表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも俺は勇者になれない  作者: 梨屋茄子
それでも俺はやって(ry
1/4

食料捕獲大作戦

「ソフラー、レノアー! そっち行くわよー!」

「アクロさんの誘導、成功したみたいですね、ソフラさん」

「えぇ、まずは第一段階クリアなのだわ。ところで…………リーオとアリエルの二人は何処に行ったのだわ?」

「あれ? おかしいですね? ついさっきまで後ろに付いてきてたんですけど……」

「まぁ良いのだわ、きっと後から来るのだわ。さて、ここからはワタクシの刀が唸っ……て……ん? ……あれ?」

「ど、どうしましたソフラさん? 早く構えてください」

「レ、レノア……緊急事態なのだわ。刀が抜けなっ……ふんぬっ! くっ!」

「えぇぇ……!? 何で突然選ばれた者しか抜けない伝説の剣仕様になってるんですか、そういうの今は要らないですよ!」

「うぅ。きっと、この前斬った魔物の血が錆びて固まったせいなのだわ……」

「でも、私の魔法が発動するまでは時間かかります。ソフラさんと一緒に目標を足止めするって作戦なのに……」

「このままじゃ、せっかく誘導した目標が素通りしてしまうのだわ……」

「いやいやいや……この通路は行き止まりですから素通りしませんよ! 私たちに直接ぶつかってきますって!」

「し、しまったのだわ……!! 逃げ道が……」

「おおーい」

「……あれ、今アリエルの声が……」

「こっちこっちー」

「あ、アリエル!? 貴方、そんな壁の上に立って、一体何をしているのだわ!?」

「ほいっ…………っとと……着地・成功☆」

「グ○コのポーズをビシィと決めなくても良いのだわ……で、あんなところで何を」

「あははは、よそ見してたら迷っちゃってねー。こっち側からソフラ達の声が聞こえたからさ」

「ま、まぁ良いのだわ、もうすぐ目標が到着するから早いとこ準備を頼むのだわ」

「そのことなんだけど……えっとねー、ボクって何すれば良いんだっけ?」

「……」

「……」

「二人とも、ボクの事をお医者さんが黙って首を横に振る時のような深刻な顔で見つめないでほしいな」

「あれほど懇切丁寧に説明したというのに……忘れてしまうとは思ってもみなかったのだわ……」

「えぇ。私も、アリエルさんの事少し甘く見ていたみたいです……」

「というか、ワタクシが描いてあげた説明図はどうしたのだわ?」

「えっと……これのこと?」

「そうそう、それを見れば良いのだわ」

「んー……。だって、ソフラの絵下手すぎてグチャグチャってしてて……ほら、見てよレノア」

「うわ」

「ちょちょちょ、待つのだわ。元はと言えばアリエル、貴方が、やれ文章だと場面が想像出来ないなぁだの、ボクにはソフラの言葉が難解すぎるよだのイチャモンつけるから、仕方なくその図を描いて……というかレノア、今うわって……! うわって……!」

「ごめんなさいソフラさん……でも、これはちょっと……私にも解明出来ない特殊な図式が含まれているみたいで」

「ああもうっ! だから、ワタクシは文章で説明する方が得意だと言ったのだわ!」

「そんなことボクに言われてもなぁ……」

「ところで、肝心のリーオは何処行ったのだわ?」

「居るぜー」

「あれ、今リーオさんの声が聞こえませんでした?」

「うん。リーオならボクと一緒に迷ってたから、この壁の向こう側に居るよ? 実を言うとリーオもね、作戦よく分かってないみたいなんだ」

「あのバカ……一度説明しただけで俺分かりましたみたいな顔で頷いてたから変だと思ったのだわ……ちょっと、リーオ! 早いとこ壁登って、こっち側に来るのだわ!」

「マジかよ……こんな高い壁を俺が? 鬱だ……」

「アリエルですら登れたんだから、男の貴方なら楽に登れるのだわッ!」

「おぉ……そう言われちゃあ仕方ないな! どれどれ……ふんぬっ! くっ……ぬっ!」

「この壁って凹凸が少ないから結構登り辛いですよね?」

「そっかなー?」

「……ふっく……! ぜはぁ! ぬんっ……!」

「この子は昔から、驚くほど頭が悪い反面、驚くほどに手先が器用なのだわ」

「待ってよ、ボクはバカじゃない」

「はいはい。一足す二は?」

「イチタスニーワ? えっと、どこの言葉?」

「……」「……」

「二人とも、捨てられた子犬を拾わないんだけど哀れみつつ遠くから見つめているような視線が、ボクに突き刺さってる。やさしさがいたい」

「ぜぃ……はぁ……アリエルはあんなに楽々と登っていったのに……つうか、どうやって登ったんだ、これ……取っかかりないぞ……」

「分かってはいたけれど、リーオがこの壁を登るのは不可能みたいなのだわ」

「ボクがロープで引き上げようか?」

「それが良いのだわ。後でアリエルに頼むのだわ」

「とにかく今は時間がありませんので、アリエルさんにはもう一度作戦を説明します。リーオさんも、そこで耳をすませて聞いておいて下さいね!」

「うん!」「お、おうっ!」

「今回のクエストの達成目的ですが、目標の群れの撃破もしくは捕獲です。

目標というのは、頭に生えた太い角で突進して襲いかかってくる四足歩行の魔物です」

「ヨンソクホコウ?」

「ちょっと凶暴な牛さんだと思っておいて下さい」

「なるほどね」

「今、私たちが居るこの通路は全体が大きな迷路状になっています。

牛さんの、突き当たりを右に進んでいきたい気持ちを考えた結果、牛さんが最後にたどり着くのがこの場所なんですね。

まず始めに、アクロさんが牛さんの群れをこっちですよーってしながら、今私達が居るこの通路に、一頭ずつおびき寄せてくれます」

「それに関してはひとまず成功したのだわ……合図から考えて、もうすぐ一頭目がここに」

「えっと……ごめんレノア。もうちょっとかみ砕いて説明してほしいなぁ、なんて……」

「すでに離乳食並にかみ砕かれているのだわ」

「つまり……もうすぐ、牛さん、こんにちは、ってことですね」

「わかりやすいね!」

「アリエル、貴方もう少し言葉について勉強した方が良いのだわ」

「えっと……ぜんちょします」

「善処ですね」

「ぜんしょします」

「そういう便利な言葉だけは覚えるのが早いのだわ」

「次にソフラさんが、やってきた牛さんを食い止めている間に、私が魔法によって牛さんの動きを止めます。

凍結系の魔法なので効果は高いはずです」

「レノア先生、トーケツケーとはなんですか?」

「つめたくてカチンコチンです」

「かちんこちん。ふむふむ」

「最後に、リーオさんが牛さんを撃破したら、アクロさんへ合図して、次の一頭を通路へと誘い込んでもらいます。これを何度か繰り返して、牛さんの群れを一頭ずつ減らして狩っていくんです」

