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婚約破棄されたOL、地獄で伝説の悪女になる

作者: 百鬼清風
掲載日:2026/02/03

たまには、頭を緩くして楽しめる厨二病ものをと書きました。

緩~く楽しんで下さい。

「はあ?今更、婚約を無しにしてくれって?」


 言葉が口を突いて出た瞬間、自分でも分かるほど声が大きくなっていた。店内は落ち着いた照明に包まれ、他の客たちは低い声で会話を交わしている。静かな喫茶店であるにも関わらず、その空気を切り裂くように、私の声だけが浮き上がった。


「すまん!実は、この子を妊娠させちゃって。責任を取る事に…」


 向かいに座る、五歳年下の彼氏が、困りきった表情で両手を合わせたままそう言った。視線は定まらず、私の顔を正面から見ることはない。その仕草が、場を収めようとする誠意ではなく、逃げ場を探しているだけのものに見えた。


 その横には、彼と同じ歳の後輩社員の女が座っていた。椅子の背にもたれ、こちらをちらりと見るその態度には、居心地の悪さよりも、既に話が終わったものだという余裕が滲んでいる。


「というわけですので、申し訳ありませんが身を引いて下さい先輩」


 後輩社員の女は、語尾を丁寧に整えながら、さも当然のことを告げるように言った。その声音には戸惑いも躊躇もなく、最初から私が退く前提で話が組み立てられているのがはっきりと分かる。


 私は、眼鏡がトレードマークの三十歳のOL、木下陽葵きのしたひまり。彼とは新入社員歓迎会で知り合い、付き合い始めてから今日まで、順調に関係を重ね、結婚の約束にまで辿り着いていた。その時間と積み重ねが、今この席で、軽く押し流されようとしている。


「馬鹿を言え!!この歳の女を捨てるなんて、産業廃棄物違反よ!」


 女の言葉は聞かなかったことにして、向かいの彼だけを見据え、大声で言った。腹の底からせり上がる怒りが、言葉の勢いをそのまま押し出していく。


「すまん、どうしようもないので…」


 彼は終始下を向いたまま、言い訳とも謝罪ともつかない声を絞り出した。そこに、決断した者の強さはなく、ただ事態から目を逸らしたい気配だけが残る。


「先輩怖い…」


 女は、私を刺激することを計算したかのように、わざとらしく嫌そうな声を出した。助けを求める振りをしながら、視線の奥では勝ち誇った色が消えていない。


「〇ね!〇んで詫びろ!」


 気が付いた時には、私は叫んでいた。抑え込んでいた感情が、一気に表に噴き出し、喫茶店の静けさを完全に壊していた。



「あーもう、むかつく!」


 行きつけのバーで、私はやけ酒を呑んでいた。照明を落とした店内には低い音楽が流れ、グラスが触れ合う小さな音が等間隔に混じっている。その中で、私だけが感情を持て余し、アルコールで無理やり押し流そうとしていた。


「ははは、君はまだまだ若い。新しい男性が現れるよ」


 横に座る、イケメンでナイスミドルの同じ会社の上司である部長が、肩の力を抜いた声でそう言った。私のやけ酒に付き合ってくれているという形ではあるが、その余裕のある態度が、今の私には妙に癪に障る。


「簡単に言わないで下さい!」


 思わず、ドンとグラスをテーブルに叩きつけて言った。中の酒が揺れ、氷がぶつかる音がはっきりと耳に残る。


「そうか、では、君を振った彼氏と新しい女性を地獄へ送れるとしたらどうする?その場合は、人を呪わば穴二つ。君も地獄へ行くだろうが」


 部長は、私の反応を楽しむかのように、ニヤリと笑って言った。その目には冗談めいた光がありながら、どこか冗談だけでは済まされない色も混じっている。


「はあ?何言ってるんですか。呪いなんてあるわけないでしょ。でも、あるなら即地獄送りにしてやりますよ!あーくやしい!どうせ私なんて生きていても良い事ないし」


 溜まっていた言葉を、そのまま吐き出すようにそう悪態をついた。考えるより先に口が動き、後戻りする余地もなく感情だけが前に出ていた。


「そうか、では契約成立だ」


 部長は、確かにそう言った。

 冗談を締めくくるような軽さでありながら、その一言だけが、妙に耳に残ったまま離れなかった。



「あ~頭痛い」


 目を覚ますと、自分の部屋のベッドの上に、ビジネススーツ姿のまま横になっていた。着替えた記憶はなく、靴を脱いだ覚えすら曖昧で、体の重さだけが現実感を伴ってのしかかってくる。


