表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/21

残り六日 神格殺しへ

炎に焼けた街道には、まだ赤熱した瓦礫が転がっていた。


毒糸に覆われていた家々は灰となり、夜空には煤がゆっくりと舞い上がっている。


炎真が煙草をくわえたまま、空を見上げた。


「……七十九日か」


誰に言うでもなく呟く。


幽玄が静かに目を細めた。


「早いものだな」


あの日から――零の修行が始まって、七十九日が経っていた。


闇咲家の地下訓練場。


地面は無数の斬撃と爆裂で削れ、もはや原型を留めていない。

中央には、血に濡れた零が膝をついていた。


「……はぁ……」


呼吸は荒い。

だが、七十九日前とはまるで別人だった。


全身の筋肉は研ぎ澄まされ、無駄な力が一切ない。

呼吸は静かで、深い。


炎真が腕を組んで立っている。


「まだ甘ぇ」


ドンッ!!


炎真の拳が零の腹に叩き込まれた。


普通の人間なら即死する衝撃。

零の体が数メートル吹き飛び、壁に叩きつけられる。


だが――


「……まだ、立てる」


零はゆっくり立ち上がった。


炎真が笑う。


「最初は一発で三日寝てたくせによ」


クロウが壁にもたれて腕を組んでいた。


「だが確かに変わった」


幽玄も頷く。


「妖力を失ったことで、逆に器が広がった」


零の身体の奥で、何かが静かに流れていた。


妖力ではない。


もっと原始的な「力」。


炎真が地面に拳を打ち付けた。


ドォォォォン!!


地下訓練場が爆炎に包まれる。


炎の奔流。


普通なら逃げるしかない。


だが零は動かない。


目を閉じる。


吸う。


吐く。


隠影息。


世界が静かになる。


炎の揺らぎ。

空気の振動。

熱の流れ。


すべてが「音」として聞こえる。


零の身体がわずかに動いた。


一歩。


二歩。


炎の隙間を縫うように歩く。


炎真の目が細くなる。


「……見えてやがる」


零は炎の中心に立った。


拳を握る。


そして――


ドン!!


地面を踏み抜いた。


衝撃波。


炎が一瞬で吹き飛んだ。


幽玄の眉がわずかに動く。


「今のは……」


クロウが呟く。


「妖力じゃない」


炎真がニヤリと笑った。


「身体だけで空気を叩いた」


零はゆっくり目を開ける。


その瞳には、かつての「黒」でも「無色」でもない何かが宿っていた。


炎真が近づく。


「合格だ」


零は睨む。


「まだだ」


炎真が笑う。


「欲張りだな」


そして指を三本立てた。


「残り六日」


八十五日の修行のうち、七十九日が終わった。


世界の状況は、さらに悪化していた。


幽玄が低く言う。


「五大深淵の各地で土蜘蛛が暴れている」


クロウが続ける。


「南は壊滅。西も半分やられた」


炎真が煙草を捨てた。


「中央管轄の王が、本気出してきたってわけだ」


その時だった。


ズン……


地面が揺れた。


地下の奥から、重い振動。


幽玄の目が鋭くなる。


「……来たか」


天井の影が、ゆっくり歪む。


そこから落ちてきたのは――


人間の頭を持つ巨大な蜘蛛。


土蜘蛛の上位種。


その数。


十。


クロウが舌打ちした。


「王直属か」


炎真が笑う。


「ちょうどいい」


零が前に出た。


幽玄が止めようとする。


「まだ修行中だ」


零は言う。


「違う」


一歩。


二歩。


巨大な怪異の前へ歩く。


「もう終わった」


土蜘蛛の一体が吠える。


『殺セェェェ!!』


一斉に襲いかかる。


十体の怪異。


炎真が動こうとした瞬間――


消えた。


零の姿が。


次の瞬間。


ズンッ


一体目の土蜘蛛の胴体が崩れた。


衝撃だけで内部が粉砕されている。


クロウの目が見開く。


「……速い」


二体目。


三体目。


影が走る。


音もなく。


一瞬で。


十体すべてが崩れ落ちた。


沈黙。


零はゆっくり振り返る。


「……残り六日」


その声は静かだった。


「その間に」


拳を握る。


「殺し方を完成させる」


炎真が腹を抱えて笑った。


「ハハハハ!!」


幽玄が目を細める。


「なるほど」


クロウが呟く。


「化け物だ」


零の瞳は、ただ一つの存在を見ていた。


中央管轄の王。


彩を奪った男。


残り六日。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