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誰にも推されなかった私が、天界で君の最推しになりました  作者: 白月 鎖
【第5章】君の“本音”が知りたい
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第50話「アリエルの記憶、夜明けの“夢”」

夜明け前の静かな学園寮。


ユナはベッドの中で目を開けていた。四煌たちに想いを伝えた夜の余韻が、まだ胸の奥で波のように揺れている。


——「選ばない」と伝えたことは、正直怖かった。


だけど、あの時、彼らがそれぞれの言葉で「それでも推す」と言ってくれた。


“推される”ことの意味が、少しだけ変わった気がする。


そんなことを考えていたら、不意にノックの音がした。


「ユナ……起きてる?」


ドアの向こうから聞こえたのは、アリエルの柔らかな声だった。


「うん、起きてるよ」


ドアがそっと開き、アリエルが手に温かいハーブティーを持って入ってきた。


「……少しだけ、話してもいい?」


「もちろん」


ベッドの端に腰掛けたアリエルは、しばらく何も言わなかった。けれどその瞳は、どこか決意を宿していた。


「……ユナ。あのね、昨日、夢を見たの」


「夢?」


「うん。小さな泉のほとりで、誰かが私に話しかけてるの。『あなたには癒しの手がある』って、何度も」


アリエルの声は震えていた。


「でも、その人の顔はぼやけてて、何もわからなかった。なのに……その言葉だけは、どうしても忘れられなかった」


ユナは静かに頷いた。


「それって、アリエルの“前”の記憶かもしれないね」


「……やっぱり、そう思う?」


ユナはそっと、アリエルの手を握った。


「うん。アリエルは、この世界に“もう一度”来た人なのかも。きっと、神さまの実験枠じゃなくて、“希望の再起動”なんだよ」


その言葉に、アリエルの目が潤んだ。


「……私、怖かったんだ。自分が他の子たちと違うことも、何か大事なことを“忘れている”気がすることも」


「でも、もう大丈夫だよ」


ユナは優しく微笑む。


「アリエルはアリエルのままで、ちゃんとここにいる。私にとっては、大切な親友だよ」


アリエルの頬を、涙がひとすじ流れた。


「ありがとう、ユナ……」


しばらく沈黙が流れたあと、アリエルはふっと笑った。


「……変だね。夢の中であの人がくれたティアラ、たしか“ミゼル”って呼ばれてた気がするのに……まさかね」


ユナは驚いた顔でアリエルを見た。


「え? ミゼルって、あのミゼル?」


「うん。まさか、ね?」


ふたりは顔を見合わせて、くすくすと笑い合った。


まだはっきりとはわからない。けれど——


“アリエルの記憶”は、確実に目覚めはじめていた。


そしてそれは、この天界に新たな光をもたらす予兆でもあった。


 



 


そのころ、ナオは静かな部屋で、一人書物を読み漁っていた。


未だ曖昧な記憶の中に、微かに響くユナの声と、リリィの笑顔。


そして、遠く届いたはずの誰かの祈りの声が、確かに胸を温めていた。

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