 部長が「契約成立だ」と言ってから後の記憶が、きれいに抜け落ちていた。バーを出た場面も、帰宅した道順も思い出せず、頭の奥に鈍い痛みだけが残っている。


「何か飲み物買いに行こう」


 喉の渇きを誤魔化すように呟き、ベッドから体を起こした。そのまま部屋を出て、コンビニに行く事にした。夜の空気はひんやりとしていて、頭痛を冷ますにはちょうどいい気がした。


 コンビニに行く夜道の途中の横断歩道で、元彼とその女が、向かい側から歩いてくるのが見えた。まったくの偶然だ。こんなタイミングで、こんな場所で顔を合わせる理由は、どこにもないはずだった。


「キキ―!!!」


 その瞬間、大型トラックが、私達三人の前に突っ込んできた。甲高いブレーキ音が夜道に響き、視界いっぱいに迫る影が、逃げ場を塞ぐ。


 そこで意識が飛んだ。



 気がつくと、私は中世ヨーロッパの貴族の部屋の様な一室で、大きなベッドの上に寝ていた。天蓋付きの寝台、重厚なカーテン、壁に掛けられた装飾品の一つ一つが、現代日本の生活感とは完全に切り離されている。


「ここは、天国?あー、ろくな事が無い人生だったわ」


 状況を把握しきれないまま、思わず溜息をついた。頭の奥に残る鈍い痛みと、場違いな豪華さが、現実感をさらに遠ざけていく。


「違うぞ、ここは地獄だ」


 低く、よく通る声が部屋に響いた。振り向くと、扉の向こうから、中世貴族風のきらびやかで豪華な服を着た男が入ってきて、当然のことのように言った。


 その顔は、確かに部長だった。


「部長、なんでコスプレしてるんですか?ここはどこ?」


 驚きに体を跳ね起こして言った瞬間、自分自身の違和感にも気づく。身にまとっているのは、いつものスーツではなく、装飾の施された豪華なドレスだった。


「これは現実だ。契約通り、お前達3人を地獄に堕としてやった。喜ぶがよい。私は悪魔だからな」


「はあ?じゃあ、現世の部長は一体?」


「あれは私の現身の一つにしかすぎない。悪魔の貴族ともなれば、営業用の現身の一つや二つ持っている。私は、魔王の一人サタナエル3世である」


 部長。いや、魔王サタナエルは、何の躊躇もなくそう言い切った。その口調には冗談の余地がなく、こちらが否定する前提すら与えられていない。


「とゆう事は、私はどうなってしまうので?地獄で強制労働?」


「何を言う。お前の魂は、私の所有物だ。そんな事にはならない。迷いなく元恋人を地獄送りにする胆力は私好みだ。妃となってもらう。代わりに3つ願いを叶えてやるぞ。逃げるのは許さんがな」


 魔王サタナエルは、断言した。選択肢が存在しないことを、言葉の端々で突きつけるように。


「いや、そんなうまい話があるはずがない!じゃあ見た目17歳の頃に戻してみて」


 半ば意地で、そう要求する。


「私からすれば人間など何歳でも子供の様なものだがな。仕方ない」


 サタナエルが軽く指を動かした、その瞬間、私の体に走った違和感は一瞬だった。次に感じたのは、軽さと、鏡に映るはずのない記憶の中の自分。


 私の姿は、17歳の頃に戻っていた。


「すげー!これって現実!?」


 部屋にあった姿見の前で、私はクルクル回って確認する。髪の艶、輪郭、立ち姿の全てが、確かに過去のものだった。


「じゃあ、次は永遠の若さを頂戴!それに、地獄で、どんな女にも負けない力を!」


 勢いに任せて、私はそう言った。


「人間は老いてこそ美しいのだがな。永遠は無理だが、この私が生きている限りは若さを保証しよう。そして、どんな女にも負けない力をやろう。私の妃が害される事は許せんからな」


