金平糖の降る丘で。2
そのあと、大宮に連れていかれたのは
ファミレスだった。
メニューを開いて、
勝手にドリンクバーを2つ頼む。
「ねぇ、あんたが来たかったとこってここ?わざわざ連れてきたがってたとこってここ?」
大宮は少しいたずらっ子のような
表情をして、二カッと笑った。
「ちょこっと時間がかかるんだ、連れて行きたいところは。だから、ここで時間つぶし」
はぁっとため息をつく。
「いい加減どこ行くのか教えなさいよ」
「着いてからのお楽しみ、です」
「もう!」
私が怒ってるとき、
大宮はいつも楽しそうに笑う。
本当にふざけたやつだ。
結局2時間くらいファミレスで
ダラダラしていた。
夕焼けの時間に差しかかった頃、
大宮が腕時計を見てコップに
入っていたジュースを全部飲み干した。
「よし、行くぞ」
まだ、飲み途中だった私を
急かして店を出る。
「なんなのよ、全くもう…」
ファミレスから
15分くらい歩いたところで
先を歩いていた大宮が立ち止まった。
「着いたぞー!ほら」
そう言われて、
うつむいていた顔をあげる。
すると、そこには
金平糖をばらまいたような、
たくさんの綺麗な星があった。
感動して、言葉が出ないでいると
大宮が得意げに話し出した。
「すごい綺麗だろ。俺が中学に入ったときにここを見つけたんだ。はじめてきたとき一晩中眺めてたよ。栞と出会ってから、ずっとここに連れてきたいと思ってたんだ。ここに誰かを連れてきたのは、栞が初めてだ」
「どうして、私を?」
さっきまで少し得意げだった表情が消え、
真剣な表情になった。
「俺、ずっと決めてたんだ。誰かをここに連れてくるとしたら、それは自分が好きになった人だって」
「えっ?なんて…」
私は言いたかったことを
言い終わることが出来なかった。
私の口が彼の唇にふさがれたからだ。
驚いて、体が固まる。
混乱してどうにもできず、
ただ固まっていた。
大宮が私から離れたとき、
ふらついて寄りかかってしまう。
すると、
自分よりも太い腕にだきしめられた。
「栞が好きだ。多分、出会った時からずっと。ずっとここに連れてきたかった。でも、連れてくる時は告白する時だって決めてたからこわくて、勇気出なかった。けど、もう俺たち高校も半分終わっちゃっただろ?だから、残りの半分は栞のそばで過ごしたいって思ったんだ。だから、ここに連れてきた」
大宮が話すのをやめるとしんとして
星と空気だけの世界になったみたいだった。
私は大宮の腕に抱きしめられながら
必死にこの状況を理解しようとした。
そして、大宮の言葉の意味が
分かったとたん、体があつくなった。
高校に入って、すぐ大宮から
声をかけられて仲良くなってからは
私の隣にはいつも大宮がいた。
大宮が風邪で一週間休んだ時、
いなくてさみしいって思った。
そばにいるのが当たり前で、
好きかどうかなんて
考えたこともなかった。
大宮のそばにいれるのは楽しい。
もし、付き合ったら
今よりもっとそばに行けるということだ。
大宮のそばにいたい。
もっとそばに行きたい。
これって好きってことなんだ。
私、大宮が好きなんだ。
自覚するとなぜか
涙があふれて止まらなくなった。
私の嗚咽に気づいた大宮は
私をぱっと離し、顔を覗き込んだ。
「うそ、栞泣いてんの?ごめん、俺いきなりなにしてんだろうな。ごめん、傷つけちゃったな。ほんと、ごめん」
大宮は私の涙を傷ついたからと
勘違いしている。
ちがうのに、この涙は…。
「大宮が好き!そばにいたいの!今よりももっとそばにいたいの!」
泣きながら、
大宮の勘違いを直したくて必死に伝える。
すると、頭に手が乗りなでられる。
涙を拭って顔をあげると
大宮が見たこともないような
優しい顔で笑ってた。
「俺、今すごく幸せだ。ありがとう、栞。俺、栞のこと大好きだ。俺と付き合って欲しい」
私がこくりとうなづくと、
もう一度抱きしめられキスをされた。
次の日の朝。
「栞!起きなさーい!」
お母さんの声で目が覚めた私は
むっくりと起き上がる。
「ふあぁーっ」
伸びをして眠気をとばす。
スマホに手をのばし待受を開く。
時間を見るつもりで開いたのだが
待受を見て私の頭は
フリーズしてしまった。
いつもの飼い犬がおすわりしている
画面ではなく満点の星空に
なっていたからだ。
一瞬意味がわからなかったが、
すぐ昨日のことを思い出した。
星空を一緒に眺めてこの待受の
写真を撮ったあと、
家の近くまで歩いて帰った。
そこまではいい。
問題はその前だ。
私、大宮の彼女に
なったってことだよね!
告白されたことと同時に
キスのことまで思い出して
顔が真っ赤になる。
待って、どういう顔して
会えばいいのかわかんないよ!
多分大宮の顔を見た瞬間に
顔が赤くなってしまう。
あせってあたふたしていると、
下からお母さんが呼んだ。
「栞!いい加減起きなさい!もう6時半よ!」
「はーい!」
返事をして超特急で
着替え始めたのだった。
朝食を急いでかきこんでいると
チャイムが鳴った。
「はーい!こんな朝早く誰かしら?」
スリッパをパタパタさせながら
玄関へ走って行く。
ドアを開いて
やりとりをしている声がする。
「栞ー!お友達が来てるわよ!ごはんはもういいから早く行きなさい」
お母さんに急かされて、
玄関へ行くとそこには大宮がいた。
「おはよ」
大宮の顔を見て赤くなる。
「おはよう」
私がうつむきそうになったとき、
大宮に手を引っ張られる。
「では、責任持って栞さんをお預かりします」
少しふざけてお母さんにそう言う。
お母さんはにこにこしていて
「どうぞー!いってらっしゃーい」
とご機嫌だ。
大宮はお母さんに軽く会釈をして、
私の手を引っ張るのはやめて
軽くつないだ。
「もう!なんで家まで来るのよ」
「だって、彼氏だし」
また赤くなる私を見て笑う。
「ほんとかわいいよな、栞」
大宮がすっかり彼氏顏で調子が狂う。