「……んー。それで、具体的にボクは何をしたら良いの?」

「アリエルさんは、リーオさんが変態モードになるために彼を興奮させる役割ですね」

「ヘンタイモード?」

「アリエル。貴方、その脳の記憶領域にいったい何をそんなに詰め込んでいるのだわ?」

「皆との想い出、ぷらいすれす」

「その想い出の中に、リーオも混ぜてあげるのだわ」

「リーオさんて、普段は非力で不器用で使えない人ですけど、ものすごく興奮すると、変態モードになって恐ろしく強くなりますよね?」

「そうだっけ」

「非力で不器用で使えない……か。まぁ否定は出来ないけどさ……」

「うわぁ。す、すいませんリーオさん! つい本音が……」

「……うん、そうだよね、それが本音だよね。い、いいよ……たまにはレノアになじられるのも悪くない、続けてくれ」

「あははっ。レノアってば、リーオは非力で不器用で使えないだけじゃないよ。ニートが抜けてるって」

「お前もニートだろうが」「貴方もニートなのだわ」「アリエルさんもニートですよね」

「しゅん……」

「というか、いつの間に変態モードって名付けられてたんだ……もっと何か他の言い方は無いのか……英雄モードとか怪力モードとか……」

「変態モードで十分なのだわ」

「とにかくリーオさんの不思議な体質を利用しない手はありません」

「それで、ボクはリーオと何をすれば良いの?」

「そうですね。えぇと例えば、リーオさんの耳元で激しく喘ぎ声を上げたり、罵詈雑言を浴びせかけながら蹴ったり殴ったり……」

「アエギゴエ? バリゾーゴン?」

「何か不穏な単語が聞こえたぞ」

「問題ありません。もしくは、胸元を大胆に開けて誘惑を……胸元を……胸……?」

「ソフラ……気付いたのだけれど、これは完全に人選ミスなのだわ……その役目、アリエルやワタクシ達には荷が重すぎるのだわ……」

「そうですね……。私もそう思います」

「ねぇ二人とも、何でボクと自分たちの胸を見比べながら悲しい顔をするの? 三人ともペタン娘なのが関係しているの?」

「ぺ、ペタ……!? わ、私は……ソフラさんよりありますからねっ」

「レノア、貴方は何でさりげなくワタクシを貶めようとしているのだわ?」

「……か、感度も良好なんですからッ!」

「ブッパァ! か、感度も良好、だと…………んふ、ふふっ!」

「ちょちょちょ……レノア少し落ち着くのだわ。というか、リーオ! 貴方何を想像しているのだわ! 今すぐにその破廉恥な妄想をやめるのだわ!」

「んっふっふっ……そうはさせん、そうはさせんぞ!」

「しまったのだわ……完全にトリップしたのだわ……」

「あはは! って……あ、見て見てアクロだよ。おーい!」

「皆ー! 来たわよー! もちろん準備は出来てるわよねー!」

「これはグッドタイミングですね。セクシー担当のアクロさんならリーオさんを興奮させ……って……あれ?」

「な、何でアクロがこの通路内に入ってきているのだわ?」

「……ふぅ! 久々に全力で走ったから疲れたちゃったわよー! …………ん? リーオはどうしたの?」

「リーオさんなら、この壁の向こう側で妄想の世界に浸っています。ところで、アクロさん……何故ここに?」

「何故って……何よ? アタシもしかして要らない子?」

「貴方、目標の誘導はどうしたのだわ?」

「あぁ。そりゃあもう大成功よ! もうすぐアタシを追いかけて、目標の群れが大群なしてやってくるわ!」

「は?」「へ?」「ふーん」

「さぁアンタ達の腕の見せ所よ、気合い入れなさい! って……ん? ソフラ、どしたの? 般若とナマハゲとひょっとこを足して五で割ったような顔して……笑えるわよ? その顔」

「呆れているのだわ!」

「えぇとですね、アクロさん……作戦では目標を一頭ずつ、この通路内へとおびき寄せる手筈だったと思うんですが……」

「そうだっけ? いや、でもソフラから貰った説明図だと、目標の群れっぽいのが通路に矢印で誘導されてたわよ?」

「あー。ほんとだ、確かにこの図だとそう見えるね。むしろ、そのようにしか見えないよね」

「なるほど。このミミズが数匹絡まりあって出来たおぞましいクリーチャーみたいな絵が、目標なんですね」

「もうこれ以上ワタクシの心の傷に触れないでほしいのだわ! というか、アクロ、まさか貴方まで作戦の説明を聞いてなかったのだわ!?」

「いや、聞いてたんだけどね。ソフラの説明やたらと難しい単語やら面倒な言い回しが多くて、尺も長かったじゃない? だから、後でレノアに聞き直そうと思ってたんだけど……この説明図貰ったしどうにかなるかなって思ったのよ」

「あれ? ちょ、ちょっと待って下さい……? そうすると、ここってもの凄く危険なんじゃないですか? 目標の大群がまとめて」

「そうそう。アタシも自分のやる事以外はイマイチ分かってなかったから、あんな大群を一網打尽にするなんて度胸あるなぁって思いながら誘導してきたわけなのよ。目標が四足歩行の魔物って事だけはバッチリ聞いてたから、牛っぽいのを想像してたけど、ありゃ牛っていうよりもバッファローよ、バッファロー!」

