覚(さとり)
初投稿です。至らない点が多いと思いますが、改善点や基本的なことなど、何でもいいのでご意見下さい!
内容的には救いのない話なので、そういった話が苦手な人は読まないほうがいいかもしれません。
『覚』
私は現在、大手企業に勤めている。他人からは、そんな会社で働けるなんて凄いなどと言われはするが、私はそうは思わない。いや、そう思えない理由があるのだ。
今日もまた残業を言い渡されるだろう。そんなことを考えながら仕事をこなしていると、案の定、上司から声が掛かる。
「新谷、相変わらずお前は仕事が遅いな。その書類、今日中にまとめろ。それとな、この書類は明日の早朝に提出しろ。分かったな」
もううんざりだ、何故私だけがこうなのだろうか。他の人間はどうだ? 皆、私と上司のやり取りを見て笑うだけだ。
心底、うんざりする。
「返事が聞こえんぞ」
「……分かりました」
怒りで私の声が震えている。それが上司を調子に乗らせ、他の人間の失笑を買う。
そんな毎日を私は耐えてきた。しかし、それももう限界らしい。
退社時間になると、皆はそれぞれ他愛のない話をしながら帰路につく。それは上司も同じことだった。残業を命じられ、無理難題を押し付けられた私は当然仕事を続けたままである。
それから数時間経過し、時刻は零時を回ったところか。私はようやく今日の分の書類をまとめることが出来た。それを憎らしい上司の机に、まるで癇癪を起こした子供が玩具を床に叩きつけるように提出してやった。客観的に自分に見ると、何と情けない姿だろうか。
会社を出ると、夜食を買いにコンビニに寄り、美味しくもなければ大した量でもない弁当を買うと、今日の早朝に提出しなければならない書類をまとめるため、さっさと自宅へ帰った。
私が一人暮らしを始めて、もうかれこれ七年目になるだろうか。大学に入ってから一人暮らしを始め、今日までずっとその生活を続けている。実家には一度も帰っていない。家族とは絶縁状態で、帰れるような状態ではないし、今更帰ろうとも思わない。
会社からそう遠くはない位置に自宅があるのが唯一の救いだろうか。もし電車を乗り継がないと行けないようなら、私はとっくに辞めていたに違いない。最も、今だって辞めたいと思っているが、生活がかかっているので辞めるに辞めれない。
その生活というのは何とも味気ないもので、私には現状を相談するような友人もいなければ、先述した通り、家族とも絶縁状態で、趣味もない、だからたまの休日は何をするでもなく呆っとしていることが多かった。
生きるために働いているのではなく、働くために生きている、そんな本末転倒な人生だ。
自宅に着いて手早く食事を済ませると、早速書類に目を通す。三年間も同じ作業を繰り返していると、流石に慣れもする。
私は手際良く作業を進めると、ふと過去を思い起こした。何故このタイミングにそんな思い出に浸ろうとしたのか私には分からなかったが、きっと意味があるのだろう。
昔は楽しかった。そう言う大人は多くいるが、私は本気でそう思う。この現状に何ら楽しさを覚えなければ、これからよくなるとも思えない。全てにおいて昔がよかったのだ。それもある一定の時期、その時期だけが今でも輝く宝石のように、私の記憶に印象深く根付いていた。
そう考えていると、私は無性に虚しくなった。いや、今に始まったことではない、もうずっと昔から虚しさを感じている。前述した一定の時期を過ぎてからずっと、私はただただ虚しかった。しかしこの数年は忙しさと、生きるために必死だったからか、何かを深く考えることもしなかっただけで、その実、ずっと虚しかった。
私の気持ちを理解出来る人間がいるだろうか? 人生で最も輝くはずの学生の時分から、常に虚しさに支配され生きてこなければならなかった人間の哀れさを、いや、理解出来るはずもないだろう、口では理解していると虫のいいことを言うだけで、何の理解も示さないのだから。
私は今まで抑えていた感情が溢れ出すのを感じていた。このままだと、年甲斐もなく泣いてしまうかもしれない。何だか全てが馬鹿らしくなってきたのが手に取るように分かった。つまらない家族との問題も、会社での問題も、私のこの虚しさも、もうその一切がどうでもよく思えてきたのだ、こんな気持ちになるのは初めてだ、私はここにきて初めて、ああ何と恐ろしい覚悟だろう! 自分を殺す決意をしたのだ!
