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 愛夢=アム=   作者: ミヤーン
7/10

エピソード


 きみと出会って一年になるよね。

 あれからいつもきみにはたすけられたよね。


 テストの結果が悪かった時。

 友達とケンカをした時。

 失恋をした時。

 ブルーな時。

 病気の時。

 …エトセトラ。


 きみのおかげで、わたしはいつも元気でいられた。

 そのお礼といっては何なんだけど、きみの記憶を小説にした。

 タイトルはそのまんま『きみの記憶』。

 書き始めたのはひと月前。


「普通、こんな場合、唄を作るんじぁないの?」

 と、きみはいっていたけれど、作詞作曲には自信がなかった。


 ー∞ー∞ー∞ー


「『きみの記憶』が仕上がれば『携帯小説』に投稿しようと思ってるんだけど。…いい?」

 と、きみにいった。


「もちろん」

 と、きみは答えた。


「ほんとにいいの?」


「そりゃ、ナナの作品なんだもの。ナナの自由にしていいよ」


(きみはわたしのことを『ナナ』と呼び捨てにする)


「でも、きみの記憶を、きみの視点で描いた作品だから…」

 と、わたしは念をおした。


「そんなの関係ないよ」

 と、きみは光速でかえした。


「よかった」


 わたしは久々にワクワク気分を味わった。

 そんな『ワクワク気分』に、きみは何かいいた気だった。


(少しのの後)


「ちょっといい?」

 と、きみは疑問系で語尾を上げた。


「なあに?」

 と、わたしは首をかしげた。


「ほっぺをチュ~って吸っての、あの、ひよこのくちばしなんだけど」


「かわいいでしょ。それがどうかしたの?」


「アム、そんなことしてないんだけど」


(きみは自分で自分をアムとよぶ)


「あぁ、そのこと。きみと、わたしの、差をつけたかったのよ」

 と、わたしは答えた。


「差を?」

 と、きみには理解できないようだ。


「わたしは考える時、ほっぺをプ~っとフグのように膨らます癖があるでしょ。だからきみはその反対」わたしは解説をした。「きみが『ごまかし』大嫌いなのよく知っているけど、小説にはかかせないのよ」


「ふーん。そんなもんなんだ」

 と、きみはとりあえず納得模様。


「そんなものなの。小説って奥が深いのよ」

 と、わたしはいってやった。


「差をつけるためにごまかすことが、奥が深いって訳? それも単純に正反対なんて…」

 と、きみもそれには負けていない。


「う・る・さ・い」

 と、わたしはわざとしかめっ面。


「それに、どうしてアムが意識を失ったところで終わりなの?」

 と、きみはちょっぴり真面目な質問。


「一人称の小説だから、きみが意識を失っているところを描けないし…。それに…」


「それに?」


「きみは救助された後、鬱に襲われたでしょ」


「…」


「やっぱ、一人称の小説なので、鬱に襲われたきみの語りも不自然だし」わたしは正直に答えた。「…っていうか、そんなアムを描きたくなかったし」


(わたしもたまにはきみのことを『アム』とよびすてにする)


「…そっか。でもなんか尻切れトンボみたい」きみはそこを突いてきた。「後味わるくない?」


「…まだ後編が残ってるの。(後編)ぼんやりとうかんでるんだけど、角度の違う視点から描くので、どの道あそこは尻切れトンボ。わたしエンディング苦手だから、今、四苦八苦してるところ」


「大丈夫だよ。ナナは深く考えるんで難しくなるの。もっと軽い気持ちで。さぁ、肩の力を抜いて」


「うん。わかった。でも、わたしの小説は自称、超小説。小説を超えた小説。それゆえ、深く考えてしまうの」


「うん。わかった。頑張って」


「ありがと」


 わたしはきみに励まされ、元気がでてきた。

 そんな『元気』にきみはまだ何かをいいた気だった。


(少しのの後)