「だからこそ、一匹ずつ狩る予定だったんです……」

「それと、見た目に反して予想以上に足が速いから怖かったわー。もしもソフラが囮役だったら、確実に串刺しにされてたわね、あっはっはっは!」

「え……? 情報によると、足はそれほど速くないはずですよ? ……赤いものを見て興奮しない限り……赤い、もの……」

「……赤……なのだわ」

「そっか、アタシの赤い髪を見て興奮しちゃったのかな?」

「アクロさん。髪の色もまぁ、そうなんですけど……」

「貴方……何でいつの間にかそんな挑発的な真っ赤装備で固めているのだわ! ついさっきまで地味な服装してたというのに!」

「あー、これ? いや、地味な服装だと気分乗らないからさぁ。ちょっくら着替えて来たのよ……でもほら、似合うでしょ? ねっ?」

「人選ミスなのだわ」

「ですね、どうしましょう」

「そんなの問題ないわ。ソフラがお得意の刀捌きでバッサバッサと斬り伏せれば良いじゃない。アタシも加勢するわよ」

「刀が無事なら、そうするのだわ……」

「ソフラさんの刀、錆びてしまったらしくて……」

「ぷふっ……ソフラ、アンタやっぱり刀錆びさせちゃったの? だから、あれほど手入れした方が良いよって忠告しておいたのにー」

「う、うるさいのだわ! 後でアリエルに研いでもらうから良いのだわ!」

「……それにしても、なかなか来ないですね?」

「おっかしいなぁ……あのスピードだったら、そろそろコッチに来ててもおかしくないんだけど……途中で引き返したとか?」

「いえ。目標の習性から考えると、途中で進路変更する様なことは無いはずですよ。……何か、別のものに気が向かない限り」

「どちらにしろ作戦を練り直す必要があるから、来ないなら来ないで一向に構わないのだわ」

「あ、そうだ。アリエルさんに壁の上に登ってもらって、目標の様子を見てもらいましょう。ここからならきっと見渡せるはずです」

「それは名案なのだわ。ささ、アリエル! さっきみたいに、ひょひょいっと登るのだわ!」

「……」

「アリエル? 聞いているのだわ?」

「……ん」

「そういえばアリエルさん、さっきからずっと静かですね」

「どれどれ? …………ありゃあ……ダメね。この死んだ魚みたいに濁った虚ろな瞳は」

「……ん」

「うん、どうやら完全に燃料切れみたいね」

「今日は朝食少なめでしたから、きっとお腹空いちゃったんですね」

「本当、燃費が悪い子なのだわ…………」

「こうなっちゃうと、何か食べさせるまでずっとこんな調子だからね。どうするのよ?」

「困りましたね……」

「…………あ……そうそう……アリエル。このクエストに成功すれば、お礼として狩った魔物のお肉をたらふく食べさせてもらえるらしいのだわ。

「……ピクン」

「今ので瞳に光を取り戻したわよ」

「それと……この魔物、狩るのが大変な分、お肉はすごく美味しいと街でも評判なのだわ」

「ようし、皆! ちゃっちゃと牛さん撃退して、肉充しようっ!」

「……やる気満々ですね」

「全く、単純で助かるのだわ……。それじゃアリエル、早速壁の上に登って目標の様子を見てきてほしいのだわ」

「了解であります! ソフラ隊長! シュビシュバッ!」

「登り方が手慣れていますね」

「いくら身軽なアタシでも、さすがにこの壁を登るのは無理かもしれないわね」

「誰にでもひとつくらいは取り柄があるのだわ……アリエルは、手先が器用で道具の扱いにも長けているし、恐ろしいほどに頭が残念なのだわ」

「まぁ、確かに頭の中はお花畑よね」

「向日葵が大量に咲いてそうですね」

「えへへ、カラフルで綺麗ってことかな?」

「レノアは魔法が使えるし、植物やら魔物の知識が豊富で物知りなのだわ」

「人形みたいで可愛いわよね」

「そ、そんなことないです……」

「毒舌だよね」

「……ほう」

「アクロは運動神経抜群だし、口が巧くて交渉術に長けているのだわ。そして特筆すべきは……」

「おっぱいなのだわ」「おっぱいですよね」「おっぱいだね」

「アンタらねぇ」

「所詮、脂肪の固まりなのだわ」「感度なら……感度なら負けませんッ」「しぼめば良いのに」

「ミルク飲みなさいよ、ミルク!」

「アクロ、貴方のおっぱいの話はどうでも良いのだわ。飽き飽きなのだわ」

「そうですね。そんな余計な時間はありません」

「自慢げに揺らされても困るよね」

「アンタらが言い出したのよ!」

「ソフラさんは戦闘経験も豊富で、刀の扱いに長けていますよね。まぁ胸は私の方が大きいですけど」

「統率力もあるし頭の回転が速いわよね、あと意地っ張り」

「ソフラは昔から努力家だよ、絵はグチャグチャで下手っぴだけど」

「そうですね。絵は……まぁ……特徴的、ですよね」

「えぇ、絵は……まぁ……独創的、ね。うん」

「二人とも気まずそうに目を逸らさないで良いのだわ。と、とにかく……こんなチグハグなパーティでも、協力し合えば難しいクエストも達成出来るのだわ! それが言いたかったのだわ!」

「皆、こっちで大量の鼻血噴出しながら妄想に浸っているリーオの事も忘れないであげて」

「あぁ、ずっと静かだったからすっかり忘れていたのだわ……」

「リーオさんの取り柄ですか……」「リーオの取り柄ねぇ……」

「……リ、リーオは……まぁ確かに、不器用で頭も悪くて運動音痴で使えない男だし、取り柄がひとつも無い様に思えるのだわ。でも……」

「……か、かっこいいのだわっ」「たまに頼りになるわよね」「変態ですよね」「ニートだよね」

「……」「……」「……」「……」

「///」「は?」「えっ?」「ん?」

「おんやぁ? ソフラちゃん、アンタ今何て言ったのかなぁ? お姉さん、ちょっと聞こえなかったわぁ?」

「な、ななな……なんでもないのだわ! 貴方こそ、頼りになるなんて恥ずかしい台詞、よく言えたものなのだわ!」

「ふ、ふんっ! あくまで、たまによ。た・ま・に! 普段はバカで頼りない男よ!」

「二人ともどうしたの? 顔真っ赤だよ?」

「ニートは黙っててほしいのだわ」「ニートは黙ってなさい」

「しゅーん……」

「まぁまぁ二人とも、アリエルさんにあまり辛く当たらないであげて下さい」

「レノアは優しいなぁ……天使みたいだよ」

「アリエルさんは確かにニートで頭がアレですけど……どんなクズみたいな人間だって、魔物おびき寄せるための餌くらいにはなれるんですから、ね?」

「しゅーん……」

「きっと、さっき毒舌って言ったこと根に持っているのだわ」

「えぇ……レノアは結構引きずる子だから、案外怖いわよ」

「でも、確かに二人の言う通りですよ」

「なななな何が、なのだわ?」「なななな何の、ことかな?」

「リーオさんて、さりげなく気遣いしてくれる優しい人ですし、いざという時はかっこ良くて頼りになりますよね」

「そ、そうそう。そういうことなのだわ! 別に他意は無いのだわ!」

「そうね。うん、そうそう」

「とにかく言い合いしてるのも時間の無駄だし、早いとこ終わらせて帰るのだわ!」

「さぁさ、アリエルさん? そんな所で人生の淵に立った様な顔して落ち込んでいる場合ではないですよ。働いてくださーい」

「……しゅーん」

「アリエルさんの希望職は、魔物をおびき寄せるための撒き餌ですかー?」

「レノア様! ボク、周囲の様子を伺ってくるであります!」

「よし、良い子です! 出来る限り迅速にお願いしますね」

「それにしても……レノアが良い笑顔で、変態ですよねって言い切ったのが印象的だったのだわ」

「そうね。悪気の欠片すら無い、純粋な笑顔だったわ……物語で見るような天使みたいに……」

「……」「……」

(きっと天使の薄皮を被った悪魔なのだわ)(おそらく悪魔の心を宿した天使ね)

