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誰にも推されなかった私が、天界で君の最推しになりました  作者: 白月 鎖
【第4章】“推し”が堕ちたので魔界へ行きます
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第43話「リリィの選択――あたしも、誰かを救っていいの?」

ミカエルが去ったあと、魔界の空はかすかに揺れながらも静けさを取り戻していた。


だが、緊張はまだ解けていなかった。


ナオは未だ地に膝をつき、肩で息をしている。ユナはその背を抱きながら、震える手で彼の手を包んでいた。


リリィはその二人の姿を見つめていた。

口元には笑みが浮かんでいたが、その瞳は――迷っていた。


(……なんで、こんな気持ちになるんだろ)


リリィの中で、知らない感情がざわめいていた。


悔しさ? 羨望?

……いや、違う。


これは――「憧れ」だ。


ユナみたいになりたい。

誰かの光になりたい。


けれど、リリィの頭の奥にこびりついた声が、それを否定する。


《お前は、“推されなかった側”だ》


《救われない役で、舞台の外にいた女だ》


「うるさい……」


かすれた声で、リリィは呟いた。


「黙れよ、ゼオ……。もう、あんたの理想を演じるの、やめる」


 


そのときだった。


空間に再びひびが入り、魔界側の追撃部隊が迫る。


「ゼオ様の命により、“実験体”ユリエルと“不安定因子”ナオ=アストラリアの回収を行う!」


巨大な監視兵たちが現れ、地を揺らして迫ってきた。


ユナがナオを庇いながら立ち上がるが、魔力はもう限界に近い。


ナオも記憶と力が混濁し、今は戦える状態にない。


「くっ……!」


「――もういいよ、ユナ」


前に出たのは、リリィだった。


紅のマントを翻し、あざ笑うように言った。


「“推されなかった”女が、ここで一花咲かせるってのも、悪くないでしょ?」


「リリィ……?」


ユナが呼びかける。


リリィは振り向かず、背中で言った。


「ナオはあんたが支えて。あたしはあんたたちを守る。“推し”を守るのが、あたしの戦い方だから」


紅の魔力が、リリィの身体を包む。

魔界式魔法陣が展開され、敵の位置をすべて感知する。


そして、リリィは叫ぶ。


「全域リンク解除。魔界監視網、第7~第13層、強制シャットダウン!!」


その瞬間、魔界中に広がっていた“目”がすべて閉じた。


通信網も魔力線も断たれ、追撃部隊は混乱し、足を止める。


「っ……裏切り、か……!」


「違うよ」


リリィはにやりと笑う。


「これが、あたしの“選択”だよ」


──あたしはもう、誰かに選ばれるのを待たない。


──あたしが、推すんだ。守りたいものを、選ぶんだ。


 


そのとき。もう一人の影がリリィの隣に立った。


「遅かったか。君は、やっぱりすごいな」


ミゼルだった。


堕天した四翼のひとり、ミゼル=フレイズ。

だが今はその目に、迷いはなかった。


「ミゼル……来てくれたの?」


「ああ。君がここにいる気がして、探してた」


彼は短く微笑むと、リリィの肩に手を置いた。


「ありがとう、リリィ。……君がいたから、俺は変われた」


その言葉に、リリィは驚いたように目を見開き――

少しだけ、頬を染めた。


「ば、ばか……そういうの、唐突に言わないでよ……」


 


──空が、ゆっくりと明るくなっていく。


封鎖された魔界の空に、ほんのわずかだが“光”が射したように見えた。


 


「さあ、行って。ユナ。ナオ。あんたたちがいなくなったら、あたしの“推し活”の意味がなくなっちゃうじゃん」


リリィは背中を向けて、手を振った。


その背中に、ユナは祈りを込めて囁いた。


「ありがとう、リリィ……あなたの光、見えたよ」


 


そして――


少女たちは、それぞれの“推し”を胸に、再び空を見上げた。

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