私は作業机の一番下の引き出しから、唯一手元に残る過去の記録、所謂アルバムというものを取り出すと、懐かしい気持ちに包まれながら、ページをめくっていった。
このアルバムは、最も楽しかった時期に撮影した写真しかない。小学一年から小学四年までの写真、最も輝いていた私の記録。とはいうものの、殆ど写真など撮っていなかったのだから、大したアルバムではないのだが、それでも、今の私にとっては最も頼れて、縋れるものに違いなかった。
私はその時期に、ある一人の少女と出会った。名前は結といい、この結との記憶が私の全てであり、私の後悔すべきことでもあった。
結と撮った写真は一枚もない、あるのは思い出だけだった。
無性に、結との思い出を記憶の中で眺めたくなった。そうすれば、如何にあの時期が輝いていたものか、改めて認識出来るはずだ。
小学生になったばかりの頃、私は他の人間と変わらず、新しい環境に期待を覚えているような、そんな当たり前な子供だった。それもそうだろう、その時分から悲観的で生きることを虚しく感じるような子供がいて堪るものか。私は多聞に漏れず、ありきたりな人間だったのだ。
入学から少しして、頻繁に遊ぶような友達も出来て、休日には家族と遠出するような至極普遍的な生活を送っていて、そしてこの頃だ、結と出逢ったのは。
当時、学校から少しばかり離れた所に山があり、そこが遊びの主だった場所だった。学校が終わり、掃除係りなんていう面倒な作業も終わらせ、私達は一目散に山へ向かったものだ。どんなに早く行っても、必ず誰かがいたものだから、私達の陣地は実にこじんまりとしたものだった。陣地というのは、簡単に言えば自分達が遊んでいい場所のことで、今にして思うと花見のような感覚で、私達は何か、大人になった気分でいたものだった。
ある程度遊び慣れてくると、新しい遊びを考えるのが常だが、私達もそこは変わらず、山で遊んでいる他のクラス、他の学年、他校の生徒を交え、陣取り合戦を始めていた。遊び方は至って簡単で、各陣地に置かれた旗を取ったら勝ち、そんな単純なものだった。
さて、陣取り合戦を楽しんでいた私は、普段行かない場所に行ってしまった。この山はそんなに大きくはなく、迷いやすいような山ではなかった。遊ぶ場所から離れなければ迷うはずなどなかったが、私は実績が欲しかったので、無理を承知で山奥まで進んでしまった。当然そこに陣地はなく、私は途方に暮れ、とうとう涙が流れそうになったそのとき、私の目の前には果たして、見たことのない少女が、不思議そうな顔をして立っていたのだ。
私は女の子の前で泣くなんていう、そんな恥ずかしいことが出来るかと、一端の男の子の意地を持っていたので、溢れ出そうな涙を抑え、少女に「誰だよお前!」というような、実にぶっきらぼうな言葉を投げ掛けた。すると少女は、「私は結だよ、君は?」と返したきたので、私と結はそんな何食わない会話から、親交を深めることとなった。
時間は進み、私が二年生になった頃、私はもう結としか遊んでいなかった。友人達とは違い、並々ならぬ魅力を少年ながらに、私は結から感じ取っていたのだ。
今まで遊んでいた連中から女と遊ぶなんてお前は男じゃない、そんな風に言われたものだが、私はそれでも結と遊ぶことを止めなかったし、彼女もそれを喜んでくれているようで、何だか私は、それがとても楽しく、秘密めいたものがあって、殊更結から離れられなくなっていたのを覚えている。
それからはずっとそんな風な日々を過ごしていたが、そういった、普遍的な幸せというものは、長くは続かなかった。
小学四年になり、少しすると、両親は目に見えて荒れ始めた。毎日のように言い争いをしたり、酷い時には怒りと勢いに身を任せた暴力すら振るうようになっていた。
幼い私はそんな光景を見せられ、精神的に酷く脆くなっていったのは、最早、言うまでもなかった。
家族が壊れ始めても尚、私は結と会うことを止めなかった。いや、寧ろ、だからこそ会い続けていたのかも知れない。
