空の写真を撮るとき。
「ピリリリー」
自分の部屋で寝転んでいると
スマホがいきなり鳴って驚いた。
表示を見ると空羅からの電話だった。
いっきに鼓動が速くなり、
おそるおそる電話にでる。
「もしもし…」
「栞?俺だけど…」
「わかってるよ、表示でるんだから」
「だよな」
電話の向こうで照れてるのか、
へへっと笑う声が聞こえた。
その声を聞いて
こっちまで微笑んでしまう。
「どうしたの?」
「いや…、今週の土曜日って何か予定入ってる?」
「えっと…ちょっと待ってね」
学校用のカバンから手帳を取り出し
9月のページを見る。
「大丈夫。部活もないし、なんも予定ないよ」
「そっか。じゃあさ、どっか遊びに行かない?」
さっきよりも声が、
照れて聞こえるのは気のせいだろうか。
「うん、いいよ」
「やった!じゃあ、10時に駅の前の噴水でいい?」
すごい喜んでるなぁ。
声だけで何を考えてるか
わかってしまう。
「わかった。10時に噴水前ね」
「うん。…じゃあまた明日」
「はい、また明日」
電話をきって、ベッドに飛び込む。
「キャーー!」
思わず叫びながら手足をバタつかせる。
「姉ちゃん、うるさい!!」
隣の部屋の弟から苦情が飛んでくる。
それで声は止まったものの
手足のバタバタは止まらなかった。
ようやく落ち着くと、
重大なことに気づく。
「やば、服どうしよう!」
制服以外で会うのは初めてだ。
クローゼットを開き、悩んではいたが
土曜日が待ち遠しかった。
服よし、髪よし、メイクよし!
朝、いつもより早く起きて準備万端だ。
服は白いシフォンのチュニックに
明るいジーンズのショーパンをいれて
ネックレスとイヤリングを付けた。
今、一番お気に入りの服装だ。
髪型は毛先だけ内側に巻いて、
片方だけ耳のあたりまで編み込みをして
ピンで止めた。
よし、準備完了。と鏡をみつめながら
時計を見る。
「わ、もうこんな時間!」
カバンを手にとって部屋から飛び出す。
「あら、栞。オシャレしちゃって。大宮くんとデート?」
お母さんが嬉しそうに声をかけてきたが
それどころではない。
「なんでもいいでしょ!いってきまーす!」
「はいはい、いってらっしゃい」
家を出て、少しだけ走って腕時計を
確認するとここからなら歩いても
間に合う時間だった。
あまり走ってせっかく準備したのが
くずれたら台無しだ。
そこから歩いていった。
駅前に着くと、空羅が噴水の前で
待っていた。
顔も整ってるし、サッカー部なので
スタイルも良い。
遠目で見てると絵になっている。
少しの間見とれていると、
空羅がこっちに気づいた。
お互い歩き出して、
2人の中間地点で立ち止まる。
「おはよう」
「うん、おはよう」
改めてあいさつすると
少し恥ずかしい。
「栞、かわいい」
さらっとそんなこと言われて
嬉しいのと恥ずかしいので
顔が赤くなる。
ふふっと笑って私の頭をなでる。
付き合いはじめてからわかったのだが
空羅は頭をなでたり
軽く叩いたりするのが好きなようで
毎日一回は頭を触られてる。
「どこ行くの?」
空羅に言われるまま電車に乗ったが、
どこに行くのか全くわからない。
「どこだと思う?」
「えー、わかんないよ」
「だろうね」
困ってる私をおもしろそうに見ている。
「気になるじゃん。教えてよ」
「着いてからのお楽しみ、です」
「もう!」
ふんっと横を向くと大きな川が
流れているのが目にはいる。
「わぁ~、川きれいだね!」
水面が太陽の光を反射して
キラキラと光っている。
「本当だな。光ってる」
空羅の横顔はいつもより
とても優しい顔をしていて
ドキッとした。
待ち合わせのときから思っていたが
今日の空羅はいつもとちがう。
いつものヤンチャな空羅ではなく、
なんというか、とにかく優しい。
じっと横顔を見ていると、
こっちを向いて不思議な顔をした。
「いや、ごめん。なんでもない」
照れて赤くなり、そっぽを向く。
すると、空羅がいきなり
私の耳に顔を近づけた。
「俺に見とれてただろ?…かわいいな、栞」
耳元でささやかれて
ただでさえ赤い顔がもっと赤くなった。
「ち、ちがうよ!今日の空羅なんかいつもとちがうから」
「そうか?いつもと変わらないぞ。な、栞。ほら」
そう言って私の頭をくしゃくしゃと
なでまわす。
「せっかくきれいにしてきたんだから、やめてよっ!」
空羅はなでるのをやめて
私の髪を手ですきはじめた。
「栞、いつもよりかわいい。いつもかわいいけど今日はもっとかわいい」
「…反則だよ…」
甘いことをささやかれ、
もうなにも言えなかった。
空羅に連れてこられたのは
小さな水族館だった。
入り口で入場券を買おうとしたら
空羅に手をひかれた。
「あ、高校生2枚で」
そう言って2人分の料金を
払ってしまう。
「はい!」
2枚のうちの1枚を私にわたす。
「えっ、ちょ、お金は?」
「あのさ、俺、今栞の彼氏なんだけど。…彼氏がおごるのってあたりまえじゃん」
少し照れながら私を見る。
「ありがとう!」
嬉しくてにっこりしてお礼を言う。
「どういたしまして」
空羅はさっきより照れていた。
「うわぁ、見て、空羅!かわいい~」
水槽にかけより
ガラスにペタっとはりついている魚を
見つめる。
「ほんとだ!この顔面白くね?」
と、ガラス越しに魚の顔を
指でつっつく。
全然魚は動かなくて
2人で顔を見合わせて笑う。
「あっ、イルカショー、イルカショー見たい!!」
「イルカ好きなの?」
おもしろそうに聞かれて
はしゃぎすぎた自分が恥ずかしくなる。
「いや、子供の頃から水族館といえばイルカだなぁって思ってて…」
頭をぐいっとなでられて
空羅の顔を見る。
「いいよ!行こっか」
先を歩きだした空羅に追いつこうと
足を踏み出すといきなり振り返られる。
「ん」
そう言って差し出されたのは
空羅の片手だ。
「ん!」
差し出された手をギュッと握る。
「へへっ」
私がにやけた顔をして笑うと
手をつないでいる反対の手で
さっきの魚にやったみたいに
ほっぺたをつっつかれた。
イルカショーを見て、
ウキウキした気分で水族館を出る。
「ね、空羅!イルカ、かわいかったね~!めっちゃ飛んでたよね!」
「ほんと、輪っかとか飛んでたもんな。かわいかったな」
「うん!また見に来たーい」
そう言って楽しそうに笑ってる栞は
イルカをかわいいって言ってる、
お前の方がかわいいよと
空羅が心の中でつぶやいたことに
気づくよしもなかった。
お昼ごはんは水族館の近くの
ファミレスだ。
「なんかうちらってファミレス多くない?」
「仕方ねーじゃん。俺ら高校生なんだから」
だねーとつぶやいて、空羅と笑った。
空羅はドリアを、
私はパスタを頼んだ。
料理ができるまで
どうでもいいことを話す。
やっぱこういう時間、幸せだなぁ。
話しながら、ついつい顔がゆるむ。
ずっとダラダラと遠慮なく
話せるのは空羅だけだ。
一番一緒にいて安心できるひとと
付き合えて私は幸せだなと実感した。