「それに、思うんだけど。…タイトルの『きみの記憶』ってのがイマイチ」

 と、きみはいちゃもんをつけた。


「そうかな。じゃあどんなのが、いい?」

 と、それでもわたしは意見を聞いた。


「んーと。〇縄霊域」


「絶対、ヤだ」


「じゃあ、色情魔」


「もっと、ヤーだ」


「冗談。冗談」

 と、きみはキャハハと笑った。


「もっと真面目に考えてよ。どうして、売れないホラー小説のようなタイトルになるのよ」

 と、わたしは口を尖らせた。


「ホラー小説って何?」


「怖いって意味の…。怪奇小説かな。たぶん…」


「嘘の小説かと思った」


「それなら、ホラー小説じゃなく、ホラ小説」


「ふん。ふん。じゃあ、こんなのは、どう」と、きみ。「ナナの大冒険」


「わたし、冒険してないし」


「小説を描くことが冒険」


「なるほど。それも一理あるか」と、わたし。「でも、ダメ」


「じゃあ、アムの大冒険」


「あの、ねぇ…」


 へへへ、と笑って、きみのジョークはまだ続く。「その時ぼくはきみの過去を知った」


「なんなのよ、それ。どうして『ぼく』なの?これでもわたし女の子なんだけど…」


「その時ナナはアムの過去を知った」


「どっちにしろ、ボツ」


「その時フグ顔のモテないナナはアムの美貌に嫉妬した」


 ニヤっと笑って、わたしはさり気にドスを効かす。「お・こ・る・よ」


「アムの過去を知ったナナは小説を描く。そして読者は未来にはばたく蝶になる」


「長すぎー。それにどこから蝶がでてくんのよ」わたしは声を張り上げた。「だいたい、小説を描く、なんてタイトルありえない!」


「ありえない小説」


「もういい。きみの記憶、でいい!」


「ありえない小説家」


「誰かありえないのよ」


「ナナが」


「ふざけてる?」


「ちょっとだけ」きみはちょぴり声を下げた。「…でも、…マジに、ありえない小説家、ってタイトルいいと思わない?」


「ない。ない。ない」


「じゃあ、ありえる小説家は?」


「ありえるなんて、よけいにありえない!?」


「じぁあ、普通に、小説家、ってのは?」


「小説家のどこが普通なのですか?」

 と、わたしはわざと敬語でいった。


「小説家は普通じぁないのですか?小説家が耳にすれば、気を悪くされるのでは…」

 と、きみも敬語でかえした。


「もぅ。むかつく。小説家ってタイトルが普通じぁないのよ」


「ナナは、普通のタイトルにしたいの?」


「そういう訳じぁ…」


「じぁあ、小説家、に決定!」


「誰がそんなタイトルに惹かれるのよ。わたしなら、そんなタイトルの本、絶対買わない」


「憧れの小説家」「夢みる小説家」「目指せ小説家」「1、2の3で小説家」「5、6、ナナちゃん小説家」

 と、きみのジョークは止まらない。


「買わないものは買わない!」

 と、わたしはムキになる。


「じぁあ、とっておきので」心の中のきみは、まだそれをひっぱる。「〇説家になろう」


「ンっ、もうー」 心の中のきみにツっこむ。「意味わからん」


 最近、アムと喋ると最後はいつもこうだ。

 いわゆる普通の女子高生の会話。

 アムも『この時代』の娘に染まってしまった。


 きみは「んー」と考えるている。


 もちろん、それはタイトルではなく、笑い、をだ。

 きみに相談したのが間違いだった。


「もう、アムには決めさせない」わたしはふくれっ面になる。その途端、何かが湧きあがった。「…愛夢に決めた」。


 ー∞ー∞ー∞ー


 わたしは何かを考える時、ほっぺをプ~っとフグのように膨らます癖がある。

 小説もその顔で描いている。

 そうすると、頭の回転がよくなる。


 アムのジョークにふくれっ面になった時、頭が回転した。

 考える時に、ほっぺを膨らます癖が逆に反応したのだ。

 ほっぺを膨らましたので、ひらめきが湧き上がったのだった。


 わたしは『きみの記憶』を書き始めた時の初心にかえった。

 小説の書き出しの都合上、『あむ』というところをどうしても漢字に変換し、演出したかった。

『安室』で『あむ』は小説の性質上だめだ。


『愛夢。愛舞。亜夢。亜舞。編む』の四通りのかわいい文字プラスワンが頭ん中にうかんだ。


 わたしはその時、これだ。

『愛夢』だ。と決めた。


 それはまっ先にうかんだ文字だった。


 小説のテーマは『愛』と『希望』。

 …『愛』。

 それに、希望。即ち、『夢』…。


 もっと早くに気づくべきだった。

 いわゆる灯台下暗し。


 タイトルは『愛夢』だ。

『愛夢』の他にはない。


 ー∞ー∞ー∞ー


 わたしは小説の書き出しには自信がある。

 だけど、いつも途中までで後編を残している作品が多い。


『きみの記憶』改め『愛夢』も書き出しはスムーズにすすんだ。


 でも、今までの作品同様、『愛夢』も後編でつまづいた。


 でも、アムに励まされ、やっとこさで仕上げることができそうだ。


 自分でいうんは何なんだけど傑作になりそうだ。

 だから沢山の人に読んでもらいたい。


 携帯小説に投稿しようと思ったのも、正直それなのかもしれない。


 わたしは、それがアムへの『供養』になると自分にいいきかせた。

 それでも内心、アムが猛反対するのでは、と思っていた。

 でも、それは一人苦労だったよね。


 残すは、後編だ。


 わたしは、アムからのアドバイスを素直に受け入れ、軽い気持ちで、肩の力を抜いた。


 そして、、、


 ほっぺをプ~っとフグのように膨らまし、後編を描き始めた。



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