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ブルーバード  作者: 憩徒
4/10

Episide3

例年、ちょうど感謝祭の前後に、翌年のwingsを募集する告知が行われる。

18歳になる若者たちが、自分の将来を考える節目だ。

本来であれば、来年、僕もそのタイミングを迎えるはずだった。


2年前、僕は15歳のときにwingsの施術を受けた。

18歳以下の子どもに施術をするリスクを調べる。

そう銘打って政府が1年だけ実施した研究の実験台だった。

15歳の誕生日を迎える年の1月、政府の役人が僕たちが住んでいる孤児院に来た。

普段、日常生活で関わる大人は孤児院のスタッフだけだったので、突然見慣れない複数の大人たちが急に現れた日のことは記憶によく残っている。

孤児院にいた15歳から17歳までの子どもたちが、暗幕でおおわれた大型バスに乗り込まされる。

連れていかれた先は、近くの教会だった。

そこでは、同世代の子どもたちが集まっていた。

他にもバスが停まっていたので、どこかから同じように呼ばれたのだろう。

胸に番号が書かれたワッペンのようなものを貼られ、教会の中に入る。

均等に並べられた教会の椅子に座るように促され、自分の番号が呼ばれるまで待つように、と伝えられた

番号を呼ばれた子どもは、立ち上がって教会の人の指示で外に連れていかれる。

呼ばれた子どもが戻ってくることはなかったので、何をされているのかはその時は分からなかった。

僕は、自分の番号が呼ばれると、他の子たちと同じように、立ち上がって教会の人についていく。

外に出ると、そこには白塗りの大きなバスが停まっていた。

外には、孤児院のスタッフであろう数名の大人が待機していた。

バスの前の扉からは、僕より前に呼ばれたであろう子どもたちが外に出ていく。

僕は、教会の人に促されるまま、中央の扉からバスの中に入った。

バスは中央扉より後ろは白いカーテンで覆われており、中が見えなくなっている。

カーテンをくぐると、消毒のにおいが立ち込める室内に、3人ほどのこどもが列を作っていた。

列の先には、白衣姿の医師が座っており、両側には看護師が1人ずつ立っていた。

先頭にいた子供は袖をまくられると、サッと看護師が二の腕のあたりを消毒し、医師が注射を行う

1人あたりに要する時間は、10秒ほどだったようにも思う。

何を打たれているのか、確認する間もなく自分の番になり、注射を打たれる。

はい、これで終わり、帰っていいですよと笑顔で看護師が言い、バス前方の扉から外に出るように言われた。

バスの外に出ると、僕より後に呼ばれた子どもが中央の扉から中に入っていくところだった。

孤児院のスタッフに声をかけられ、来たときに乗っていたバスに乗り込む。

全員が乗り込んだのを確認したあと、バスは孤児院へと戻った。

このとき受けたのが、wingsの施術だったとあとになって知った。

親のいない子どもであれば最悪死んでも悲しむ人間は少ないし、無駄なトラブルを回避できる。

おおかた、そんな考えだろう。


数日後、同じ日に施術を受けた孤児院の子どもたちの何人かが姿を見せなくなった。

そのときは、どこかの金持ちにでも急に貰われでもしたのだろうと、特に誰も気に留めることはなかった。

そういったことは孤児院では時々あったからだ。

全体の40%の子どもが死んだ、と聞いたのはそれから1年ほど経ってからだった。

施術後に生きていた子どもは1週間ごとに、政府の人間から身体検査を受けた。

そして結局施術を受けた子どもたちのうち、半数の子どもには何の変化も現れなかった。

1年後、18歳以下の子どもに施術をするメリットはないと結論付けられ、研究は打ち切られた。


僕はといえば、施術後しばらくの間は体に何の変化もなかった。

ところが、施術を受けて数週間経ったある日、僕の背には人間のものではない産毛のようなものが生えてきた。

それがwingsの特徴が発現したしるしだった。

身体検査を担当した医者がそれを見つけると、それから毎週、政府側から派遣されてきた研究者が僕の様子を見にやってくるようになった。

最初は1度に数十人の大人がやってきていた。

