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誰にも推されなかった私が、天界で君の最推しになりました  作者: 白月 鎖
【第3章】私、ここにいていいの?
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第30話:ナオ、姿を消す -魔界編突入-

その朝、学院はどこか静かだった。


天界の空はいつも通りに澄んでいて、朝露の香りすら祝福のように漂っていたけれど、私の胸には妙なざわめきがあった。


(……なんだろう、この胸騒ぎ)


そんなとき、アリエルが駆け寄ってきた。


「ユナ、聞いた……? ナオくんが……」


「……え?」


「部屋にいなかったって……。朝になっても、戻ってないの」


その言葉に、足元が崩れるような感覚が走った。


私は反射的に制服を羽織り、ナオが暮らす寮の一角へと向かった。


もちろん、男子寮には自由に入れない。


でも、ちょうど出てきた寮の管理役の天使に事情を話し、部屋の様子を見せてもらえることになった。


「中にはもう、何も残っていませんでした。……これを除いては」


管理役が差し出したのは、一枚の小さな手紙だった。


震える手で、それを受け取る。


──ユナへ


ありがとう。

君と過ごした時間は、すべて宝物でした。

でも、僕は僕の答えを探しに行く。

……どうか、泣かないで。


      ナオ


胸がきゅっと、締めつけられた。


「……うそ、でしょ……?」


視界がにじんで、文字が読めなくなる。


この天界で、ようやく信じられる人ができて、心が通った気がして。

ナオがそばにいてくれるだけで、私は自分を許せる気がしていたのに。


「……私……また……誰かを、失ったの……?」


声が震える。

立っていられないほどの喪失感が、全身を包み込んでいった。


アリエルがそっと抱きしめてくれたけれど、それでも涙は止まらなかった。


(……どうして、また、こうなるの)


でも——


その手紙の筆跡は、決して絶望の色ではなかった。

ナオは“逃げた”んじゃない。

“選びに行った”んだ。


自分の運命と、正体と、向き合うために。


その夜——


天界の星々が静かに瞬く中、遠い空の彼方に、黒い月が昇った。


それは、魔界の兆し。


彼がどこにいても、

どんな選択をしても。


私は、彼を探しに行く。


そう思った時、ふと空に微かな揺らぎが走った。

それは、魔界の入り口とされる“深層の裂け目”が、遠くでわずかに共鳴した兆しだった。


ユナの瞳が、その方向へ静かに向けられた——。


(第四章・魔界編、開幕)

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