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13/21

神格を背負いし怪物

炎に焼けた街道には、まだ赤熱した瓦礫が転がっていた。


毒糸に覆われていた家々は灰となり、夜空には煤がゆっくりと舞い上がっている。


炎真が煙草をくわえたまま、空を見上げた。


「……七十九日か」


誰に言うでもなく呟く。


幽玄が静かに目を細めた。


「早いものだな」


あの日から――零の修行が始まって、七十九日が経っていた。


闇咲家の地下訓練場。


地面は無数の斬撃と爆裂で削れ、もはや原型を留めていない。

中央には、血に濡れた零が膝をついていた。


「……はぁ……」


呼吸は荒い。

だが、七十九日前とはまるで別人だった。


全身の筋肉は研ぎ澄まされ、無駄な力が一切ない。

呼吸は静かで、深い。


炎真が腕を組んで立っている。


「まだ甘ぇ」


ドンッ!!


炎真の拳が零の腹に叩き込まれた。


普通の人間なら即死する衝撃。

零の体が数メートル吹き飛び、壁に叩きつけられる。


だが――


「……まだ、立てる」


零はゆっくり立ち上がった。


炎真が笑う。


「最初は一発で三日寝てたくせによ」


クロウが壁にもたれて腕を組んでいた。


「だが確かに変わった」


幽玄も頷く。


「妖力を失ったことで、逆に器が広がった」


零の身体の奥で、何かが静かに流れていた。


妖力ではない。


もっと原始的な「力」。


炎真が地面に拳を打ち付けた。


ドォォォォン!!


地下訓練場が爆炎に包まれる。


炎の奔流。


普通なら逃げるしかない。


だが零は動かない。


目を閉じる。


吸う。


吐く。


隠影息。


世界が静かになる。


炎の揺らぎ。

空気の振動。

熱の流れ。


すべてが「音」として聞こえる。


零の身体がわずかに動いた。


一歩。


二歩。


炎の隙間を縫うように歩く。


炎真の目が細くなる。


「……見えてやがる」


零は炎の中心に立った。


拳を握る。


そして――


ドン!!


地面を踏み抜いた。


衝撃波。


炎が一瞬で吹き飛んだ。


幽玄の眉がわずかに動く。


「今のは……」


クロウが呟く。


「妖力じゃない」


炎真がニヤリと笑った。


「身体だけで空気を叩いた」


零はゆっくり目を開ける。


その瞳には、かつての「黒」でも「無色」でもない何かが宿っていた。


炎真が近づく。


「合格だ」


零は睨む。


「まだだ」


炎真が笑う。


「欲張りだな」


そして指を三本立てた。


「残り六日」


八十五日の修行のうち、七十九日が終わった。


世界の状況は、さらに悪化していた。


幽玄が低く言う。


「五大深淵の各地で土蜘蛛が暴れている」


クロウが続ける。


「南は壊滅。西も半分やられた」


炎真が煙草を捨てた。


「中央管轄の王が、本気出してきたってわけだ」


その時だった。


ズン……


地面が揺れた。


地下の奥から、重い振動。


幽玄の目が鋭くなる。


「……来たか」


天井の影が、ゆっくり歪む。


そこから落ちてきたのは――


人間の頭を持つ巨大な蜘蛛。


土蜘蛛の上位種。


その数。


十。


クロウが舌打ちした。


「王直属か」


炎真が笑う。


「ちょうどいい」


零が前に出た。


幽玄が止めようとする。


「まだ修行中だ」


零は言う。


「違う」


一歩。


二歩。


巨大な怪異の前へ歩く。


「もう終わった」


土蜘蛛の一体が吠える。


『殺セェェェ!!』


一斉に襲いかかる。


十体の怪異。


炎真が動こうとした瞬間――


消えた。


零の姿が。


次の瞬間。


ズンッ


一体目の土蜘蛛の胴体が崩れた。


衝撃だけで内部が粉砕されている。


クロウの目が見開く。


「……速い」


二体目。


三体目。


影が走る。


音もなく。


一瞬で。


十体すべてが崩れ落ちた。


沈黙。


零はゆっくり振り返る。


「……残り六日」


その声は静かだった。


「その間に」


拳を握る。


「殺し方を完成させる」


炎真が腹を抱えて笑った。


「ハハハハ!!」


幽玄が目を細める。


「なるほど」


クロウが呟く。


「化け物だ」


零の瞳は、ただ一つの存在を見ていた。


中央管轄の王。


彩を奪った男。


残り六日。


神殺しの時が、すぐそこまで迫っていた。


残り六日で闇咲の卒業試験を受けさせて洞窟に入れられてその奥の神格をまとった化け物を殺せたら卒業の試験まだの話はボスを出さずに雑魚ころして奥に進んでいくだけでいい クロウと一緒に行って 1800文字くらいで頼んだ


