Prologue
人間が他の動物たちより優れているなど誰が言ったのか。
彼らは僕たちより多くのものを見て、多くのことを知っている。
ただそれを言葉にしないだけだ。
言葉にしないことは、何も知らないということではない。
君のすべてを見ているものが、君を理解してくれるものが、同じ言語を話す同じ種族とは限らない。
君にとっての友人が誰かは、君にとって大切なものが何かは君が決めていい。
頬を切る風、とはよく言ったものだ。
本当に頬が切れそうなくらい肌が痛い。
木々が何かを話しているかのようにざわめく。
僕には彼らの言葉は分からない。
頭上には星。
正しくは、頭上に瞬いているであろう星。
夜の森、という空間が僕を包む。
少しずつ、僕の体はその闇に溶けていって、夜と1つになる。
自分の荒い呼吸の音だけが、この空間に必要のないもののように思う。
それさえなければ、もっと美しくなれるはずだ。
水に浮いている時のようにもっと浮遊感があるのかと思っていたが、そうでもない。
ふわり、とは程遠かった。
空気に体を沿わせてただ流れる。
川の流れに逆らわず、流されている感覚に近い。
自由を感じる余裕もない。
少しだけ翼を引き上げ、力いっぱい振り下ろす。
大切なのは引き上げる力じゃない、振り下ろす力だ。
空気を力いっぱい蹴り上げるようにして、どうにかその上に体を乗せる。
バランスを崩さないよう、身体を並行に保たなければならない。
走っている時の感覚に似ているって、いつかあいつが言ってたのは本当だったんだな。
話を聞いたときは夢のないことを言うな、と思ったけれど、ただ事実を言っていたのだということが今ならわかる。
後で謝ろうか。
もちろんそんな機会があればだけれど。
でも、俺の言ったとおりだったろうと、威張られるのも癪だな。
やっぱり黙っておこう。
そもそも、あいつはきっと覚えていないだろう。