エピソード
きみと出会って一年になるよね。
あれからいつもきみにはたすけられたよね。
テストの結果が悪かった時。
友達とケンカをした時。
失恋をした時。
ブルーな時。
病気の時。
…エトセトラ。
きみのおかげで、わたしはいつも元気でいられた。
そのお礼といっては何なんだけど、きみの記憶を小説にした。
タイトルはそのまんま『きみの記憶』。
書き始めたのはひと月前。
「普通、こんな場合、唄を作るんじぁないの?」
と、きみはいっていたけれど、作詞作曲には自信がなかった。
ー∞ー∞ー∞ー
「『きみの記憶』が仕上がれば『携帯小説』に投稿しようと思ってるんだけど。…いい?」
と、きみにいった。
「もちろん」
と、きみは答えた。
「ほんとにいいの?」
「そりゃ、ナナの作品なんだもの。ナナの自由にしていいよ」
(きみはわたしのことを『ナナ』と呼び捨てにする)
「でも、きみの記憶を、きみの視点で描いた作品だから…」
と、わたしは念をおした。
「そんなの関係ないよ」
と、きみは光速でかえした。
「よかった」
わたしは久々にワクワク気分を味わった。
そんな『ワクワク気分』に、きみは何かいいた気だった。
(少しの間の後)
「ちょっといい?」
と、きみは疑問系で語尾を上げた。
「なあに?」
と、わたしは首をかしげた。
「ほっぺをチュ~って吸っての、あの、ひよこのくちばしなんだけど」
「かわいいでしょ。それがどうかしたの?」
「アム、そんなことしてないんだけど」
(きみは自分で自分をアムとよぶ)
「あぁ、そのこと。きみと、わたしの、差をつけたかったのよ」
と、わたしは答えた。
「差を?」
と、きみには理解できないようだ。
「わたしは考える時、ほっぺをプ~っとフグのように膨らます癖があるでしょ。だからきみはその反対」わたしは解説をした。「きみが『ごまかし』大嫌いなのよく知っているけど、小説にはかかせないのよ」
「ふーん。そんなもんなんだ」
と、きみはとりあえず納得模様。
「そんなものなの。小説って奥が深いのよ」
と、わたしはいってやった。
「差をつけるためにごまかすことが、奥が深いって訳? それも単純に正反対なんて…」
と、きみもそれには負けていない。
「う・る・さ・い」
と、わたしはわざとしかめっ面。
「それに、どうしてアムが意識を失ったところで終わりなの?」
と、きみはちょっぴり真面目な質問。
「一人称の小説だから、きみが意識を失っているところを描けないし…。それに…」
「それに?」
「きみは救助された後、鬱に襲われたでしょ」
「…」
「やっぱ、一人称の小説なので、鬱に襲われたきみの語りも不自然だし」わたしは正直に答えた。「…っていうか、そんなアムを描きたくなかったし」
(わたしもたまにはきみのことを『アム』とよびすてにする)
「…そっか。でもなんか尻切れトンボみたい」きみはそこを突いてきた。「後味わるくない?」
「…まだ後編が残ってるの。(後編)ぼんやりとうかんでるんだけど、角度の違う視点から描くので、どの道あそこは尻切れトンボ。わたしエンディング苦手だから、今、四苦八苦してるところ」
「大丈夫だよ。ナナは深く考えるんで難しくなるの。もっと軽い気持ちで。さぁ、肩の力を抜いて」
「うん。わかった。でも、わたしの小説は自称、超小説。小説を超えた小説。それゆえ、深く考えてしまうの」
「うん。わかった。頑張って」
「ありがと」
わたしはきみに励まされ、元気がでてきた。
そんな『元気』にきみはまだ何かをいいた気だった。
(少しの間の後)
「それに、思うんだけど。…タイトルの『きみの記憶』ってのがイマイチ」
と、きみはいちゃもんをつけた。
「そうかな。じゃあどんなのが、いい?」
と、それでもわたしは意見を聞いた。
「んーと。〇縄霊域」
「絶対、ヤだ」
「じゃあ、色情魔」
「もっと、ヤーだ」
「冗談。冗談」
と、きみはキャハハと笑った。
「もっと真面目に考えてよ。どうして、売れないホラー小説のようなタイトルになるのよ」
と、わたしは口を尖らせた。
「ホラー小説って何?」
「怖いって意味の…。怪奇小説かな。たぶん…」
「嘘の小説かと思った」
「それなら、ホラー小説じゃなく、ホラ小説」
「ふん。ふん。じゃあ、こんなのは、どう」と、きみ。「ナナの大冒険」
「わたし、冒険してないし」
「小説を描くことが冒険」
「なるほど。それも一理あるか」と、わたし。「でも、ダメ」
