Episode6
暗闇の中、周囲を一望できる高さまで浮上する。
カニルより先に飛び立ったwingsたちの姿はすでに辺りにはなかった。
夜風に吹かれて木々の葉擦れの音がする。
その中には、わずかだが野鳥たちの話し声が混じっていた。
カニルが声のする方に向かって飛んでいくと、一羽の野生のヨタカが視界に入る。
他の鳥たちと比べて飛行スピードがやや遅い。
カニルは、ヨタカが飛んでいく方向に進路を合わせてそっと体を横に着けた。
「じいさん、何が起きてる?何か知っているか?」
ところどころ羽毛が白っぽくなっているヨタカは、カニルを一瞥すると低い声で答えた。
「お前、野生じゃないな」
ヨタカはめんどくさそうに答えた。
カニルの相手をしたいわけではなさそうだったが、明らかに自分より年の若い鳥を巻くことは不可能だと思ったのか、飛行速度を落とさずに会話を続ける。
「もう薄々気づいてるだろう?地震だ、津波が来るぞ。それも、今回はかなり大きい。鳥たちはこれからみんな都市の中央へ避難するだろう」
「そんなにでかいのか?」
「ああ、ここ数十年なかったレベルだろうな。お前らみたいなのの中にはもう気付いているやつもいるんじゃないのか?さっき、何人か海の方に飛んで行くのを見た。ところで、人間たちは何をやっているんだ?なぜ避難しない。まさか、まだ気付いていないのか?」
方々からサイレンのような音が聞こえる。
ハヤブサたちが、仲間に危険を知らせるように大声で鳴いていた。
「あんたも早く逃げるんだな」
そう言うと、ヨタカはまっすぐにポロスの方に飛んで行った。
カニルはその場で停まると、ホバリングしながら再び周囲を見渡した。
森の中に生息していた野鳥たちだけでなく、海鳥たちまでもが、都市の中央に向かって飛んでいた。
カニルは、何が起きているかは理解したものの、これからどうするべきなのかがわからなかった。
店に戻って客たちに津波が来る、と言ったところで、地上の人間たちが体感できるほどの地震はまだ起きていない。
仮に信じる人間がいたとしても、返ってその場をパニックにしてしまう可能性だってある。
考えを巡らせても、答えはでなかった。
カニルはひとまず、来た道を引き返して店に向かうことにした。
ベリルにだけでも伝えておけば、自身が来た後に客の対処がしやすくなるかもしれない。
オーナーはまだ牧場だろうか。
ラリーは?
あいつのことだから動物たちを気にして牧場に向かっているに違いない。
店の上まで到着すると、入り口の所にベリルが立っているのが見えた。
ベリルを驚かせないよう、少し離れたところに降り立ち、入り口の方に歩いて向かうと、足音に気づいたベリルがカニルの方を向いた。
「カニル」
「どうした、店の外に出て」
カニルが尋ねると、ベリルはお客さんが数人同じタイミングで外に出ていくところを見たこと、ラリーに様子を聞いたら心配しなくていいと言われたことを話した。
「それでもなんだか胸騒ぎがして、落ち着かなくて外に出ていたの。ラリーは忘れ物をしたからって牧場にまた戻ったわ」
カニルは自分が見聞きしてきたことをベリルに話すべきか躊躇していた。
見せに向かう最中もどうすべきか考えていたのだが、結局結論はでなかったのだ。
「何?やっぱり何かあるの?」
ベリルがカニルの顔を覗き込む。
黙っていてもしょうがないと思ったカニルは、何か言おうと口を開こうとした。
次の瞬間、地面が左右にぐらりと揺れた。
カニルは、ふらついて倒れそうになったベリルに咄嗟に手を伸ばす。
店内からは客たちの悲鳴が聞こえた。
「何?地震?」
ベリルはカニルに捕まりながらなんとか体制を立て直す。
「ああ、これからまた大きいのが来るみたいなんだ。客たちがパニックにならないうちに、少しずつ外に誘導した方がいいかもしれない」
「わかった、他の店員と、あとは常連さんにも声をかけて手伝ってもらえるよう頼んでみる」
そう言って店の方に駆け出すが、すぐに立ち止まって後ろを振り返った。
「ラリーとお父さんがまだ牧場にいるわ」