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抜けがら

作者: たんぽ

目を開けると部屋の天井がみえた。

「その男」にとっての憂鬱な時間が始まる。いつも、だいたい昼過ぎに起き、一日中ぼーっとして、飯を食う時以外はほとんど動かず、時がすぎるのをパソコンと共に待ち、朝方に寝るという生活だ。男は今二十歳だ。男はすでに人生に別れを告げた気でいた。昔、男の心は優しく、繊細だった。繊細であるがゆえに男は他人の目がとてもきになり、人に良く思われようとふるまい、人に気を使い、自分が他人のにどう映っているのかばかりを考えて生きていた。毎日なにかでコーティングされた自分で外出していた。男の心は

「なにか」に押しつぶされていくのを男は感じていた。特に日常に変わった事もなく、ぬりかためた自分でも人に良く思われればそれでいいはずなのに、男の心はいろいろな感情が混ざりあって、なぜか男の目からは涙が出て来た。男は思った。なんで人は心なんてもっているのだろうか、と。切なさ、悔しさ、空しさ、悲しさ、いろんな色の感情が混ざってとても男にはわからない見たこともない色に心は染まっていく。つまり二十歳の今の男は心がもやもやして張り裂けそうで苦しい、そんな感情を生み出す

「心」を胸の奥底にしまったのである。心をしまってから約1年がたつだろうか。

        男は久しぶり、といっても1年ぶりだが、外出していた。パソコンを新しく買い換えるためである。ただただ目的地に向かって足下から3メートル先を見てひたすら足を進める。そしてやっと店についた。狙っていた新作を親のお金で購入しようと店員を呼ぶと、若い女の店員がやってきた。

「いらっしゃいませ、こちらの商品でよろしいでしょうか」男は下を向いたまま、

「うん」とうなずく。その時だった、女店員が1か月の給料では弁償できないほどのパソコンを中身を確認中に落としてしまったのだ。あわてて拾うがディスプレイが無残にもわれていた。女は客がいるまえで店長に怒鳴られていた。家族以外の人と久しく話していなかった男だが女店員を客の前で怒鳴り散らした後に営業スマイルですぐに代わりの商品を用意して作り笑顔の店員になぜか男はいらっとした。久しぶりに感じたこの感情、しかし男はその感情を押し殺し、無言で代金を払う。そして店の外に出た。久しぶりの人との接触で緊張していたのか、男は妙な解放感で店の外へ出てすぐ、たばこを一本吸っていた。暖かい風が吹き抜ける。

「気持ちいいな」男は心の中でそうつぶやいた。ふと店の裏手に目を向けるとさっきの女の店員が泣いていた。男は見て見ぬふりをしてその場を立ち去ったが、なぜか引き返してきてしまった。まだ女の店員は裏で泣いていた。男の早く家に帰ってまた部屋に閉じこもりたいという感情を抑えるかのように足は店の裏側に向かう。男は無言でティッシュを差し出した。その女は

「さっきのお客さん?」といってすぐ

「ありがとう」と赤い目で男にほほ笑みかけた。その瞬間男が奥底に追いやった感情が少し動いた。男は無言でその感情を抑え込む。が、男は感情とはうらはらに

「元気だしてね」と優しく声をかけた。その瞬間、心の中で男は久しぶりに人と話して、こんな言葉をかけている自分にとまどいを感じていた。

「ホントにありがとうございます、頑張ります」女は目を赤くしながら精一杯男にほほ笑んだ。男はとっさにこれは自分なのか自分自身に問いただす。こんな言葉を女にかけて励ましているのは自分かと問いただす。と、女は駆け足で裏口へと向かい頭を下げた後ほほ笑んで中へ入って行った。



男は帰路についた。

駅には疲れた顔をしたサラリーマンや楽しそうなカップルなど、人であふれかえっていた。

男は来るときはバスできたのだが帰りは電車にしたようだ。

男は人ってなんなんだろうかと考えた。

時間にしばられて動き、人との関わりを崩さぬように努力し、結局はお金のため?なんのために人はこんなに頑張っているのか?男は必死に考える。男に答えはわからない。その人には人には分からない自分だけの経験をしてきている。それがたとえ男のような経験であっても。つまり外見なんかで決して人なんて分からないんだと男は感じた。そう思ったら外見や他人の視線にこだわっていた男は少し楽になった感覚を覚えた。

「みんな頑張ってんだよな。なに逃げてたんだ俺は」男は今までの自分を振り替える。小さい事にばっかにこだわっていた自分にふと気付く。




電車を降りると綺麗な夕焼けが見えた。男は数時間前の自分を外から見れるようになっていた。今日のこのちょっとした出来事は必然的に起こった事かも。なんて夕焼けをみながら男は空にほほ笑んだ。抜けがらのようなものをおいて、男は家に帰った。何年かぶりに勇気をだしてみた。

「ただいま」



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― 新着の感想 ―
[一言] コテコテな人を私も知っています。 思うに…その人は、きっと誰よりも優しくて、怖がりなんだと思います 誰かに嫌われたくないっていうのは、きっと、傷つけたくないって事か、傷つけられたくないかのど…
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