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五星将


第十九話――「五星将」


時間は確実に減っていく。


だが闇咲家の空気は、張り詰めていた。


中庭では零が一人、動いている。

神気の制御。

妖力との切り分け。

一瞬の“重ね”。


何度も、何度も。


「……チッ」


うまくいかない。


神気は扱える。

だが“決定打”として放つ精度が、まだ足りない。


クロウが壁にもたれて言う。


「焦るな」


零は答えない。


焦っている自覚はある。


(……時間が足りない)


その時だった。


――ゾワッ


空気が、凍る。


本能が警鐘を鳴らす。


クロウが顔を上げる。


「……来たな」


次の瞬間。


ドォン!!!


門が、吹き飛んだ。


爆音と共に、黒煙が立ち上る。


屋敷の奥から悲鳴。


「なっ……!」


炎真が駆け出す。


零も動く。


門の先。


そこに“立っていた”。


一人の男。


長身。

痩せた体。

だが、その存在感だけで空間が歪む。


黒い外套が風もないのに揺れている。


男はゆっくりと口を開いた。


「……ここが闇咲か」


その声は、静かすぎる。


だが耳に刺さる。


クロウが低く呟く。


「最悪だな……」


零が問う。


「誰だ」


クロウは短く答える。


「五星将だ」


その言葉で、空気がさらに重くなる。


男は興味なさそうに周囲を見る。


倒れた門。

崩れた壁。

慌てる下層の者たち。


そして。


零を見る。


「……お前か」


その視線だけで、体が軋む。


零は前に出た。


「何しに来た」


男は首を傾げる。


「挨拶だ」


次の瞬間。


消えた。


「――ッ!?」


気付いた時には、目の前。


零の腹に拳が突き刺さる。


ドゴン!!


「がはっ!!」


空気が全部抜ける。


身体が浮く。


そのまま後方の壁に叩きつけられる。


バキィ!!


壁が砕ける。


「零!!」


クロウが叫ぶ。


炎真が突っ込む。


「調子乗ってんじゃねぇぞ!!」


炎を纏った拳。


だが――


スカッ


当たらない。


男は微動だにしていないのに、そこに“いない”。


次の瞬間。


炎真の顔面に蹴り。


ドン!!


「ぐっ……!」


地面を滑る。


クロウが飛び込む。


「てめぇ……!」


刃のような一撃。


だが。


パシッ


片手で止められる。


「遅い」


ドォン!!


クロウが地面に叩きつけられる。


砂煙が舞う。


圧倒的。


差が、違う。


零は血を吐きながら立ち上がる。


(……何だこいつ)


強いとか、そういう次元じゃない。


“触れられない”。


男は興味なさそうに手を振る。


その動きだけで、衝撃波が走る。


ドガァン!!


建物が吹き飛ぶ。


闇咲家の一部が崩壊する。


悲鳴。


煙。


瓦礫。


男はため息をつく。


「弱いな」


零の中で、何かが切れる。


踏み込む。


神気を纏う。


(……ここで使う!!)


一瞬だけ。


重ねる。


拳を振る。


「――っ!!」


だが。


スッ


避けられる。


完全に見えている。


次の瞬間。


カウンター。


ドゴォン!!


零の身体が地面にめり込む。


「……っ!!」


呼吸ができない。


神気が散る。


男が見下ろす。


「それが神格か」


「粗いな」


足が、零の胸を踏む。


ギシッ


骨が軋む。


動けない。


(……何も……できない)


悔しさすら、追いつかない。


ただ、差だけが分かる。


絶望的な差。


炎真が起き上がる。


「まだだ……!」


だがその瞬間。


男が視線だけ向ける。


ドン!!


炎真が再び吹き飛ぶ。


クロウも立ち上がれない。


完全な蹂躙。


男は興味を失ったように言う。


「幽玄は?」


誰も答えない。


男は小さく舌打ちする。


「不在か」


そして、零を見る。


「お前では話にならん」


その一言。


すべてを否定される。


男は背を向ける。


「今日はこれでいい」


一歩、歩く。


そのたびに瓦礫が揺れる。


「伝えておけ」


振り向かずに言う。


「“五星将が来た”とな」


次の瞬間。


消えた。


静寂。


崩壊した闇咲。


倒れた仲間たち。


煙の中で、零は動けなかった。


拳を握ることすらできない。


(……弱い)


自分が。


圧倒的に。


神気を得たはずなのに。


何もできなかった。


クロウがかすれた声で言う。


「……分かっただろ」


零は答えない。


炎真が笑う。


血を吐きながら。


「これが……上か」


その言葉が、突き刺さる。


零はゆっくりと目を閉じた。


だが今のままでは――


絶対に届かない。


戦力差。


それは、はっきりと刻み込まれた。


神を殺すどころではない。


まず、“あそこ”にすら立てていない。


零の拳が、わずかに震えた。

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