「二人とも、深刻そうな顔してどうしたんですか?」

「今後の作戦について考えているのだわ」

「そうよ」

「皆ー」

「あら、思ったより早いわね」

「だから言ってるでしょ。ボクだって、やれば出来る子なんだから」

「この子は、やれば出来る事をやらないだけなのだわ……」

「目標はどの辺りに居ましたか? もうすぐここに?」

「えっとねー。牛さん、こっちには来ないみたいだよ?」

「やっぱり引き返したって事かしら?」

「うーん……別に引き返している訳じゃないみたいだよ。地面の匂いをくんくん嗅ぎながらね、ゆったり歩いてるよ。何か探しているっぽいね」

「地面の匂いを嗅ぎながらゆったり、ですか? まさか……」

「ソフラ、どういう事か分かるのだわ?」

「あー…………えっとですね……さきほど牛さんが赤い物を見て興奮したと言いましたが、本来あの牛さんは赤い血を見て興奮するという性質なんですね。赤い物を血だと認識することで、興奮しているんです」

「ふむ……なるほど。つまり血を出している獲物を見て興奮しているということなのだわ?」

「そうです。牛さんは、血を出している獲物は弱っているという事を本能的に悟っていますので、血に関しては敏感に反応します。更に言えば、牛さんは嗅覚によっても、獲物が血を出しているかどうかを判断しています。視覚と嗅覚が同時に反応した場合は、嗅覚情報を優先して獲物を狙い定める習性があります。そして、嗅覚情報を優先している際の速度は大変ゆったりとしたものですが、嗅覚と視覚の情報が一致した時、つまり濃厚な血の匂いを放つ血だらけの獲物を視界で捉えた途端、彼らは凶暴化して、その突進速度も最高速に達します」

「つまり今現在の目標は、嗅覚情報を優先している、そういう事なのだわ?」

「その通りです。この大変危険な状況において、牛さんの歩く速度がゆったりしているのは不幸中の幸いですね」

「へぇ。つまりアタシみたいにただ赤い服を着ているだけの人間より、血の匂いをさせている人間の方が優先して狙われるってことかぁ。あの牛も結構考えながら動いているのねー。……ん?」

「……赤……紅……鮮血よりも紅く……灼熱よりも熱く……」

「ちょ、ちょっと……!? アリエルの頭から煙が出ているわよッ!」

「ソフラさん……もしかしてこれ……まずいんじゃないですか?」

「こんな所でアリエルに暴れられたら、クエストどころの騒ぎじゃないのだわ……」

「……我が肉体に眠りし竜の血潮……呼び声に応え……呪われし血族の力を……この身に……」

「うわわっ! ソフラさん! 詠唱始まってますよ!」

「わ、分かっているのだわ! アリエルー! 貴方は無理して理解しようとしなくて良いのだわ! お肉の事だけ考えるのだわ!」

「我が名は……肉……おにく……食べ放題……ジュージュー焼き肉……高級お肉……はっ!? そうだよっ! ちゃっちゃと終わらせて肉充しなくっちゃ!」

「お、おぉ……正気に戻ったみたいですね。さすがソフラさん……」

「ふぅ……本当、単純で助かるのだわ……というか、アリエルといい、リーオといい……パーティに二人もチート能力者が居るなんて本当恐ろしい事態なのだわ。しかも両方ニートってどういう事なのだわ……」

「扱いようによっては便利かもしれませんけど、アリエルさんのは力の制御出来ないですからね……」

「えっと……アリエルのこの厨二っぽい病気は何なの?」

「それに関しては長くなるから、機会が出来た時にでも話すのだわ……とりあえず今は目標の撃破が優先なのだわ」

「ソフラさん。その事なんですが、私、血を出している人間に心当たりがあります」

「あー……ワタクシも今、名前を口に出して気付いたのだわ。本当、すっかり忘れていたのだわ……」

「な、何よ? 誰か怪我でもしているの?」

「怪我というかですね。……アリエルさん、リーオさんは今どうしてます?」

「えっとねー。今は惚けた顔して虚空を見上げているよ、血だらけで」

「やはり、そうでしたか。牛さんはどうやら、リーオさんの鼻血の臭いに反応してしまったみたいですね……」

「なるほど。鼻血か……負傷者が居た訳じゃなかったのね」

「言われてみれば、確かに途中で変な効果音が入っていた気がしたのだわ。恐らく、レノアが感度も良好とか口走った時なのだわ……」

「わ、私は……事実を言っただけですっ!」

「ちょっと待ってよ、レノア! ソフラも割と敏感な方なんだからねっ!」

「いやいやいや、ちょっとアリエル? 貴方は何でワタクシに代わって張り合っているのだわ?」

「そ、そうだったんですか……!? そんなの初耳です! でも私だって感度部門で負ける訳には」

「レノア、貴方は一体何と戦っているのだわ……」

「あら。それなら比べてみれば良いじゃない」

「くらべるって、どうやるの?」

「え? そりゃあ………………な、舐めてもらったり?」

「な……舐めてもらうんですか……」

「だれに舐めてもらうの?」

「誰にって、アンタ……そんなの……えっと…………ちょ、ちょっと待って……ごめん。自分でも言ってて少し恥ずかしくなったわ」

「うぅぅ。それは、恥ずかしいとかそういうレベルじゃ…………し、しかし負ける訳にはいきません」

「あ、貴方達は少し頭を冷やすべきなのだわ! 今は感度がどうとか、それどころじゃないのだわ!」

「あははっ! すっごい、三人とも顔が真っ赤っかだよー。赤いから牛さんが興奮しちゃうねー」

「ニートは黙っているのだわ!」「グチャグチャに切り刻んで魔物の餌にしますよ?」「アリエル、アンタ後で宿屋裏ね」

「ご、ごめんなさい…………あとレ、レノア様……その、中ボス程度の雑魚なんて視線だけで殺してみせますみたいな目やめてください、瞳の奥に宿る狂気の黒き炎ちょう怖いです」

