第31話:魔界行き、仲間たちの決意
学院全体が静まり返っていた。
まるで、何か大きな“穴”が空いたように。
それは、ナオの姿が消えた朝のことだった。
朝の鐘が鳴るより早く、天界の空に警報が響いた。
静かな学院に緊張が走る。
ミカエルが、学院中枢に向けて発した“非常召集”の光柱。
それは、今世紀で二度目の発令だった。
「確認された。ナオ・アストラリアの魂記録が、一部改ざんされている」
学園中枢会議の場で、ミカエルは静かに告げた。
「これは……明確な“異界の干渉”による記録改ざん。」
その言葉に、周囲の教師陣がざわめいた。
「外界への移動記録が、一度だけ。宛先不明のルート。
……だが、結界の歪みに反応がある。魔界方面と断定していい」
「魔界……?」
「ありえない……ナオ君が、魔界に行くなんて……」
アリエルの声が震える。
誰もが動揺していた。
その中で、私は拳をぎゅっと握った。
「……私、ナオくんを連れ戻す」
その言葉が、空気を裂いた。
「私……また誰かを失うのなんて、いやだから」
少しの沈黙のあとだった。
「……ひとりで行くつもりか?」
低く響いた声は、セラ・ルクシオン。
いつも冷静な彼が、真っ直ぐこちらを見ていた。
「行くなら、俺も行く。……あいつのこと、放っておけない」
「ふふん。面白くなってきたね〜。僕も行く〜。
だって、“堕ちた王子様”って、ロマンあるでしょ?」
ひらひらと手を振るレイの笑顔に、苦笑いがこぼれる。
「状況が混乱している今、現場に知性が必要だ。
私も同行する。危険地帯での判断を誤らせたくない」
メガネを押し上げながら静かに言ったのは、シュリ。
彼の視線は、珍しく真剣そのものだった。
そして——
「ユナちゃんを、ひとりにしないって、決めたんだよ」
そう微笑んだアリエルの声に、私は胸がいっぱいになった。
(……こんなに、頼もしい仲間が、そばにいてくれる)
「ミカエルさん……お願いします。行かせてください」
「……正式には許可できない。
だが“観察の名目での外部行動”としてなら、黙認できる」
ただし——
「帰ってくること。それだけは、忘れるな」
小さく、でも確かに頷いたミカエル。
その瞬間、決まった。
——ナオを救いに、魔界へ行く。
それは、私たちにとって大きな“試練”になるかもしれない。
けれど、それでも。
彼が、涙をこぼすほどの孤独にいるなら——
私たちは、絶対に見捨てない。
新たな戦いの幕が、今ここに静かに開かれようとしていた。