 サタナエルは、また軽く指を動かす。


「何にも変わらない気がするけど」


 あまりの変化の無さに、正直な感想が口をついて出た。


「心配するな、もう若さと力は宿っている。ただし、悪魔の力は氷の心、非情の心が無ければ無効となる。いいか、氷の心を失えば、お前は若さと力を失う事になる」


 サタナエルは、念を押すように言った。その視線だけが、やけに重く感じられる。


「なんか分からないけど注意するわ」


 状況を飲み込めないまま、そう答えるしかなかった。



「失礼します」


 次の日の朝、イケメンの礼服を着た男が、部屋に豪華な食事の載ったカートを押して入ってきた。銀の蓋が並ぶその上からは、香りだけで分かるほど手の込んだ料理の気配が漂っている。


「朝食でございます。私は、この城の執事のドラクルと申します。元は人間界で吸血鬼をしておりました」


 ドラクルは、そう言って、腰を深く折り、丁寧に頭を下げた。その所作は完璧で、動きに一切の無駄がない。


「ドラクルって偉い吸血鬼じゃなかったの?何で執事なんてやってるのよ」


 思ったままを口にすると、ドラクルは姿勢を崩さないまま、穏やかに答えた。


「いえいえ、サタナエル様に比べれば、魔界では雑魚も雑魚。当然でございます」


 その言葉に卑屈さはなく、事実を述べているだけだと分かる口調だった。



「あー美味しかった!三食昼寝付きとは、地獄最高!」


 食事を終え、満腹感に身を委ねた私は、思わず声をあげた。贅沢な味と量に、疑いようのない満足感が残っている。


「御満足いただけて幸いです」


 ドラクルが、控えめにそう言った。


「昼寝付きではないぞ」


 その声と同時に、部屋の空気が変わる。いつの間にか入ってきていたサタナエルが、当然のように言った。


「私の妃としては、お前はお子様だ。魔界の子息令嬢の通う学校に行ってもらう。当分は花嫁修業だ」


「ええ!?私は30歳なんだけど。お子様じゃない!」


 思わず、不満をそのままぶつける。


「私にとっては、お子様の様なものだ。お前には、若さも強さも与えてある。どこに行っても問題は無い。おとなしく行け」


 有無を言わせぬ口調だった。その言葉には逆らえないと、直感的に理解してしまう。私は、渋々ながら了承するしかなかった。


「このドラクルを補佐としてつけてやるから心配するな」


 サタナエルがそう言った瞬間、ドラクルの姿が揺らぎ、次の瞬間には、蝙蝠の形のマスコットがついた黒いチョーカーへと変わっていた。それは、そのまま私の首元に巻き付く。


『よろしく、お願いします。お嬢様。私は、蝙蝠が出来る事は大体出来ますので』


 ドラクルの声が、音もなく、直接心の中に響いてきた。


「では、ゆくがよい」


 サタナエルが軽く指を動かすと、私の姿は寝巻から紅色のドレス姿へと変わる。布地は体に吸い付くように馴染み、動くたびに光を含んで揺れた。


 背中からは大きな蝙蝠の羽根が生え、そのまま体が持ち上げられて、空中に浮かび上がる。


『では、行きますよ。お嬢様』


 ドラクルの声と同時に、私は窓から飛び出した。


「こんなの聞いてなーい!」


 そう叫んだが、スピードが緩まる事は無かった。風が容赦なく顔を打ち、視界が一気に流れていく。


 空から見ると、サタナエルの屋敷は断崖絶壁の山頂に建つ巨大な城だった。

 その城は、みるみるうちに小さくなり、やがて眼下の景色の一部へと溶け込んでいった。



 やがて学校が見えてくると、それはサタナエルの城に負けず劣らず巨大な、イギリス風の建物だった。尖塔と重厚な外壁が連なり、要塞のような威圧感すら漂っている。


『インペリアル・スクール・デーモン(ISD)で、ございます。有力な貴族王族の子息令嬢が集まる高等学校です。3年から数百年、成績や好みでいくらでも留年が可能でございます』


