表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰にも推されなかった私が、天界で君の最推しになりました  作者: 白月 鎖
【第1章】転生したら“推され人生”が始まりました
6/55

第6話:嫉妬と噂、少女たちの攻撃開始

──最初の異変に気づいたのは、靴箱だった。


朝の登校。澄んだ空気、透き通った光。

天界の朝は、いつだって静かで綺麗で、まるで何も悪いことなんて起きないみたいだった。


けれど。


「……これ、なに……?」


ユリエル──私の靴箱の中に詰め込まれていたのは、ぐしゃぐしゃに濡れた羽根だった。

誰かの羽が濡れて落ちたのではない。

これは、わざと、私の“翼”に見立てて切り刻まれたもの。


 


「ユナ……」


隣で靴を履いていたアリエルが、そっと手を伸ばす。


「大丈夫。すぐに掃除すれば、誰にも見られないよ」


 


そのやさしさが、胸に刺さる。


でも、どうしても言えなかった。

“これくらい、気にしない”なんて、強がりでも言えなかった。


 


その日の授業中、机に座った私の手が止まった。


ノートの上に、赤い羽根ペンで書かれていた一文。


──《推し泥棒》──


 


それはまるで、天使界の神聖な空気を裏切るような“呪い”の言葉だった。


周囲は見ないふりをしていた。

でも、私には分かった。小さな笑い声。ちらちらと向けられる視線。

ランキングで名前が出たあの日から、私への“注目”は、確実に変わっていた。


 


(……私、悪いことなんてしてないのに)


 


お昼休み。

アリエルと食堂に向かう途中、私は自分の弁当箱が入った袋を開けて――凍りついた。


 


空だった。

蓋も、仕切りも、すべてがきれいに“捨てられて”いた。


 


「……そんな……」


あの、節約して丁寧に作った、地味なお弁当。

食材のひとつひとつを大事にした、私なりの“生きる力”の象徴だった。


 


「ユナ……」


アリエルが、そっと自分のお弁当の半分を差し出す。


「一緒に食べよ。足りなかったら、わたしのもあるから」


 


「……ありがとう。でも……ごめん」


私の手は、彼女のお弁当には伸びなかった。


 


「巻き込みたくないの。アリエルまで、何かされちゃったら……」


 


アリエルは悲しそうな目をしたけれど、何も言わなかった。

そして、ほんの少しだけ、距離を置いて歩き出す。


私を責めるわけでもなく、ただ、そっとそばにいるように。


 


……だけど。


私は知っていた。


あのとき彼女が背負ってくれた“信頼”を、

私が自分の手で、遠ざけてしまっていることを。


 


(どうして、“推される”ってだけで……こんなにも、怖いの?)


 


何も悪いことをしていないのに。

ただ、自分の居場所を探していただけなのに。


“誰かに注目された”ことで、こんなにも孤独になるなんて。


 


私はその日、教室の隅の席で、誰とも目を合わせずに授業を受けた。


声をかけてくれる人も、笑ってくれる人もいなかった。


 


ただ一人、アリエルだけが。


休み時間のたびに、私の席にそっとノートを置いてくれたり、飲み物を渡してくれたりしていた。


 


何も言わずに、ただ、そうしていてくれた。


 


“味方”がいる。


それだけが、私の、唯一の救いだった。


 


──でも、私にはまだ、その小さな優しさを“信じる”勇気が、足りなかった。


 


……まだ、私は。


“誰かに好かれてもいい”って、心から思えていなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