白衣姿の大人がじろじろと僕の身体を観察する。

親のいなかった僕は、突然たくさんの大人たちから注目されるようになり、少しだけ優越感を感じていた

自分が特別であるかのように思えた。

今振り返ってみると、彼らからの視線はただの好奇の目だったように思う。

そう考えると、じろじろと見られていたのは気味が悪いような気もするが、研究者たちからしたら、僕の方が気味の悪い存在だったに違いない。


2ヶ月ほど経つと、背にしっかりと翼が生えた。

背中に集中すると、両手を伸ばした時ほどの長さの翼が広がる。

そして僕はそれをしまったり出したり自由にできるようになった。

背中に翼が生えていることは誰にも話してはいけない、そう医者からも孤児院のスタッフからも言われていた。

翼があることは、僕と大人たちだけの秘密、君は特別なんだから。

その言葉を素直に信じた僕は、律儀にその約束を守った。

しかし、そこからさらに数ヶ月経つと、少しずつ僕の様子を見にくる大人の数が減っていった。

僕の背中には翼が生えたものの、wingsの特徴がそれ以上発現しなかったからだった。

本来、wingsの特徴が現れた人間たちは、人型、頭や翼、足だけを鳥の姿にする人獣型、完全に鳥の姿になる鳥型の3種類を自由にコントロールすることができるようになる。

ところが僕は、背中にグレーの羽根が生えただけだった。

そして、政府が僕を失敗作だと判断した一番の理由に、飛べなかった、ということがある。

僕は翼を広げ飛ぼうとしても、体を上手く支えることができず、墜落してしまう。

僕はwingsになれず、ただ背中に翼のようなものを持つ人間になっただけだった。


今では1ヶ月に1度、僕の様子を見に政府の研究者が1人訪ねてくるだけになった。

様子を見に来る、と言っても、本当に見に来るだけだ。

僕の体にその後も特に変化はなかったし、政府側はもうこの実験に対する興味を失っていた。

ただ、政府から失敗だと判断されたこの実験は、僕にとっては意外にもいい変化をもたらした。

政府の研究者であるラピスが、僕のいい友人になったのだ。

ラピスはセキセイインコのwingsだった。

多言語を操り、地上、天上を含む世界中を飛び回って、wingsたちの情報を集めている。

僕は彼女から、世界の話を聞くのが好きだった。

知らない外の世界の話を聞くのは新鮮だったし、色々な種類のwingsがいることも教えてくれた。

彼女のような、言語能力や知能に長けているインコは主に学術分野、夜目が効くフクロウや羽毛が黒いカラスなどの種は夜間の警備や偵察、木材加工に長けたキツツキやニワシドリは建築など、wingsはそれぞれ特徴を活かして働いている。

施術のとき、鳥の種類は選べないので、体が完全に鳥型になった際に、初めて自分が何の鳥か知ることになる。

施術を受ける側にとってはランダムのようなものだが、政府のものたちは、地上の人間のプロフィールを把握しているとされており、投与される遺伝子に対する適性はある程度考えられているようだった。

ちなみに、今のところ僕は完全な鳥型にはなっていないので、いまだに何の鳥なのかわからない。

彼女の話の中でも特に僕の興味を誘ったのは、政府の親衛隊であるブルーバードについてだった。

6人組の飛行部隊で、wingsで最も位の高い仕事のうちのひとつだ。

普段は天上で元首の警護をしている。

ブルーバードと言っても、全員が青い羽を持っているわけではない。

求められるのはあくまで元首を、国の平和を守ること。

飛べることは大前提だが、wingsの中でもトップクラスのスピードと戦闘力、知能が求められる。

相当な訓練を積んだものしかその座にはつけないと言われているが、その基準は地上に住んでいる僕たちにはわからない。

天上での市民の反乱を抑えた、地上での災害時に多くの人を助けた。

ラピスから、そんな逸話を聞くうちに、僕は次第にブルーバードという存在に憧れるようになっていった

ヒーローを好きになる感覚に近いかもしれない。

とにかく、その実際に会ったこともない6羽の鳥たちを一度この目で見てみたいと思うようになっていった。

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