「まぁ、良いのだわ。まずは落ち着いて状況を整理するのだわ」

「はい。今現在の牛さんはゆったりとした速度で進行中、狙いはリーオさんです。そして当のリーオさん本人は、鼻血を出しながら妄想の世界に浸っている状態ですね」

「ふむ。実に好都合なのだわ、作戦は決まったのだわ」

「ど、どうするのよ?」

「変態モードのリーオに何もかも任せるのだわ」

「えぇ。残念ながら、牛さんの大群を一人でどうにか出来るのはリーオさんくらいです。今の私達に残された方法はそれしかありません」

「足止めなんてまどろっこしい事考えずに、最初からこうすれば良かったのだわ……」

「しかし問題があります。リーオさんが変態モードに移行するまでは、後一押しの刺激が必要なんですよね」

「後一押しの刺激ねぇ……ソフラ、何か案はあるの?」

「ふむ……アリエル。貴方、試しに今その場で、ちょろっと下着でも見せびらかしてみるのだわ」

「わかったー。 ペラリ」

「……な、何の躊躇いもなく下着を露わにしましたね」

「あ、あんなに簡単に見せるとは思わなかったのだわ……恐ろしい子なのだわ」

「で……どうなのよ? リーオはアンタのパンツ見てるの?」

「どうやら気付いてないみたいだねぇ。おーい、リーオー? ほらほら、君の大好きなパンツだよー? ほらほらぁ」

「これは、かなり酷い絵面ですね……」

「やらせておいて何だけれども、とんだ変態少女なのだわ……」

「むふふ……ん? お、俺は一体何をして……って……お、おい……アリエル! お前、そんな格好してたら風邪引くぞ!」

「うん。しっかりと心配されているのだわ……というか、リーオもこんな重要な場面に限って、紳士的な対応なのだわ……」

「まぁ仕方ないわね。……あれ、スポーツタイプのパンツでしょ」

「そうですね、もっと何かこう……破廉恥な下着じゃないと……」

「……」「……」「……」

「後出し負けよ、じゃーんけんっ!」

「あっ、ズルいのだわ!?」「ちょっ……ま、待ってください!」

「ぽん」「ぽい」「……ていっ!」

「チョキ、なのだわ」「チョキ、です」

「ふふん。パーね……って、あれ?」

「はい。アクロに決定なのだわ」

「アクロさん、若干後出しして負けるとかどういう脳の構造してるんですか」

「ま、待ってよ……! こんな重要な役目、じゃんけんで決めるとかあり得ないわよねッ!」

「貴方が勝手に言い出したのだわ。冒険者たるもの、自身の発言と行動には責任持つのだわ」

「アリエルさーん、ロープとかありますー?」

「あるよー。壁に固定するからちょっと待っててねー」

「さぁさアクロさん。アリエルさんに引き上げてもらいましょうね」

「アリエル、アクロを引っ張りあげるのだわ」

「任せてー」

「待って、本当に待って! というか、自分でパンツ見せるってどんだけ変態なのよ! アタシそんなバカみたいな真似出来ないわよ!」

「……ボクは皆のためと思ってやったのに……皆のためと思って……皆……肉のため……じゅる」

「アクロさんが酷い事言うせいで、アリエルさんの瞳から光が急速に失われつつあります」

「あっ、いや違うのよアリエル。アンタがバカだからどうという話ではなくて、まぁアンタはバカだけどっ」

「しゅしゅーん……」

「どちらにせよ、わざわざ見せつける様な真似しなくても今日の貴方はショートスカート穿いてるから、壁の上に登った時点で丸見えなのだわ」

「そんな事言ったら、アンタだってスカートじゃないの!」

「ワタクシのスカートは膝上まであるけれど、貴方のスカートは下着が見えそうで見えない限界ギリギリのデザインなのだわ……まぁ、自業自得なのだわ」

「もう、こんな事ならショートパンツでも穿いてくれば良かったわ! きょ、今日の下着だけは……本当に見られたくないのよ!」

「アクロ、わがままはダメだよ。皆で協力し合ってクエストをクリアしよう。街の人達も牛さんに困っているんだよ?」

「アリエルさんが珍しくまともな事言ってますね……」

「だからアクロ。……お肉の……じゃない。……えぇっと……皆のお肉のために頑張ろう!」

「結局肉じゃないのっ!」

「そうだよ」

「開き直った!?」

「とにかく、急がないと時間が無いのだわ! アクロ、覚悟を決めるのだわ」

「わ、分かったわよ……! 登れば良いんでしょ、登れば! はいはい! 登りますよ!」

「それではアリエルさん、お願いします」

「はーい…………って、あれぇ? ……ロープが重い重いって悲鳴上げてるよ? どういう事かなー? アクロのおっぱいの分が重いのかなぁ?」

「ちょっと! そんな訳ないでしょ!」

「……さて……見られたくない下着ってどんなのでしょうね」

「確かに、ワタクシもそれが気になっていたのだわ…………」

「……うぐ……こ、ここ……案外高いじゃない。アリエル、アンタよく平然としていられたわね」

「リーオー。ほらほら、アクロのパンツだよー。見てー」

「あ? 何だ、アクロまでそんな所に登っ…………お、お前……そのパンティは……!」

「うひゃああ……! あ、アンタねぇ! そんなにマジマジと見るのは止めなさいよね! 訴えるわよ!」

「……す、すまん。つい」

「リーオには見てもらわないと困るのだわ……というか、アクロ貴方それ……」

「か、可愛い下着ですねー」

「貴方……! 何で下着だけそんな子供っぽいデザインなのだわ!? 全身真っ赤装備で気合い入れたんだったら、真っ赤でセクシーな勝負下着でも穿いてくるのだわっ!」

「わ、悪かったわね! お気に入りなのよっ!」

「えー、なになに? どんな柄なの?」

「デフォルメされたネコさんが様々なポーズで沢山プリントされてるキャラ物下着です」

「……にゃっはっは! ネコさん! アクロってば、かーわいいー!」

「ぐぬぬ」

「うーん……しかし、これでは無理っぽいですね」

「こうなったらもう、アクロご自慢のその大きな最終兵器でも何でも出したら良いのだわ!」

「阿呆かーっ! だ、出すわけないでしょッ!」

「にゃはは……って、あれ? アクロってばスカートの後ろが」

「ちょ、ちょっと!? 目標がかなり近付いてきてるじゃないのっ! リーオ! 早く興奮しなさいよ!!」

「すまん。さすがの俺もネコ柄じゃ、ちょっと……」

「リーオの阿呆ー!」

「にゃはは! ま、良っかぁ」

「…………ふむ、仕方がありません。私が出ましょう」

「お、おお……レノアが光輝いて見えるのだわ。それだけの自信があるのだわ?」

「えぇ。割と、セクシーです」

「……ゴクリ。全人類の未来が、貴方の下着にかかっているのだわ、頼むのだわ」

「はい。レノア、行きますッ……!」

「あーい。しっかり持っててねー。……んしょ…………あ、レノアてば軽いねー。アクロに比べて超楽ちん」

「ほっといてよ!」

「ふぅ……。ありがとうございます、アリエルさん。では………………め、めくりますよ?」

「リーオー、もう一度こっち向いてー」

「お、おう?」

「んしょ………………ぺらっとな」

「……うぉぅ!」「……んなっ!?」

「…………ど、どうですかリーオさんっ! 興奮しましたか! もっと見たいですか!?」

「あー…………レノア、あの、大変言いにくい事なんだが……」

「な、何ですか?」

「突然レノアが発光したせいで、よく分からなかった……」

「ど、どういう事ですか!? それじゃ、もう一度いきますよ…………ぺらり!」

「ぬぉっ……!」「眩し……っ!」

「何でそんな眩しがるんです! ……リーオさん、本当は私の下着なんて見たくないだけなんじゃないですかっ!?」

「そ、そんな事ないぞ。俺だって見れるパンティなら見てみたい……! って、俺は変態か! 違うって、急に光るんだ!」

「この不自然な発光具合……恐らく規制がかかっているわね」

「放送コードに引っかかるとか、貴方は一体どれだけ破廉恥な下着穿いているのだわ……」

「×××の部分が×××でいつでも×××出来る様な仕様に」

「ブパァ……!」

「付属の×××な形をしたアタッチメントを付けることにより、なんと×××も可能になるという代物です」

「んふふ……おいやめんふふ、俺の血がふふ……足りな……ぐっへっへ……!」

「もう良いのだわ! レノアはもう喋らなくて良いのだわ!」

「レノアー、×××って?」

「それはですね、むぐ」

「はいはーい、レノアちゃーん。卑猥なそのお口に極太南京錠でも掛けて少し自重しましょうねー!」

「むがむふ」

「しかし困ったわね。こうなったら、ソフラのパンツしか望みは無いわよ?」

「ぷはっ。ソフラさんの下着ですか……それはあまり期待出来ませんね」

「酷い言われようなのだわ」

「ソフラは今日もフンドシなの?」

「その言い方だと、ワタクシがいつもフンドシ穿いてるみたいに聞こえるから止めてほしいのだわ。というかアリエル! 貴方、何度も言っているけれど、これはフンドシって名称じゃないのだわ! いい加減覚えるのだわ!」

