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異失物管理番号:⬛︎⬛︎-⬛︎⬛︎⬛︎  作者: 市宮早記
二章 死者からの電話
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19/28

8

 翌朝分駐所に出勤すると、オフィスに久瀬の姿がなかった。リュックは椅子の上に置いてあるので、来てはいるようだ。デスクの前できょろきょろと周囲を見回していると、秋田が声を掛けてくれる。

「久瀬さんなら会議室行くって言ってたよ」

「会議室……?」

「会議の予定は入ってないし、たぶん何か集中して作業したいことでもあったんだろ。様子見てきたらどうだ?」

 浜松も書類から顔を上げ、宙に言う。宙は二人に礼を言って、三階へ向かった。

 三階には会議室が二室ある。そのうちの小さい方、使用中のプレートに切り替えられた会議室のドアの窓を覗いてみると、久瀬の姿があった。スマホを弄っているようだ。

「久瀬さん、おはようございます。サボりですか?」

「サボりじゃない。ノックくらいしろ」

 会議室に入ってきた宙に、久瀬は振り返りもせず答える。宙は首を傾げつつ、久瀬の隣の席に腰を下ろした。

「じゃあ何してたんですか? 刑事課のところへ、話を聞きにいくんじゃなかったんですか?」

「電話を掛けていた」

「電話って……もしかして、滝山さんのスマホにですか? 久瀬さんのスマホからでも繋がるんですか?」

 宙は目を瞬かせ、久瀬の顔を覗き込む。

「異失物なのは滝山俊樹のスマホであって、母親のスマホじゃない。なら、俺のスマホから掛けても繋がる可能性はあるだろ」

「……確かに」

「だが、今のところ繋がらないな。昨日から試しているんだが」

 久瀬の言葉に宙は「昨日から?」と顔をしかめた。

「電話掛けるなら、俺が帰る前に言ってくださいよ!」

「どうして」

「どうしてって……何かあったら危ないじゃないですか。バディは運命共同体で、一蓮托生なんですよ」

「いちいち真に受けるな。あんなの篠原さんが勝手に言ってるだけだ」

 ため息をつきながら、久瀬は電話アプリをタップし、通話履歴を開く。

「俺を助けようとか思うな。お前は足を引っ張らなければいい」

「……もー、それ二回目ですよ! 分かりましたって!」

 頬を膨らませ、わざと怒った顔を作る。久瀬は、「これで掛からなかったら、一旦、警察署へ向かう」と、最新の発信履歴をタップした。宙は椅子の背にもたれかけ――はっと身体を起こす。

 久瀬のスマートフォンがコール音を鳴らしている。滝山のスマホと電話が繋がったのだ。

「録音しろ」

「えっ?」

「お前のスマホで。録画でもいい」

「はっ、はい!」

 慌ててポケットからスマホを取り出し、カメラアプリを開いて録画を始める。久瀬はスマホを耳から離し、スピーカーに切り替えた。

『――もしもし』

 数回コール音が鳴った後、スマホからノイズ音と共に声が聞こえた。

 昨日聞いた、滝山の声とは違う。低く、落ち着いた穏やかな声。浜松くらいの歳の男性だろうか。

 戸惑って隣を見ると、久瀬は目を見開き、言葉を失ったようにスマホを見つめていた。

「あの……?」

 小声で呼び掛けると、久瀬は我に返ったように小さく肩を揺らす。一度、喉を鳴らし、ゆっくりと口を開く。

「……お前は、誰だ?」

『……こん、にちは』

 静かに問いかけた久瀬に、スマホの声が答える。ズレた返答に首を傾げていると、久瀬はさらに質問を重ねた。

「俺が誰か分かるか?」

『……ああ』

「なら、名前を言ってみろ」

『……あり……がとう』

 ……なんだか、ずっと会話が噛み合っていない。

 久瀬は少し考えるように沈黙し、口を開く。

「俺は久瀬隼人だ。……今日は天気が悪いな」

『ああ。……隼人』

 ようやく噛み合った――と思った瞬間、ノイズ音が止み、通話が切れた。

「……さっきの声、滝山さんじゃなかったですよね?」

 録画を止めて尋ねる。久瀬はスマホを手に取り、小さく頷いた。

「あの異失物のスマホは、恐らく……電話を掛けた人間が、話したいと願っている相手の声で応える」

「え……じゃあ、さっきの声って――」

 尋ねかけて、止める。スマホを見つめる久瀬の横顔が、強張って見えた。込み上げてくるものを押し殺そうとするように、指先が白くなるほど強くスマホを握り締めている。

「……そろそろ行きましょっか」

 宙は席を立った。顔を上げた久瀬に、にこりと笑ってみせる。

「警察署。滝山さんが本当に自殺か、話を聞きに行くんですよね」

「……そうだな」

 久瀬はゆっくりと瞬きをして、頷く。その顔はどこか安堵しているようにも見えた。



 宙は久瀬と二階のオフィスに戻り、浜松に行き先を告げると、車で昨日の警察署へ向かった。

 受付で久瀬が用件を告げると、しばらくして刑事課のあるフロアへ案内される。電話の音やキーボードを叩く音、誰かが短く指示を飛ばす声。異管の分駐所とは違う、慌ただしい気配が満ちていた。

 案内役の職員が近くの刑事に声をかけ、用件を伝える。ほどなくして、奥の席から四十代くらいの刑事がやってきた。

「滝山俊樹さん? ああ、駅の転落の件か」

 刑事は手にした資料をめくりながら、あっさりと言う。

「あれはもう、自殺ってことで捜査は終わったよ」

「え!?」

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