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神格殺し

拳が交差する直前。


零の中で、すべてが噛み合った。


呼吸。

筋肉。

骨。

そして――新たに芽吹いた“内なる力”。


「――行く」


ドン!!


零の拳が邪仏の腕に触れる。


バチィン!!


やはり反射が来る。


だが――


「……遅ぇ」


零の目が細くなる。


返ってくる衝撃の“質”が、わずかにズレていた。


完全な再現ではない。


「同じじゃない」


クロウが後方で叫ぶ。


「今だ、零!!」


零は踏み込む。


もう一度。


拳を振るう。


今度は――“変えて”。


ドォン!!


ただの衝撃ではない。


流れを持たせる。


叩くのではなく、“滑り込ませる”。


邪仏の身体に触れた瞬間。


反射が発動する。


バチィン!!


だが――


「乗る」


零はその反射を“受け流した”。


衝撃を真正面から受けず、体の流れに乗せる。


クロウが目を見開く。


「……返りを“利用”してる!」


零の身体が回転する。


そのまま、次の一撃へ繋げる。


ドン!!


連撃。


邪仏の胴体に、別の“性質”の衝撃が入る。


反射が一瞬遅れる。


邪仏の顔が歪む。


『……ナニ……!?』


零は止まらない。


拳。


肘。


膝。


すべてに微妙な“ズレ”を持たせる。


重さ。


速さ。


角度。


一撃ごとに変える。


反射が追いつかない。


バチィン!!


バチィン!!


だがその返りは、もう致命打にはならない。


零は流し、捌き、次へ繋ぐ。


「――遅れてるぞ」


邪仏の六本の腕が乱れる。


『馬鹿ナ……!』


クロウが笑う。


「完璧な反射じゃなかったな」


零が踏み込む。


「同じものしか返せないなら――」


拳を引く。


体の奥で、力を練る。


妖力と肉体。


そして“音”。


すべてを混ぜる。


「違うものを叩き込めばいい」


邪仏が咆哮する。


『止マレェェェ!!』


全腕が一斉に振り下ろされる。


空間が歪む。


逃げ場はない。


クロウが叫ぶ。


「零!!」


だが――


零は動かない。


呼吸。


吸う。


吐く。


一瞬で世界が静まる。


すべての軌道が“見える”。


そして――


踏み込む。


ドン!!


全ての攻撃の“隙間”を縫って前進。


邪仏の懐へ。


零の拳が引かれる。


その拳は――


静かだった。


音すらない。


だが内側では、すべてが圧縮されている。


「――終わりだ」


拳が放たれる。


ドン……


遅れて、衝撃が広がる。


邪仏の胸に触れた瞬間。


反射が起動する。


だが――


何も返ってこない。


『……ナ……』


邪仏の動きが止まる。


零が低く呟く。


「返せないだろ」


「“叩いてない”からな」


その一撃は、衝撃ではない。


内部に“浸透”し、内側から破壊する力。


反射の対象にならない攻撃。


一拍。


そして――


ドォォォォォォン!!


邪仏の身体が内側から爆ぜた。


ひび割れが全身に走り、黒い光が暴走する。


『アァァァァァァ!!』


六本の腕が崩れ落ちる。


三つの顔が同時に歪む。


零は一歩引く。


次の瞬間。


邪仏の身体が崩壊した。


ズゥゥン……


巨体が音を立てて崩れ落ちる。


黒い光は霧散し、洞窟の圧が一気に消える。


静寂。


クロウが息を吐いた。


「……終わったか」


零はその場に立ったまま、拳を下ろす。


呼吸が、ゆっくりと戻る。


クロウが近づく。


「やったな」


零は短く答える。


「……ああ」


しばらくの沈黙。


やがてクロウが笑う。


「これで卒業だ」


零は邪仏の残骸を見下ろす。


「……まだだ」


クロウが眉を上げる。


「何がだ」


零の瞳が、さらに奥を見る。


洞窟の外。


その先。


中央管轄の王。


「これはただの通過点だ」


クロウがニヤリと笑った。


「言うようになったな」


妖力は戻り、さらに変質した。


肉体も極限まで研ぎ澄まされた。


そして何より――


「殺す」という意志。


その先に待つのは、神をも喰らう戦い。


零の物語は、ここから本当の意味で始まる。

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