「ソフラのパンツがいつものフンドシであるかどうか以前の問題よ。ソフラってば高い所苦手だから、素直に登ってきてくれるとは思えないわ」

「そうですね……ソフラさんの下着がいつも通りフンドシだとしても、まず登ってきてもらわない事にはどうにもなりませんからね」

「ソフラ……お前いくら刀を使っているからって、パンティまでフンドシにしなくても……」

「だからッ、フンドシじゃないのだわ!」

「協力し合おうよ、ソフラ。このままじゃリーオが串刺しだよ? それにフンドシでも、リーオ悦ぶかもしれないよ?」

「さすがのリーオさんも、フンドシでは興奮しにくいんじゃないですかね」

「そうね。フンドシってどちらかというと笑いの感情が先に来そうよね……」

「まぁ、俺がフンドシで興奮出来るかどうかは実際に見てみるまで何とも言えないが……フンドシかぁ……うーん」

「いい加減フンドシネタ引っ張るのは止めてほしいのだわ! というか、そもそも何で作戦の要が下着になっているのだわ!?」

「うん。それに関してはアンタが言い出したんだけどね?」

「このフンドシ大作戦はちょっと難しいんじゃないか? パンティだけでそこまで興奮出来るとは到底思えん……」

「どうするの? とりあえず皆で全裸になる?」

「とりあえずって……ア、アタシは絶対に脱がないわよっ!!」

「それって上空から見たらかなりシュールな図になりますね」

「いや、今の状況も割とシュールだと思うわよ? 皆でパンツ見せつけてるとか、正気の沙汰じゃないわ」

「待て待て。俺は他の作戦を考えようと言っているだけであってだな……」

「た、確かに、一理あるのだわ! リーオを興奮させる以外の作戦について考えた方が良いかもしれないのだわ!」

「ちょっと待ってよ。それじゃ、アタシのパンツ見せ損じゃないのっ!」

「そうですね。私達だけ下着を見せたというのは釈然としないものがあります」

「全く問題無い気がするのだわ」

「んー……でもさ、リーオはソフラのフンドシ見たいよね?」

「いや、えっと……その質問に対して俺はどう答えたら良いんだ?」

「駄目だよリーオ。君が天から授かった、変態というキャラクター性を大切にしてあげてよ」

「あ、あぁ……すまん。俺、ソフラのフンドシ見たい! 超見たい! 見せてほしい! 頼むッ!」

「んなっ……!?」

「……」「……」「……」

「……なぁ、お前ら。俺を、駆除された害虫の死骸を直接見たくはないんだけど足で踏まない様に注意しないといけないから仕方なく視界の端で捕らえざるを得ないとでも言わんばかりの視線で見るのはやめてくれよ」

「直球だったね」

「いくら何でも今の発言には問題があります」

「そうね。これじゃあさすがのソフラも呆れ………………て? お? ……ちょいちょい二人とも、ちょっとソフラ見てみ」

「なぁに?」「何です?」

「ななななな何バカな事言ってるのだわ……そんなに頼まれたとしても、み、見せる訳、無いのだわ、バカバカしいっ……そ、それにこれはフンドシじゃないのだわ……見せないけど……フンドシじゃ、ないのだわっ……」

「ほら、ソフラってば照れてるわよ。案外効いてるみたい」

「ほんとだね」

「ふぅむ。本当に分かりやすい反応……………………あ、こんなのはどうでしょうか? アリエルさん、アクロさん。ちょっと耳を……」

「なぁに?」「ん?」

「ごにょ、ごにょ……」

「……ちょ、ちょっと? どうしたのだわ? 三人で何を内緒話しているのだわ?」

「ごにょごにょ………………で、もしソフラさんが乗って来なかったら、最終手段として実際にリーオさんに仕掛けるしか方法は無いんですけど……少なからず試してみる価値はあると思います」

「ふんふん、それならボクにも出来そうだよ」

「そうね、その作戦で行きましょ。きっと上手くいくわ」

「それじゃ、アリエルさん。準備お願いします」

「りょーかい。ちょっと待ってね…………今固定するから」

「……お、何だ? 皆こっち側に降りるのか?」

「あい、おっけー。これでリーオの居る通路側に降りられるよー。はやくはやくー」

「行きましょう、アクロさん」

「うん。……リ、リーオはあっち向いてなさいよねっ!」

「お前、今更そんな事言うのか……はいはい」

「えぇ……!? ちょ、ちょっとアリエル、待つのだわ! ワタクシは、その……置き去りなのだわ?」

「寂しいの? こっち来る?」

「べ、別に寂しくなんかないのだわ! 行かないのだわッ!」

「心配しなくても、ソフラが自力で登れる様にしておくからね。いつでも登って良いんだよ?」

「ひ、必要無いのだわっ!」

「よっと…………リーオさん、ちょっと良いですか?」

「ん? おう」

「ふぅ………………やっぱ地面は落ち着くわねー。パンツ覗かれる心配も無いし」

「ほいっとな…………あ、そうそうアクロ。さっきからずっとスカートめくれてるよ」

「……へ? って、うひゃあああっ!? …………ア、アンタねぇ、そういう事はもっと早く言いなさいよっ!」

「サッキカラズットスカートメクレテルヨ!!」

「何ベタなボケかましてるのよ! 早口っていう意味じゃなくて、タイミング的な意味の話をしているのよ!」

「大事な話だからよく聞いてアクロ」

「な、何よ……改まって」

「例えばファッションとして意図された見せパンなんて正直誰得でも無い、それは言うなれば自己満足の類に属するんだ。そういう意味では、意識せずに自然とめくれ上げっているスカートから可愛いネコさんパンツのチラリズムをやってのけたアクロはグッジョブと言わざるを得ない。そんな君にドジっ子属性ポイントを加算」