夜の闇が深く沈むころ。

闇咲家の本邸、地下最奥の間に零とクロウは呼び出されていた。


石の間には、幽玄をはじめとした幹部たちが並んでいる。

炎真も壁に寄りかかり、腕を組んで見物していた。


幽玄が静かに口を開く。


「零」


低い声が石壁に響く。


「お前の修行は、残り六日」


零は黙って立っている。


「よって、本日――闇咲の卒業試験を与える」


空気が一瞬で張り詰めた。


クロウが小さく笑う。


「ついに来たか」


幽玄は続けた。


「試験内容は単純だ」


背後の石壁が、重い音を立てて開いた。


ゴゴゴゴ……


暗い通路。


奥から冷たい風が吹き上がってくる。


「この先にある洞窟」


「その最奥に、神格をまとった怪異がいる」


幽玄の目が鋭くなる。


「それを殺せ」


炎真が口笛を吹いた。


「いきなりハードだな」


幽玄は続ける。


「ただし途中には、無数の怪異が徘徊している」


「生きて戻れたなら――」


一拍置く。


「闇咲として認めよう」


沈黙。


零は一歩前へ出た。


「……行く」


クロウも肩を回す。


「久々に暴れられるな」


炎真が笑った。


「楽しんでこいよ」


幽玄が最後に言う。


「生きて帰れ」


洞窟の入口。


月明かりすら届かない暗闇。


クロウが先に足を踏み入れた。


「湿った匂いだ」


零も続く。


地面はぬかるみ、岩壁から水滴が落ちている。


ポタ……ポタ……


数十メートル進んだときだった。


ザザザザ……


闇の奥で何かが動く。


クロウが呟く。


「来たな」


次の瞬間。


闇から飛び出してきた。


四足の怪異。


狼のような姿だが、顔は腐った人間。


牙から黒い液体が垂れている。


「ギャァァァ!」


十匹。


一斉に襲いかかる。


クロウが影を踏んだ。


シュッ


影が伸びる。


二匹の首が落ちた。


零は動かない。


目を閉じる。


呼吸。


吸う。


吐く。


隠影息。


世界が静まる。


狼怪異の足音。


筋肉の動き。


空気の揺れ。


すべてが聞こえる。


零が一歩踏み出した。


ドン


拳。


一匹の頭部が潰れた。


振り向きざまに肘。


骨が砕ける。


回し蹴り。


三匹が壁に叩きつけられる。


残りの怪異が飛びかかる。


零の姿が消えた。


次の瞬間。


ズン


地面に衝撃。


怪異の群れが一瞬で沈黙した。


クロウが軽く口笛を吹く。


「派手になったな」


零は黙って奥へ進む。


洞窟はさらに深くなっていく。


空気が重い。


途中、天井から巨大なムカデの怪異が落ちてきた。


二メートルはある。


クロウが影を放つ。


だがムカデは硬い甲殻で弾いた。


「硬いな」


零が前へ出る。


ムカデが牙を開く。


「シャァァ!」


零は踏み込んだ。


拳を引く。


呼吸。


一瞬。


ドォン!!


衝撃波。


甲殻が砕けた。


ムカデの体が真っ二つに裂ける。


クロウが肩をすくめた。


「それ、妖力じゃないんだよな」


零は答えない。


二人はさらに奥へ進む。


洞窟は巨大な空洞へと繋がっていた。


そこには、数十体の怪異が群れていた。


人型。


蜘蛛。


蛇。


異形の群れ。


クロウが笑う。


「多いな」


零は静かに言う。


「全部殺す」


怪異たちが気付く。


『ニンゲン……』


『喰エ……』


一斉に襲いかかる。


クロウの影が走る。


首が飛ぶ。


腕が落ちる。


零は群れの中心へ踏み込んだ。


拳。


肘。


膝。


衝撃だけで怪異が吹き飛ぶ。


骨が砕け、地面が揺れる。


数分後。


空洞には死骸だけが残った。


クロウが息を吐く。


「……まだ序盤だな」


零は奥の暗闇を見る。


洞窟のさらに深い場所。


そこから、重たい気配が流れてくる。


神格の気配。


卒業試験の本命。


クロウがニヤリと笑う。


「さて」


「神格級の部屋だ」


零は静かに拳を握った。


呼吸。


吸う。


吐く。


隠影息。


「行くぞ」


二人は、洞窟の最奥へ向かって歩き出した。

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