「じゃあ、アムの大冒険」
「あの、ねぇ…」
へへへ、と笑って、きみのジョークはまだ続く。「その時ぼくはきみの過去を知った」
「なんなのよ、それ。どうして『ぼく』なの?これでもわたし女の子なんだけど…」
「その時ナナはアムの過去を知った」
「どっちにしろ、ボツ」
「その時フグ顔のモテないナナはアムの美貌に嫉妬した」
ニヤっと笑って、わたしはさり気にドスを効かす。「お・こ・る・よ」
「アムの過去を知ったナナは小説を描く。そして読者は未来にはばたく蝶になる」
「長すぎー。それにどこから蝶がでてくんのよ」わたしは声を張り上げた。「だいたい、小説を描く、なんてタイトルありえない!」
「ありえない小説」
「もういい。きみの記憶、でいい!」
「ありえない小説家」
「誰かありえないのよ」
「ナナが」
「ふざけてる?」
「ちょっとだけ」きみはちょぴり声を下げた。「…でも、…マジに、ありえない小説家、ってタイトルいいと思わない?」
「ない。ない。ない」
「じゃあ、ありえる小説家は?」
「ありえるなんて、よけいにありえない!?」
「じぁあ、普通に、小説家、ってのは?」
「小説家のどこが普通なのですか?」
と、わたしはわざと敬語でいった。
「小説家は普通じぁないのですか?小説家が耳にすれば、気を悪くされるのでは…」
と、きみも敬語でかえした。
「もぅ。むかつく。小説家ってタイトルが普通じぁないのよ」
「ナナは、普通のタイトルにしたいの?」
「そういう訳じぁ…」
「じぁあ、小説家、に決定!」
「誰がそんなタイトルに惹かれるのよ。わたしなら、そんなタイトルの本、絶対買わない」
「憧れの小説家」「夢みる小説家」「目指せ小説家」「1、2の3で小説家」「5、6、ナナちゃん小説家」
と、きみのジョークは止まらない。
「買わないものは買わない!」
と、わたしはムキになる。
「じぁあ、とっておきので」心の中のきみは、まだそれをひっぱる。「〇説家になろう」
「ンっ、もうー」 心の中のきみにツっこむ。「意味わからん」
最近、アムと喋ると最後はいつもこうだ。
いわゆる普通の女子高生の会話。
アムも『この時代』の娘に染まってしまった。
きみは「んー」と考えるている。
もちろん、それはタイトルではなく、笑い、をだ。
きみに相談したのが間違いだった。
「もう、アムには決めさせない」わたしはふくれっ面になる。その途端、何かが湧きあがった。「…愛夢に決めた」。
ー∞ー∞ー∞ー
わたしは何かを考える時、ほっぺをプ~っとフグのように膨らます癖がある。
小説もその顔で描いている。
そうすると、頭の回転がよくなる。
アムのジョークにふくれっ面になった時、頭が回転した。
考える時に、ほっぺを膨らます癖が逆に反応したのだ。
ほっぺを膨らましたので、ひらめきが湧き上がったのだった。
わたしは『きみの記憶』を書き始めた時の初心にかえった。
小説の書き出しの都合上、『あむ』というところをどうしても漢字に変換し、演出したかった。
『安室』で『あむ』は小説の性質上だめだ。
『愛夢。愛舞。亜夢。亜舞。編む』の四通りのかわいい文字プラスワンが頭ん中にうかんだ。
わたしはその時、これだ。
『愛夢』だ。と決めた。
それはまっ先にうかんだ文字だった。
小説のテーマは『愛』と『希望』。
…『愛』。
それに、希望。即ち、『夢』…。
もっと早くに気づくべきだった。
いわゆる灯台下暗し。
タイトルは『愛夢』だ。
『愛夢』の他にはない。
ー∞ー∞ー∞ー
わたしは小説の書き出しには自信がある。
だけど、いつも途中までで後編を残している作品が多い。
『きみの記憶』改め『愛夢』も書き出しはスムーズにすすんだ。
でも、今までの作品同様、『愛夢』も後編でつまづいた。
でも、アムに励まされ、やっとこさで仕上げることができそうだ。
自分でいうんは何なんだけど傑作になりそうだ。
だから沢山の人に読んでもらいたい。
携帯小説に投稿しようと思ったのも、正直それなのかもしれない。
わたしは、それがアムへの『供養』になると自分にいいきかせた。
それでも内心、アムが猛反対するのでは、と思っていた。
でも、それは一人苦労だったよね。
残すは、後編だ。
わたしは、アムからのアドバイスを素直に受け入れ、軽い気持ちで、肩の力を抜いた。
そして、、、
ほっぺをプ~っとフグのように膨らまし、後編を描き始めた。