学校に行っても、授業を真面目に受けることが少なくなり、授業中はずっと上の空で、数少ない友人(友人といってもそこまで仲がいいわけではなかった)と話すこともなくなり、教師から事情を問われても、何一つ話す気にはなれなかった。そんなものだから、私は徐々に孤立していった。
それでも、そんな私の、決して埋まらない心の空白を、結は埋めてくれようとしていた。不思議な話だが、彼女は私の望むもの、例えば、今でこそ煩わしいと思うような同情の言葉をかけてくれたり、家族や友人、つまるところ、当たり前な関係が崩れてしまった私を、実に献身的に気遣い、腫れ物を扱うような風でなく、ごくごく当たり前に接してくれたり、まるで、暗く沈む一方の私の心を読んでいるかのように、兎にも角にも、私は結と接する時間だけが、何よりの救いであったことは、疑いようもなかったのである。
だが、悲しいかな、結との関係も直に終わろうとしていたことを、そのときの私が知る術などありはしなかった。もし、そんな結末を知っていたのならば、私の人生はもう少し違ったものになっていたかもしれない。
ある時期、テレビで特集が組まれるほどの、ある玩具が流行り始めた。当然、私の学校も例外ではなかった。それがどういう玩具なのかはどうでもいいことだが、兎にも角にも、流行ったものなのだ。
私もその玩具を欲しいと思っていた。しかし両親は子供の声を聞くことなど、とうの昔に放棄していたし、小遣いなんてものは貰えなかったので、私はどうあってもその玩具を手に入れることなど出来はしなかった。一時は、褒められたものではないが、万引きを考えたこともあった。現にその当時、万引きが多発していたのだから、私がそういった考えを持つに至ったことを、誰が責められよう。しかし、そんなことをする勇気もなく、とうとう私はその玩具を手に入れることが出来なかった。
ある日、クラスの連中がその玩具で遊んでいるのを、私はいつものように、悔しさに満ちた目で眺めていたところ、グループの一人が何を思ったのか、私を遊びに誘ってきた。私は、その頃には人を信用出来ないものだと、子供ながらに、実に歪んだ考えを持ってしまっていたが、その玩具の誘惑に負け、グループに加わったのだった。
初めて触る玩具に、私は感動のあまり言葉も出なかった。更に、何と幸運なことか、私にその玩具をくれると言い張るのだ。願ってもいない言葉に、私はもう有頂天でいたが、そこからどん底に突き落とされようとしていたことなど、当然知りはしなかった。玩具をくれる条件、その条件が私を悩ませ、私の人生を変えた、最悪の分岐点であったことを、どうして知ることが出来よう。その条件というのは、結と絶交して、二度と関わるな。そういったものだった。私は何故そんなことをしなければならないのかと、疑問に思ったし、結を裏切るなんて、出来るはずもなかった。そう、なかったはずだった。
結果を言えば、私は結を裏切った。理由を聞く彼女を突き放し、たかが下らぬ玩具のために、あの無垢で献身的な結を、私は完膚なきまでに裏切ったのだ。そして彼女はそれ以上何も言わずに、消えてしまった。
最悪なことに、私は玩具をもらうことが出来ず、心には大きな穴が空き、永遠に消えない後悔を背負うこととなって、当然自業自得ではあったが、実に救いのない人生だと、すっかり絶望してしまっていた。私はその後、図々しくも、呆れ返るほど図々しくも、恥を知らずに結に会いに行ったのだ。さあ笑ってくれ、下らん玩具のために少女を裏切り、浅ましくもまたその少女に縋ろうとしていた私を、笑ってくれ。嘲笑されて罪が許されるなら、私はどんな屈辱にも耐えてみせるし、結と再びあの頃のような関係に戻れるのなら、どんなことだってする。しかしもう遅いのだ、何をするまでもなく、もうどうしようもないのだ。
