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誰にも推されなかった私が、天界で君の最推しになりました  作者: 白月 鎖
【第5章】君の“本音”が知りたい
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第46話「氷の王子と秘密のレシピ」

天使育成学園の午後、雲ひとつない空に、光の羽根がひらりと舞った。


「……なぜ俺が、こんなことを……」


氷の王子こと、カイ・ゼファーは厨房で呆然と立ち尽くしていた。

彼の前にはエプロン姿のユナ。そして隣には、おしゃべりが止まらないレイと、真顔で計量器を睨むシュリの姿。


「ほらカイ、砂糖は“愛のぶんだけ”って言うんだよっ♪」とレイが茶化せば、


「正確には10g単位で頼む。心ではなく分量で失敗するな」とシュリが冷静に返す。


「うるさい、氷で凍らせるぞ」とカイがぼそっと呟いたその時。


「みんな、仲良くね〜!」とユナが微笑んで、スプーンをカイに手渡した。


その瞬間——。


「あ……」


カイの手に触れたユナの指。ふわっと漂う、どこか懐かしいあたたかな香り。


彼の脳裏に、一瞬だけ“特別な記憶”がよぎる。

それは、ユナが持ってきてくれた一皿の煮込み料理。あの味を初めて口にした日——。


——数日前。


「……この料理、なんだ?」


ふとした昼休み。ユナが作ってきた手作り弁当を、無口なカイが黙って食べていた。


その瞬間、ほんの一瞬だけ。氷のようなその表情が、ほころんだ。


「……うまい。君、料理、得意なのか?」


その言葉に、ユナは照れながら笑って頷いた。


そして今、再びその“味”を再現しようと、厨房で特訓中なのだった。


「ちょっとカイ、玉ねぎ切るの遅い〜。セラだったら2秒で終わらせるよ?」


「……うるさいな、俺は騎士じゃない」


「む、何か言ったか?」背後で腕組みしているセラが眉をひそめる。


「いや、なんでもないです……」カイの声が1オクターブ下がる。


一方その頃、隅のテーブルではアリエルとナオが談笑していた。


「カイくん、実はユナちゃんのこと……ちょっと意識してるかも、ですね」


「……ああ。見てりゃ分かる」


「……ナオくん、ちょっと焼いてる?」


「……焼いてない。俺は……ただ、気になるだけ」


そんな静かな会話の裏で、リリィは屋上からこっそり調理室を覗いていた。


「はぁ? なんでカイがエプロンとかしてんのよ……。

あの真面目くん、推しの手料理に負けたパターンね。くっ、わかるけど……!」


鍋の火加減、味付け、みじん切り……。


そして、ふとした瞬間に見せる優しさや不器用な言葉たち。


「……君だけには、こんな俺でも……見せたいと思った」


料理が完成し、ユナが「すごく美味しいよ!」と満面の笑みを見せた瞬間。

カイは小さく息を呑み、ふいに目を逸らした。


その頬には、ほんのりと——氷が溶けたような、淡い赤みがにじんでいた。


「……カイさん、さっきの言葉、ちゃんと聞こえてましたよ?」


「……聞こえなくていい。忘れてくれ」


「ううん、忘れないです。……とっても、嬉しかったから」


そう言って笑うユナに、カイはただ、小さく「……バカ」と呟くのだった。


——氷の王子の、秘密のレシピ。


それはたぶん、ちょっと照れくさくて、でも優しい恋のはじまり。

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