 ドラクルが、淡々と学校の説明をした。


「数百年も高校生やりたくないわ!私は、大学卒業してるのよ」


 反射的に声が出て、私は留年をはっきりと拒否した。


『フフフ、お嬢様の成績と希望次第です』


 ドラクルは、意味深に含みを残した。



「おい、あれが新入生か。何でも人間界で数万人を〇〇したとか」


「若い女の生き〇の風呂に毎日入っていたそうよ」


「国をいくつも滅ぼした傾国の美女らしい」


 ドラクルの案内で、立派な廊下を教室へ向かって歩いていく。すれ違う悪魔たちの視線と囁きが、はっきりとこちらに集まっていた。


「既に、不穏な噂が流れているんですけど、どういう事?」


 私は小声でドラクルに尋ねた。


『悪魔には、元天使、神、怪物などがおります。お嬢様は元人間の“魔人”という事になっております。魔人となる人間は、相当の悪行をした者なのです』


 ドラクルは、落ち着いた口調で答える。


「そんな事した覚えがないんだけど」


 即座に否定した。


『ご心配なく。お嬢様は人間の魂のままですが、サタナエル様によって最強の力を与えられております。何があっても舐められる事はありません』


 彼は、自信を持って言い切った。


「いやいやいや、そういう事じゃないんだけど!悪い噂が出たら、この先の学校生活で困るでしょ」


 私は、強く否定した。


『悪い噂?いいえ、魔界では良い噂で…』


 ドラクルが、そう言いかけた瞬間、前方から二体の太った、相撲取りのような姿の悪魔が突進してきた。


 一体は頭がタコ。もう一体は、毛むくじゃらでカエルの顔をしている。


「悪女最高!付き合ってやあぁぁぁあ!」


「わしともじゃー!!」


 彼等は叫びながら、一直線に私目掛けて突っ込んでくる。


「いやぁああああ!」


 思わず両手を突き出した、その次の瞬間。


「ぐぶふおぇぇぇえええええ!」


「ぎゃあああああ!」


 彼等の体は、バ〇バ〇に四〇し、廊下の壁に叩きつけられてシミになった。


「なにこれ、本当に強くなってる」


 粘液まみれになった自分の両手を見下ろす。


「やっぱり、恐ろしい悪女だ!悪役令嬢だ!何て魅力的なんだ」


「なんて恐ろしい力だ。伝説の悪神を二人同時に一瞬で…素敵すぎる」


 周囲から、興奮混じりの賛辞が飛んでくる。


 二人の太った悪魔は、すぐに再生し、私の前で揃って土下座した。


「ははぁー!失礼いたしました。この海の魔神クツルフ、大地の魔神ツタクワ。今日から、お嬢の忠実な下僕となります!」


 タコ頭の悪魔が、勢いよくそう言った。


「はあ?マジいらん」


 心底嫌そうな顔で言う。


「はあ!そのお言葉、最上の御褒美でございます」


 二人の悪魔は、床の上でクネクネと悶絶した。


 立派な造りの一年生の教室に足を踏み入れると、さらに男子悪魔達のナンパは続いた。着席する間もなく、イケメン悪魔達が私の席を取り囲む。


「お嬢さん、俺と付き合わないか?俺は、人間を○○人、〇した男だぜ」


「いえ、既にサタナエル様と婚約中ですので」


 そう答えても、彼らは引き下がらない。


「魔王の妃ともなれば、浮気相手の100人や200人はいて当たり前。何の問題も無い」


 男子達は、まったく怯む様子が無かった。中にはブサイクも混じっているが、イケメンに囲まれる状況そのものは、悪くないと感じ始めてしまう。生きている時には一度も無かった、明らかなモテ期だった。


「まあ、悪魔になったばかりの女が生意気な」


「新入りが調子に乗って!」


 教室のあちこちから、女子悪魔達の嫉妬混じりの声が飛んでくる。


「バシッ!」


 突然、私の顔に白い手袋が叩きつけられた。


「あいた!」


 思わず声が漏れる。


「そこの猿。調子に乗るな。この私が、魔界の上下関係というものを教えてやろう。今すぐ決闘しろ。まさか、魔王の婚約者が逃げるなどとは言わないな?真の悪役令嬢が誰か教えてやる」


