた。
店頭で亜子を待ち受けていた佐藤一郎は、テレビの中とは違うスーツを着ていた。
「葉山さん? 佐藤さん?」
「テレビを見て下さったのですね。録画でしたが最後を編集せずに流すと伺ってます。今年のハプニング大賞候補だそうです」
「どっちが本当ですか」
「本名は葉山で佐藤はペンネームです」
「どうしよう」
「どうされました?」
「ガッカリしてます。格好良い佐藤さんよりも葉山さんがいい」
亜子は恋を知ってイケメン至上主義ではなくなったと思っていたが、外見の好みのベクトルが変わっただけのことだったらしい。
「それは困りましたね。でもどちらも僕ですから問題ありませんよ」
彼はバカ丁寧な口調でこたえた。
<おまけ>
見た目は佐藤一郎の葉山駿介は言った。
「僕は粟飯原亜子さんが好きです」
「は……はい」
亜子は耳に台詞が入ったので反射的に返事をしただけである。
葉山が佐藤だっただけでも亜子は混乱状態だ。とうの昔にキャパシティは越えている。
それでもどうにかこうにか言葉を返す。
「ずいぶんハッキリいいますね」
「ええ。僕はもう三十歳ですから、恥ずかしがる年齢ではないでしょう。このさき些細な行き違いや思い違いはしたくないので、まずこの点は明確にしておきたい」
「なんで……」
「追々おわかりいただけるかと思いますが、それでは不安でしょうから敢えて一点あげましょう。一目惚れです」
一目惚れとは一目見た瞬間に恋に落ちることのはず。葉山の場合に当てはめると亜子に警報ベルを鳴らされたときを指す。
亜子はますます混乱した。聞くんじゃなかった。
「僕は亜子さんを亜子と呼んでもよいのでしょうか」
「よ……よい……です」
「それは亜子も僕を好きという認識で合ってますね?」
「あってますです。でも見た目は葉山さんが好き」
そこは亜子も譲れない線である。美醜の基準を狂わせた責任はとってもらいたい。
葉山は満足げに頷いた。佐藤の微笑みは恋の成就で美しさに磨きがかかり、もはや神々しいの領域まで達していた。
それでも亜子は葉山の瓶底メガネを愛しく思う。表情が読めないところもゾクゾクする。佐藤は美しすぎて胡散臭い。
「駿介と呼んでいただけると嬉しいです」
「そ、それはさすがに……」
「無理ですか。それは残念です。呼び捨てに憧れていたのですが」
葉山の様子をオノマトペで表すならばショボーンである。
三十男がどの面提げてと馬鹿にされても仕方がない。
しかしその三十男に惚れた亜子が、葉山を馬鹿にできるわけがない。わき上がる感情はほんの少しのいじらしさと、心が満腹になる愛おしさ。
「わ、わかりました!」
「ですます調も止めてくださいね」
そのバカ丁寧な口調で何を言う!?
「亜子の休みの日を教えて下さい。僕は自由業ですから僕が合わせます。アルバイトは週に何日ありますか」
「基本は土日。あとは水金に短時間とか」
「では明日は空いてますね?」
「空いてないですよ。学校だもん」
「これは失礼しました。てっきりフリーターかと。大学生でしたか」
「えー? わたし高校生ですよ」
葉山はあんぐりと口を開けた。
亜子は美形の男の顔が崩れる様を初めてみた。
いまのいままで亜子はどもりがちで、葉山は流暢に語っていたのが逆転する。
「と……年は!?」
「十七歳。ピチピチの女子高生でーす」
しばし葉山からの反応がない。
「どうしました?」
「未知なる衝撃に混乱しています」
額に手を当てて思案顔になっている。
「ちょっと、いろいろ計画を練り直さないと」
「なんでー!? まずはデートするんでしょ?」
付き合うっていうのはそういうことだと亜子は思っている。
「それは間違いないのですが、段取りとか色々……。まさか十代とは……」
「わたしが老けてるって言いたいんですかあ?」
「いいえ、それは違います。単に僕の経験不足ゆえの……」
語尾がどうにもハッキリしない。
葉山はしばらく逡巡した末に決断した。
「とりあえず、ご両親に一言挨拶させてください」
「げっ! なんでそうなるんですか!?」
「三十男が十代の女の子を連れ回したら、世間から何を言われるかわかったものではありません。いえ、この際世間はどうでもいいでしょう。君を大事に育てて下さったご両親には報告すべきだと思います」
「えー!? やだーっ! いちいちそんなことしている子いないよ!」
「三十男と交際するというのは、こういうことです。僕は覚悟を決めました。亜子も覚悟を決めて下さい」
葉山駿介は強引な男であった。