第32話:魔界突入、堕天使四翼と邂逅
空が、変わった。
天界の柔らかな光とは正反対に、魔界の空は沈んだ深紫に染まり、黒い雲が常に渦を巻いている。
空気は重く、足を踏み入れるだけで肺が圧迫されるような感覚があった。
それでも、私たちは歩いていた。
「ナオくんを……絶対に取り戻す」
私の言葉に、隣を歩くアリエルがそっと頷く。
セラ、カイ、レイ、シュリ──学院最強の四煌も、それぞれ無言のまま、その決意を背にまとっていた。
天界学園の誇りであり、誰よりも強く、信頼される彼らが、今は“私の想い”を共にしてくれている。
──そして、魔界の外縁。
地面は黒曜石のような硬質な岩に覆われ、ところどころに赤い光が走っている。
草は黒く、風はどこか血の匂いを孕んでいた。
そんな異様な景色の中。
その“声”は、私たちを出迎えるように響いた。
「……天界の魂が、わざわざ堕ちてきたか」
音もなく現れた四つの影。
禍々しくも美しい、堕天使たちの姿。
堕天使四翼──
アズレイル、バロル、セリオス、ミゼル。
その立ち姿だけで、魔界の恐ろしさが伝わってきた。
黒い羽根、瞳に宿る光はどこか空虚で、けれどその奥には確かな意思が宿っていた。
「貴様ら……」セラ・ルクシオンが前に出た。「道を開けろ」
アズレイルが笑う。「命令口調とは、学園の王子様はずいぶんとお高くとまってるな?」
「お前たちに付き合ってる暇はない」カイ・ゼファーが淡々と告げる。
「けどなー」レイ・エリクシオンが軽く手を振る。「あっちも“護衛体制”ばっちりって感じだよ?」
空間が揺れ、セリオスの剣が一閃。
それを、シュリ=レミファントの展開した魔術陣が防ぐ。
「分析完了。相手の能力、速度型と見た。戦闘継続を推奨する」
「面白い連中だ……」バロルの瞳が赤く光る。「だが、天界のお坊ちゃまたちが、何の覚悟でここへ来た?」
私は前に出る。
「ナオくんを返してほしい。それだけが、私たちの望みです」
ミゼルの瞳がふっと揺れた。
「……その声は、嘘じゃないな」
アズレイルが仲間たちに目配せをした。
「どうする? 四煌との全面衝突になるぞ」
バロルが笑う。「いいだろう。俺たちの正しさを証明するチャンスだ」
空気が、張り詰める。
──学院最強と、魔界の守護者。
戦火は、静かに幕を開けようとしていた。