結に会いに、いつもの山へ行った私を待っていたのは、実に虚しいものだった。どうしようもないくらいに、虚しいものだった。そして、結に対する罪悪の念が、より一層、私の歪んだ魂に渦巻いていくものだった。いつも結と待ち合わせをしていた場所にあったのは、あれほど私の満たされない心を光で溢れさせ、両親や、学校や、その他あらゆるものに絶望していた私の魂を救ってくれていた、そんな結を裏切ってまで欲しいと願った、下らない、実に下らない、あの一過性の、何度も繰り返そう、下らない、全く下らない、あの玩具だった。
私はそうやって結を裏切った。今でも後悔をしているし、自殺をしようとしているこの時でさえ、結に対する後悔が、私の心に満ちている。
外を見れば、もうすっかりと朝になっていた。私は私服に着替えると、アルバムと財布、携帯電話、頑丈な紐を持って外へ出た。
出勤時間だからか、多くの人間が行き交う道を、私は歩いている。もう自分を殺すことしか考えられず、半ば放心状態といった塩梅で、私は駅へと向かっていた。会社からだろう、携帯電話がうるさかったが、わざわざ応える必要もないだろうし、今更話すことなどありはしない。あるとすれば、今までの恨み辛みだけ、しかしそれだって、今やどうでもいいことだった。それほどまでに、私は死ぬことしか考えていなかった。いや、考えられなかった。
電車に乗り込むと、手近な席に座り、そこから景色を眺めた。今までにない景色、毎日雑務に追われ、こんな景色を見たことがなかった。色々な人間が、色々な表情を見せる。電車の窓から、一瞬で通り過ぎる人間が、まるで走馬灯だと言わんばかりに、私の脳裏に刻まれていく。
私は実に、数年振りに母校の、そこから離れた場所に聳える山を目指している。自分を終わらせるのなら、やはりそこがいいと考えたからである。このまま電車に乗っていれば数時間で辿り着くだろう。それまでの間、今まで味わったことのない、この感覚を楽しみたかった。まるで死にたくないという考えが浮かんできそうではあるが、それら一切を否定した。
私は一睡もしてはいなかったが、何だかいやに目が冴えていて、普段よりもかえって調子がいいように感じられた。これが、あらゆる束縛、例えば家族とか、仕事とか、そういったしがらみから脱した人間の、何と清々しい気分だろうと、私は実に晴れやかだった。私を見た人間が、よもや私が自殺をしようなどとは、思いはしないだろう。それほど、私は良い気分だったのだ。
それから一頻り、車窓から覗く景色を堪能すると、いよいよ目的地が見えてきた。実に懐かしい気分だが、私はそれよりも何故か、記憶に眠る最も輝いた景色、そのはずの記憶が、どうしたことか、全く見たこのない、新鮮なものとして私の目に映るのだ。私は心が今までないほどに躍るのを、まるで、子供が新しい玩具を買ってもらうときような、実に気分がいい、素晴らしく気分がいい、とてもこれから自分を殺そうとしている人間だとは、全く以って思えない、思えないくらいに、車窓から見える晴れ渡った空のように、澄みきっていた。
駅に到着し、私は子供に戻った気分で電車から降りると、あの頃のように、学校へ歩いていくように、件の山へと向かうのだった。
歩きながら、もう見納めになるだろうと、懐かしき街の、懐かしき空気を楽しみ、二度とは訪れないと思っていたこの街で、あの頃とは変わらないな、ここはもっと人を集めるために、流行の施設なんかを設ければいいなどと、そんな風な塩梅で、やはり、自殺をする人間の精神状態とは到底思えなかった。いや、もしかすると、既に気が違っているかもしれないなと、私はニヤケながら歩いた。山へ向かう途中、こうした考えが止め処なく溢れ、それらに対し、何かしらの結論じみた考えを口に出してみたりと、やはり私はどこか、気を違ってしまっているらしい。そもそも自分を殺すのだ、気が違っていて然るべきだろうと、私は声を出して笑った。