 そう言ったのは、黒髪ロングで黒い肌の美人だった。頭には、猫の耳が生えている。


「まあ、なんて可愛らしい」


 思わずそう口に出た。猫派なのだ。


「はあ?侮辱は許さんぞ、すぐ外に出ろ」


 美人は、余計に怒りを露わにする。


「お嬢!彼女は、魔神パステト。人間を〇う、悪魔ですわ」


「えろう、強うおまっせ」


 私の席の後ろで正座していたクツルフとツタクワが、大阪弁で言った。


 しかし、先ほど自分が見せた力を過信していた私は、そのまま外に出ることを選んだ。



 パステトと二人で、学校の中庭に出る。


「きゃー!パステト様!生意気な新入りを〇しちゃって下さい!」


「陽葵様、素敵ぃ~!」


 黄色い声が、校舎中から響いてくる。


「俺は、新入りに賭けるぜ」


「当然、パステトに賭けるだろう」


 男子悪魔達の声も、ざわめきに混じって聞こえた。


「こんな目立つところで喧嘩とかいいの?」


 私は、小声でドラクルに確認する。


『悪行こそ悪魔の誉れでございます』


 ドラクルは、当然のことのように答えた。


「バシィイイイ!!」


 パステトは、決闘開始の合図も無く、いきなり私を思い切りパンチした。


「ぐわっ!」


 衝撃が走り、私はそのまま地面に倒れ込んだ。


『何とか軽傷に済ませましたが、私の力ではこれが限界。私では彼女に勝つ事は出来ません。戦うのです』


 ドラクルの声が、焦りを帯びて頭の中に響く。


「よくも、やったわね!」


「ははは、卑怯こそが悪魔の誉れだ」


 私は、歯を食いしばり、パステトを全力で殴った。


「何だこのパンチは?蚊が止まるぞ」


「バシィイイイ!」


 再び、パステトの拳が飛んでくる。体が宙を舞い、何メートルも飛ばされて地面に這いつくばった。


「何で?全然強くなってないんですけど。さっきと全然違う」


 転がりながら、そう呟く。


『お嬢様、冷たい心です。魔王様の力は冷たい心が無ければ無効になるのです』


 ドラクルが、静かに答えた。


 気が付くと、私の姿はいつの間にか三十歳の時に戻っていた。若さを取り戻していたはずの体は重く、きつくなったドレスが身に食い込む。


「そんな事を言っても、あんな可愛い娘に冷たい心を向けるなんて出来ないわ」


 それが、今の正直な答えだった。


「まあ、何て醜みっともない。もう魔力切れ?少しは悪魔らしくなりましたね、オホホホホ!眼鏡オバサン」


 パステトは、余裕たっぷりに高笑いした。


「何ですって?私は、まだ30歳だ。オバサンじゃねぇ!てめえは、何歳だ!?」


 怒りが一気に噴き上がる。黒いオーラを放ちながら、私は立ち上がった。割れた眼鏡が再生し、白く光る。


「え?5000歳くらいですが」


「お前の方が年増じゃねえか!いつまでも高校生やってるんじゃねえ!」


 そのまま振り抜いた私のパンチが、パステトの顔にめり込んだ。

 彼女の顔は、〇っ〇んだ。


 辺り一面が、〇の海になる。


「うぉおおおお!伝説の悪女だ!真の悪役令嬢だ!」


「陽葵様、素敵ぃぃいいい!」


 校舎中から、割れんばかりの歓声が上がる。


「にゃー、今日からお姉様と呼ばせてもらいますにゃ」


 小さな黒い猫の姿に再生し変身したパステトが、私の足に頭をこすりつけて、じゃれつきながら言った。


「あら、やっぱり可愛い!」


 思わず、そのままパステトを抱き上げる。姿も17歳に戻っていた。


「さすが、お嬢!!やっぱり付き合ってくれやぁぁああああ!」


「わしともやー!!」


 パステトを抱き上げたまま、再び私に突っ込んでくるタコ悪魔とカエル悪魔を、蹴り上げて吹っ飛ばした。二人の悪魔は、また爆散した。


『さすが、お嬢様でございます』


 ドラクルが、感心したように心の中で呟いた。



「私は、魔王の一人ベルゼビュート。お前達は、今日から私の所有物であり地獄の囚人である。転生の祝いに、好きな力を一つ与えよう。誉れに、うち震えるがよい」


 暗い広間。王座に座る男が、前に座り平伏する男女へ向けて言い放った。


「はい。出来るなら、あの女に復讐する力を…」


 震える声で、座る男が言う。

 男女は、元彼とその女だった。


「その力、氷のように冷たい非情の心が無ければ無効だからな」


 魔王ベルゼビュートは、ニヤリと笑った。



完。


よろしければ何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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