「どうでもいいわよ!」

「……ごにょ……とまぁ、こんな作戦です。分かりました?」

「……ふむふむ……それを繰り返せば良いんだな? 楽勝だ」

「タイミングは、まぁアリエルさんに続けていればほぼ問題ないかと思います」

「了解した」

「では皆さん。各自、指示通りにお願いします」

「おう」「え、えぇ」「はーい」

「コホン…………ソフラさーん! 大変残念な事ですが、もう牛さんがすぐそこまで来ていて時間がありません! 私達は最終手段を使ってリーオさんを興奮させる事にしますね!」

「なっ、何を言っているのだわ? 最終手段? 何をするつもりなのだわ!?」

「……そ、そんなの口で言えるわけないじゃないの! 察しなさいよ!」

「ソフラ。ボクがやれば出来る子だってこと知ってるよね! 焼き肉の為ならボク、何だってするからね!」

「アリエル……貴方、一体何を!?」

「さーさー、リーオさん服を脱ぎ脱ぎしましょうね。…………はーい、良くできましたー」

「思ったよりも男らしい体つきしてるわね、うん」

「んなっ……!? えっ!? ぬぎぬぎって……正気なのだわ!?」

「すごいすごーい。それはやばいよ、やばいってー」

「や、やめろおまえら、そんな、そんなことー」

「それでは今度は、アクロさんのリーサルウエポン解禁といきましょうか!」

「し、仕方ないわね! 今回だけなんだからねッ! 感謝しなさいよね!」

「すごいすごーい。それはやばいよ、やばいってー」

「や、やめろおまえら、そんな、そんなことー」

「……ななっ!? ちょ、ちょっとアクロ……貴方さっきまであんなに嫌がっていたというのに、まさか本当に脱ぐつもりなのだわ!?」

「ソフラ! アンタには悪いけど、アタシは本気よっ! ぬ、脱いでみせるわ!」

「すごいすごーい。それはやばいよ、やばいってー」

「や、やめろおまえら、そんな、そんなことー」

「アクロ……貴方……と、とんだ破廉恥娘なのだわっ!」

「はうぁ! ふ、ふんッ……! アンタはせいぜい壁の向こう側で吠えていれば良いわ!」

「すごいすごーい。それはやばいよ、やばいってー」

「や、やめろおまえら、そんな、そんなことー」

「…………。アクロは破廉恥娘なのだわー」

「うるさいわねっ!」

「すごいすごーい。それはやばいよ、やばいってー」

「や、やめろおまえら、そんな、そんなことー」

「……。アクロはおっぱいなのだわー」

「ちょっと! やめなさいよ!」

「すごいすごーい。それはやばいよ、やばいってー」

「や、やめろおまえら、そんな、そんなことー」

「アクロさん。これ、きっと罠です。反応しちゃ駄目です!」

「罠? どゆこと?」

「すごいすごーい。それはやばいよ、やばいってー」

「や、やめろおまえら、そんな、そんなことー」

「ふーん……もしかして……貴方、本当は脱がずにワタクシを壁の上に誘い込む作戦なのだわ?」

「ギクリン」

「すごいすごーい! それはやばいよ、やばいってー」

「や、やめろおまえら、そんな、そんなー」

「どうしたのだわ? さきほどから、アリエルとリーオの台詞がやけに棒読みだし同じ事しか言ってない気がするし、もしかしてもしかすると図星なのだわ?」

「ぐぬぬ……さ、さすがソフラさんですね、こちらの作戦をあっという間に見抜いてくるとは……というかアリエルさんとリーオさんはいくらなんでも機械的すぎます、少しくらいタイミング考えて下さい!」

「言われた通りにやったのに怒られたよ、リーオ」

「あぁ、理不尽な世の中だな……アリエル」

「ふふん! あまりにも滑稽な茶番だったのだわッ!」

「くぅぅぅぅ!! 良いわよ、分かったわよ! こうなったらやってやろうじゃないのっ!」

「すごいすごーい! それはやばいよ、やばいってー」

「や、やめろおまえら、そんな、そんなー」

「アリエルさんとリーオさんはもう黙ってて良いですから……って、あれ? アクロさん?」

「アンタ達! 目ん玉ひん剥いて、アタシの勇姿をとくとその目に刻み込むと良いわッ!」

「まだ続ける気なのだわ? 愚直なツンデレ娘じゃあるまいし、ワタクシはそんな手には引っかからな」

「ちょ……ア、アクロさん……まさか本気で!?」

「……そおおおおおおおおおおいっ! 脱ぎっ」

「や、やめ……ちょ!? おまっ!? ア、アクロ!? ……えぇ!? ブッパァァァぁぁぁぁいぇぇぇぇえええい……!!!」

「すご…………ふっわぁ……アクロのおっぱいすっごい美味しそうだねぇ! ……すっごい……すっごいよ! ちょうだい! それ、ちょうだいッ!」

「い、今のは何なのだわ……!? 一瞬、もの凄い量の赤い液体が間欠泉のごとく上空へと舞い上がったのだわ!?」

「くっ……何という破壊力ッ!! ……ソフラさんも薄々気付いているんじゃないですか? 今のは、リーオさんの鼻血ですよッ!」

「なッ!!?  ま、まさかアクロは本当に脱いだのだわ!? いや、あの子に限ってそんなバカな事……」

「アンタがあまりにも意地っ張りだから脱いでやったのよっ! もちろんブラは付けているけど、これこそ詰め物無しの天然物よッ!!」

「くぅぅ! 破廉恥! あまりにも破廉恥なのだわ!」

「むぅ。それにしても…………下着越しでも迫力がありますね……溢れ出す肉々しさというか何というか……思わずしゃぶりつきたくなるほどです。じゅるり」

「ちょ、ちょっと!? レノア、アンタ……目が本気過ぎるのよ!」

「あ、すいません。つい盛り上がってしまいました……というか、これってもうソフラさん誘い込む必要無いんじゃないですか?」

「た、確かにそうかもしれないわね。リーオは……」

「ぐっへっへ……まだだ、まだ足りねぇ……もっとだ! もっと俺に興奮を!」

「この変態馬鹿ニートッ! これ以上どうしろというのよ!」

「これほどの凶器を前にしてまだ足りないんですか……性への飽くなき探求と貪欲さ……もはや変態性が人間とは思えない次元まで達していますね。アクロさん、こうなったら……残念ながらトップレスしか方法はありません」