山の麓に辿り着くと、俄かにあの頃の記憶が甦り、夏の日差しが照り注ぐ、緑がうるさいくらいに主張するこの山に、流れる汗を拭おうともしないで、半ズボンを履いた少年らと遊んだときの、帰りたくても、手を伸ばしても、叫んでも、願っても、何をしたって戻らない、私は唯一、誰一人として成し遂げることが出来なかった過去に戻るという偉業を、これから行うのだ。
山を登るのはそう苦でもなかった。少年の時分のような活発さを失ったとはいえ、それでも楽なものだった。ここを登れば、私は耐え難い柵の一切を絶つことが出来て、あの頃に戻ることが出来るのだ。それを思えば、身体が空を駆けるように、軽くなるのだ。
丁度こんな時期だったな、私はそう漏らすと、青い空を覗くことが出来る木々の隙間、そこから射す光に、途方もない郷愁を覚えた。
あの時分と何一つ変わらない道すがら、忘れることなど出来ないあの場所へ、自分の意思とは関係なく動く足が、何とも心地よかった。
そう、ここを曲がれば辿り着く。あの場所へ辿り着く。ここを抜ければ――
私は持参した頑丈な縄を、この辺では大きい木の太い枝に巻きつけると、その枝に座る。木登りをしたのは久し振りだったが、やれば出来るものだなと、今日何度目かの笑いを溢した。
首に縄を巻きつけると、いよいよ準備は整った。このまま枝から飛び降りれば、死ねるだろう。窒息するのか、首の骨を折るのか、それは関係のないことだ、ようは死ねればいい。
山の木々を撫でるように吹く風は、それはもう気持ちがよかった。柔らかい光が緑を照らし、その緑は山を彩り、私の心を満たすのに、十分なほどだった。
今更そんな思いが生まれたところで、私が今日ここで死ぬという事実は、揺るぎないものなのだ。
私は視線を、空から宙ぶらりんになった足元に移すと、そこに幻を見た。その幻は想定外の幻で、最も望むべき幻で、最も避けたかった幻だった。
「……どうして死のうとするの?」
あの時と、姿形、声、一切が変わらず、彼女はそこにいた。
「知ってるよ、私。君は、私を嫌いになっていなかったんだよね、全部知っているよ。だから死ぬ必要なんてないと思うよ。あの日から、随分と辛かったんだね、可哀想な子。でもね、いつまでも過去を見てちゃいけないよ。思い出はね、前へ進もうとする足を引っ張るから、だから、前だけを見て。ほら、こうしている時でさえ、君は私へ手を伸ばそうとしている、それじゃ前には進めない。お願いだから、私を想わないで、お願い。君は生きているんだから、前へ行かないと。私は何も気にしていないから、私に罪悪感とか、後悔とか、そんな気持ち、必要ないから。でもね、心の弱い、誰よりも優しい君のことだから、きっと自分を責め続けているんだろうなって、それだけは気になっていたんだよ。だからね、お願い、私に手を伸ばしちゃ駄目だよ――」
これは私が、私に都合のいい幻を見ているのだろうか。そうだろう、きっとそうだろう。私は彼女の全てを裏切ってしまったのだ。そんな私を許したりするものか、だからこれは、私が作り出した幻、何とも性質の悪い、ゆめまぼろしなのだ。なのに彼女は、結は何故笑っているのだろうか、私を見て、何故そうまで優しい微笑みを向けてくれるのか。それは、私の記憶に残る彼女が、いつも笑っていたからに違いないのだ。私がこう思っているときでさえ、私に憐憫の眼差しを向けるのだ。だから、何から何まで、私が生み出した幻なのだ。
だから私は結に、許してほしいとは思わない、それでも結に、今更何を話せばいいのか、分からない、分からない、それでも結に――
手を伸ばし、結のもとへと、前へと向かったが、何か強い力に阻まれた。
私の姿を見て、結が叫んでいた。しかしその叫びが何を意味しているかは、私に知る術などなかった。
読んでくれた方、まずはありがとうございます! そしてお疲れ様でした!
こんな短い話でも大変でした。小説っていうのは難しいです。
文章力や表現力を上げたいし、話の引き出しも多くしたい。
人間の心理状態を深く書いた本や、脈動感溢れる戦闘描写のある小説でおすすめないですかね