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誰にも推されなかった私が、天界で君の最推しになりました  作者: 白月 鎖
【第5章】君の“本音”が知りたい
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第49話「涙の答え——“選ばない”という決断」

昼下がりの天使学園、旧図書塔の裏庭。

季節外れの風が、花壇の花を優しく揺らしていた。


ユナは一人、木陰のベンチに座っていた。

誰にも見つからないようにと選んだつもりだったのに——


「……隠れるの、下手だな」


ふいにかかった声に、ユナは振り返った。


そこには、セラ・ルクシオンが腕を組んで立っていた。

その後ろには、カイ・ゼファーが木にもたれて無言でこちらを見つめている。


「ユナさん……あの、突然でごめん」


シュリ・レミファントが眼鏡を押さえながら、少し恥ずかしそうに現れた。

そして最後に、


「おっと〜、まさか“選ばれる会議”ってやつ? じゃあ俺、司会でいい?……冗談冗談」


レイ・エリクシオンがひょこっと顔を出した。


「なんで全員そろってるの……?」


ユナが呆然と立ち上がると、セラが真っ直ぐに言った。


「お前が、誰も選べないって言いそうな気がしてた。だから、先回りしただけだ」


「セラさん、それを言うなら……話し合うために、だろう?」とシュリ。


「俺はただ……その、ユナに……迷わせたくなかったんだ」


カイがぽつりと呟いた。


「じゃ、座ろっか。四対一って、さすがに逃げられないでしょ?」


レイの軽口に、ユナは思わず吹き出しそうになった。


——だけど、胸の奥が、痛い。


「……ごめんなさい。みんな……本当に優しくて、あったかくて、どんどん近くなってくれて……

なのに、私、誰か一人を選ぶことができなくて……」


ユナの声が震える。


「選ばなかったら、みんなを傷つけるって、分かってたのに……でも……」


ぽろり、と涙が落ちる。


「私は……まだ、自分の“気持ち”が分からないの。

誰か一人を選んで、それ以外を切り捨てるようなこと……今は、できないよ……!」


しばしの沈黙。


だけど——


「バーカ」


セラがぼそりと、言った。


「選ばれなかったぐらいで壊れる絆なら、最初から“推し”じゃない」


「セラ……」


「俺はお前に“選ばれる”ためにいたんじゃねぇ。……勝手に惹かれただけだ」


続いてカイが、ほんのわずかに口元を緩める。


「……俺も。笑ってくれたら、それで十分だったのに。気づいたら、もっと欲しくなってた」


「俺はね、ユナちゃん」


レイが、いつになく真面目な声で言う。


「最初は興味だった。軽い気持ち。でも、今は……本気なんだよ?」


最後に、シュリが眼鏡を外して、まっすぐに見つめた。


「僕のような無骨で、冷たい人間でも……君は、最初から変わらず接してくれた。

あれが、どれほど救いだったか……伝えられる言葉が、まだ見つからないけど」


ユナは、言葉を失っていた。


すると、四人がほぼ同時に、こう言った。


「それでも、推す」


「選ばれなくても、君が好きだ」


「それが、俺たちの結論」


「一番じゃなくていい。“ユナの中にいられる”なら」


ユナの頬を、ふたたび涙が伝った。


でもそれは、少しだけあたたかい涙だった。


「……ありがとう、みんな」


ふと、レイが言う。


「これってさ、もはや“推され四天王”じゃね?」


「誰が一番って、誰が決めるんだよ」


「ユナだろ」


「いや、世界がだろ」


「お前ら、会話がズレてる」


「あははは!」


ユナが笑った。


心からの笑いだった。


——そして、彼女の周囲に、ほんのわずかに光が揺れた。


それはまだ、誰にも気づかれていない、奇跡の兆し。

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