「そ、それは……さすがの私もノーサンキューよ」

「じゅる。……ねぇねぇ、アクロ? 一口だけでも食べさせてもらって良いかな? ボク、すごくお腹空いちゃって……」

「良いわけないでしょうがッ!」

「……ブモッ」

「ん? 今何か聞こえませんでした……?」

「そうかしら?」

「ブモオ」

「……ひぃぃ! たたた、大変ですよっ! 牛さんの先頭集団がいつの間にか直線上まで来てるじゃないですかッ!?」

「あら、アタシを追っかけていた時よりも大人し」

「だからっ、嗅覚情報と視覚情報が一致した時、最高速まで加速して凶暴化するんですって!」

「ピクン! ブモモ…………ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

「うわあああ! もの凄い突進してきてるじゃないのおおおおお!!」

「そ、そうだ! アリエルさん! もしかして爆弾とか持ってませんか!?」

「アクロのおっぱい、スベスベで柔らかくて美味しそうだなぁ、じゅるる。お腹空いたなー」

「アリエルさぁーん!!!!!」

「ちょ、ちょっと……! 本当、どうするのよ!? リーオは本当に興奮してないの!?」

「駄目だ……まだだ……まだ足りない……!! いや、むしろ、それを揉ま」

「させる訳ないでしょうが! この、ド変態ニートッ!!」

「通常時のリーオさんは本当に役に立ちませんね……。わ、分かりました。間に合うかは分かりませんが、私が魔法で……」

「そうね! それが良いわ!」

「………………………………だ、駄目です! アクロさんのおっぱいが目に焼き付いて集中できませんッ!」

「レノアアアア!! ……と、とりあえずアタシが牽制攻撃仕掛けるから! アンタ達は壁の向こう側に逃げなさいよ!」

「駄目です! 一度凶暴化すると、目標を喰らい尽くすまで収まりません。私達がこの場で喰らい尽くされるか……周辺の街に被害が広まるか……どちらにしろ、ここで仕留めないといけないんです!」

「そ、そんな……! じゃあやっぱりトップレス解禁するしか方法は無いっていうの……!?」

「いえ、私が全裸になりますッ! それで、リーオさんにご奉仕しますッ!」

「駄目よ! それは絵的にも危険だから絶対駄目よ!」

「……ちょ、ちょおおおおっと……待つのだわ!! た、高ッ……! ふるるっ」

「そ、その声は……まさか!?」

「ソ、ソフラさんが、しゃがみ込みながらも壁の上にッ!」

「血出しすぎたせいで頭がクラクラするぜ……って…………ソ、ソフラ。お前まで壁の上に登ったのか……」

「……ソフラ、よく登ったわねっ! でも、それじゃ見えないわ……早いとこスカートを捲くるのよっ!」

「くぅっ……分かっているのだわッ! ふるるっ ペラリ」

「おおお!? お前、それは……!」

「リリリリーオ! よ、よく見るのだわッ! ワタクシはフンドシなんて穿いていないのだわっ!! ふるっ」

「あ、ソフラやっぱり今日もフンドシじゃーん」

「えっと……いやでも、あれって……スパッツよね?」

「えぇ。アリエルさんの言うフンドシって、スパッツの事だったんですね……」

「あはは。ちがうよー、あれは異国のフンドシなんだってー」

「なるほど、スパッツか! ナイスチョイスだぞ、ソフラ! だが……何だ、何かが足りないっ!」

「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

「うわああああ……! アリエルさーん! 正気に戻ったなら、急いで爆弾の準備をッ!」

「はーい。爆弾あったかなー? お、あったあった……」

「アクロさん、とりあえず牽制攻撃をお願いしますッ!」

「了解よ! アタシの強化パチンコ、思う存分喰らいなさいよねッ! せいッ」

「ビュンッ…………カツン」

「ブモッ? ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

「くっ……駄目ね! 全然怯まないわよ!! アリエール!」

「ほいほーい。けっこう危ない奴投げるから、きをつけてねーー。そぉれっ!」

「ヒュウゥ………………カチ、チュドーン!!」

「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

「わーお……牛さんには爆弾効かないみたいだねぇ……」

「二人は引き続き攻撃を続行してください!」

「了解!」「はーい」

「早くするのだわ……ここ、高すぎて怖いのだわっ! ふるるっ」

「やはり、リーオさんはソフラさんのスパッツですら興奮出来ない身体になってしまっているんですね……。こうなったらもう私がご奉仕するしか……」

「いや、待て。……ソフラ! しゃがまれると、視認出来る範囲が狭いっ! しゃがみ込まずに、立つんだ!」

「た、立つ…………うっく!? た、高いのだわ! 怖いのだわ! ふるるるっ」

「立った! ソフラさんが立ちましたよ! ……こ、これならリーオさんにも丸見えですっ!」

「いや、まだだ……! ソフラ! 片手じゃ駄目だ! 両手だ! 両手でスカートの裾を持ち上げろ!」

「……こ、こうなのだわ……!? ふるっ」 

「俺から視線を反らさずに左斜下、二百二十五度方向へ顔を俯けてくれッ!」

「リーオさん……それ、何のこだわりなんですか……?」

「もうっ! リーオのバカッ! ポーズの注文なんて良いから! 早いとこ興奮するのだわッ!!

「駄目だ! 悔しそうな表情で、下唇噛みつつやるんだ! さぁ早くッ!」

「くっ……悔しいのだわ、こんな屈辱受けたのは初めてなのだわ……! ふるるっ」

「よしっ、良いぞ…………そのままだ! で、……お前……スパッツの下は……穿いて、いるのか?」

「そ、その質問に意味はあるんですか!? リーオさんが知りたいだけなんじゃないですかッ!」

「断じて違うっ! 最重要項目だ!」

「し、しかしですね……そんなの穿いているに決まって」

「…………。 ふるるっ」

「えっ。そんなまさか……ソフラ、さん……?」

「わわっ、みんなー! 牛さん来ちゃうよぅ!」

「レノア! 時間的にそろそろ限界よ! こうなったら絵的に危険とかどうでも良いわッ! 禁断の遊戯解禁して良いから、早くリーオをッ!」

「ぇえ!? いや、でも……い、いざやるとなると……は、恥ずかしぃ……です……」

「レノアアアアア……!」

「頼む! 教えてくれ! ソフラッ! スパッツの下だ! パンティ……パンティは穿いているのか!」

「…………。 ふるっ」

「俺を……リーオパンテラインを信じろ! ソフラ!」

「……ぅぅぅ…………!!」

「らめらめぇぇ! 牛さん、きちゃうっ! きちゃうのおおお!!!!」

「アリエルさん、ちょっと落ち着いて下さい!」

「駄目よッ! もう間に合わないッ!」

「ソフラクーペウィルキンソンッ!! 言ええええええええ!! お前のパンティは何色だあああああああああああああああ!!!!!!」

「くっ……………………は、穿いていないのだわッ! スパッツ直穿きなのだわああああああああああああ!!!!」

「ブモオオオオオオオオオオオオオオン!!!」

「ひゃっほう!! よく言った!」

「ブモオオオオオオオオオオ!!!!!! グシャッ……ォォォ……ォ……」

「……リ、リーオさん……今のは、もしかして」

「な、何よ……まさか素手でやったの?」

「………………ふぅ。待たせた」

「へ、変態モードなのだわッ! ふるるるっ」

「ブモオオオオオオオオオオ!!!!!! ブモオオオオオオオオオオ!!!!!! グシャッ……ォォォ……ォ……」

「んで、あと何頭狩れば良い?」


今後もゆったり更新していきます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