第45話「セラ・ルクシオンと、背中で伝える“青春”」
夕暮れの訓練場。
オレンジ色の光が差し込む中、ユナはぐらりとよろけた。
「う、うぅ……目が……クラクラする……」
「は!? お、おい! ユナ!!」
ガシッと支える手。
胸に飛び込んだのは、熱をもった腕と、びっくりするくらい整った顔。
「……セラくん……?」
「お前っ、バカか!? 何で限界までやってんだよ! 水、ちゃんと飲んだか!? 飯、食ったか!?」
「う、うん……たぶん……お昼、クッキーだった……かも……?」
「クッキーは食事じゃねぇっ!!」
セラは額に青筋を立てたあと、なぜかぷいと顔をそらして、ぶつぶつと文句を言いながらしゃがみこんだ。
「ほら、乗れ。おんぶする。……文句はあとで聞く」
「え……いいの? でも……」
「黙って掴まってろっ!!!」
ぎゃーっと叫ぶように返され、思わずユナは笑ってしまった。
「……ありがと、セラくん」
「笑うなバカ!! まじで、俺の心臓がもたねぇ……!!」
◆
ユナをおんぶして、学院の寮までの道。
背中越しの会話は、やけに近くて、くすぐったい。
「セラくんの背中って、思ったより……がっしりしてるんだね」
「ん゛ん゛ん゛っ!?!? だ、だまれーっ!!」
「ふふっ。……あったかい」
「……お前、さっきまで倒れてたくせに……なんで急にそういうの言うんだよ……バカ……」
(うわぁぁ言っちゃった言っちゃった~~!!!)
内心、セラの頭の中は火事だった。
でもユナの身体は、ふわっと軽くて、小さくて。
ちょっと熱があるのか、背中越しに体温が伝わってくる。
「……バカみてぇに、無理すんなよ」
「え?」
「……お前のそういうとこ……なんか……見てらんねぇんだよ」
「セラくん……」
「べ、別に特別ってわけじゃねぇからな!? 友達として、同級生として、同じチームの仲間として……!!」
「……ぜんぶ同じ意味に聞こえるよ?」
「い゛っ……」
(ああもうなんで俺は口が滑るんだーーーっ!!!)
◆
そして寮の玄関前。
ユナを下ろしたあとも、セラは真っ赤な顔のまま、ぐるぐると目を回していた。
「と、とにかく! もう無茶すんな! 飯はちゃんと三食食え! 水も飲め! あと、夜は早く寝ろ!!」
「ふふっ……お母さんみたい」
「お母さんじゃねぇっっ!! 王子だわ!! ……つーか、なんだよその顔」
「嬉しかったの。セラくんが心配してくれて」
「……ッ」
その一言に、またセラの顔が赤くなって爆発した。
「わ、わ、忘れろ! 今の全部!!」
「うん、無理だよ。ちゃんと覚えておく」
「ギャーーー!!!」
セラは叫びながら走り去っていった。
その背中を、ユナはそっと見つめる。
「……かわいいな」
ふわっと笑ったその頬は、少し赤かった。
——そしてその日、ユナの夢に、やけに照れくさい笑顔のセラが出てきて。
夢の中でも「バカ!」って怒られて、なぜか嬉しかった。




