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邪仏 それは神格を纏いしもの

奥へ進むにつれ、空気は明らかに変質していった。


湿り気は消え、代わりに――重い「圧」が満ちる。


まるで空間そのものが、何か巨大な意思に押し潰されているような感覚。


クロウが足を止めた。


「……感じるか」


零は無言で頷く。


鼓動が、わずかに速くなる。


だがそれは恐怖ではない。


(……来る)


その時だった。


ズ……ズズ……


地面の奥から、低い擦過音。


次の瞬間。


壁が内側から破裂した。


ドバァッ!!


土と石が吹き飛び、そこから這い出してきたのは――


無数の腕を持つ人型の怪異。


腕の一本一本に、別々の顔が貼り付いている。


『見ツケタァ……』


『喰ウ……喰ウ……』


クロウが影を構える。


「数が増えてきたな」


零は前に出た。


呼吸。


吸う。


吐く。


隠影息。


世界が静まる。


怪異の動きが、すべて「音」として流れ込む。


零が踏み込んだ。


ドン!!


拳が一体の胸を貫く。


内部が崩壊し、背中から破裂する。


クロウの影が横を薙ぐ。


数体の首が一斉に落ちる。


だが――


怪異の一体が、零の腕を掴んだ。


『捕マエタ……』


瞬間。


零の中で、何かが弾けた。


ドクン――


心臓が強く脈打つ。


次の瞬間。


零の拳が、異様な「重さ」を帯びた。


ドォン!!


掴んでいた怪異ごと、周囲の数体がまとめて吹き飛ぶ。


クロウが目を細めた。


「……今の」


零もわずかに違和感を覚える。


(……違う)


今までの「身体だけ」の衝撃ではない。


もっと深い。


もっと内側から押し出される力。


クロウが小さく呟く。


「戻り始めてるな」


零は眉をひそめる。


「……まだのはずだ」


妖力の完全回復までは、残り六日。


そのはずだった。


クロウは壁に残った痕跡を見ながら言う。


「お前、ずっと“流してた”だろ」


「隠影息で」


零の目がわずかに見開く。


クロウは続ける。


「妖力を“使う”んじゃなくて、“循環させてた”」


「身体を通して、音と一緒に」


幽玄が言っていた言葉が、頭の中で蘇る。


――器が広がった。


クロウが笑う。


「普通は妖力ってのは外に出すもんだ」


「でもお前は逆だ」


「全部、内側で練り上げてる」


零は拳を握る。


確かに、体の奥に“何か”が満ちている。


かつての荒々しい妖力とは違う。


もっと静かで、濃い。


クロウが結論を出す。


「予定より早く戻ってるんじゃない」


「“別物になって目覚めてる”」


沈黙。


零は一度、目を閉じた。


呼吸。


吸う。


吐く。


その流れの中で――確かに“力”が巡っている。


(……使える)


目を開く。


次に来た怪異の群れに向かって、一歩踏み込む。


拳を振るう。


ドォン!!


今度は明らかだった。


衝撃の中に、見えない“圧”が乗っている。


怪異の群れがまとめて吹き飛び、壁に叩きつけられる。


クロウが口角を上げた。


「面白くなってきたな」


二人はさらに奥へ進む。


やがて、洞窟は終点に辿り着いた。


巨大な空間。


天井は見えず、中央には――


黒い“像”が立っていた。


否。


それは像ではない。


ゆっくりと動いている。


三つの顔。


六本の腕。


歪んだ仏の形。


だがその表情は、慈悲ではなく――嘲笑。


全身はひび割れた石のようで、その隙間から黒い光が漏れている。


クロウが低く呟く。


「……邪仏」


空間全体に圧がかかる。


呼吸が重くなる。


邪仏がゆっくりと顔を動かした。


『来タカ……』


その声は、直接脳に響く。


『未熟ナ器共……』


六本の腕が、同時に動く。


空間が歪む。


零は踏み込んだ。


「……殺す」


拳を振るう。


全力の一撃。


だが――


触れた瞬間。


異常が起きた。


バチン!!


零の身体が弾き飛ばされた。


後方の岩壁に叩きつけられる。


クロウの目が見開く。


「……は?」


零が立ち上がる。


腕がわずかに震えている。


今のは、防御ではない。


“反射”。


邪仏はゆっくりと笑う。


『返ス』


短い言葉。


だが意味は明確だった。


与えた衝撃を、そのまま返す。


クロウが低く言う。


「厄介だな」


零は構え直す。


呼吸。


吸う。


吐く。


体の奥で、新しい力が脈打つ。


邪仏が腕を広げた。


『来イ……』


挑発。


零の瞳が細くなる。


「……上等だ」


拳を握る。


この怪物は――


ただ殴るだけでは殺せない。


だが。


零の中で、何かが静かに噛み合い始めていた。


(……なら)


“返せない一撃”を作るだけだ。


洞窟の空気が張り詰める。


神格を纏う邪仏。


進化した零。


そして、影を潜ませるクロウ。


三者がぶつかる瞬間。


戦いは――壮絶な結末を迎える

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