第41話「四翼たちの宣言と戦端の開幕」
天が裂け、地が呻く——
ナオの身体からあふれ出したのは、天使でも悪魔でもない、純粋な“存在の波動”だった。
世界の理が、その中心を見失い、空間がきしむ。
光でも闇でもない“力”が、周囲を飲み込み、空を逆巻かせる。
堕天使四翼が戦場へと駆け戻ったのは、そのただ中だった。
「これは……」
セラ・ルクシオンが目を見開き、天を仰ぐ。
「天使の光でも、悪魔の業でもない……まるで、原初の息吹だ」
シュリ・レミファントの手のひらが微かに震えている。完璧を信じるその精神が、揺らぎを覚えるほどの“特異性”。
「ナオ=アストラリア……いや、ルシフェルか」
カイ・ゼファーが低くつぶやいた。
「……お前は、まだ戻れる」
レイ・エリクシオンの言葉が、戦場に響く。
その言葉に、四翼たちは静かに剣を収めた。
「我らは、世界の“秩序”を守るために堕ちた。ならば——今、共に戦うべき相手は別にある」
セラが前に出る。
その視線の先には、封印を破り、力の中心でなお戸惑い揺れるナオと、彼を抱きしめるユナの姿。
彼女は血に濡れながらも、ナオの胸に顔を埋め、必死に呼びかけていた。
「大丈夫……あなたは、あなたのままでいい……! 私が、あなたを守るから……!」
ユナの声は震えていた。
それでも、絶望の嵐の中心で、彼女の存在だけが現実の“錨”となっていた。
ナオの視界が揺れる。
その耳に届くのは、たったふたつの声。
「ユナ……」
「ナオ、おかえり」
そして、もうひとつ——
「やるじゃん、ユナ」
背後から伸びてきた細い指が、ユナの手を握った。
リリィ=ヴァンファムだった。血に染まったコートをひるがえし、精一杯の笑みを浮かべている。
「……あんたはすげぇよ。これが、“推し”ってやつなんだな」
リリィは泣き笑いだった。
自分でもよく分からない感情を、推し活用語で無理やり表現して、ようやく気持ちに決着をつけた。
ユナは、何も言わずにその手を握り返す。
ナオは、再び頭を抱えるようにしてうずくまった。
「記憶が……全部は、思い出せない。でも……君たちの声だけは、聞こえてた……」
四翼のひとり、シュリが静かに告げる。
「特異点——“人間でも、天使でも、悪魔でもない存在”。それが君か」
「だが、それでも」
セラが前を向き、剣を抜いた。
「——世界は、選び取らねばならない。真の秩序を保つために、我らはこの地で剣を交える」
「我ら四翼、ここに宣言する。この瞬間より、真の調和を目指す者と共に戦う」
四つの翼が、同時に広がった。
それは、かつて堕ちた天使たちが、再び“守る者”として剣を構えるという決意の表明だった。
彼らの視線の先には、黒き雷雲のごとく魔界の本軍が迫っていた。
その向こうにいるのは、ゼオ=ヴァルトレイス。